夏になると、泡を凍らせた「フローズンビール」が出回ります。
ところが液体のビールの上に食感の異なるシャリシャリの泡がのっかっている状態なのでどうも口当たりが気になる……。シャリシャリ邪魔じゃない……?
それなら泡だけじゃなくて、まるごと凍らせてみては?
「たぶんヤバい」とわかっていても、試してみたくなるのが人の性。
ビールといってもさまざま。世界には100種類以上のスタイルがあるといわれています。それだけの種類があるのだから、概ねヤバいのが出来上がったとしても、中には大当たりの掘り出し物もあるかもしれません。
可能性に満ちた原石が見つかるかもしれません。
以前、別の記事で「冷凍庫はダメ、ゼッタイ。」と書いておいてなんですが、実際凍らせたらどうなの? という知的じゃない好奇心がムクムクと頭をもたげたので、深く考えずにやりました。やっちゃいました。
ビールは次の5種類を用意。
【ピルスナー】【ペールエール】【IPA】【ヴァイツェン】【スタウト】【トラピスト】
100種類と大風呂敷を広げておきなが5種類ですが、どれも代表的なものです。
全部聞いたことがある人はビール通!(飲みましょう)。
せっかくなので、簡単にスタイルの説明も挟みます。挟ませてください。
【一応ルール】
※スタイルの中では標準的なもの、スーパーやコンビニなど身近に手に入る銘柄。
※シロップや果汁などの混ぜ物はなし。素材そのものの味で勝負。
では!
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ピルスナー(静岡麦酒/サッポロ)
グラスについては「家飲みを愉しくするシリーズ①」参照
地域限定缶ですが、中身は由緒正しき日本のピルスナー。
日本の大手ビールメーカーが製造する定番といえばこれ。ビールは大きく分けるとまずエール(上面発酵)とラガー(下面発酵)に分類されますが、ラガーの代表的なスタイルがピルスナーです。明るい黄金色でアルコール度数3~5%前後、キリッとした苦みと爽やかな喉越しが特徴。正直このままで飲みたいです。
でも心を鬼にしてタッパーヘ!
※缶や瓶のまま冷凍庫に入れると爆発の危険があるので要注意! ダメ、ゼッタイ!
なんだかすごく悪いことをしている気分になった
そして1時間後。
早くも表面が凍り始め、数時間後
ガッチガチや!
わずかに洋ナシのようなバナナのような甘い香りがします。アルコール感はなし。
苦酸っぱい!
液体では感じなかった金属のような匂いと、当然ながら溶けるとアルコール感を感じます。それならばとメープルシロップをかけてみる。
苦みが激増! これはダメなやつ。
ペールエール(クラフトセレクト/サントリー)
一方、エール(上面発酵)の代表格であるペールエール。一口にペールエールといっても様々ですが、ピルスナーに比べてホップやモルトの香りが強めで苦味もしっかりしたものが多いのが特徴(入手しやすさでいえば、ヤッホーブルーイングの『よなよなエール』も)。日本のピルスナーを飲みなれた人に、まず飲んでもらいたいクラフトビールの入門スタイルです。
……とまぁ紹介しておきながら
容赦なく凍らせる。炭酸のせいか、上部が二層になっているように見えます。
ホップの華やかな香りが残ってる! そして後でしっかりくる苦み。
苦みは強いものの、ピルスナーより苦みの輪郭がはっきりしているので好印象。
IPA(インドの青鬼/ヤッホーブルーイング)
近年、ファン急増中のIPA。
IPAは「India Pale Ale(インディア・ペールエール)」の略で力強いホップの香りと苦みが特徴。イギリスから植民地のインドにビールを運ぶ際に、防腐効果の高いホップを大量に使い、ビールが傷まないようにしたことが由来とされています。ざっくりいうと、ペールエールの個性をより強調させたのがIPA。アルコール度数は4.5~7%程度で『インドの青鬼』ならローソンで入手できます。
で、これも。
ペールエールより強烈なホップの香りと苦み!
苦みは最初からガツンと来て最後までずーっと口の中に残ります。まさに食べるIPAといったところ。しかし麦芽の甘味は完全に吹っ飛んでいるのが切ないです。
ニガニガが続いたので、次はお口直しに。
ヴァイツェン(スワンレイク・ヴァイツェン/瓢湖屋敷の杜ブルワリー)
小麦麦芽を使った南ドイツ伝統のビールです。ほぼ苦みがないのと、バナナのような甘い香りをもつので特に女性に評判。小麦麦芽を使ったものは泡持ちが良いのも特徴です(間違えて330ml瓶を500ml用のグラスに注いだので泡の良さは伝わらない)。
スワンレイクのヴァイツェンはキレも強くて好きです。大好きなんですよ。
本来であればそのまま飲み……くっ!!
心なしか、今までで一番きれいな小粒の結晶です。色は薄め。
食べてみると、バナナの香りはあるものの、甘味は完全に飛んでいます。さらに凍らせたことで酸味が際立ち、アリかナシかでいえば……ナシ!
なんか曖昧な酸味がね、非常に引っかかる。
なんだかかわいそうなことをしてしまった…。
スタウト(エクストラスタウト/ギネス)
世間で“黒ビール”と呼ばれるものにはラガーに属する「シュバルツ」と、エールに属する「スタウト」がありますが、今回はスタウトの中で最も有名なギネス。
きめ細かくクリーミーな泡、コーヒーのような香ばしい麦芽の香りと深い苦みが特徴で、ホップの香りはほとんど感じません。アルコールは5%、ドライでキレもあるので、見た目よりすっきりしています。
溢れた!!
冷凍庫を開けてビックリ。泡立ちが良いせいかモリモリに蓋を持ち上げてちょっとホラー。香りはカラメルのようで、香りから既に苦みを感じます。
焦げたような濃厚なカラメルフレーバー。強い苦味と酸味がありますが、うーん、もう少し苦みを緩和する何かが欲しいよね……。
漂う大人のデザート感
甘いものに添える程度なら、苦みが和らいでちょうどいい感じです。
名づけるなら「生クリームのスタウト氷まぶしフルーツ添え」。
あぁ落ち着いた。これぞ大人のスイーツと言っていいでしょう。
そして最後は、
トラピスト(シメイ・ブルー/シメイ)
トラピストとは修道院のこと。限られた修道院でしか創ることが許されないベルギー発祥のビールです。つまり、メイドバイ坊主(修道士)。
ラベルぐらいなら見たことがある人も多いと思いますが、世界中で最もメジャーなトラピストビールがこのシメイ。肉料理に合わせるなど、シリーズの中はどっしりとしたビールです。アルコールも9%なので一晩冷凍庫に入れておきます。
ゆるい……。
さすがハイアルコール。フォークで砕いた感じはシャリシャリというよりしっとり。写真を撮っている間にどんどん溶けていきます。
味はシメイそのもの。うん、そのもの。
他のビールは凍らせたことで味のバランスが変化しましたが、シメイはどこかが特に際立つわけではなく、泡がなくなっただけでシメイそのものです。 この濃厚~な味わいにはこうしたくなります。
漂うキャバクラのポッキー感。悪くない
続いて番外編。
ビール氷でハーフ&ハーフ
【ペールエール×スタウト】
最初にペールエール由来の華やかなホップの香りを感じつつ、口に含むとローストの苦みがしっかり広がります。華やかさと苦みのスイッチがすぐに切り替わる感じがいい。
【ヴァイツェン×スタウト】
ヴァイツェン特有のバナナの甘い香り。でも口に含むと酸味が一気に強調されて、ペールエール氷に比べるとギネスのローストフレーバーはわずか。
完全に良さを潰しあってる。とにかく酸味が際立ちました。きつい……。
スワンレイクヴァイツェンには、さらにかわいそうなことをしてしまった罪悪感すらあるな……。
総評
- 凍らせると味のバランスが変化する。
- 甘味は感じなくなり、酸味と苦みが強くなる。
- ライトなビールほど変化の幅が大きく、濃色系は変化が少ない。
- ビールの個性が強いものは、凍らせても個性が強い。
- 果汁やシロップを入れるのがよく分かった。
- とにかく味の輪郭がぼやけたものが一番ダメ。
- そしてダメなのが続くと人は罪悪感を覚え始める。
- だからもうやらない。
以上です。