肉も肴も野菜も何でも受け入れる懐深いお鍋様。
豆乳やカレー、キムチ、トマトなど、どんなだしで煮込んでもおいしく出来上がる素晴らしい一品料理である。
もっといえば、くたくたに煮込むことで消化吸収をよくし、アツアツをいただくことで代謝も上がり、〆にご飯や麺類などを投入して食べれば満足感も得られる万能料理だ。鍋と相性が悪い食材なんてあるのだろうか。
……いや、あった。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」のコーナー「絶対においしい選手権」シリーズ第8弾で、とんでもない(闇)鍋を披露していた。
沖縄鍋と称し、ゴーヤやミミガー、ドライマンゴーなどの沖縄食材をオリオンビールで煮込み、石垣塩で味付けする鍋まではまだマシで、フランス料理のフルコースをデザートまで全てぶち込んだ鍋や、ハンバーガーやフライドポテトをコーラで煮込んだUSA鍋など、どう考えてもおいしくなさそうな鍋を発案し、作って実食した回がある(余談だが、フルコース鍋は最悪な見た目とは裏腹に意外と好評であった)。
そんなことを踏まえ、今回はUSA鍋のような明らかにカオスな食材を除き、沖縄鍋的なミラクルを期待した闇フードを作ってみようと思う。
とはいえ、鍋はひと通り出尽くした感が否めないため、それに代わる万能料理の「スムージー」で挑戦する。所謂“闇スムージー”だ。スムージーも大概の野菜やフルーツとミックスしてもおいしい、受け入れ態勢抜群の一品。闇でもきっと飲める代物になっているはずだ。
諸説あるが、闇鍋の定義は突飛な材料を複数人で持ち寄り調理して食べるということらしい。今回の参加者は筆者だけなので、最近全く自炊をしていなかったがために何が潜んでいるか見当がつかない冷蔵庫(野菜室)の余り物で挑戦する。食材は以下の通りだ。
野菜室の余り物ラインアップ
しなびたほうれん草。
スムージーではよく使われている食材なので相性の心配はいらなさそうだ。とはいっても葉先からヌルヌルした液体が出ており懸念が残る。
ドライフルーツ化しているミニトマト。
水分が抜けてシワが寄り始めているものから、筋が入って中身がドロドロと溶け出しているものもある。限界ギリギリといったところだ。
使いかけのにんじんハーフサイズ。
これはいつぞやのカレーライスを作ったときの余り物……恐らくこの回のときに使ったものだろう。1カ月ほど前のものなのに全くダメージがないことが、逆に恐ろしい。たくまし過ぎる。
ここで救世主・食べごろの桃が登場。
こいつの甘さとみずみずしさで、上記の野菜をカバーしてもらえることに期待する。
安堵も束の間、ジュクジュクのハニーデューメロンを発見してしまった。
サランラップに光が反射して白っぽくなっているのではなく、本当に溶けかけていて白いエキスが浮かんでいるのだ。しかし匂いはまだ大丈夫そうだ。これも入れることにする。……不安だ。
そして、こんなにイイものをダメにしてしまった自分に激しく後悔の念が押し寄せる。
桃の甘みだけでは不安なので、ティースプーン1杯の純ハチミツを入れる。
さらに、色の変色を防ぐため、レモン果汁も少々。これくらいの味付けは許してほしい。
いざ、シェイク!
細かく刻んだ食材をミキサーにかける。こう見ると色鮮やかでとてもおいしそうだ。
オッフ。
グリーンカレーっぽい仕上がりに見えるが、実物はもっと茶色くてドロッとしたテクスチャー。早くも前言を撤回、まずそうの一言に尽きる。
恐怖の実食!
新鮮さを全く感じない(そりゃそうだ)。水泡みたいなものが浮き上がり、プスプスと弾けている。地獄沼のようだ。ここにきて食欲不振に陥る。が、意を決して飲んでみると……
!!
意外や意外、桃とにんじんの甘みが勝っており、他の食材のダメージをうまくフォローしてくれている。苦味や臭みは一切ない。
だが、飲み心地は最悪だ。水分を加えていないため、のど越しが悪い。そしてこの色合いを見るたびに精神的ダメージを食らう。さらにぬるくなると飲みにくさが倍増し、色もどんどんどす黒くなっていく。
追加で豆腐、入ります
一回冷やしてからまた飲めば完食できると思い冷蔵庫を開けると、中には半丁の絹豆腐が。半ばやけくそで投入し、再びミキサーにかける。
クッソ、もうだめだ!
不透明度が増してカオスな状態に。見たくない。目をつむって恐る恐る飲んでみると……
にんじんも桃もどこかに消えてしまっていた。豆腐ってあんまり味がしない食べ物だと認識していたが、このカオスなスムージーの中でも豆臭さが前面に出てくるほど味の主張が強いことがわかった。そして、もはや固体に近いテクスチャーで、のどを通過できない。したくない。飲みたくない。
家族から「ご飯を残しちゃダメ」と教わってきたので、なんとか飲み干したが、リアルに1時間かかった。
まとめると、闇スムージーは1人でやってもなにも楽しくないし苦行に近いが、冷蔵庫の中をいっぺんに片付けるという点では一役買っているに違いないということだ。そしてお鍋様の代わりになるものではないということも……。勇気のある人だけ、お試しあれ。
書いた人:藤田佳奈美
セーラームーン世代。幸せに満ち足りた時よりも、おセンチだと筆が進むタイプ。未婦人の頃から「婦人公論」が愛読書。蕎麦に熱燗の組み合わせと、台所で料理しながら飲む麦酒が好き。かわいい系のアルコールって肴に合わないよね?