熟成肉だの、希少部位だの、世は空前の肉ブーム。
福岡でもあらゆる飲食店で肉料理の取り扱いが増え、ジビエ料理や豚バラ串など細分化された専門店のオープンも近年は少なくありません。
これまで精肉店が運営する焼肉店やステーキ店はありましたが、福岡市は博多区住吉にイートインスペースを設けた精肉店があると聞きつけ行ってまいりました。
はてさて、何がどう違うのやら不明ですが、うまい肉にありつけそうな匂いがプンプンするじゃあないですか。
場所は博多区住吉、「住吉神社」のそば。
その歴史はおよそ1800年以上も前に遡り、全国に2000社以上ある住吉神社の中でもここは最初の神社といわれ、古書にも「住吉本社」「日本第一住吉宮」などと記されている……なんて小難しい話はチンプンカンプン。
我々福岡人にとっては、稲川淳二さんが毎年満員御“霊”の「怪談ナイト」を行う神社として有名です。
さて、「住吉神社」の参道を背にまっすぐ進みましょう。
すると、住吉橋の手前に交差点があり、そこまで来るともうすぐ。写真左側に緑の茂みが見えますよね。こっち方面が「住吉神社」。
そして、角の蕎麦屋さんを曲がった先(写真右側)に見えるオレンジ色のテントが本日の目的地『熊泰精肉堂』です。
「住吉神社」の参道入口から徒歩3分ほどで到着! のはずが、なんだかカフェのような外観に不安を覚えます。
でも待てよ、オレンジ色のテントには『熊泰精肉堂』の文字、壁にはメニュー、軒先には「牛丼」ののぼり、そして肉の配達に使われているであろうスクーターを発見。確かにここで間違いないみたい。ホッと一安心。
扉を開けると、意外にも飲食店チック。
カウンター6席のみのこぢんまりとした店内ですが、食事には不自由しなさそう。
ここは精肉店じゃなかったのか? と、店主に問いただすべくカメラを向けると、申し訳なく思ったのか顔をそむけられてしまいました。
店主の熊谷泰蔵さんを事情聴取して分かったことは、百貨店などで展開する老舗精肉店に15年勤め、脱骨など捌きの修業にも1年費やして独立した“肉のプロ”だということ。
熊泰さん曰く
ウチは精肉店なんで、あくまで肉の販売がメインです。一般の方への販売はもちろん、飲食店への卸も行っています。でも、食べてみないとウチの肉が本当にうまいのか分からないじゃないですか。だからイートインスペースを設けたんです。
ショーケースにドーーーン!!と鎮座するお肉様たち。
お分かりいただけるだろうか? 素人目に見てもうまい! と断言できる美しい霜降り(サシ)じゃありませんか。
気になるお値段は……ん!? 「黒毛和牛ザブトン」が85円!? 「黒毛和牛リブロース」が100円!? よく見ると「10g」と書いてある。そう、ここは10gから肉を量り売りしているんです。
100gに換算すると、「黒毛和牛リブロース」は1,000円。
つまり、普段口にできない超イイお肉が、100円でも食べられるってこと。ありがたや~。
ここではショーケースに並ぶブロック肉の中から、食べたい部位を好きなグラム数(10gから)や枚数だけ注文が可能なんです。
なるほど、ようやく店のシステムが理解できてきたぞ。肉はA4~5ランクの九州産黒毛和牛が中心。熊谷さんがの確かな目利きで良質と判断すればA3でも仕入れるし、ブランド肉にこだわってはいませんが写真のように「佐賀牛」が入荷することも。
そして、カウンターの後ろにもドーーーン!!
九州産黒毛和牛のほか、日によっては鹿児島黒豚のモモハムもあったりします。付け合わせにナスやキュウリの漬物も。
さらにドーーーン!!
モツ鍋用の小腸、煮込み用の牛スジなどのホルモン系、カレー・シチュー用の肩ロースなど、まだまだたくさんあります。
精肉店が本業と胸を張るだけあって、取り扱う肉は30種類以上あるそうです。
仕入れによって店頭に並ぶ種類は異なりますが、運がよければ幻の高級部位「シャトーブリアン」にも出合えます。
生憎この日は出合えなかったため、日頃の行いを悔いたのは言うまでもありません。
それでは食べ比べといきますか。
肉を注文すると、調理する前に選んだ肉を見せてくれます。
真空パックから取り出して酸素に触れると、肉はグッと鮮やかな発色に。
いいねぇ~! これから始まる肉祭りに胸が躍ります。
選んだのは①「内モモ」(10g78円、写真は32g249円)、②「マルシン」(10g80円、写真は42g336円)、③「ザブトン」(10g85円、写真は37g314円)、④「ハラミ」(10g95円、写真は33g313円)。
なんと、これだけ頼んで合計1,212円也。
食べたい肉の部位と量を決めたら、ステーキや焼肉、焼きしゃぶなど好みの食べ方をリクエスト。
肉のうまさをダイレクトに味わうならシンプルに焼肉っしょ。
まずは赤身のウチモモ。ほらね、やっぱりうまいっ! 俺、肉喰ってるな~と実感できる肉々しさ。
続いてザブトン。お尻に敷くアレじゃありません。肩ロースの中でもとろけるような脂身とコクのある味わいに感動!
ハラミは肉厚でもやわらかく、マルシンは赤身と脂身のバランスが絶妙です。さすがは“肉のプロ”!
肉は部位ごとの特性に合わせ、カットする厚さや焼き加減を変えているのもニクイところ(肉だけに)。基本的に調理代は不要。焼肉の場合、支払うのは肉代のみでOKなんです。
ひとしきり肉を食べたら、日本人の本能が米を欲するのは必至。別腹ってヤツです。
焼肉をおかずに白飯を食べてもよかったんですが、思いの外さっきの焼肉が安かったんで調子に乗って炙り寿司をオーダー。
肉は「上カルビ」(10g68円、写真は17g115円)で、シャリ代が1貫100円でした。
どうですか? 大トロと見まがわんばかりのビジュアル。鮮やかなピンク色に、ツヤツヤと光る上質な脂……。この艶っぽさは、セクシーにさえ感じちゃいます。
肉は片面を炙った状態で供されるのですが、あとは手渡されたバーナーで好みの加減に炙ります。
シュゴーッというバーナーの音と共に、カルビの脂がチリチリと音を立てて焼ける様子にテンションMAX! 香ばしさをまとった上質な肉は、よりおいしく感じられます。
五感をフル稼働させて堪能できる、お客参加型の炙り寿司はぜひとも体験してみてください!
一般的に精肉店では100gからの店が多い中、なぜ10gから量り売りするのかを尋ねると、その理由は単純明快。
「いろいろ食べてみたいでしょ?」
とニヤリ。熊谷さんは「料理人としての経験はまだ浅い新人です」と謙遜しますが、精肉の扱いに関しては“肉のプロ”としての矜持を持ち、素材には絶対の自信を誇っています。
「うまいお肉をちょっとずつ」がコンセプトの『熊泰精肉堂』では、精肉店ならではの豊富な品揃えの中から食べ比べできるのが最大の魅力。食べてみて、気に入ればもちろん肉を買って帰ることができます。
だって、精肉店ですから。
お店情報
熊泰精肉堂
住所:福岡市博多区住吉3-9-18
電話:092-260-9629
営業:精肉販売11:00~22:00、食事11:30~15:00、金・土・日曜17:30~22:00(平日の夜は予約があれば営業)
定休:水曜、第2木曜