大好きだった極太の「常滑チャーシュー」に再び会いたい……という切なる願いが完璧にかなった日【愛知】

f:id:rudders:20181002093852j:plain

常滑にかつて存在した伝説の中華そば店

いきなり長ったらしい前置きから始めよう。

愛知県の常滑市といえば、日本六古窯のひとつで、今も焼き物「常滑焼」の産地として知られるまち。最近はレトロな町並みの風景や、2005年に開業したセントレア(中部国際空港)により、多くの観光客が訪れるスポットでもある。

f:id:rudders:20181002094444j:plain

▲常滑の観光スポット①、常滑のマスコットシンボル「巨大招き猫」。ひたすらデカい。突然現れるとちょっと怖い

 

そんな常滑市民が昔から親しんできた中華そば店があった。

昭和37年に大衆食堂としてオープンし、次第に評判だった中華そばにメニューを絞り、中華そば専門店になった。

スープは醤油そのまま? と錯覚するほどの真っ黒さで、お世辞にも洗練された味わいではなかった。しかし特筆すべきは、中華そばにトッピングされたチャーシューであった。とにかく、尋常じゃないほどデカかったのだ!!

 

極厚のチャーシュー(というか豚肉のかたまり)が、ドン! ドン!! と2枚

このチャーシューを目当てに、遠方からも来店者が絶えないお店だった。

 

筆者は、このお店があった常滑市の近隣市町で生まれ育った。だから(常連というほどではないものの)自分でクルマを運転できるようになってからは、それなりの頻度で通っていたクチである。

しかし住まいを名古屋に移し、次第に足を運ぶ機会もなくなってしまった。
そして2012年ごろ、惜しまれつつもお店を畳んだという話を耳にした。

 

「あー!! もっとあのチャーシュー、食っときゃ良かった!!!」

 

と、海に向かって叫んだ(どこの海だよ)のは言うまでもない。

f:id:rudders:20181002093856j:plain

▲段ボールに保管されていた過去の仕事の資料をあさったら奇跡的に発見された、そのお店の記事。この写真1枚だけでもそのデカさがうかがえるだろう。(2003年12月発行『究極のラーメン東海版』発行元:ぴあ)

 

しかしほどなくして、新たなウワサ話が耳に飛び込んできたのである。

 

それは「あそこで修行した弟子が、新しくお店を出したらしい」というものだ。

とはいえ、それもまた行く機会に恵まれないまま、いたずらに月日だけが流れてしまっていた。

そして今回、意を決して「思い出の味の極私的タイムトラベル」と銘打ち、記憶の迷路をたどる旅に出たのであった。

 

f:id:rudders:20181003075247j:plain

▲常滑の観光スポット②、やきもの散歩道の「土管坂」

 

約15年ぶりの“再会”を果たすべく常滑へ

名古屋市(の自宅)から、名古屋高速経由で約1時間 ──

お目当てのラーメン店「名代中華そば 常滑チャーシュー」は、グーグルマップ通りの場所にあった。場所はかつて存在した旧店に近いが、少しだけ北に移転しているようだ(後で調べてみたら、1.5キロほど離れている)。

以前のお店はいかにも「昔ながらの大衆食堂」といった趣のある、赤いのれんが目印だった。いま目の前にあるお店は、やたら壁が白い。ただし看板は手作り感があって親近感がわく。

 

f:id:rudders:20181002123133j:plain

▲たまたまオサレな自転車が停まっていたのでカフェにも見えなくはない。見ようによっては

 

とりあえず入店すると、午後1時過ぎなのにこの混みよう!

「お昼時を外せばいいっしょ」と安易に考えていた自分、バカバカバカ。ただしすぐ席に座れたのは、やっぱり回転が早いからか。

f:id:Meshi2_IB:20181003170052j:plain

▲店内も比較的シンプル。テーブル席のほか一人客用のカウンター席もある

 

壁に貼られていたメニュー表を確認する。

メニューは以前のお店の通り、中華そばとライス、おにぎりのみ。潔い。

ちなみに中華そばは、830円なり。

営業時間は、10時から14時30分まで(土日祝は9時30分から15時まで)。

元々このあたりは漁師町のため、朝早くからの仕事の人が多く「朝昼兼用で食べる人が多かったから」というのが理由だそうだ。

f:id:rudders:20181002113504j:plain

▲2003年の「ぴあ」には600円と書かれていた中華そばが、830円に。こればっかりは時代の流れである

 

肉塊のようなチャーシューとついにご対面

さて、厨房をのぞき込んで中華そばの調理プロセスを拝見しよう。

f:id:rudders:20181002123756j:plain

▲醤油ダレを丼に注ぎ〜の!

 

f:id:rudders:20181002123836j:plain

▲スープを入れ〜の!!(この時点で真っ黒……)

 

f:id:rudders:20181002123913j:plain

▲麺を入れてチャーシューをのせ〜の!!!

 

そして、いよいよご対面

f:id:rudders:20181002124101j:plain

デデ〜ン!!!!

うわ!! これだよこれ! この真っ黒なスープ! そんで肉塊のようなチューシュー!!!

ひと口スープをすすると、醬油味というか、そのまま醬油を飲んでるような(あくまで例え。そのままホントに醬油飲んだら死ぬ)強烈なインパクトだ。

なんだろう、濃厚? いや違う、やっぱ「ザ・醬油」という、身もふたもない(褒めてる)味わいだ。

 

f:id:rudders:20181002124233j:plain

▲MAKKUROなSOUPはまるでラーメン界のブラックホールのよう

 

麺は、中太の縮れ麺。真っ黒なスープが程よくのって、チュルリラチュルリラと鼻歌でも歌いたくなる。

f:id:rudders:20181002124719j:plain

▲麺リフトに夢中になって危うく麺がのびそうになってしまった……

 

そして、肝心のチャーシューである。

豚バラならではの脂のトロトロ感。脂身以外の身肉の部分も、箸で簡単にちぎれる柔らかさである。

 

うわ〜、懐かしいわぁ〜

 

あまりの懐かしさぶりに、思わず無言で食す……。

f:id:rudders:20181002124916j:plain

▲「トロトロ」と文字にするよりもっとトロトロなチャーシュー。持ち上げる箸も重いわこれ

 

正直に言おう。15年、いやそれ以上ぶりくらいに食べた味だ。多分に「思い出補正」で気持ちが盛られてる可能性は否めない。

しかし、過ぎし若きの日々を思い出すには十分な味わいだった。

 

主役はどっちだ? チャーシューのせいで米が美味すぎる

ブレーキの壊れたマッドマックス級の醬油テイストのため、人によってはそのまま食べ続けるのがキツくなるかもしれない。そんなときの神フードが、ライス(120円)やおにぎり(180円)といった飯モノだ。この濃い味に白米は、マストのお供となる。

ご飯の上にほぐしたチャーシューをトッピングすれば、特製チューシュー丼に変身する。これがまた尋常じゃないうまさである。脂質と糖質の悪魔の二重奏に身を委ねるしかないのだ。

f:id:rudders:20181002130234j:plain

▲単にライスの上にチャーシューをのせると縮尺が視覚的におかしくなる

 

f:id:rudders:20181002141154j:plain

▲チャーシューをほぐしてライスを食する。米粒に染み込んだタレが罪深い

 

ちなみにこのチャーシュー、ココで完食してももちろんいいんだが、実は食べきれないお客さんも多い。もしくはあえて完食せず「1枚食べて1枚持ち帰り」という実に堅実な道を選ぶ人も少なくない。だからテーブルにはご丁寧に「持ち帰り用のビニール袋」も完備されている。

このビニール袋完備も、前店と変わらない点だ。ただし筆者は思いっきり完食してしまったが。

f:id:rudders:20181002141442j:plain

▲テーブルの脇に備え付けられた持ち帰り用のビニール袋

 

f:id:rudders:20181002141524j:plain

▲いや、まぁ、ビニール袋要らなかったけどね……

 

というわけで、筆者の青春の味わいカムバックは、思いのほか高レベルで実現してしまった。こうなったら、もう少し詳しく話をきかねばなるまい。

この日、店主はあいにくの留守。というわけで後日、店主の榊原直樹さんに改めて話を聞くことにした。

 

店主に塊肉の秘密を聞いてみた

日を改めてアポをとり、店主の榊原直樹さんに改めて話を聞くことにした。

榊原さんは三重伊勢市出身。名古屋のホテルレストランで中華料理を学び、セントレアの開港とともにオープンした中華レストランに勤務するため、常滑にやって来たそうだ。

 

── そもそも、どうしてお店を継ぐ気になったんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20181003113143p:plain榊原さん:常滑に来て、朝に散歩とかしてるうちに、前のお店のおやじさんと顔見知りになったんです。それで、そろそろ引退したいという話を聞いて。わたし自身も「いつかは独立したい」という気持ちがあったので、弟子入りすることにしたんです。

 

こりゃ驚いた。というのも、昔のお店は中華料理店というよりも、雰囲気としては大衆食堂に近かったからだ。

実際、かつては中華そば以外にもさまざまな食堂メニューを出していたのは、前述の通り。

f:id:rudders:20181002150019j:plain

▲朝の散歩がなければこのお店はなかったかもしれない……

 

── 中華料理、しかもホテルの中華レストランとなれば、よりいっそう洗練された味覚を求めるはずですけど……。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003113143p:plain榊原さん:そうなんです。先代は和食出身なので、そもそもダシが中華っぽくではないんですよ。ダシは豚骨と鶏ガラの他に、煮干しにカツオ節、サバ節、コンブ、シイタケ……。和風ダシが中心です。

 

── それじゃ、あの濃厚でコクのある風味はどこから来てるんでしょう。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003113143p:plain榊原さん:中華そばの返しに、チャーシューの煮汁を加えているからです。豚バラのうま味エキスが凝縮されてますからね。これがスープのコクになっています。

 

f:id:rudders:20181002144531j:plain

▲レンゲですくっても醤油の濃さをビジュアルが主張してくる

 

── でも、本格的な中華からの転身では、むしろビックリすることも多かったのでは?

 

f:id:Meshi2_IB:20181003113143p:plain榊原さん:そうですね。例えばチャーシューは、まず肉に下味を付けたり焼いたりして、下ごしらえをするのが中華料理のセオリーなんです。ところが先代は、肉を生のまま煮汁の中にドボンと入れる(笑)。中華のセオリー無視は衝撃でしたが、「これでもおいしく出来るんだ」ということで、目からウロコが落ちました。

 

お、おぅ……。

まぁ、中華そばが中華料理なのかどうかも議論が分かれるしな。

それにしても、さすが先代は下町の巨匠だけのことはある、ということか。

 

f:id:rudders:20181002142108j:plain

▲チャーシューの仕上がりを確認する店主の榊原直樹さん

 

普段、チャーシューは4キロの豚バラ肉を4本にカットし(つまり1本1キロ)、煮汁で2時間ほど煮込んでいる。

ちなみにチャーシューの煮汁は、みりんに加えて地元知多半島産の「たまり醬油」を使っている。普通の濃い口醬油ベースよりも味が濃いため、より濃厚で醤油くさいタレになるのだ。

さらに煮汁は、もう50年以上継ぎ足しているそうだ。

月並みな言い方だが、ウナギのタレばりの時間の積み重ねこそが、あの濃厚なコクの味わいなのだ。

 

念のため解説しておくと、筆者も元地元民だから分かるが、この辺り(愛知というか、少なくとも知多半島)では「醬油」=「たまり(醬油)」のことであり、料理にたまりを使うのは、ひと昔前ならごく自然のことだった、ということはお伝えしておく。

f:id:rudders:20181002143500j:plain

▲出来上がったチャーシューを抱える榊原さん。チャーシューと同じくらい濃い顔がワイルドこの上ない。「この人が作ったチャーシューなら間違いないだろう」という確信すら与えてくれる

 

完食するか、半分持ち帰るか、買って帰るか

話をチャーシューに戻そう。そのボリュームを聞いてみたところ、1枚 150グラム前後だそう。2枚で300グラムの計算だ。
確かにこれたけのボリュームだと、「持ち帰りがデフォ」という人が多くなるのも無理からぬことである。

f:id:rudders:20181002144728j:plain

▲切りたてのチャーシュー。接写するほど存在感がハンパない

 

なお、心憎い配慮として、

 

f:id:Meshi2_IB:20181003113143p:plain榊原さん:チャーシューを食べる時間がどうしても長くなってしまうので、麺はあらかじめ硬めにゆでています。

 

だそうだ。

ちなみに、お店では1,000円でチャーシューの販売も行っているが「あくまでも店内で飲食していただいた方へのサービス(1家族 1つ限定)です。チャーシューのお持ち帰りだけはできません」とのこと。

逆に言えば、お店で食べれば買えるということ。来店の折にはぜひお求めしたいものだ。

f:id:rudders:20181002151115j:plain

▲チャーシューは完食するか。半分持ち帰るか。買って帰るか。悩みどころだ

 

持ち帰りチャーシューでつまみやチャーハンを作ってみた

もしチャーシューを持ち帰ったとして、何かオススメの食べ方はあるのだろうか? それも店主に聞いてみた。

 

f:id:Meshi2_IB:20181003113143p:plain榊原さん:それぞれのお好みでいいと思いますが、個人的なオススメは、お酒のつまみですね。ひと口サイズにカットしたチャーシューを、フライパンやトースターで表面をカラッと炙り焼きしてください。カラシやマヨネーズなどを付けてそのまま食べるもよし、サラダにのせるのもよし。もちろんチャーハンの具材にも最高ですよ!

 

f:id:rudders:20181002150252j:plain

▲宅飲みでも大活躍しそうなチャーシューちゃんたち

 

そう言われると、やらずにはおれないのが人のさがというものだ。
特別にチャーシューを譲ってもらい、自宅に戻って夜中にひとり調理を試みた。

 

まずは、酒のアテだ。

f:id:rudders:20181002151418j:plain

▲チャーシュー刻んで〜♪

 

f:id:rudders:20181002151439j:plain

▲フライパンでじゅうじゅう焼いて〜♪

 

f:id:rudders:20181002151454j:plain

完成!!

これでマズいわけがない。ビールのアテとしては最高でござる。はい優勝。

 

次にチャーハン。いってみよー!

f:id:rudders:20181002151740j:plain

▲サイコロ状に刻んで〜♬(以下略)

 

f:id:rudders:20181002151816j:plain

完成!!

チャーシューのタレが全体になじみ、ほのかな香ばしさが食欲をそそる。

パラパラさ加減は調理者のウデ次第だけれど(大汗)、十分おいしゅうございます。

 

f:id:rudders:20181002152206j:plain

▲チャーハンにチャーシューは鉄板中の鉄板具材

 

ちなみに榊原さん、現在は名古屋市内にもお店を出している。その名も「名代中華そば ばら」

こちらでも極厚チャーシューの中華そばを食べることができるので、名古屋市民にはありがたい。

そして榊原さんの元で修業を積んだお弟子さんが、福井でも「常滑チャーシュー」を開業してることも付け加えておこう。

f:id:rudders:20181002152603j:plain

▲「名代中華そば ばら」。実は中華そば以外にもいろいろなメニューがある

 

f:id:rudders:20181002153746j:plain

▲「名代中華そば ばら」のネギ塩チャーシュー麺(トリプル1,300円)

 

現 場 か ら は 以 上 で す 。

 

お店情報

名代中華そば 常滑チャーシュー

住所:愛知県常滑市榎戸町1-83

電話番号:0569-42-3355

営業時間:月曜日、水曜日~金曜日 10:00~14:30 、土曜日・日曜日・祝日 9:30~15:00

定休日:火曜日、月曜日不定休の場合あり

www.hotpepper.jp

 

名代中華そば ばら

住所:愛知名古屋市瑞穂区白砂町3-18-11
電話番号:052-834-6077
営業時間:11:30~14:00、18:00~22:00
定休日:木曜日、第4日曜日

 

書いた人:イシグロアキヒロ

f:id:Meshi2_IB:20180419143927j:plain

名古屋を拠点に活動するフリーライター。カリブ海音楽と台湾ラーメンとキンキンに冷えたビールと朝ドラ「カーネーション」とハロプロをこよなく愛する。

過去記事も読む

トップに戻る