※この記事は感染対策を行なったうえで取材したものです。
シュウマイが最近、ジワジワきている
「シュウマイが最近、ジワジワきている」という話を町中華ファンの間でよく聞きます。
数年前から町中華をめぐるようになって、気づいたことがあるんです。
餃子のおいしいお店はもちろん普通にあるのですが、実は餃子よりもむしろシュウマイを推しているお店がけっこうあるんじゃないかってこと。
町中華のシュウマイには2つの流れがあります。
ひとつには「豊洲・築地系」のジャンボシュウマイです。たとえば、築地から豊洲に移転した某町中華や、築地場外に現在もある某町中華のシュウマイはとても大きくて、食べごたえがあります。
もともと築地で働く人たちに向けて出されていたので、ボリューム感を重視したシュウマイなんですね。
これに対して、「浅草系」のシュウマイと言われているものがありまして、ボリューム感はないけれど、上品でおいしい味わいが特徴なんですよ。
この浅草系のシュウマイを出す代表的なお店が、浅草の博雅です。
浅草の雷門近くにある博雅は、創業が昭和初期という老舗の町中華なんです。
現在は代替わりをして、こちらのご夫婦で切り盛りしていらっしゃいます。
夫の石塚慎太郎さんと妻の純子さんです。純子さんは元ミス日本だそうですよ。
このお店、素敵な女将さんと、チャーハンのおいしさが評判のお店です。
チャーハンのおいしさの理由は、1人前ずつ丁寧に作られているから。
一般の町中華って、チャーハンの注文が重なると何人前かまとめて作るのですが、こちらは1人前ずつ丁寧に炒められています。
▲チャーハン(770円)
よく炒められていて、香ばしく仕上がっています。刻んだナルトなんかも入っていて、見た目も美しいですよね。
何度食べても飽きないおいしさです。しかし、このお店で現在とても評判になっているのがシュウマイなんです。
メニューに一品料理の欄があり、その最初に載っているのが「博雅のシュウマイ」なんですね。なんといってもお店の名前を冠したシュウマイなんです。
純子さん:お店に昭和初期の三社祭の写真がありまして、そこにうちのお店が写っているんです。その写真の看板に「博雅のシュウマイ」と書いてあるんです。
その後、いつしか普通に「シュウマイ」だけのメニュー名表記になったのですが、3年前に夫が厨房を預かるようになって、「博雅のシュウマイ」を復活させたのです。
なるほど、原点回帰なんですね。では、シュウマイをいただいてみましょう。
▲博雅のシュウマイ(5個/550円)
このシュウマイはビールに合うんですね。瓶ビールは660円。
町中華では瓶ビールが似合うんじゃないかと筆者は思うのです。生ビールもいいんですが、やっぱり瓶からコップに注ぐのがいいですね。
ところで、お皿にワカメがちょっとだけついていますね。これはなにか意味があるんでしょうか?
純子さん:なぜワカメがついているのかはわからないんです。昔からずっと、このスタイルなんですよ。
それでは、いただいてみましょう。
博雅のシュウマイはひと口でも食べやすい大きさになっています。ひと口で食べたほうが、皮と餡のうま味がまとめて口に広がるんです。
断面を見てください。
──ちなみに餃子と同様に、シュウマイもタレにつけて食べますよね。おすすめのタレってありますか。
純子さん:それはもうお好みですね。ただ、うちのシュウマイはもとからけっこう味がついているので、まずはそのまま食べていただきたいですね。
実は筆者、こちらのシュウマイはタレなしでそのままいただくのが好きなんです。
というのも、そのほうが肉のうま味をダイレクトに感じられるから。肉のうま味に玉ねぎの甘みが加わり、皮と一体になったおいしさはたまらんのです。
それをビールで流し込めば、なんとも言えぬ至福の時間が訪れますよ。
シュウマイが2個ついたラーメンセットも
町中華によくある「ラーメンセット」は、たいていラーメンに半チャーハンがついていたり、餃子がついていたりしますが、こちらのラーメンセットはシュウマイとライスがついています。
ちなみに「ラーメン+半チャーハン」(850円)というメニューもあって、こちらも定番なんですが、筆者はこっちのシュウマイつきのラーメンセットが大好きです。
▲ラーメンセット(850円)
この黄金の組み合わせこそが、どこか懐かしい「昭和のラーメンセット」だと筆者は思うのです。
まず、ラーメンとライスですよ。この組み合わせ、昔はよくありましたが、最近ではちょっと珍しいかもしれませんね。博雅のラーメンは、やたらとライスに合うんです。なぜこんなにラーメンとライスが合うのでしょうか。
──それにしても、このラーメンのスープはおいしいですね。
慎太郎さん:ラーメンスープには豚足、鰹節、昆布などを入れています。弱火でじっくり煮込みます。ポイントは、煮返さない(※)こと。そのほうが、スッキリした味わいになります。
(※)煮てあるものを再び煮ること。
──あー、なるほど。この優しいスープの味わいは、そうした細やかな気配りから生まれるのですね。毎日いただいても飽きないスープですよ。また、このチャーシューもジューシーでうまいですよね。ちょっと作っているところを見せてもらっていいですか?
──醤油ダレに漬けられていますね。おいしそうです。これは豚のどの部位ですか?
慎太郎さん:肩ロースになります。ラーメンスープに入れて茹でてから、醤油ダレに漬けて煮込みます。昔から継ぎ足し継ぎ足しで使っているものです。中身は醤油、ザラメ、みりんです。こちらも煮返さないのがポイントで、沸騰したら火を止めて、3時間ほど置きます。
なるほど、ラーメンスープには肩ロースを茹でたうま味も入り込んでいるんですね。
こちらのチャーシューはとにかくおいしいです。肉のうま味がしっかりしています。脂身の割合もちょうどいいですね。
ここにシュウマイも入ってくる博雅のラーメンセット、まさに昭和の町中華の定食な感じがして、いいんですよね。
シュウマイや餃子は「包む」のではなく「巻く」
──「博雅のシュウマイ」という名前をつけられたということは、創業当時の味をそのまま踏襲しているんでしょうか?
慎太郎さん:昔のいいところは残しながら、今風の味に仕上げています。
──それでは、見せられるところだけでいいのですが、シュウマイを作っているところを見せていただけますか。現在は、どのくらいのペースでシュウマイを仕込んでいらっしゃるんですか?
純子さん:ちょっと前は週に2〜3回でよかったんですが、今はおかげさまで営業している日はほぼ毎日仕込んでいます。
玉ねぎを切るのは慎太郎さんです。粗みじん切りですね。
肉1kgに対して、玉ねぎを3個ほど使うのだそうです。粗みじんにした玉ねぎのボウルには、片栗粉60gが追加されています。
──シュウマイを包むのは誰ですか?
慎太郎さん:シュウマイを「巻く」のはうちの女将の担当ですね。
──えっ、シュウマイは「包む」ではなく、「巻く」なんですね。
純子さん:餃子もシュウマイもうちでは「巻く」って言っていますね。
まずはボウルに下味用のタレを入れます。お酒、塩コショウ、オイスターソース、その他秘密の調味料が入っているそうです。
ここに肉1kgを入れます。
純子さん:まずは、タレとなじませる前に、肉だけをよく混ぜます。だんだん粘り気が出てくるので、徐々にタレに合わせていきます。
よく混ぜたら、片栗粉をまぶした玉ねぎを入れて、さらに混ぜます。出来上がった餡をプラスチック容器に移して、ここから巻く作業になります。
純子さん:皮に餡をのせて、巻いていきます。
ここでクッキングスケールが登場します。1個1個、きちんと重さを量るようです。
純子さん:1個あたり、だいたい28gと29gの間くらいですね。
どんどんシュウマイが巻かれていきます。さすがに慣れた手つきですね。
ちなみにシュウマイの皮もラーメンの麺も、かの有名な浅草開化楼さんのものを仕入れているのだそうです。さすがのこだわりですね。
せいろいっぱいに出来上がったら、蒸します。
だいたい5分くらい蒸すようです。
純子さん:うちはパパのこだわりもあって、2度蒸しするんですよ。そのほうが玉ねぎの食感がふっくらして、よくなるんだそうです。
なるほど、1度蒸してから味をなじませるために置いておき、注文が入るともう1度蒸すんですね。
この2度蒸しによって、玉ねぎがより甘くなり、肉のうま味もさらに出てくるのでしょう。このコツを参考に、自宅でシュウマイ作りにチャレンジするのもいいかもしれませんね。
でも、その前に実際に「博雅のシュウマイ」、ぜひ食べてほしいです。
撮影:平山訓生
※この記事は感染対策を行なったうえで取材したものです。
お店情報
博雅
住所:東京都台東区浅草1-15-2
電話番号:03-3841-1881
営業時間:12:00~15:30(L.O. 14:30)、17:30~23:00(L.O. 22:30)
定休日:木曜日
書いた人:下関マグロ
1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。