主宰グループは「なごやめし8(エイト)どえりゃこむ」
味噌かつや手羽先、ひつまぶしなどの、いわゆる「なごやめし」。味も見た目も個性的なものが多いからなのか、全国ネットのTV番組でもたびたび紹介され、今や名古屋観光のキラーコンテンツとなっている。
さぞかし地元では盛り上がっているだろうと思いきや、観光客との間に微妙な温度差があった。いやそれどころか、地元では危機感すら抱いている人もいる。それが、「なごやめし」で地元を盛り上げようと結成された市民グループ「なごやめし8どえりゃこむ」代表・前田紳司さんだ。
前田さんがグループを立ち上げたのは、2015年5月。その理由は……
名古屋駅や栄など観光客が集まる場所にあるお店は、メディアの恩恵を受けていますが、郊外にあるお店は昔から通っている常連客に支えられながら細々と営業しているのが実状です。とくに若い世代の「なごやめし」離れは顕著で、このままでは地元で育まれた食文化が途絶えてしまうと思ったんです。(前田さん)
これが「なごやめし8どえりゃこむ」発起人会の面々。おや? 写真中央に見覚えのある顔が! 「なごやめし」の取材をライフワークとする私、永谷正樹は発起人会の一員なのである(笑)。
では、「なごやめし8どえりゃこむ」は具体的にどんなことをするのか? ここはメンバーの私から説明しよう。名古屋市の市章である「八」にちなんで、毎月8日を「なごやめしの日」として勝手に制定し、お店を訪れたお客さんがワクワクするような特別メニューやサービスを提供するプロジェクトである。参加できるのは、「なごやめし」を提供しているお店であれば、飲食でも物販でもジャンル不問。エリアも愛知県はもちろん、県外でも海外でもOKなのだ。
実にユル~イ条件だが、「なごやめし」とはいったい何なのか? 「なごやめし」と呼ばれる前から名古屋グルメを取材している私でさえ明確に定義ができないのである。そもそも100年以上の歴史がある「きしめん」や「味噌煮込み」と、昭和に誕生した「味噌かつ」、平成生まれ「台湾まぜそば」などを一挙同列に扱うことに無理があるのだ。
そこで発起人会が着目したのは、「なごやめし」の共通点。それは探究心あふれる店主が試行錯誤を繰り返し、客の意見にも耳を傾けながら生まれたことだった。
台湾ラーメンをアレンジした「台湾まぜそば」のように、これからも新たに、「なごやめし」が誕生することでしょう。だから、あえて定義はしないでおこうと。それもまた、「なごやめし」の楽しさだと思うんです(前田さん)
プロジェクト参加店には「うみゃ~でぇ なごやめしの店」と書かれたプレートと、8日の「なごやめしの日」のおすすめメニューやサービスを告知する用紙1年分が配布されるほか、公式WEBサイトでもPRする。
発起人会のメンバーがそれぞれのFacebookで呼びかけたところ、50軒を超えるお店の申し込みがあった。それも喫茶店や麺類食堂、洋食店、和食店などさまざまなジャンルのお店が参加している。『メシ通』では、その一部を紹介しよう。むろん、おすすめ店をセレクトした。
【閉店】お値打ち限定モーニングが一日中味わえる
まずは、豊明市にある喫茶店「和田珈琲店 久音」。
店に到着したのは、14時半頃。ランチタイムが終わっているにもかかわらず、駐車場はほぼ満車。店内も多くのお客さんで賑わっていた。
ココはコーヒー豆の卸販売を手がけるワダコーヒー株式会社の直営店。それだけに名古屋人好みのしっかりと苦みがきいた深煎りのコーヒーが楽しめる。ただ、評判の秘密はコーヒーだけではない。それは後ほど判明するのだが……。
ところで毎月8日の「なごやめしの日」は、どのような取り組みをするのだろうか?
「『なごやめしの日』限定のモーニングを出します」と、店長の真野智恵さん。
そのうちの好評メニューが名古屋人が大好きな小倉とホイップクリームをサンドした「小倉ホイップクリームサンドモーニング」だ。
実際に食べてみたが、黒糖パンの風味と小倉の甘さが絶妙にマッチしていて旨い! しかも、ありがたいことにどれも料金はドリンク代(コーヒーは430円)のみ。
実はこのメニュー、店のまかないから生まれたんですよ。隠し味にマーガリンも塗ってあって、その塩気が小倉とホイップクリームの甘さを引き立てます。ウチはモーニングの種類も沢山あるんですよ(真野さん)
ドリンク代のみで楽しめるモーニングは、「小倉トーストモーニング」(上写真)のほか、6種類。これなら毎日来ても飽きないだろう。
さらに、ドリンク代に200円~300円の追加料金を払うプレミアムモーニングは8種類も用意されている。写真の「ピザトーストモーニング」はドリンク代+200円。ちょっと贅沢したいときはコレで決まりだ。
しかし。非常に言い辛いことだが、ドリンク代のみのサービスとはいえ、朝だけというのは、毎月8日の「なごやめしの日」の特典としては、ややインパクトが弱いような気がするのだが……。
あ、いちばん大事なことを言い忘れていました。実はウチのお店、8:00~19:00(LO 18:30)までの営業時間内はずっとモーニングサービスを実施しているんですよ。時間を気にせずに楽しんでください!(真野さん)
なんと、ココは一日中モーニングをやっていたのだ!
ランチが終わった後でもお客さんでいっぱいだったのはこのためなのだ。毎月8日のみならず、毎日通いたい!
お店情報
【閉店】和田珈琲店 久音
住所:愛知県豊明市新栄町6-1-1
電話番号:0562-85-7424
営業時間:8:00~19:00(LO 18:30) ※モーニングタイム8:00~18:30、ランチタイム11:00~14:00
定休日:無休
蕎麦の名店で味わう“シャチホコ”車海老天
次は名古屋市中区千代田3丁目にある「春風荘」。
ココは地元のみならず、全国からツウが通う蕎麦の名店。
お店の雰囲気も、街の蕎麦店とは思えないほど洗練されている。
店主を努めるのは、鈴木健之さん。
今でこそお酒とともに楽しめる江戸前の蕎麦文化が名古屋でも定着しているが、鈴木さんが千葉・柏の「竹やぶ」で3年間、東京・練馬の「田中屋」で2年間の修業を経た後、ここにお店を開いた昭和63年当時は皆無に等しかった。
私は不器用でしてね、力任せに仕事をする私に「ちょっと力を抜いた方がいい」と修業時代にはよく言われました。だから自分独自の方法を編み出すことと、材料で勝負するしかないと思い、蕎麦粉も天ぷらに使う油も最高のものを使おうと(鈴木さん)
鈴木さんの食に対する探究心は鬼気迫るものがある。「あの店が旨い」と評判を聞きつけると、それが東京のお店であっても自分の舌で確かめるほどの熱心さ。さらに、あの美食家・北大路魯山人に心酔し『魯山人全集』を座右の書としている。
蕎麦粉に関しては、魯山人が本の中で褒めていた最高級のものをその日に使う分だけ石臼で挽いています。料理だけではなく、器やお客さんへのおもてなしなどすべてにおいて、魯山人が追求した美食文化を継承したいと強く思っています。(鈴木さん)
そんな鈴木さんの思いが詰まった「天せいろ」(1,944円)は「春風荘」の看板メニュー。
まずは少量の蕎麦をつゆに浸さず、そのまま食べてみる。その瞬間、蕎麦の香りが鼻から抜ける。それは噛むほどに強くなり、飲み込むのも惜しくなるほどだ。
つゆに浸すと、だしの奥深い味わいと蕎麦の味と香りがひとつになってスッと消える。また、薄衣でカラッと揚がった天ぷらも食材の旨みを完膚なきまで引き出されていて、蕎麦屋の域を完全に超えている。
もう、たまらん。「天せいろ」で満足しすぎて、「なごやめしの日」のことを完全に忘れていた(笑)。
「蕎麦は江戸前の文化ですが、そばがきを八丁味噌のタレで食べてもらったりと、名古屋で独自に進化した部分もあるんですよ」(鈴木さん)
あらゆる文化を受け入れて、独自にアレンジして新たなものを作り上げるのが名古屋人気質である。さて、毎月8日に「春風荘」が提供するのは……
「特製天おろし」(1,620円)。
冷たい蕎麦の上には、たっぷりの海老天と大根おろしが乗っかるのだが、何といっても串に刺さった海老天が目を引く。
名古屋人としては、この海老天の勇姿(笑)を見ただけでテンションが上がりまくり。真っ先に串を外してかぶりつくと、車海老ならではの濃厚な甘みがじわーっと広がる。これを口福感と言わずして何と言うのだ。
この余韻だけで蕎麦が美味しく食べられるほど。「なごやめしの日」には、遊び心満点な「特製天おろし」をご堪能アレ。
お店情報
春風荘
住所:愛知県名古屋市中区千代田3丁目31-20 千代田セントラルビル 1F
電話番号:052-331-5075
営業時間:11:00~20:00(LO 20:00)
定休日:木曜(祝の場合は翌日休)
ウェブサイト:http://shunpusou.com/
「ひつまぶし」 が破格の888円で!
最後は、名古屋市中川区松葉町、あおなみ線小本駅から徒歩5分の和食店「和食・ふぐ 豆たぬき」。
ココは本格的な和食のコースが3,780円~とリーズナブルな価格で楽しめる地元の評判店。
しかも、通常5,400円のコースが平日に限り半額の2,700円(2日前までに要予約)で提供している。もう、この時点で「スゴイ!」のひと言に尽きるが、毎月8日の「なごやめしの日」には、どんな取り組みを行うのだろうか?
「今から作りますので、少しお待ちください」と、店主の鈴木貴志さん。めっちゃ気になる。辛抱たまらず厨房をのぞくと……。
そ、そこには鰻がっ!
まさか、数ある「なごやめし」のなかでも大評判のアレか!?
お値段高騰で地元在住の私でさえ滅多に食べられないアレなのか!?
まな板にのせられた鰻を真剣な眼差しで見つめて、慣れた手つきで包丁を入れる鈴木さん。
やはり、アレだ!
だって、その背中に……
「なごやめし」を代表する、おなじみのメニュー名が!
やっぱり「ひつまぶし」だった。真打ち登場!
ただ、ここの「ひつまぶし」は他店と少し違う。注目すべきは、写真の右側にある「とろろ」。
ひつまぶしの1杯目はそのまま食べるのが一般的だが、鈴木さんは「とろろ」をかけて食べるのをおすすめしている。
とろろはタンパク質の吸収と消化を促進して太りにくくしたり、血糖値の上昇を防いだりと、まさにいいことだらけなのだそう。
2杯目からは通常の「ひつまぶし」の食べ方に従って、そのまま食べる。鰻とご飯の間には刻み海苔が敷かれていて、鰻の香ばしさを引き立てている。
で、薬味をのせて…。
薬味は定番のワサビとネギのほか大葉も入って、後味もさっぱり。
最後はだし汁をかけて〆る、と。和食店だけに、料理の味の要となるだしも深い味わい。
通常、「ひつまぶし」の食べ方は3通りだが、ココは4通りとあって、お得感十分。ははーん、もしや「なごやめしの日」は、本来は有料のはずのとろろが無料とか?
いや、とろろは普通に付いてますから(笑)。ウチはそんなセコイことしませんよ! 「ひつまぶし」は通常3700円なのですが、毎月8日は888円で提供します!(鈴木さん)
な、なんという太っ腹なサービス!!!
毎月8日は「ひつまぶし」以外のメニューは注文不可。鰻は十分な数を用意しているが、売り切れ次第閉店とのこと。
ぜひ行列覚悟で食べに行くべし!
お店情報
和食・ふぐ 豆たぬき
住所:愛知県名古屋市中川区松葉町4-30-1
電話番号:052-352-8825
営業時間:11:30~14:00、18:00~21:00
定休日:水曜
※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は2016年3月のものです。
【なごやめしエイトどえりゃこむ 公式WEBFacebook】
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