インスタントラーメンがわずか20円……!?「賞味期限切れ食品専門ショップ」の大いなる挑戦

f:id:chi-midoro:20190604173246j:plain

「賞味期限がすでに切れている食料品」を専門に販売する店がオープンしたという情報を耳にしたのは今年(2019年)春頃のことだった。

大阪福島区玉川、JR環状線の野田駅の近くにそのお店があると知りつつしばらく足を運べないでいたのだが、用事があって近くに行く機会があり、立ち寄ってみることにした。

 

軒並み驚異的に安い

最寄りの野田駅から数分歩くとその店が見つかった。

f:id:chi-midoro:20190604172736j:plain

「eco eat(エコイート)」というお店だ。看板には「フードロス削減ショップ」という文字も見える。

 

店頭に並ぶ商品に目をやると、マレーシアの「ラクサラーメン」という袋入りインスタントラーメンが1袋20円だという。

f:id:chi-midoro:20190604172751j:plain

しかし、写真下の赤で囲った部分に表示されている通り、賞味期限は2019年1月19日。

 

f:id:chi-midoro:20190604172804j:plain

当取材は2019年5月に行ったものなので、1日2日でも1週間とかでもなく、もうだいぶ過ぎている。

 

取材当日のみのセール価格ではあったが、「Waiola」というメーカーのココナッツウォーターが1本10円。

f:id:chi-midoro:20190604172832j:plain

 

マレーシアの「Vits」という袋入りインスタントラーメンの5個入りパックが50円。

f:id:chi-midoro:20190604172849j:plain

と、軒並み驚異的に安い。

 

缶詰、白飯、お菓子が100円以下 

店内に入ってみるとこの調子で激安商品がひしめいている。

f:id:chi-midoro:20190604172906j:plain

 

賞味期限が昨2018年末で切れている缶詰。

f:id:chi-midoro:20190604172922j:plain

 

賞味期限がまだ切れてはいないけど、もうすぐ切れてしまうものも(取材時は2019年5月)。

f:id:chi-midoro:20190604172939j:plain

 

保存食用の白飯が格安になっていたり、

f:id:chi-midoro:20190604172956j:plain

 

見たことのない「ココナッツチップス」というお菓子が50円で売られていたり、

f:id:chi-midoro:20190604173031j:plain

と、並んでいる品物とその価格を見ているだけでも大変楽しい。

 

クレーム客がリピーターになっていった 

買い物は後ほどするとして、この賞味期限切れ、あるいは賞味期限切れに近い商品を専門に扱うというスタイルのお店がどのようにして生まれたのか、ちょっと興味が湧いてくるではないか。そこで、「eco eat」の代表を務める高博司さんにお話を聞いてみることにした。

 

こちらが高博司さん。

f:id:chi-midoro:20190604173046j:plain

この「eco eat」がオープンしたのは2019年4月のこと。高さんはもともと海外から様々な商品を輸入販売する商社に勤めていて、その仕事をする上で、賞味期限が迫っていたり、切れてしまっているような、いわゆる“ワケあり商品”が無数に存在することを知った。

食品ロスの問題が日本国内でも注目されつつある中、そういったワケあり商品をただ廃棄するのではなく、必要とする人の元に流通させられないかと高さんは考えた。

そしてオンラインショップでそういった商品を販売し始めたのが2015年のことだったという。

 

──この「eco eat」がオープンする前から高さんは賞味期限が切れていたり、近かったりする食品を扱っていたんですね。

 

さん(以下、敬称略):私は商社にいたのでそういう品物の情報が入ってきたんです。それを販売することができるのか、まず法的な部分を調べてみたところ、問題ないことがわかりました。食品には「賞味期限」と「消費期限」があるんですけど、消費期限は、それを過ぎると安全性が損なわれる可能性があります。一方の賞味期限に関しては、メーカー側が「美味しく食べられる期限」として設定しているもので、商品特性や保存状態によっては期限を過ぎても美味しく食べられるんです。

 

──私も賞味期限が多少切れていようと気にしない方で、実際それでお腹が壊したりした記憶もないです。

 

そうですね。賞味期限切迫、あるいはすでに切れている商品を扱うようになって学んだんですが、賞味期限って一口に言っても、種類によって、期限が1カ月ぐらいしかないもの、5年ぐらいあるものとさまざまで、保存状態や、もともとの賞味期限がどれぐらいあってそれをどれぐらい過ぎているのか、といった条件でだいぶ違うんです。賞味期限をどれぐらい過ぎたらどれぐらい味が落ちるのか、それを食品のジャンルごとに試しながら、最初は飲料などから販売し始めました。

 

──なるほど。それが2015年頃ということですね。

 

オンラインで販売したんですが、お客様からのクレームが多かったんです。「賞味期限が切れてるんですけど!」と(笑)。もちろん、商品名にも商品説明欄にもそのことは明記したんですけど、それでもクレームが来て。お客様からしたら、「まさか賞味期限切れを普通に販売しているはずないだろう」という先入観もあったのだと思います。「なんかめっちゃ安いな」ぐらいで。

 

──賞味期限が過ぎているからこそ安いのに、それでも苦情が出るんですね。

 

そこでクレームのあったお客様に対して、賞味期限というものについて電話やメールで一件一件じっくり説明していったんです。お話してみると、「知らなかった。安全でこれだけ安く購入できるんだったら問題ないですね」と納得してくださる方が意外と多くて、そういう方が徐々にリピーターになってくれたんです。

 

タダ同然につきまとう大いなる誤解

──賞味期限というものについても普通はそこまで詳しくは知らないかもしれないですね。私はふんわりとしか分かっていないです。

 

きちんと説明さえしていけば受け入れられるんだなと思いました。徐々に仕入れも拡大していったんですけど、だいたいこういう商品は1個いくらじゃなくて、まとめていくら、という形で仕入れるんですね。トラック1台分でいくら、とかもあります。そういうふうに大量に入ってくる。うちが欲しい分だけっていうのは入れられないんですね。あまりに量が多いので、賞味期限がまだ切れてないものであれば、福祉施設とか、生活に困っている方へ寄付するということも始めました。

 

──さばけないほど大量に仕入れるというのは大変そうですね……。

 

そうなんですよ。商品によってはタダ同然で仕入れられるものもあるんですが、商品がタダだとしても送料などの物流経費はかかるわけですから、思いのほか大変なんです(笑)。ただ、寄付を実際に始めてみると、この都会の大阪でも貧困家庭でお菓子が食べられなかったりする子どもがたくさんいるということがわかってきて、そういう子たちをもうちょっと援助できるかたちがないかなと。

 

──はい。

 

そんなことも考えるうちに、徐々に訳アリ食品に深く関わるようになりました。寄付や寄贈をするのにもお金がかかりますし、そもそもたくさんの人に賞味期限についても理解してもらいながら、かつ食品ロスを削減しようという目標もあったので、活動をどうすれば維持できるだろうと考えて2017年にNPO法人を立ち上げたんです。

 

──なるほど。

 

ただ、オンラインで販売したり、WEBサイトで商品寄贈のリクエストを受け付けても、それを使えるのはスマホだったりパソコンだったりを使える人に限られますよね。そういった情報を簡単に探すことができない方もたくさんいると思うんです。高齢者の方もそうですね。そういった人たちが直接歩いて来れて、しかも送料がいらない分、商品をより安く提供できたらと考えて、実店舗オープンの準備を進めていきました。

 

──それでオープンしたのがこちらの店舗だった。

 

準備もかなり大変で、物量経費が本当にえげつない。今、倉庫を3つ借りてるんです。大量に入ってきた商品をストックしておく場所が必要ですから。その倉庫代もかかりますし。これが倉庫の様子です(とスマホの写真を見せながら)。

 

f:id:chi-midoro:20190604173142j:plain

 

──確かにこれは経費がかかりますね。 

 

食糧支援を行う上でも配送費がかかる。よく「タダ同然の品物を仕入れるなら儲かりますね」って簡単に言われることがあるんですけど、0円だとしても、それが着払いで大量に届くわけですから(笑)。

 

採算度外視で貧困家庭の支援も

f:id:chi-midoro:20190604173110j:plain

 

──食糧支援や寄付というのはどのような対象に向けて行っているんですか?

 

福祉施設や福祉団体などですね。でも圧倒的に多いのは個人なんです。個人の方が、検索でうちのホームページにたどりついて「何か送ってください」と。直接電話がくることもあります。賞味期限が切れたものもありますから、そういったことに同意して、条件に合う方であれば、家族構成を聞いてそれにあわせたものを選んで送っています。

 

──受け取る方は送料も負担しなくていいんですか?

 

ゼロ円です。「子どもと二人で暮らしていて、仕事を始められるまであと2週間だけ耐えられる分を送ってもらえないか」とか、そういうリクエストが来たりします。

 

──なかなかマネできることじゃないです。業務外の対応なわけだから。

 

よく、貧窮している方に対して「なんで働かないの?」と言う人がいるじゃないですか? でも、そこに関わるようになってよくわかったんですけど、家庭の中に健康じゃない人が誰か一人でもいると、そのお世話をすることで身動きがとれなくなったりするんです。その人を見ていないといけないから仕事に出られないとか。

 

──本当にそうですね。幼い子どもがいたりするのも大変だと思います。

 

寄贈した先の方から「やっと就職が決まったので今度はお金を払って商品を買わせてもらいます」って連絡が来たりして、嬉しいこともあるんですけどね。正直なところかなり大変なんですけど、こういうことをしていかないと、追い込まれた人が「やっぱり自分なんて……」って思うかもしれない。それが「世の中には自分の味方をしてくれる人がいる」ってなったら前向きに動いてくれる可能性もあるじゃないですか? そういうことも考えてやっています。

 

──素晴らしいことだと思います。

 

「客が堂々と入れるかどうか 」が心配だった

──実際、4月に実店舗をオープンして、反響はいかがでしょうか。

 

おかげ様で、テレビ番組にも多数取り上げてもらって、他府県からもお客様が来たりします。客層としては年齢が高めの人が多いんですけど、海外から来てる就労者の方が現場の親方と一緒に来たりとか。そうかと思えばビシッとした格好のサラリーマンの方なんかも来られますし、地域の方がふらっと入って来られることもあります。

 

f:id:chi-midoro:20190604173227j:plain

 

──商品を仕入れる先はどんなところなんでしょうか?

 

食品メーカーや商社、問屋さんが主ですね。基本、こちらから行くことはなく、向こうからお話がきて、仕入れるかどうかを判断するような形です。でもお断りすることが結構多いんです。

 

──え、せっかくの申し出を断るんですか。

 

引き取ったら、その分在庫を抱えるわけです。こっちが大変になるようなものも多いので、そういうものはそもそも仕入れていないです。商品がどのように保管されていたかもすごく重要で、たとえば個人とか小売店さんから商品を仕入れるとしたら、それが店舗に陳列されて誰かに触られまくってるかもしれない。パッケージが破損してるかもしれない。保管状態も適正だったかわからないですから、すべて検品しないとダメなんです。

 

──そうか、そうですよね。安全性も確認しないといけない。お店のスペースも倉庫のスペースも限りがありますもんね。

 

10トントラックが10台ぐらいは入る倉庫なんですが。それがすでにパンパンになってますから(笑)。フォークリフトが身動きとれないぐらい。前の倉庫から商品を移した時なんかは全部手作業でパレットに積み直して、種類を分けたりしました。子どもや友達とかに手伝ってもらいながら。

 

──聞けば聞くほど大変そうなんですが、高さんの中ではこちらの事業は、ビジネスはもとより社会的な意義も大きいのでは?

 

うーん、僕も最低限以上の給料は欲しいです(笑)。車も乗りたいですし。でも、お店としては思った以上の成果が出ているんです。オープン前に危惧してたのは、お客さんが胸を張って入ってこれないんじゃないかということでした。「近所の〇〇さん、賞味期限切れスーパーに行ってたわよ」ってヒソヒソと噂をされるとか。それもなかったのでよかったです。

 

──私は「わっ、安い!」の一心でズンズン入ってしまいました。そのあたりの抵抗感は、確かに人によって違うのかもしれませんが、想像以上に受け入れられたのは喜ばしいことですね。

 

賞味期限と消費期限の違い

──店内にはいろんな商品がありますけど、賞味期限が迫ってるものと、切れてしまっているものとではやはり仕入れ値なんかも全然違うんですか?

 

雲泥の差です。今並んでいる商品は、賞味期限が切れてないものの方が多いぐらいのバランスです。

 

f:id:chi-midoro:20190604173246j:plain

 

──確かに自分も、賞味期限が切れているものと切れていないものが並んでいたら、切れてない方を選んでしまいます。

 

まったく同じ価格ならそうですよね。賞味期限が5年で、それを過ぎてからさらに5年経っても大丈夫な食品もあるし、賞味期限を過ぎて数カ月すると炭酸が急激に抜けて美味しくなくなる飲料もありますし、さまざまなんです。やはり密封されていて、空気にできるだけ触れないものが長持ちします。レトルト食品や缶詰などはまさにそうで、品質が長期間に渡って変わりませんね。箱に入れて適切な条件下で保管しておけばという話ですが。

 

──賞味期限だけでも難しいのに消費期限もあるし、またその二つの言葉が似ているから複雑過ぎます。

 

専門業者でも未だにごっちゃになってる人がいっぱいいます。僕が説明する時は、まず消費期限については「家で作った料理、惣菜、どれぐらい食べられる?」って聞くようにしています。「余ったのを翌日のお弁当に入れるやん、それはいける。カレーは二日目が美味しいって言うけど季節によっては腐ることもある。冷蔵したり冷凍したりすれば長持ちするけど、保存の仕方によっては危険も高まる」。それが消費期限って。

 

──食用が可能な期限ということですよね。そもそも食べられるか食べられないかの境目というか。

 

対して賞味期限は品質を保証する期間、美味しく食べられる期間ですね。炭酸飲料の炭酸が抜ける、スナック菓子が湿気るとか、見た目が美味しくないような色に変色するとか。よく「賞味期限が切れたものはいつまで食べられるんですか?」って聞かれるんですけど、「あなたが食べられるんだったら食べていい、ただ、本来の美味しさが失われていたとしてもガマンできるかどうか」っていう話です。もちろん、開封して置いてあったらいつか腐る。未開封できちんと保管してあれば、賞味期限を過ぎても食べられるっていうだけで。

 

──保管方法が重要なのは言うまでもないし、賞味期限を過ぎれば美味しくなくなる可能性もある、そこは自分の判断になるということですよね。

 

消費期限は厳しくて当然で、むしろ厳しい方がいい。ただ、賞味期限は1年とか、よく考えたらあんなにキリ良くなるわけないんですよね。定める側も難しいと思います。

 

──最後に「eco eat」の今後の展望についてお聞かせください。

 

全国の人に足を運んでもらえるように、小規模店舗を増やしていきたいです。小さいスーパーぐらいの中規模店舗も作っていって、ゆくゆくは大型店舗を全国的に作れたらと。早いところでは年内には出していきたいと、動いているところです。

 

──新しい店舗もできる予定があるんですね。

 

はい。もちろんそのために商品の安全管理や安定供給についてノウハウを積み重ねていくつもりです。食の安全を守っていく必要もあるわけですからね。賞味期限切れ商品に対して世間の認識が変わっていけば大手メーカーと取り引きできるようになるかもしれないですし、引き続き頑張ります。

 

f:id:chi-midoro:20190604173315j:plain

 

買った商品を自宅で食べてみた

お話を伺った後、改めてお店をじっくり見ながらいろいろ買って帰った。

1本15円で買った「ルビーマッシュルーム」。お酒をよく飲む人向けの成分を配合しているらしい。 

f:id:chi-midoro:20190604173349j:plain

 

1袋20円の「ラクサラーメン」。

f:id:chi-midoro:20190604173402j:plain

 

繰り返すが、賞味期限は1月(取材時時点ですでに4カ月経過)で切れております。

f:id:chi-midoro:20190604173421j:plain

 

「ラクサラーメン」は、ココナッツミルクベースのラーメン。スープがとろっとして味も濃厚なのでレモンの輪切りを入れたところ非常に合いました。

f:id:chi-midoro:20190604173437j:plain

 

5袋入りパックが50円の「Vits」。

f:id:chi-midoro:20190604173503j:plain

 

これも賞味期限は昨年の12月まで。海外では賞味期限を「BEST BEFORE」と表記するのか。

f:id:chi-midoro:20190604173520j:plain

 

ピリ辛トムヤム味のスープにトマトとレタスとしめじを添えてみたらぴったりだった。

f:id:chi-midoro:20190604173533j:plain

もちろんどれもまったく問題なく美味しかった。賞味期限が迫ったり、過ぎてしまったために廃棄される食品が膨大にあるのだとしたら、そしてそれが実はきちんと保管さえされていればまだまだ食べられるのだとしたら、そのうちほんの一部でもこのように流通して欲しいと思う。私は物見遊山な感覚だけど、もっと切実にそれを必要とする人もいる。それは高さんのコメントだでも十分お察しいただけるだろう。

 

とにかく、見たことのない商品ばかりがとんでもない値段で売られていてとても面白かった。今回いろいろと買ってきたものがなくなったら、また行ってみようと思っている。

 

店舗情報

eco eat(エコイート) 玉川店

住所:大阪大阪福島区玉川4-12-3 1F
電話
06-6225-7400
営業時間:10:30分~18:30
定休日:不定休

www.mottainai-ichiba.org

 

書いた人:スズキナオ

スズキナオ

1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。

過去記事も読む

トップに戻る