よくわからないけど、おいしい。「どうとんぼり神座」の謎スープに迫る

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関西最大規模のラーメンチェーン「どうとんぼり神座(かむくら)」
神座のラーメンスープは、一般的なものとはまったく異なる味わいで、どこの何系とも判別できない完全オリジナルです。

 

神座自身も、そんなラーメンについてこう明言しているほど。

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▲初めて見た時衝撃だった

 

私自身、最初に神座でラーメンを食べた約20年前、確かに「おいしいのかな?」と疑問を感じたのを覚えています。

けれど2度3度と食べるうちに見事にハマり、これまで何杯もの神座ラーメンを胃に落とし続けてきました。

で、振り返ってみれば、こんなに長年食べ続けているものって他にないよなぁと気づきました。

若い頃大好きだった牛丼は10年ほど前からめっきり食べなくなったし、チェーンのハンバーガーも欠かせないものだったけど、いつの間にかグルメバーガーへシフト。

なんで神座のラーメンだけこんなに熱量が変わらないんだろう。
味なのか、戦略なのか、オペレーションなのか、何かがあるに違いありません。


スープの材料は誰も知らない

今回お話しを伺ったのは、神座を運営する株式会社理想実業の人材開発担当、堀口友宏さん。

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▲約20年前に新卒で入社し神座ひと筋、酸いも甘いも知り尽くす

 

――20年前ぐらいからずーっとを神座を食べ続けているのですが、それでも飽きないのはなんでだろう? という疑問を今日は解決しにきました。よろしくお願いいたします。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:よろしくお願いします。僕らも、賄い(まかない)で「おいしいラーメン」とご飯が出るんですけど、20年経っても全然飽きないですね。普通においしいと思って食べてます。

 

――スープの味がかなり独特ですよね。他に同じようなラーメンを食べたことがないです。もちろん、こだわっている部分だと思うんですが。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:はい。うちでいちばん大切にしているのが味です。そこは何よりも徹底しています。

 

――とんこつでもないし鶏ガラでもないし、あの味、なんて言ったらいいんですかね……?

 

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▲謎のスープ 

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口これねえ、難しいんですよ。何味なんでしょうね(笑)。僕自身、20年働いてますけど材料が何なのか知らないですからね。

 

――えっ!?

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:まったく知らないです。昔は1店1店スープを作っていて、朝、店に食材が入った金網みたいなものが送られてくるんですね。要はその金網の中身がスープの材料なわけです。で、その金網は鍵がかかってて絶対に外からは見えない。従業員同士で「何が入ってるんやろう?」って開けようとしたけど、ダメでした。

 

――なんと……。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:今は工場でスープの袋詰めをしているので、店に材料が届くことはなくなりましたが。ちなみに僕ら本社の人間でも、工場がどこにあるか知らないです。

 

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――ええ!? 場所すら知らない!

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:スープのレシピを知ってるのは、社長のみだと思います。あとは、貸し金庫の中にレシピが入ってるのではないだろうかってウワサが(笑)。でも、その金庫の中を見てもいいのは代表の息子だけです。

 

――なんだか七不思議みたいな話。それだけ徹底されているからオンリーワンの味なわけだし、またどのお店でも同じ味をキープできるんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:うちのスープは濃いか薄いかでいったら薄味だと思うんですけど、薄いと味の統一が難しいんですよ。たとえ工場でパッケージされていても、作る時のちょっとした違いでブレてしまう。

 

――なるほど。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:だから、どの店でも同じ味がキープできるように「味のソムリエ制度」を導入しています。ソムリエ資格を持っている人間じゃないと、ラーメンを作れないんです。

 

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――スープの材料すらわからない中で、最終的な仕上がりまで管理している。改めてすごいです。どういう経緯でソムリエになるんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:店舗には必ず2人以上ソムリエがいるので、まずは同じ店舗のソムリエにラーメンの作り方を教えてもらう。かなり繊細な舌の感覚が必要なので、頑張って練習しないといけません。

 

――頑張って練習……。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:何杯でも一定のレベルで作れるようになると、店舗のソムリエから「OK」が出ます。その後、マスターソムリエという試験官が全国に3人いるので、彼らに最終試験をしてもらい、OKだったら晴れてソムリエになれるわけです。

 

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▲味のソムリエ試験中の様子(どうとんぼり神座提供)

 

――白菜の産地によっても味は変わりますし、多く入れすぎると水っぽくなりますもんね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:そうです。あとは最初に豚バラ肉をスープで煮込むのですが、これでコクがプラスされます。肉を入れるか入れないかでも、味が全然違いますね。

 

――なるほど。


f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:うちは全店直営で、フランチャイズにはしていません。その理由も味を一定にするため。というのも、店舗の利益を出そうと思ったら売り上げを上げるか経費を抑えるかになってきますよね。となると、売り上げを上げるより経費を抑える方が簡単なんですよ。

 

――確かに経費削減の方がすぐに取りかかれますよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:そういう考えの元で経費を抑えるべく、スープを薄められたらどうしようもない。味にこだわっている神座としては、絶対にしてはいけないことなんです。

 

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▲お客さんへの提供前、1回ごとに必ず味見する


スープに洋食のエッセンスを盛り込んだ

――そもそも、このスープってどんな風に開発されたんですか? 神座のはじまりを聞いてみたいです。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:社長はもともと羽田にあったホテルのコックとして働いていました。その後縁のあった大阪へ来て洋食屋として独立。その店が好調で、奥さんの実家があった奈良に2号店を出しました。

 

――ホテルのコックとしてのキャリアが全てのはじまりだったのですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:そんな矢先、昭和57年に今でも語り継がれる「大和川大水害」で被災してしまい、すべてが水浸しになってしまったんです。ようやく復興して、じゃあもう一度店をやろうかとなった時、洋食屋だとナイフやフォーク、お皿もたくさんいるけど、ラーメン屋だったらラーメン鉢だけだし効率的なんじゃないかと思いつきます。

 

――なるほど。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:それでラーメンのスープをどうしようかと考えてた時に、ふと思い出したのが、コック時代に先輩に作ってもらった野菜スープだったんです。

 

――ここでホテル時代の経験が生きてくると。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:店の営業は誰かに任せながら、社長は1年間、ひたすら自宅でスープを一生懸命作っていました。そんな中で完成させたのが今のスープであり、「おいしいラーメン」です。

 

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▲おいしいラーメン(680円・千日前店)(どうとんぼり神座提供)

 

――当時、1年間かけて完成させたスープからマイナーチェンジはしていないんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:はい、ほぼ変わっていません。「おいしいラーメン」っていうネーミングもまた特殊だと思うんですけど、これは当時5歳ぐらいだった社長の息子が考えたらしいですよ。「おいしいラーメンなんだから、“おいしいラーメン”でいいやん」って。直球すぎて胸張って言えないネーミングですけど(笑)、今ではいいフックになっているなと思います。

 

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▲(どうとんぼり神座HPより)

 

――麺も特徴的ですよね。つるっつるの、なんていうんでしょう……。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:中細の、スパゲティみたいな麺ですよね。

 

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――そうですそうです。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:あの麺も「おいしいラーメン」に合うように製麺屋さんに作っていただいたもので、最初からつるつるでした。麺もスープも、創業当時からほとんど変わっていないのがうちの特徴の一つかもしれないです。 


革新的なオペレーション

――店内の構造も面白いです。カウンターのみの店舗は基本的に一方通行なんですよね。

 

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▲神座では入口を手前に、出口を奥に配置するなど、出入口が異なる場合が多い。よってお客様の導線は一方通行となる

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:社長はシステムを考えるのが好きなんです。一方通行にしたのは、カウンター中心の店だと狭いので、お客様が行き来する時の体のぶつかりをなくすため。ほかにも、券売機を導入したのはうちが最初だと思いますよ。

 

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――そういえば券売機って昔はなかった。神座で初めて券売機を体験したかもしれないです。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:券売機の何がいいって、オーダーを聞いたらすぐにラーメンが作れることです。結果、お客様への提供時間も早くなり、回転が上がる。おかげで、カウンターだけの店だとピーク時は3回転ぐらいしますよ。

 

――これまでとても順調に運営がなされている印象ですが、中でも転換点ってありますか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:大阪の南部、八尾市に店を出したことですね。その当時はカウンターのみの店舗しかなかったんですが、敷地面積をぐっと広くしてテーブル席などを作りました。さらに店名にちなんで神社をモチーフにしたインパクトのある外観にして、イメージを作りこんだんです。

 

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▲八尾市の長吉店。神座が初めて郊外にオープンした店舗(どうとんぼり神座提供)

 

――コンセプトをがっちり固めていったんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:これが好評で、勢いに続けと次にオープンした奈良の柏木店がとんでもなかった! その当時の月商の記録、8千万を叩き出しました。たった1店舗の月商で、です。

 

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――はー、すっごい。

 

f:id:Meshi2_IB:20190404162929p:plain堀口:ラーメン1杯、当時525円なので、とんでもない数のお客様に毎日来ていただいたということになります。近くにバス会社さんがあるのですが、「えらい迷惑をかけられた」とぼやいていらっしゃったぐらい、毎日が行列でした。

 

お腹減った!!

ある種偏狭的といっていいほど創業当時の味を守る神座。
さらにシステムやオペレーションなどハード面を整備することで、効率的な店舗運営を実現。ラーメン業界に変革をもたらすことができ、成功へと繋がっていったのでしょう。

 

こだわりを存分に聞いたところで、改めてラーメンをいただきます。うかがったのは千日前店。神座の歴史の中でも初期にオープンしたお店です。

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▲オープン当初の千日前店の広さは、今の店舗の約半分。人気が出るとともに増築していった

 

オーダーしたのは、チャーシュー、味玉、白菜と、神座のスター具材をたっぷりのせた「小チャーシュー煮玉子ラーメン」と、人気のサイドメニュー「からあげ」。

 

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▲小チャーシュー煮玉子ラーメン(1,010円)、からあげ(330円)

 

スープを口に含むと、やさしい味わいが広がります。ベースとなるスープは1種類。

 

クーっ! これこれ! これなんだよなぁとしみじみ。

コンソメとほんのり辛味、動物的なうまみもそこはかとなく感じるこのスープ、何度飲んでもよくわかりませんが、おいしい。

バラ肉で作ったチャーシューは肉の脂がしっかり生きていてGOOD。ほどよくシャキシャキ感のある白菜がこれまたアクセントになっていいのです。

 

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テーブルに備え付けの「ニラの薬味」を追加すると、辛味と風味がプラスされてさらに食が進みます。

 

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カラッと揚がった「からあげ」は、パンチのある味付けでビールのつまみにぴったりでした。鶏ムネ肉なのでしつこくなく、ラーメンと一緒に食べるのにもちょうどいいです。

 

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どの店に行っても一定の味で、店舗内装もほとんど変わらない神座。“いつもの味”を“いつもの店”で食べられる安心感がそこにはあります。

意識の変化は日々起こりますし、世の中の仕組みもどんどん変わっていくものです。そんな流動的な毎日の中で、神座の“変わらなさ”がふと落ち着かせ、立ち止まらせてくれます。

 

白ご飯、味噌汁、実家の漬物と同じくらい、神座のラーメンの変わらなさってとってもありがたいし、ホッとするなあと改めて思ったのでした。

 

お店情報

どうとんぼり 神座 千日前店

住所:大阪大阪市中央区道頓堀1丁目7-3
電話番号:06-6213-1238
営業時間:月~木10:00~翌朝7:00、金10:00~翌朝8:00、土9:00~翌朝8:00、日9:00~翌朝7:00
定休日:なし
ウェブサイト:http://kamukura.co.jp/

 

書いた人:木村桂子

木村桂子

福井県出身、大阪府在住。某エンタメ系企業にて雑誌編集に携わり、その後コピーライターを経てフリーランスに。大衆居酒屋から小洒落たカフェまで、うまいと聞けばどこへでも突入。ゆえに体重増量中。

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