【鉄道メシ】憧れだった寝台特急「北斗星」の食堂車が埼玉にあった「ピュアビレッジなぐらの郷 グランシャリオ」

鉄道の旅って、現地に行くまでに時間もお金もかかるし、もったいないって思ってた若い頃。でも最近、のんびり寝台特急で行くのもいいなって思えるようになった。大人のしるし。とはいえ大人は忙しい。鉄道旅の雰囲気だけでも味わいたいなら、埼玉・東川口へどうぞ。北斗星の食堂車「グランシャリオ」で食事を楽しめる。

エリア東川口(埼玉)

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今、豪華なクルーズトレインが話題です。1泊2日でン十万円……正直なところ、手が出ないという方も多いことでしょう。ほんの少し前まで、ちょっと背伸びすれば乗ることが出来た夜行列車はあったハズなのに……。

 

今回は、あの懐かしい夜行列車の旅気分が味わえる場所へご案内いたします。

 

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▲寝台特急「北斗星」(2012年撮影)

 

今から2年前、平成27(2015)年に惜しまれながら姿を消した寝台特急「北斗星」。上野札幌間をおよそ16時間かけて結んでいて、私自身も2000年代以降、年1回程度ですが、お世話になったブルートレインです。

その魅力の1つが、最後の庶民派食堂車だった「グランシャリオ」! 予約制のフレンチ、懐石御膳はもちろん、パブタイムやモーニングは予約なしでも利用できました。特に上野発のモーニング、札幌発のディナーは、北海道の大地と噴火湾の絶景を眺めていただいたものです。

 

そんな懐かしい「グランシャリオ」の世界に浸れる場所があると聞いて乗り込んだのは……?

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▲武蔵野線205系電車

 

首都圏を大きく環状に結ぶ「JR武蔵野線」です。車両も少し懐かしい国鉄末期、山手線に登場した205系電車。少し前まで山手線をぐるぐる回っていたあの車両が、帯の色を変え、山手線の時より大きな弧を描いて、今もぐるっと活躍しています。

今回は、東京メトロ南北線から直通する埼玉高速鉄道線との接続駅・東川口駅で下車。

 

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川口駅前から武蔵野線の環状の内側、南の方角に向かって歩くこと10分弱。陸橋をくぐった先、住宅地の中には似つかわしくない「青い車体」が見えてきました! ココに鉄道は通っていないハズですが、この色はどう見ても、ブルートレイン! しかも屋根の形状からして、ブルートレインの中でも、これは食堂車では?

 

住宅地に豪華な食堂車が!

間違いなくこれは「北斗星」の食堂車だった車両。

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連結部分のドアのすりガラスには、小さく「食堂」の文字が確認できます。しかも、車両がちゃんとレールの上に置かれているではありませんか!

さらに、この車両の車庫だった「尾久車両センター」を示す「東オク」の文字もそのまま……。屋根は架けられていないもののピカピカに磨かれ、丁寧に保存されている様子がうかがえます。

 

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▲この車両は「スシ24 504」

 

「ス」は車両の重さの階級、「シ」は食堂車、「24」は24系客車、「504」は北海道向け500番台の4番目の車両という意味です。元々は国鉄485系電車の食堂車でしたが、国鉄末期に運用を外れて余っていたことから、「北斗星」向けに白羽の矢が立てられ、電車を客車に改造して生まれました。他の寝台車と比べて天井が低く、屋根上にクーラーがのっていて、よく目立つ“変わり種”車両です。

 

「北斗星」が誕生したのは、国鉄がJRになって1年後の昭和63(1988)年のことでした。当時は新型車両を作る余裕はなく、国鉄時代の車両を時代に合わせてあれこれ改造して生まれたのが、「北斗星」だったというわけなんです。

 

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コチラのお店は、その名もズバリ「グランシャリオ」! 「北斗星」の食堂車の愛称がそのまま、お店の名前になりました。オープンしたのは、今から1年あまり前、平成28(2016)年5月1日のこと。車両は、保存されていた大宮の車両センターから、深夜、大型トレーラーにのせられ、3時間あまりをかけて、ゆっくりと運び込まれたといいます。

 

「グランシャリオ」を東川口の名物に

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それにしても、なぜ東川口で「グランシャリオ」なのでしょうか? 元々、この場所にはおそば屋さんがあり、2年ほど前からは古民家を活用したイタリアンレストラン「リストランテ ナグラ」がオープンしていました。ただ、オーナーさんには、「もっと、東川口の名物になるものを」という強い思いがありました。

 

そんな思いにアドバイスをくれたのが、東川口を通る埼玉高速鉄道で働くJRグループOBの方。

 

「“スシ”がまだ1両、行先が決まってないんだよね……」

 

この言葉がきっかけで、東川口に「スシ24 504」がやって来ることになったのです! 

 

ちょっとディテールを拝見。まずは国鉄型車両ではおなじみのドアノブ。

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左へカチャンと倒し、重めのドアを引くだけで、一気に国鉄時代にタイムスリップできます。閉める時は、カチッというまで閉めないと、走行中にガラガラっと開いてしまうんですよね。103系電車などの通勤形でも、ドアの仕組みは基本的に同じ。通勤電車の車端部3人掛けに座っていた時の記憶がよみがえって来た方もいませんか?

 

一歩、足を踏み入れると……車内も「北斗星」時代のままじゃありませんか!

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通路に敷かれたカーペットもそのまま!

 

壁に埋め込まれたペダル式の手洗所も、キチンと冷たい水が出て、当たり前のように使えます。もちろん、扉に掲げられた「グランシャリオ」の名前もそのままで、今にも走り出しそうなくらい。 

まだ何も食べてないのに、早くも“鉄分”でお腹いっぱいになりそうです!

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うわぁ、車内もほとんど「北斗星」時代のまま!

 

通路を挟んで4人掛け、2人掛けのテーブルが並ぶ様子や椅子もそのままです。少し変わったのはテーブルクロス。ファンの方からのアドバイスもあって、出来るだけ現役時代の雰囲気を損なわないよう、ピンクの色調で合わせたそうですが、これは言われないとまず分かりません。

ホントは、天井に設置されている国鉄っぽい無骨なクーラーも使いたかったそうですが、電圧の関係で使うことが出来ず、やむなく家庭用エアコンを2基設置しているといいます。

 

スシでいただく本格イタリアン

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「グランシャリオ」の食事では、まず「乗車券」(500円)を購入します。コチラは、2~3年に一度、必要となる「スシ24 504」のフルメンテナンスの費用に充てられるもの。一般に静態保存している車両は、動態保存している車両と比べて、朽ちやすくなってしまうため、現役時代にも増して、丁寧なメンテナンスが必要となるのです。

現在の乗車券は、「北斗星」に450回以上乗車したことで知られる札幌在住のイラストレーター・鈴木周作さんが東川口を訪れて描いた「スシ24 504」の風景となっており、食事の思い出になるアイテムとなっています。

 

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「グランシャリオ」のランチとディナーは、前日までの予約制。やはり「北斗星」気分を味わうなら、18時から始まるディナーがおすすめです。帰宅時間帯のクルマの列や通勤通学の自転車の人たちを横目に、早くもゆったり気分! ホラ、ちょうど大宮まで並走していた京浜東北線の大混雑した車内を横目に、寝台にゴロンと足を伸ばして優雅な気分に浸った“あのささやかな優越感”がよみがえるのです!

ちなみに、夏場の18時はまだ薄暮時間帯ですので、車内の雰囲気は札幌17:12分発だった上りの「北斗星」に近いかも!? 上野19:03発だった下り「北斗星」の雰囲気を本気で楽しむなら、ディナーのスタートを19:30頃でお願いすれば、より忠実に追体験が出来るかもしれません。

 

「グランシャリオ」のディナー(3,500円)は、イタリアン! 車両は「スシ」ですが、出されるのは併設の「リストランテ ナグラ」で作られた「イタリアン」です。

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弁当風の三段重で出されていて、器の雰囲気から「北斗星」時代の懐石御膳や和朝食を思い出される方もいるといいます。 

 

【スープ、サラダ、パン】

  • 有機野菜のミネストローネ
  • サラダ
  • 併設ベーカリーの焼きたてパン

 

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 「グランシャリオ」の自慢の1つはワイン!

イタリアの高速鉄道沿線で作られているえりすぐりのワインが提供されています。それなりにいいお値段ですが、1,000円を払って「グランシャリオ」の会員になると、通常価格より、お得な値段でワインを楽しめるようになっています。

むろん、この会費「1,000円」は、「スシ24 504」のメンテナンス費に充てられます。「北斗星」のフレンチが7,800円だったことを考えれば、半額以下のお得なイタリアンですから、ちょっと奮発して、会員になってもイイですよね。

 

というわけで、

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 「グランシャリオ」の夜にカンパーイ! この日は、ラクリマ・クリスティ・ビアンコ(白、グラス680円・会員価格)をチョイス。魚や野菜によく合うワインだそうで、野菜のおいしさにこだわる「リストランテ ナグラ」の料理には、ピッタリのワインとも言えそうです。

あゝ、このワイングラスを手にした瞬間、「北斗星」時代の思い出がよみがえってきました!

 

リアル北斗星で夢の貸切り状態

今から11年前の平成18(2006)年1月末、筆者は真冬の北海道へ、当時あった「ぐるり北海道フリーきっぷ」(東京都区内発着 35,700円)を使って1人旅に出ました。行き帰り・鉄道利用に限定されますが、北海道の特急指定席が乗り放題という夢のような切符。「北斗星」を利用する場合は、1人用B寝台個室「ソロ」を利用することも出来ました。

廃線間近だったふるさと銀河線(旧・池北線)に乗り、釧路湿原のタンチョウ、川湯温泉、ウトロ温泉、流氷シーズンのオホーツク、山動物園のペンギンの散歩まで見て、5日間の旅の〆に乗ったのが、当時、札幌19:27発だった「北斗星4号」でした。「北斗星」は、下りより上りの個室が取りやすく、特に厳寒期の4号は穴場的な列車でした。

札幌を出て、次の停車駅・南千歳にも着かないうちにディナーの案内が。それまで、予約なしでビーフシチューなどを食べられるパブタイムを利用したことはありましたが、予約制のフレンチを頼んだのは初めてのことでした。

「グランシャリオ」の扉を開けると……4人掛けのテーブルに1人だけセッティングされている所が!

続いてNRE(日本レストランエンタプライズ)のウェイターの方が仰った言葉は……

 

「本日、ディナーをご予約されているのは、お客様だけでございます」

 

これをビギナーズラックというのか、単に季節の問題か!? 初めての「北斗星」のディナーはなんと! 「グランシャリオ」をたった1人で貸し切っていただくことが出来たのです。

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これがそのときの貸切状態の証拠写真! 寝台特急「北斗星4号」の「グランシャリオ」にて筆者(当時30歳、2006年時に撮影)

 

吹雪の車窓、段々と遅れを増す列車、カタンカタンという客車列車ならではの静かなジョイント音、時々聞こえてくるDD51形ディーゼル機関車の「ピーッ!」という汽笛の音……。その中で当たり前のように出されていくフレンチ。他のお客さんの声がなかったおかげで、料理のおいしさと闇夜に響く音を、鮮明に記憶できました。

そして、たった1人の客にも全く手を抜かず、そして温かい料理を提供して下さったNREの乗務員さんのもてなしは、今でも忘れることが出来ません。

そういえば「北斗星4号」には、「スシ24 504」と同じJR東日本・尾久車両センターの24系客車が充当されていたことも思い出され、懐かしさで胸がいっぱいに!!! 「グランシャリオ」を1人で貸し切ったのは、後にも先にもこの時だけでした。

 

「グランシャリオ」の夜は更けて

現在の「グランシャリオ」のディナーコースに話を戻しましょう。

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【前菜盛り合わせ】

  • フラン
  • カルパッチョ
  • 小鉢~カポナータ、じゃがいものマスタード和え、ズッキーニのマリネ

 

さらにメイン料理も。

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【メイン料理】

  • 五穀米のピラフ
  • 玉ねぎのロースト
  • 自家製ローストポーク

 

「グランシャリオ」のディナーには2タイプあり、食事メインの場合は3,500円。お酒メインの場合は、内容もつまみ風のものとなり、飲み放題で5,000円となります。今回は前者の食事メインでいただきました。

 

さらに食後はデザートを。

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【食後のデザート&ドリンク】

  • ドルチェ…バナナベリーヨーグルトアイスクリーム
  • ドリンク…ホットコーヒー(チョイス可能)

 

「ニッポンの食堂車文化」を未来へ!

現役時代「北斗星」グッズなどが売られていたレジ近くの2人テーブルには、お客様ノートが……。「グランシャリオ」を訪ねた皆さんの「北斗星」へのアツい思いがつづられています。その中には、イラストレーター・鈴木周作さんによるEF81形機関車時代の「北斗星」もありました。

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「北斗星」でいえば、去年、東京・馬喰町に「北斗星」の寝台をイメージしたトレインホステルもオープンしました。「グランシャリオ」の谷澤料理長によると、お客さんの中には週末、ディナーをこの「グランシャリオ」で味わい、馬喰町の「北斗星」に泊まって、朝、再びモーニングにやって来る人もいるとか!?

 

やっぱり、みんな「北斗星」が好きなんですよね!

 

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今、寝台特急「北斗星」のように、比較的気軽に「食堂車」体験が出来る列車は、残念ながら日本にはもうありません。その意味では、限りなく現役時代に近い姿で営業する東川口の「グランシャリオ」は、鉄道博物館の「日本食堂」などと並んで、日本の「食堂車文化」を後世に伝えていく場所となるはずです。

 

だからこそ「スシ24 504」は、何が何でもゼッタイに守り抜かなければなりません。

 

決して朽ちさせるようなことがあってはならないのです。そのためには1人でも多くの方が、このドアを通ってほしいもの。幸い、現役時代よりおトクに、「グランシャリオ」が楽しめるようになっています。

 

「北斗星」時代のノスタルジーを感じたい人はもちろん、昔は手が届かなかった貴方も、まずは足を運んで、「ニッポンの食堂車文化」の片鱗に触れてみてはいかがでしょうか?

 

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お店情報

ピュアビレッジなぐらの郷 グランシャリオ

住所:埼玉川口市戸塚3-31-31
電話番号:080-6859-5346
営業時間:月曜日・火曜日・木曜日~日曜日・祝日・祝前日 8:00~22:00
定休日:水曜日(ただし11:00~12:30はランチ営業アリ)

www.hotpepper.jp

 

書いた人:望月崇史

望月崇史

1975年静岡県生まれ。放送作家。 ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは足かけ15年、およそ4500個! 放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。 ラジオの鉄道特番出演、新聞・雑誌の駅弁特集でも紹介。 現在、ニッポン放送のウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載中。

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