安田理央の「ヒョイと一杯のつもりで飲んで」
伝説の牛丼チェーン・茗荷谷の「牛丼太郎」改め「丼太郎」で牛皿と缶ビール
最近、吉野家が「吉呑み」というキャンペーンをやっています。「吉野家でちょいと一杯」をキーワードに、子持ちししゃもだの焼きイカだののおつまみや、ハイボールやホッピーまで出して、飲み屋シフトを敷いているのですね。
でも、僕らは以前から「吉野家で飲む」はちょくちょくやってたのですよ。
もともと吉野家には、ビールや日本酒がおいてあったので、牛皿をつまみに飲むことが出来ました。牛皿とお新香にキムチ、あとはせいぜいサラダくらいしかつまみになるものはないし、お酒も1人3本までという制限があったりして、明らかに「うちはあくまでも牛丼屋なんだから、あんまり飲むなよ」という姿勢が感じられて、でも、だからこそ、そこで飲むというのが楽しかったんですね。他のお客が忙しげに牛丼をかっこんでいる横で、ひとりのんびり牛皿をつまみに酒を飲む。これがよかった。
それが「さぁ、どうぞ、飲んで下さい」なんて言われると、ちょっと気持が冷めてしまうところがあります(と、言いつつ、ちゃんと「吉呑み」もしてるんですけどね)。いや、ホント、酒飲みってのは、面倒くさい人種なんですよ。
そこで、ふと頭に浮かんだのが、「丼太郎」のことです。
「丼太郎」と言われても、ピンと来ないかもしれませんが、「牛丼太郎」と言ったらどうでしょう。あ、やっぱりピンと来ませんか。80年代から新宿を中心とした東京の一部で展開されていたローカルな牛丼チェーン店です。全盛期でも10店そこそこだったようなので、吉野家や松屋、すき家みたいな大メジャーチェーンに比べると、いわば「インディーズ牛丼チェーン」とでも言いたくなる規模です。それでも、他の牛丼店より常に安く値段を設定し(最安値は200円!)、さらに激安な納豆丼なんてメニューもあるなど、リーズナブルな牛丼店としてカルトな評判がありました。
▲今は亡き牛丼太郎西新宿店
▲牛丼太郎の牛丼。2011年8月当時で250円
そうなんですよ、ちょっと前まで、牛丼屋チェーンって、色々あったんですよ。神戸らんぷ亭とか、どんどん(現在はすためし中心で営業)とか、たつ屋(現在、新宿店のみ)とか。
中でも僕が好きだったのは、牛友チェーンです。中野と桜台のお店によく行ってましたね。牛丼とカレーの「あいがけ」は、ここが元祖なんじゃないでしょうか。中野店は駅前の雑居ビルの4Fにあったというのも、牛丼屋としては珍しかったなぁ。
しかし、気がつけは牛丼は吉野家・松屋・すき家の3大メガチェーンが圧倒的なシェアを締める3強時代。
インディーズ系牛丼はすっかり見なくなってしまいました。
そして牛丼太郎も年々活動縮小を余儀なくされ、2012年にはすべての店舗の営業が終了。その姿を消したと思われたのですが、なんと代々木店と茗荷谷店だけが、
看板から「牛」の字を消して「丼太郎」の店名で、営業を続行していたのです!
しかし、今年の春には代々木店も閉店。つまり茗荷谷の「丼太郎」のみが、「牛丼太郎」の遺伝子を受け継ぐ店となったのでした。
どうせなら、この丼太郎でヒョイ飲みしてみよう。在りし日の牛丼太郎を偲びつつ、酒を傾けよう。そう考えたのでした。
牛丼マニアの聖地「丼太郎 茗荷谷店」へ
丸ノ内線で茗荷谷駅へ。茗荷谷って、小石川植物園に行った時くらいしか降りたことがないですね。あまり縁のない駅です。
駅から出て、春日通りを後楽園方面に進みます。松屋の前を通り過ぎて、すぐの通り沿いに、あの懐かしい赤い看板が。
なるほど、「牛」の字には赤いテープが貼られて消されていますが、「牛」の字をお腹に書いた金太郎風のマスコットキャラクターはそのままです。
「牛」の字以外は、あの「牛丼太郎」とまるっきり同じです。
外に貼りだされているメニューを見ると、牛丼が290円、カレーが270円、そしてあの納豆丼も220円で健在でした。さらに「うめ納豆丼」「おろしぽんず納豆丼」なんてバリエーションまであるじゃないですか。なんか嬉しくなってきました。
さて、店内へ。先客は中年男性が2名。無表情で黙々と牛丼を書き込んでいます。
「ああ、昔の牛丼屋って、こんな感じだったなぁ」と思い出しました。牛丼屋は男の世界だったのですよ。
自動販売機で食券を買います。牛皿は牛丼よりも高い330円。これは吉野家と同じ値段ですね。その他につまみになりそうなものは、冷やっこ100円、サラダ100円、お新香30円、キムチ60円、温泉玉子60円というところでしょうか。せっかくなので、全部頼んじゃいましょう。
そしてお酒は、缶ビールのみ。「麦とホップ」だから発泡酒ですけど。350ml缶で250円。本当は牛皿には日本酒が合うんですが、贅沢を言っちゃいけないですね。あるもので何とかするのが牛丼屋飲みの楽しさでもあるのですから。締めて930円ナリ。
ずらりとカウンターに食券を並べると、すぐに缶ビールとグラスを出してくれます。同行の「メシ通」編集スタッフM君と乾杯。M君は「丼太郎」初体験です。
ングングング、と一気に煽ります。あー、明るいうちに飲むビール最高。そして飲み屋じゃないところで飲むビールは、さらに旨味が増しますな。
というか、あれ、「麦とホップ」って、こんなに美味かったっけ。発泡酒はあんまり好きじゃなくて普段は飲まないんだけど、妙に美味しく感じられます。
これが「太郎」マジックでしょうか?
続いて、お新香、キムチ、温泉玉子が来ます。お新香は白菜の浅漬けですね。そしてキムチはどうやら、そのお新香をキムチ汁につけたもののようです。
さらにサラダも登場。ちょっと甘いごまドレッシングがかかっています。
そして冷やっこに、主役の牛皿も登場。カウンターの上は小皿でいっぱいになってしまいました。
「うわぁ、なんだか大変なことになってしまったぞ」
品数が多く並んでいると、それだけで嬉しい気持ちになりますね。
さてさて、肝心の牛皿です。あの「牛丼太郎」の牛皿です。考えてみたら、牛丼太郎時代に、牛皿頼んだことなかったなぁ。牛丼太郎で飲むという発想は、全くなかったし。
まずは一口。
ん……。味が濃い。
というか、かなりしょっぱめ。あれ、牛丼太郎って、もっとあっさりした味だったような印象があったけど、どうだったっけ?
でも、これはビールが進みそうな味です。たっぷり紅しょうがをのせて、途中から温玉も投入して、崩しつつ食べると、おお、すき焼きの味だ。
ビールが進む、進む。もう1缶飲んじゃいましょうか。おつまみもいっぱいあるし。
吉野家で飲んだ時も思ったんですが、牛皿って酒のつまみに、すごく合うんですよね。甘辛い味付けといい手頃なボリュームといい、実にちょうどいい。
牛皿を食べていくにしたがって、姿を現すお皿のふちの牛丼太郎君が、なんとも愛らしいです。牛丼太郎君グッズって無いのかな。
そして締めに何を食べるかです。カレーもいいんだけど、ここはやっぱり納豆丼ですよね。牛丼太郎といえば納豆丼。他の牛丼チェーンでは食べられない納豆丼。
「うめ納豆丼」や「おろしぽんず納豆丼」などの新メニューも気になりましたが、シンプルにノーマルの納豆丼で行きましょう。
はい、納豆丼。ご飯の上に納豆、刻み海苔。以上。この有無を言わせないシンプルさ。最高ですね。ああ、軽く飲んだ後の納豆ご飯うめぇ。関東人でよかった。
ご飯がかなり多くて、少し残り気味だったので、終盤は紅しょうがの力も借ります。これはこれで美味い。生玉子を追加してもよかったな……。
というわけで、丼太郎飲み終了。
ビール1缶と納豆丼を追加したので、合計1,400円。牛丼太郎でこんなに使ったこと、ないぞ(笑)。まぁ、実際には、お腹が苦しくて大変な状況になりましたので、冷やっことかは無くてもよかったかな。あと、納豆丼も無理に食べなくてもよかったかな(笑)。つまり、1,000円以内で収める、センベロ飲みも充分可能なわけですよ。
いや、それにしても、この牛丼太郎君がついたどんぶり、いいなぁ、と眺めていると、
「代々木店が閉店した時は、どんぶりを買っていったお客さんもいたんですよ」
と店員さんが教えてくれました。さらに、並盛り、大盛り、特盛りで、すべてどんぶりが違うそうです。
これ、牛丼太郎カルトクイズで出題されそうなポイントですね!
というわけで、初めての丼太郎飲みを満喫。しかし、すぐ二軒隣に松屋があって、丼太郎がいくら安いといっても、数十円の差なわけです。だったら、と、メジャーな松屋に行く人も多いと思うのです。
しかし、それでも、あえて丼太郎に行く、そういうファンもいるわけです。
そもそも「丼太郎」は、「牛丼太郎」がなくなる時に、従業員たちが会社を立ち上げて経営を引き継いだそうです。
牛丼太郎への愛情が、思い入れが、丼太郎には受け継がれているのです。イイハナシダナー。
茗荷谷で、丼太郎飲み。
これからは、これですよ。男なら、これですよ。
お店情報
丼太郎 茗荷谷店
住所:東京都文京区小日向4-5-9
営業時間:月〜金 6:00~23:00 日・祝 8:00~22:00
定休日:年中無休