山手線の東京駅と秋葉原駅の間に位置する、JR神田駅。昼間はオフィス街の様相を見せ、夜は飲み屋街のネオンが光る──。そんな神田駅北口の目の前に、真っ昼間から堂々と、酒飲みを誘惑しまくる回転寿司が存在する。
その名も「回転寿司 江戸ッ子」。遠目に見ると一見普通の回転寿司屋だが……。
近づいてみると……。
お店の窓やドアには、所狭しと「昼飲み推奨店」「都内最強! 1人飲み」「ほろ酔いセット」「日本酒15銘柄以上」などと、酒好きなら立ち止まらずにはいられないワードが散りばめられている。スーツ姿のサラリーマンたちが闊歩するオフィス街で昼酒推奨とは。
しかし、店側がここまで飲酒に前向きな姿勢だと、後ろめたさを感じることもなく入店できてしまう。
この「回転寿司 江戸ッ子」は、昭和32年創業で神田に4店舗を構えるカウンター寿司店「神田 江戸ッ子寿司」の系列店。平成23年にオープンして、現在は神田と上野に2店舗を構える。
しかし、一体なぜここまで「酒」をプッシュしているのか? 駅の目の前という好立地、普通の回転寿司でも十分需要がありそうに感じるが。
そこで回転寿司 江戸ッ子の統括マネージャーである芳賀順哉さんにお話を伺った。
焼酎強めの緑茶割りが口コミで話題に
──「回転寿司 江戸ッ子」は、お酒のメニューが豊富で、明確に「酒飲み」のお客さんをターゲットにしていると思うのですが、いつからお酒を推奨しはじめたのですか?
芳賀:4年ぐらい前からです。神田という街はビジネス街ですから、飲食店はランチタイムが終わってからディナータイムまでの時間、通称アイドルタイムが暇なんですよね。その時間帯でどういう商売をやったら効率がいいかを考えていたとき、当時「昼飲み」という言葉が出始めていた頃でもあったので、思い切ってお酒を売りにしようと決めました。
▲ランチビール(平日11時〜17時)は275円
──では、お酒の種類も増やして?
芳賀:いえ、実は当時から日本酒の種類は結構用意してあったんです。ただ推奨はしていなかった。「うちは寿司屋だから酒をそんなに飲むんじゃねぇ!」って、そういう雰囲気だったんです。
──そこから、ガラッと方向性を変えて、お酒を売りにした結果、変化はありましたか?
芳賀:はい。うちの名物の緑茶割りは、以前は360円ほどで提供していたんです。それで1日3〜4杯ほどしか出なかったのですが、価格を330円に下げて、さらに焼酎をグラスの半分まで注いだ緑茶割りに変えたんです。しかも、あえて「割合を変えた」とは謳わずに。お客さんに飲んでもらって、「あそこの緑茶割りは濃いぞ」と口コミで伝わればいいなと思っていたらそれが見事に大当たりしました。
今では1日100杯を超える売上になっています。当時、ちょうどサントリーさんの「ストロングゼロ」などが出始めの頃でしたから、時代にマッチしたのかもしれません。
──そんな焼酎の濃い緑茶割りに、本日の目玉刺し(刺し身三点盛り)がついてくる「ほろ酔いセット」は、緑茶割り単品が330円なので、新鮮なお刺身とのセットで539円はお得ですよね。
芳賀:「ほろ酔いセット」は看板メニューです。最初は緑茶割り1本でやってきたんですけど、最近同じ価格でレモンサワーのセットもはじめました。
この「こだわり酒場のレモンサワー」は、コンビニや他の酒場でも提供されているサントリーさんのレモンサワーですが、通常はアルコールが7%のところを、うちは12%で提供しています。ちゃんとサントリーさんに話を通して、うちでしか飲めない「こだわり酒場のレモンサワー」を作ったんです。
──試飲させていただきましたが、1杯でほろ酔いになりました。これが330円とはコスパ良すぎませんか?
芳賀:1〜2杯ですぐ酔えますからね。お酒を出すにしても普通のことをしたら面白くないので、常に他がやってないことをやろうとしているんです。
お酒のアテになるおつまみをレーンに流す
──日本酒の種類も豊富ですね。
芳賀:日本酒は常時15〜20種類用意してあって、ぬる燗、熱燗、冷ができるようになっています。全部タッチパネルで簡単に注文できますよ。
うちは1杯1,000円以上の高級な日本酒はあえて置いてないんです。1杯330円から、高くても550円。安くて美味しい銘柄をたくさん揃えているので、いろいろ飲み比べてもらえるように量は1合ではなくちょっと少なめの150ccで提供しています。
▲日本酒のセレクトは酒処で知られる新潟出身の芳賀さん自らが行っている
──お酒同様、おつまみメニューにもこだわりを感じます。
芳賀:あら煮やカマを揚げたものなど、普通の回転寿司屋では珍しいおつまみをレーンに流しています。
▲「一口あら煮」198円。普通の回転寿司ならあら汁にするところを、お酒のアテになるよう、あら煮にして提供している
▲通好みのお酒のアテ、マグロの目玉。こういった日替わりのおつまみが、寿司たちと一緒にレーンに乗って回ってくる
芳賀:おつまみの刺し身も80種類くらいあるので、選ぶのが楽しいと思います。
──80種類! 刺し身やおつまみのメニューが豊富だと、糖質オフダイエットにもよさそうですね。
芳賀:はい。実際、糖質オフブームで、寿司屋でシャリを残して帰る人が増えていると話題になったとき、江戸ッ子だったらはじめからシャリがない、刺し身が豊富だと噂になったこともあります。
──濃い緑茶割りを提供し始めたタイミングといい、いろんな時流に乗ってますね。
芳賀:全部偶然ですけどね(笑)。
回転寿司の利点を生かした営業スタイル
──江戸ッ子さんでは、ぶっちゃけお寿司を食べずに帰ってもいいんですか?
芳賀:もちろんです。お酒とおつまみを楽しんでいただければ。ただ、うちは60年以上続いているカウンターの寿司屋の支店なので、そんじょそこらの回転寿司よりは上質なネタを扱っているつもりです。特に、貝類は回らない寿司屋と同じ品質で、かなりリーズナブルな値段で提供しています。
神田のお客さんは土地柄か、寿司にこだわる人が多いんですが、うちのネタは間違いないということをみなさん理解されたうえで通ってくれています。
▲「赤貝三種盛り」495円。カウンターの寿司屋級の上質な味
▲貝類に力を入れているだけあって、サザエのお造りも新鮮でコリコリ。ちゃんと肝もついてくるところが、酒飲みのツボを刺激する
▲ボリューム満点の「穴子一本」649円
──では最後に、芳賀さんご自身が「回転寿司 江戸ッ子」で一杯飲むとしたら、どんなコースではじめますか?
芳賀:まずは、ほろ酔いセットを頼んで、その日のおすすめのおつまみを1品選びます。そうしている間に1杯目が飲み終わりますので、日本酒に移行。ちびちび引っ掛けながら、最後に貝のにぎりで締めますね。これで会計2,000円くらいでしょうか。
通なお客さんは締めに、ランチセットを頼んでいます。本日のオススメの5貫握りと味噌汁がついて495円なのでかなりお得ですよ。
▲味噌汁付きのランチセット。この日はサワラ、スズキ、真コチ、天然ぶり、真アジという1貫もハズレなしの豪華ラインナップ
芳賀:「回転寿司 江戸ッ子」はボックス席が3つしかなく、店内のほとんどがカウンター席なので、1人でふらっと入れる飲み屋のようなお店を目指しています。日替わりのおつまみをレーンに流したりと、回転寿司という利点をフルに活かして営業しています。いわば「回転居酒屋」ですね。
昼も夜も、いかにコスパよく飲むかを考えている酒飲みにとって、「回転寿司 江戸ッ子」のホスピタリティ精神には、ひたすら感謝しかない。
現在、江戸ッ子の魅力は口コミで広がり、ランチタイムとディナータイムは行列ができるほどの評判店となっている。狙い目は平日のランチタイム後のアイドルタイム。サラリーマンが行き交う街での昼飲みは、背徳感も加わって気持ち良く酔えること間違いない。
上野店だと、神田店よりさらに居酒屋っぽい雰囲気を醸し出しているという最強の“居酒屋”江戸ッ子には、今日もまっ昼間から酒飲みたちが集うのだ。
撮影:松沢雅彦
店舗情報
回転寿司 江戸ッ子 神田店
住所:東京都千代田区内神田3-19-8 櫻井ビル1階
電話:03-3258-5006
営業時間:平日11:00~23:00 土11:00~22:30 日・祝11:00~21:30
定休日:年中無休
書いた人:松子
石川県出身の、都内在住のOL。アラフォー。チェーン店で酒を飲むことがライフワー ク。365日毎晩どこかの酒場に出没中。趣味は海外旅行で、いろんな国の料理を食べ ること。とにかく、コスパよく美味しい酒が飲みたい!