「超能力者」ユリ・ゲラーをベジタリアンにした男・矢追純一氏インタビュー【後編】

f:id:Meshi2_IB:20151221131957j:plain

UFOや「超能力者」ユリ・ゲラーなど、たくさんの超常現象番組を作った伝説のディレクター矢追純一氏へのインタビュー【後編】!

※【前編】はこちら

 

12歳のときから思ったことがその通りになるとはどういうことか。それは満州生まれの矢追純一氏が10歳のときに終戦を迎えたときのお話になった。

 

世の中ひっくり返ったなかに2年いた

「ものすごい長い話になるんだけどね。本を読んでもらうほうがいいんだけど。いま本屋さんに並んでいる『ヤオイズム(三五館)』という本にも書いてあります。父親が日本の建設省の役人をしてて、満州に出向してそこで生まれたんです。僕と妹ふたりの3人ですね」

 

「そこでけっこう豪勢な暮らしをしてたんだけど、ある日突然玉音放送があって、日本が負けましたと。使用人の中国人がふらっと現れて“お前らは負けた、うちらは勝った。ここはお前らの土地じゃないから今すぐ出て行け”と、着の身着のままでうちから放り出されて。日本人はみんなそういう生活になったわけ。みんないいところのお嬢さん奥さんだから生きてく術がないじゃん。みんな苦労したし。子供を中国人に預けた人もいれば、身を売らなきゃいけなかった人もいたし、餓死した人もいた」

 

「そういう、世の中がひっくり返ったなかに2年間いたわけだよ。まわり全部敵だからさ。日本人以外は敵。昨日敵だから今日も敵ってやつで」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131939j:plain

「うちのおふくろは何歳であろうとぜんぶ平等に扱う人なんです。親父は終戦の1年前に死んでしまったんですね。急病で。親子4人で暮らしてたところに晴天の霹靂がきた。母親は贅沢しか知らないような人だったんですけど、終戦の日を境に人間がガラッと変わりまして。放り出されたその日にどっかから部屋を借りてきて、君たちここに座んなさいってね」

 

「昨日までは坊っちゃん嬢ちゃんだったかもしれないけど、今日からはホームレス。お母さんは自分で食べていくのが精一杯だから、君たちの面倒は見られないからそのつもりで、と言い渡されまして。で、ホントになんにもやってくれないんですよ」

 

──終戦のタイミングに、日本国内ではなく満州にいらっしゃったのですね。

「そうです。それで、“これを売ってこい”と、かろうじて持ち出した着物を俺に渡して。売ってきなさいったってどこで? みたいな(笑)。でも、泣いてもなんでも絶対に家に入れてくれない。しょうがないから道端に立って。日本語しかできないんだけど、通りすがりのアメリカの兵隊とかロシアの兵隊とかに“どうですか”というところから始まり、だんだん人間らしくなってきたわけ。その前は俺は人間失格だったから。学校にも行かないし、身体が弱いからしょっちゅう入院してたし。対人恐怖症でしたし」

 

「でもそういう経験のおかげで、ちょっとはたくましくなって。いろんな人とケンカしなきゃいけない。盗られないようにがんばらないといけないしね(笑)」

 

「それから2年後に、やっと最後の引揚げ船に乗って帰ってきたんだけど、それまでの間にいっぱい人が死んだ。たぶん、あなた達が想像してる状況とはぜんぜん違うと思うよ。本で読んで、わかってるつもりになってるのとは」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131945j:plain

「とにかくそこで悟ったんですよ。物とか金とか地位とか名誉とか財産というものは、一夜にして消えるものだから、信頼を置く必要はない。そんなものはいらねえと。命だけでも助かってきたのはすごいじゃないかと。そうなったときに、物欲とか金欲とか名誉欲とかプライドとか、命に対する欲も無くなったのね」

 

──そういった経験をされて、食に対する欲望はどうですか。 

「食欲はすごくあるよ。でも子供の時の空腹感というものではない。不思議と。目の前にあれば食うけど、なければないで仕方ないじゃんって。1日3食食わなきゃいけないって間違った迷信がいまでも流行ってるけど(笑)、あんなもんウソで。1食でも足りるわけだし。そういう義務感だか、決められたことに従おうという“ヒラ社員根性”を直さないと(笑)」

 

身分的にはどうあれ、本人がどういう根性なのかが大事

「ヒラ社員根性で生きているから、みんな苦労するし精神的にも安定しないわけ。でもよく考えてみたら、世の中も株式会社みたいにできているわけで。社長はヒラ社員たちに本当のことは言わないで秘密にしといて、ヒラ社員はがんばれ、一生懸命に、努力、根性、間違ったことをするな、正しいことをしろ、悪い道に行くな。まじめにやれ……なんだかわけがわからないですよ(笑)。なにをもって正しいか正しくないかも、決まってないじゃない。これみんなヒラ社員への教育だよね。社長はそんなことは考えてないもんね。それを“常識”というのね」

 

「みんなそういう親に育てられているので、それが頭にこびりついてて、なんか食わないと大変なことになりそうな気がして、食うためには働かないと大変だぞって話になって。ずっと強迫観念で生きているわけですよ。でもそれは“ヒラ社員根性”だから」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131940j:plain

「身分的にはどうあれ、本人がどういう根性なのかが大事なんじゃないの。いろんなものに縛られるのは、それは制約としてはしょうがないのね。浮世の義理というんだけどね。それは適当に流して、自分がどういうふうに生きていくかが決まってないとダメですね。僕は、自分が思ったことはぜんぶその通りになるからなにもしないんですよ。勉強もしないし、努力もしないし、まじめじゃないです」

 

「うちの母親は勉強すると怒る人だったので。男は身体を鍛えなきゃダメだからうちの中でウジウジ勉強してんじゃねえと。明日試験だから勉強してるんだと言ったら、“試験だから勉強しないといけないってことは学校でサボってるに違いないから、そんな学校行かせない”って言われちゃう。うちの中にいると怒られるので一日中外で遊んでないといけない。晩飯食ったらまた行かないといけない。だから、いまだに勉強とかゲームとか一切できないです。トランプも無理」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131941j:plain

 

──原体験の中で思い出に残る食べものってありますか。

「そんな特別なもの、思いつかないね(笑)。引揚げ船で帰ってきたときに佐世保に着いたんだけど、上陸許可までに何日もかかって、そこで完全殺菌されるわけですよ。DDT(※)で。上陸して、引揚げ者の一時的な避難所みたいなところに入って。そのときに初めて、ふかふかの中華まんじゅうをくれたんです。ひとり1個ずつ。これはうまかったね。それまで大変だったからね」

※DDT:太平洋戦争直後、シラミ対策などの目的で米軍により持ち込まれ、使用された殺虫剤。頭髪や全身に噴霧された。発がん性物質のため現在は使用禁止。

 

「みんなそうなんだけど。日本にいた人はいた人で大変だったと思うんですよ。東京大空襲とか原爆とかあったからね。外地にいた俺たちみたいなのは、これはまた大変だったわけですよね。だから、命があるだけでも奇跡なんだよね

 

方針だけ決めて『なにか目に見えないもの』にお任せする

f:id:Meshi2_IB:20151221131942j:plain

「うちはもっと奇跡で、母親がすごいから食うものに困ったことない。毎日、白い飯で肉を食ってた。そのかわり4歳の妹も働かされて。そういう生活があったから今日の僕があるわけですけども、怖いものがまずないんですよね。命もいらないから」

 

「“命だけはどうぞお助け”ってみんな思ってるけど、それは無理だって。だいたい自分がいつ死ぬか分かってないやつが“命だけは”って、それは無理でしょって。歩道を歩いたって後ろから轢かれちゃう時代だからね(笑)。んなものどこ行ったってすぐ死ぬよ。いまここで突然脳になにか詰まっても死ぬわけだからね、脳溢血かなんかで。若いからって安心してられないじゃない。自分がいつ死ぬか分からないのに、命だけはお助けをってのは無駄でしょって思う。その1個の執着をなくすと、思ったことがその通りになるわけ。そんなものに執着してるからダメなわけで」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131956j:plain

 

──UFOや不思議な事に興味が湧いてきたのはなにかきっかけがあるんですか。

「興味なんて、ぜんぜんないです。いまもないです」

 

──そうなんですか!? とても意外です。

「そんなに特別にそれだけに興味を持つってのも変な話でね。人間はもっといろんなことをやるじゃないですか。まあ趣味でマッチ箱を集めるのに一生懸命って人もいるわけでさ。それはそれで結構なことなんだけど。僕は何ひとつ趣味はないし、これが好きだとか、これをやらなきゃとかいうことも一切ないので」

 

「自分がやりたいことしかやらない。自分からなにかやろうとは思わない。呼ばれるとしょうがないから行くみたいな。しょうがないというと語弊がありますけども。僕自身がなにかを選ぶのは無理だと思ってるんですよ。それほど頭良くないから。

みなさんはきっと自分が頭いいと思うから自分の才覚で生きていこうと思うんでしょ。えらいなと思うんですけど、自分の才覚で生きていこうと思ったら、そりゃ無理だと。自分の脳をパソコンだとすると、その脳はね、大したパソコンじゃないじゃないですか。大した体験もしてないのでほとんどのことがわかってないじゃないですか。知識もこんなに狭められた中で、知ったかぶりしてわかった気になってるだけであってね(笑)。日本の中で上から数えたら自分は何番目かって、そりゃ絶対下から数えたほうが早いでしょってレベルなわけじゃないですか。そいつが自分の才覚で生きていくったってそれは無理です。東大に入って、財務省に入ってって、そういう計算でやってもなかなかそうは簡単にいかないのは、基本的に人間は頭が悪いからですよ」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131949j:plain

「どうやって生きていくかっていう計算をやめて、自分のおおまかな方針だけ決めて、あとはお任せする。“なにか目に見えないもの”にお任せする」

 

「それは神さまとかじゃあないよ。なんだかわからないけど、目に見えない流れですね。世界の流れ、宇宙の流れ。そういう流れの中に乗ればいいのであって。その流れの中で必死に泳いで、俺はこっち行くったってそれは無理でしょって。まず第一に、どの人もみんな生きていく上での方針が決まってないんだよね。死ぬまで生きていくんだからさ。こういう方針でいこうかなってのがないんだよ。だから自信がないわけ。つい他人のほうに目が行っちゃうわけ。ひとはどうだろう、俺はこれでいいんだろうか。それはひとが決めるんじゃなくて、あんたが決めることでしょって。ぜんぶ他人任せになっちゃうんだよ。自信がないから。そうすると女性にもモテないんだ(笑)」

 

とっておきのバーを教えてあげる

親の教えで白米はあまり食べない、そもそも食べることに執着もないというが、お酒の席ではかなり食べる方だという。

 

「そんなに大量には食べないと俺が言うと、矢追さん、ものすごく食べてますよって言われるんだけど、酒飲んだときは食べるのね。お酒は、酒だけでは絶対飲めないんですよ。なにか食べるものがあって飲むので。たとえば中華なら日本酒は合わないから、ビールか紹興酒でしょ。そういうふうに食べるもので飲む酒が決まるんです。飲んで食って飲んで食ってってやってるもんだからここまで入ったら(喉元に手をやる)終わりになるわけね(笑)。基本的にそんなに飲まないし、食べる量も多くない。そのかわり、うまいものを食べたい」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131946j:plain

 

──好物はありますか。

「そんなのはないです。おいしければなんでもいい。ありがたいことにいろんな食べ物が世の中にあるんでね。とくに東京はね」

 

「おいしいものを安く食べたい。高くておいしいものはいくらでもあるから。だいたい高いものっておいしくないんだよね、基本的に。高いってことは格好つけてるわけですから、“格好代”が高いわけです。“俳優のどなたさんがおいでになりました”とかさ。庶民的なところで、なおかつおいしいところはけっこういっぱい知ってます。私は勘がいいですからね。そこははずさないです」

 

──ピンとくるわけですね。

「餃子はね、代々木の駅前の店が並んでるとこで。餃子屋やラーメン屋が3軒くらい並んでるんで間違えて入らないようにしないといけないんだけど。でっかい餃子 さんの店と書いてあるところ。ここは中国人がやってて、目の前で皮から作ってるんです。ここの餃子はおすすめします」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131955j:plain

「あ、そうだ。とっておきのバーを教えてあげる。新宿の新南口、階段降りたとこそのまま行って、線路沿いにちょっと行った左側のビルの5階なんですよ。『JazzBarサムライ』と書いてあるけど俺たちは“猫屋敷”と呼んでるのよ。サムライとまったく関係ないのよ。古めかしい扉を開けると、たぶんみんなびっくりするねえ」

 

「猫屋敷って呼ぶ理由は、猫の置物がいっぱいあるの。壁際に何百個とあって。とにかく怪しげな屋敷って感じなのよ。大きな猫の置物があったり、呪文が書いてある掛け軸があったり、提灯の中に仏様があるようなのがあったり、ありとあらゆる変なものがいっぱいあるわけ。これはまず入ったときに“おおっ”となりますよ。店内にはジャズがかかってて。これは俺の好きなとこなんですけど、最近なかなかジャズがかかってるバーってないんですよ。ほとんどのやつが耳が悪いんで、音楽を聴くためにバーに行かないんですね。いい音を出すのはジャズバーくらいなんですけど、ジャズバー自体があんまりないんですよね。なんか得体のしれないBGMをそれとなくかけてて、誰も聴いてないみたいなとこが多くて(笑)」

 

──謎めいているお店ですね。

「その店はジャズがかかっていて、親父が髭をたくわえてて、なんかちょっと変わってる感じなんですね。客には一切関わらないという方針なのか、いらっしゃいくらいは言うけど、あとは勝手なとこに座れって感じですよ。で、注文すら取りに来ません。こっちから呼ばないと来ない。なにやってても干渉しないからすごく楽なんですよね」

 

「しかもすごいかわいい女の子がいて。これが店主の娘さんらしいんだけど。めちゃくちゃ親孝行な娘だと思ってさ。たぶんまだ20代前半か、ひょっとしたら学生かもしれないんだけどさ。すごいかわいい、美人なわけ。この子が手伝いに来てるのね。お給料もらってないのね。その……怪しげなバーに手伝いに来るところが、えらいなと思ってさ。親孝行だねーって言うんだけどさ。その子も一切しゃべらないし。行ったほうがいいよ。安いし。いつまでいても文句言わないし。そこでたとえばミーティングとか会社の打ち合わせをやるといいと思うよ。けっこう座れると思うな。20人くらいは。とにかく居心地がいいから居着いちゃうよ」

 

f:id:Meshi2_IB:20151221131959j:plain

きっと本当に、とっておきのバーなのであろう。

 

我々にそのバーの話をする矢追純一氏は、楽しそうに、そして自慢げに語るのであった。皆さんもちょっと行ってみたくなりませんか。あの矢追さんがお勧めする、ちょっと怪しい、猫屋敷のようなそのバーに。

矢追純一氏・近著『ヤオイズム』(三五館)絶賛発売中。

 

参考情報

 

書いた人:鷲谷憲樹

鷲谷憲樹

フリー編集者。ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。好きな立教OBは中島かずき。

過去記事も読む

トップに戻る