ビール1万本無料配布が4分で終了!「志賀高原IPA」はステイホームの救世酒になった

GW直前、ネット上で話題をさらった「IPA 1万本無料で提供」の太っ腹企画。応募から商品到着、飲ルポ、さらに酒造メーカーへのインタビューまで、滋賀在住のBUBBLE-Bさんがガチの当選者としてリポート。代表者が語った配布企画の真意と秘めた思いとは?

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Stay Homeの号令のもと、全国民がひたすら自宅でおとなしく過ごした2020年のゴールデンウィーク。外食産業をはじめ、多くの生産者も未曾有の影響を受けた。

そんな中、「打倒コロナ」を合言葉に1万本のクラフトビールをネットで無料配布する酒造メーカーが現れた。

「志賀高原IPA」を醸造する長野県の玉村本店だ。

 

瞬殺で注文完了した「1万本の無料ビール」

志賀高原IPAを10,000本、無料で提供します。注文はWEB限定で、4月21日正午から。お一人様、最大12本まで。

という情報をSNSで知ったのは、その前日(4月20日)のこと。

 

あまりにもインパクトのある内容で、さすがに無理なんじゃないの? と調べたが、どうやら製造元・玉村本店の公式情報のようだ。

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▲玉村本店の公式ブログより

 

なんでも、新型コロナウイルス(以降、コロナと省略)に影響を受けて仕事が減っていたり、コロナと闘っている人を応援するための企画だという。

現在、滋賀在住の自分も飲食に関係したいくつかの仕事が止まってしまったし、DJやライブといった趣味の音楽活動もできなくなっていた。

 

志賀高原IPAは飲んだことがあった。玉村本店のある志賀高原の旅館「歴史の宿 金具屋」にて毎年開催される音楽フェス「音泉温楽」にDJ出演した時に飲んだ、苦みとスッキリした味わいは強く印象に残っていた。

 

「こりゃ凄いことになるぞ……」

 

この情報をSNSで拡散したいような、いや、誰にも教えたくないような、そんな気持ちになった。クラフトビール好きの友人一人にこっそり教えた。

 

翌日12時前──。

PCの前に座り、玉村本店の注文ページには12時ちょうどに注文ボタンが表示され、即座に押下した。アクセスが集中しているのかページが重く、何度も失敗した。

そして何度目かに注文フォームの画面が表示され、やっとこさ注文完了。12時05分頃には「Sold out」の文字が表示されていた。

 

注文ページにコメント欄があって、「何かコメントをいただければ嬉しいです」と書いてあったが、1秒を争う注文の最中にコメントを書く余裕もなく、空欄で注文したことが心残りになった。

 

数日後、「発送致しました」と書かれたメールを受信した。

 

届いたビールには手書きのメッセージが

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「SHIGA KOGEN」とプリントされ、しっかりと梱包された段ボール箱が滋賀の自宅に届いた。

こいつ、志賀から滋賀に来たのだな、と少し嬉しくなった。ちなみに滋賀県にも「志賀」という地名があるので親近感が半端ない。

 

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開封する瞬間、それは最もテンションが上がる瞬間である。

 

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箱の中にはメッセージカードが添えられており、手書きで「これからもどうぞよろしくお願いします!!」と書かれていた。

無料で頂戴したのに、なんと嬉しい。ありがとうございますと言うべきなのは、こちらのほうである。

さらにはクリップで「苦い人生」ステッカーまで付いていた。

 

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深紅のラベルが印象的な志賀高原IPAのボトル。さっそく夜にいただこう。

 

オンライン飲みに最高の友だった

居酒屋店に飲みに行けなくなった今は、自宅でオンライン飲みをしている。

この日の晩、いよいよ志賀高原IPAの開栓を行った。

 

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ビシッと冷えた志賀高原IPAの勇姿!

 

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琉球ガラスのグラスに注ぐと、琥珀色が映える。まさにクラフトビール然とした佇まいだ。

 

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1万本配布について教えた友達も無事にゲット。同じビールでの画面越しの乾杯が最高だ。

 

志賀高原IPAは独特の苦みがあるけれど、後味はスッキリとしていて軽い。このさわやかさ、やみつきになってしまう。かつて音泉温楽で飲んだ時の印象と同じで、とても美味しいビールだ。

 

本当にありがたい、心からそう思った。

そして、注文時に時間的余裕がなくてコメント欄を空白のまま注文したことが心残りで、この気持ちを伝えたいということもあり、玉村本店の代表である佐藤栄吾さんに今回のキャンペーンについて、オンラインにて話を伺った。

 

困っている人に何かできないか? と考えた

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▲玉村本店の8代目、佐藤栄吾代表(写真提供:玉村本店)

 

──今回の1万本無料配布に至った経緯は何でしょうか?

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:今、コロナの問題で世の中が困った状態で、何かできないかなと考えてまして。以前、東日本大震災の時にHouse IPAの売上を寄付させていただいたことや、2019年に発生した台風で長野が被害を受けた時、収穫祭で募金を募って寄付をさせていただいたりといったことがありました。
決して寄付をすることが目的ではないんですけど、世の中が大変な時、微力ながら何かできないか? と心が揺さぶられたんです。
今回は全国規模でたくさんの人が困っていて、今すぐに支援が必要だと思いました。僕らも売上激減で大変なのですが、余力のあるうちにできることをしてみたいと思ったんです。

 

──今回は寄付ではなく、ビールそのものの配布になったのはなぜでしょう?

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:寄付を募る場合、その手段ゆえに時間が必要で、すぐにはできない。そして今回の場合、どこに寄付をすればよいかも分からない。でも僕らのできることは限られているので、ビールを配布することに決めました。

 

──配布の方法はどのように考えられたのでしょうか?

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:僕らは日頃から飲食店のみなさんがビールを買ってくださってお世話になっているのですが、飲食店は今、大きな傷を負ってます。そこが今回のスタート地点でした。
でもよく考えれば僕らが商売をさせてもらっている志賀高原のスキー場や温泉、ホテルなどのみなさんも同様です。さらには今回のコロナに立ち向かっている医療現場の方々や、全国の働きながらお子さんを育てていかなければならない方々も同様に困難に直面していることを考えると、どなたかだけに支援するのではなく、幅広く手を上げてもらおうと考えました。

 

「一人12本まで」に決めた理由

──今回、志賀高原IPAを1万本と、提供数が桁外れに多いのですが。

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:志賀高原IPAというのは僕らの代表的な商品で、醸造量も多いんですよ。ちょうど仕上がってきたタンクがあって、それを詰めると1万本はいけるかなと思ったんです。

 

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▲こちらはビールの製造工場(写真提供:玉村本店)

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:こんなご時世なので僕らも売上が半分以下に落ち込んでいて、普段ならひと月もかからず売り切れるものも何カ月も必要になりそうなんです。
今回の配布を思い立ったとき、「打倒コロナ」みたいな面白い名前のクラフトビールを作ろうとも考えたのですが、それだと形にするまで時間が必要で、今回の趣旨と異なると思ったんです。
だから僕らの代表的な商品であり、フレッシュなままお届けできる志賀高原IPAでいこう、となったんです。

 

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▲玉村本店の定番 志賀高原IPA(写真提供:玉村本店)

 

──非常に大胆で、スピード感も凄いです! 社内の反応はどうでしたか?

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:最初はみんな反対するんじゃないかって心配したんですけど、意外にもやろう、やろう、って言ってくれました。僕の親父が先代で今は会長なのですが、親父にも話してみたところ「いいじゃない、やるんなら早くやろう」と言ってくれましたね。

 

──そしてスタートしたこのプロジェクト。難しいところはありましたか?

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:どうやって告知しようか、そしてどこかに偏らず、日本全国に届けるにはどうするのが最良なのか? を考えるのが難しかったです。
今回、お一人様最大で12本までにしたのですが、そこに至るまでは考えました。送料だけはご負担いただくのですが、例えば6本までにすると、送料が1,200円で1本あたり200円かかってしまうんです。それでも普段の値段よりも安いんですけど、困難に直面している飲食店や医療関係の方々に楽しんでいただくビールとして、できるだけご負担のないようにしたかったので、12本にしました。

 

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▲今回、工場も大きな痛手を受けた(写真提供:玉村本店)

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:希望本数はお客様に決めていただいたのですが、12本色々な方に配りますという方や、私は少なくても良いのでと数本だけの方、色々いらっしゃいました。結果的には手を上げていただく仕組みをとることによって、趣旨が皆さんに伝わったかなと思います。

 

わずか4分で瞬殺!

──注文は4月21日の12時から玉村本店のECサイトで受付開始されましたが、反響はいかがでしたか?

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:12時00分に開始して、12時04分には最後の注文となりました。実は前の週に限定のビールを50セット発売した時、(今回に比べると)大したことのない量にも関わらずWEBが重くなったんです。
ですから今回は事前にサーバを増強したのですが、それでも重くなって繋がりづらくなってしまいました。最大12本入りですから1,000セットくらいの注文があったと思うのですが、こんなに早く終わってしまったのは想定外でした。

 

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▲梱包、発送準備の様子(写真提供:玉村本店)

 

──まさに争奪戦のような4分でした。

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:無料配布分の注文が1万本に達した後も「間に合わなかったから志賀高原IPAを買いたい」と購入してくださるお客様もいて、大変ありがたいと思いました。

 

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▲仕分け中のスタッフ(写真提供:玉村本店)

 

──注文画面のコメント欄に「よければコメントをお寄せください」とありましたが、どのようなコメントがありましたか?

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:お客様が今どんな状態なのか? を書いてくださることが多かったです。中でもお医者さんや看護師さんだったり、歯医者さんだったりという医療関係の方や、ライブハウスの方や飲食関係の方も多くいらっしゃいました。
対象となるお客様について事前にブログに書いていたのですが、それが伝わって、SNSでお見かけしたのも含めて温かいコメントもたくさんいらして、嬉しかったです。

 

苦い人生とは「ホップのある人生」

──ところで、自宅に届いた箱の中に同封されていた手書きのメッセージに、とても温かい気持ちになったのですが、これはどなたが書かれたのでしょうか?

 

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f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:これは今回の1万本以外のご注文にもお付けしているんですけど、書いているのはスタッフ数名です。印刷物だけよりも良いと思いまして。

 

──「苦い人生」と書かれたステッカー(下の写真参照)も同封されていましたが、これは?

 

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f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:これは僕らのキャッチフレーズのようなものです。ホップの効いたIPAというビールを作っているので、ホップのある人生という意味です。決して苦しいという意味ではありません(笑)。

 

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▲ホップ畑の風景(写真提供:玉村本店)

 

──最後に、志賀高原IPAの特徴とこだわりについてお聞かせください。

 

f:id:mizonokuchi:20200509034524j:plain佐藤さん:日本の食文化も肉などの脂ものが増えてきた中で、僕らのビールは食中酒として飲めることにこだわってます。ホップというのは苦味があるのですが、口の中であとを引くような苦味じゃなくて爽快な味わいになるように、仕込みのあとにタンクにホップを入れて香りを付けるということをしています。そうして進化してきた定番ビールです。

 

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▲佐藤代表はじめ社員のみなさん(写真提供:玉村本店)

 

──ありがとうございました!

 

僕らのStay Homeを上質なものにしてくれる味

コロナ禍でどこにも行けなくなり、仕事も減って自宅に引きこもる日々の楽しみは、夜のオンライン飲みだ。必然的に酒の量が増えた今、救世主のように現れた志賀高原IPAの1万本無料配布。

そのプレミアムな味わいを、志賀高原から遠く離れた自宅で、香ばしいホップの香りとともにゆっくりと味わう。たまらない時間だ。

玉村本店の粋な計らいに、心に灯がともった人達も多いのではないだろうか。

そして僕は今、志賀高原IPA以外のラインナップも飲んでみたい気持ちが抑えられなくなっている。

 

取材協力:株式会社玉村本店

tamamura-honten.co.jp

 

書いた人:BUBBLE-B

BUBBLE-B

飲食チェーン店トラベラー。日本中の飲食チェーン店の本店や1号店を探訪し、創業者の熱い想いに共感しながら味わうと3割増で美味しくなるグルメ概念「本店道」を提唱する。

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