かまぼこが好きな男性は少なくないと思われます。僕もかまぼこが好きです。かまぼこに限らず、ちくわやさつま揚げなどの練り物一般が好きなのですが、妻はそこまで好きでもないのか、なかなか食卓に練り物が出てくることはありません。このようなちょっとした温度差みたいなものは、どこの家庭にもあると思うのですが、僕の稼ぎもあまりいいほうではないので「かまぼこを食べたい」と言うことさえもできずにいます。
でも、無いものは作る。
食卓に出ないなら自分で作って食べるまでです。
練り物なんて魚のすり身を蒸したり煮たりするだけのことです。
ちょっとレシピをググりますれば、かまぼこの作り方がどっさり出てきます。
おもしろかったのは外国に住んでる日本人がかまぼこを食べたくて自作するというケースがあったことです。日本に住んでいるにもかかわらずなぜか猛烈に親近感を感じます。
数あるレシピを最大公約数的にだいたいでまとめると以下のとおりです。
- 新鮮な白身の魚を細かく切って氷水にさらし、水分を取ってフードプロセッサーで細かくする
- 塩(魚の重量の3%)を入れてすり鉢で練る
- 粘りが出たら形を整える
- 小一時間寝かせたあとで20分蒸す
- 蒸しあがったらすぐに冷やす
新鮮な魚じゃないとプリプリ感が出ないそうです。また、ツナギとして片栗粉や卵白を使う例もありますが、弾力ある食感を出すには塩だけで練ったものがいいのだそうです。
まあ、魚のすり身を蒸すだけの話です。ご家庭でできないわけがありません。
買ってくれないんだったら、かまぼこをフルスクラッチします。
まず、地元の鮮魚を得意とするスーパーへ行きまして、タラの切り身(321円)を買いました。
グラム110円。約300グラムを購入。白身なら鯛やヒラメもありましたが、ここは日用食としてのかまぼこ作りを考えて、安価なタラでキメます。皮や鱗は処理しないといけないので、あらかじめ剥かれているものを買いました。本気でやる人は一尾買って三枚におろしてもらうとかするそうです。すげえ。
タラは大小の骨があるので毛抜を使って丁寧に取り除きます。指で切り身を押して探り、見つけたらぶちっとむしる。サーチ・アンド・むしるです。かまぼこに骨があるなんて事態は避けたいものです。
フードプロセッサーにかける前にぶつ切りにします。
流水でさらします。臭みをとったり身を引き締めたり、そういう効果があるんでしょうな。
ペーパータオルで水気を吸います。キッチンペーパーって言い方があるけど、あれってシリコンコートのいわゆるクックパー的なくっつかない紙と、厚いティッシュ的なペーパータオルと、どっちのことかよくわからなくなりませんか。いや、おつかいで「キッチンペーパー」を頼まれて間違って買ってきて怒られるとか、わりとよくあるケースだと思うよ。
この日のために買ってきたフードプロセッサー4000円。プライスレス。いやプライスフルだよ。ぶいんぶいん回してやります。
フープロで1分以上回したタラ。後述するけど、長時間のぶいんぶいんはおすすめしないですよ。ある程度のタラミンチにしたらすり鉢に移行するべき。
すり鉢に移してーの。
塩を入れーの。目安は、重量ベースで魚肉の2〜3%。2%がおすすめ。
ガッツで練ります。まあ、録画した深夜アニメを1話分見ながらくらいの時間がちょうどいいのではないかと思います。
ねばりが出るまで練ったらオッケー。しこたま疲れます。
ここで、隠し持っていたかまぼこ板に盛りつけます。けっこう重たい。幸せの手応えです。
さらに小分けして、と。これは食用の染料で色をつけるためのものです。かまぼこは紅白じゃねえとな。ちなみに下にあるのがクッキングシート。シリコンコートのくっつかない紙です。
紅に染まったこのすり身を平たくのばして、白いかまぼこに巻きつけるようにしてかぶせます。
ほれこのように巻きつける。
しかし、なんだね。ドラマ『泣くな、はらちゃん』で麻生久美子がかまぼこ工場に務める女性を演じてたのだけれど、そのとき彼女が盛りつけてたかまぼこの生地はもっととろみがあってやわらかかった気がします。
僕のはなんかぷりぷりしてんだよね。
ここで僕の名推理なんですけど。
フードプロセッサーの高速回転がおもしろくてバンバン回してたのはしくじりだったのではないかと。そのときの摩擦熱で魚肉が加熱されてしまってたのではないかと。言うなれば忍法フープロ摩擦熱の術だったのではないかと。これを読んでかまぼこの自作に挑む方がいるのであれば、フープロ摩擦熱の術に気をつけなさいと。
そんなことを思いながら、せいろにかまぼこをセットします。
そして弱火で20分蒸すのです。強火だと水分が蒸発しきって空焚きになってしまうこともありますし。
さあ、蒸し上がる前にもうひとチャレンジ。
妻が大切にしている外国製のお菓子用の染料があります。この青なんかサイコーに狂ってる。アメリカ人の食センスぱねえ。
こっちは茶色ですが、さらに青と赤を混ぜて黒に近づけますよ!
青と黒のすり身を100均のシリンジに詰め込みます。
完成図を想定して、秩序立ててすり身を積み上げていきます。
青と黒でなにかをつくろうとしていますね。
作業の内容は3Dプリンタと同じことですね。人間が、人力で、3Dプリントに挑戦しようとしていますね。なにしてるんですかね。
おおむねきれいに積み上がった感じがあります。この作業に1時間くらいかかってます。肩と背中と手の平がバキバキになっております。
20分蒸し上がったものがこちらになります。
面妖なものがありますね。
すぐに流水でシメます。
かまぼこ板がフロートとなって浮いております。
3Dプリントしたオブジェクトはなんか開いてしまってますね。
蒸してできあがった自作のかまぼこです。それなりの格好をしてるじゃないですか。感無量ですよ。
断面はこう。
どうよ。かまぼこってるだろ。
こうして見ると、ごちそうのような姿をしています。
かまぼこは自作できる。「かわいいは作れる」みたいに言いましょう。
かまぼこはー作れるー!
そして、さっき人力3Dプリントしたオブジェクトはどうなっているのでしょうか。
正直、オチというかこの企画の目玉として用意したメインなので、うまくいってくれないと困ります。
……なんだこれは。
いや違うんです。聞いてくれ。
発色の良い青と黒でインベーダーを、つまりインベーダーかまぼこをつくろうとしたんです。で、ふつうのかまぼこの白い部分を出っ歯型に切って、「ゲームセンターあらし」っぽくバビロリリンして読者のみなさん大爆笑、そういう意図だったんです。大爆笑しねえよ。
反省点を分析すれば、フードプロセッサーで熱が入ってしまっていたすり身、作業に時間がかかって乾燥してしまったことにより素材同士のくっつきが悪くなったこと、ラップで包んだ後の最後の加圧を日和ったことが原因で、インベーダーできなかったのではないかと思われます。
くやしいです。
読者のみなさんに爆笑を届けられなかったことがくやしいです。爆笑するようなネタじゃねえよ。
くやしさに思わず力がこもります。
むぎゅー。
あ、ちょっとインベーダーに見える。
悔しいのでフォトショで色調を加工してみましたよ。
うん、どうみてもインベーダーですねこれ。
さて、味はどうかね。
すげえまずい。
かまぼこで大事なことは歯ごたえなのだと一瞬で理解しました。
3Dプリントインベーダーかまぼこは噛んだとたんにボロボロと崩れ、噛みごたえがまるでありません。あと隙間が多いので、たぶん魚肉の旨味であるアミノ酸が流れてしまったのだと思います。俗に、まずいかまぼこを消しゴムみたいと称したりしますが、ほんとに消しゴム食べてるみたいでした。
こうなると紅白かまぼこが心配です。
あ、うまい。いや、ちょっとしょっぱいけど、これはかまぼこだ。しかもぷりっぷりした歯ごたえが市販のものより強くてよろしい。ちゃんとタラの旨味もある。これは鯛やヒラメでこさえたらおいしいに違いない。エビでもいい。エビ食べたい。エビの団子。
もぐもぐ。
あ、骨が入ってた……。
実際こう、食べたくてかまぼこを自作したわけですけど、弾力と塩気と魚の旨味、とくに弾力がこれほどかまぼこのおいしさに直結しているってことを、それこそ身を持って知ることができたことは実に得難い経験でした。
うまいかまぼこができるためには、皮やうろこや骨を取り除いたり、すり身を練ったりと、けっこうな手間がかかるものです。大変な手数なんです。
でも、スーパーに行けばおいしいかまぼこを数百円で買うことができるわけで、業者さんってのは本当にありがたいことだと痛感したのです。マジ感謝です。
かまぼこ1個つくるのに半日かかり、予算も4,300円以上かかってます。フードプロセッサーはお菓子作りにも使えるからいいよと妻も言ってくれています。助かりました。