飲兵衛必読の新雑誌『酒場人』創刊記念! パリッコ×スズキナオの酒場対談

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2015年12月8日、オークラ出版より新しい雑誌『酒場人』が創刊された。

作家、漫画家、ミュージシャンら著名人がそれぞれの“酒場愛”をディープに語る内容で、その通好みかつ豪華なラインナップは以下のとおり。

 

【対談】

  • 吉本ばなな(作家)×ユザーン(タブラ奏者)
  • 押切蓮介(漫画家)×山本さほ(漫画家)

 

【インタビュー】

  • ラズウェル細木(漫画家)
  • 吉田戦車(漫画家)
  • かせきさいだぁ(ミュージシャン)
  • 坂崎重盛(作家)

 

【飲み歩き企画】

  • 清野とおる(漫画家)

 

それぞれが実際に居酒屋などで飲みながら、お気に入りの酒場、些細なこだわり、酒にまつわる失敗談など、この本でしか読めないエピソードを語っている。

 

また、各界で活躍するライター陣による幅広い読みものも見所のひとつで、せんべろ古本トリオ(安田理央/とみさわ昭仁/柳下毅一郎)は、電車を乗り継ぎながら古本屋と大衆酒場を交互にめぐる「せんべろ古本ツアー」をレポート。

 

他にも立ち食いそば屋、焼肉屋、回転寿司、公営ギャンブル場、銭湯などなど、様々なシチュエーションにおける至福の飲み方を考察するコラムや、レポ漫画なども充実している。

 

さらに取材班が実際に飲み歩いた酒場を紹介する「エリア特集」は、鎌倉・湘南・横浜(野毛)が舞台。有名店や、押さえておくべき名店のみにはこだわらず、地元民が愛する大衆酒場、定食屋、バーなど、他誌ではあまり見られないようなディープな酒場が多数登場する。

 

……と、ニュースっぽく始めてみましたが、よくありがちな“居酒屋データ本”とは一味違う、酒場へのこだわりと愛がたっぷり詰まった濃厚な“酒雑誌”が新創刊されまして、なんとその本の「監修」という大役を、いつも連載「ほろよい調査隊」でお世話になっております、僕ことパリッコがつとめさせていただきました!

 

そこで今回は「メシ通」さんのこの場をお借りし、飲み仲間であり、本誌の編集/執筆に多大なるお力を貸してくださったフリーライターのスズキナオさんと僕による、裏話満載の酒場対談を行わせていただきたいと思います!

 

何卒、お付き合いいただければ幸いです。m(_ _)m

 

唐突に実現した吉本ばなな×ユザーンの異種格闘技飲み

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▲今回の対談会場は新橋の某立ち飲み屋

 

スズキナオ(以下ナオ):パリッコさん、『酒場人』の監修、お疲れ様でした。

 

パリッコ(以下パリ):ありがとうございます!

 

ナオ:そもそもどういう経緯でこの本を作ることになったんでしょう。これまでの飲み歩きの成果が実を結んだんですか?

 

パリ:そう言われるとすごく気恥ずかしいんですが、強いて言えば、酒場で飲んではそのことを記事として記録したりと、アウトプットを続けてきた成果と言えなくもないのかもしれません。版元のオークラ出版の方が僕のそういう活動を応援してくださってたみたいで、「一緒に本を作りませんか?」と。

 

ナオ:すごい! そして完成した『酒場人』は、お店のデータ集というよりは、お酒を楽しむ雰囲気そのものを形にしたような、珍しい雑誌ですよね。

 

パリ:僕もよくこんな本が出版されたなって。オークラ出版さん、まさに酔狂というか。

 

ナオ:すごく多方面から著名人が参加していますが。

 

パリ: ありがたいことです。これまでに僕が様々なお酒の席で知り合わせていただいた方々が、たくさん、快く参加してくださって。まさに酒の神様が導いてくれたという感覚です。

 

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▲メシ通「ほろよい調査隊」ライターであり、今回『酒場人』の監修を担当したパリッコ

 

ナオ:まず、吉本ばななさんの名前を見て驚きました。しかもユザーンさんとの組み合わせって一体なんなんだろうと。異種格闘技戦みたいじゃないですか。

 

パリ:それこそ僕も恐縮すぎる出会いだったんですが、ユザーンさんとは以前からたまに飲みに行かせてもらってたんですね。ある時「飲もうよ~」って連絡もらって、僕が練馬の飲み屋をご提案してそこで飲んでたら「今日吉本ばななさんにも声かけてみたよ。あとで来るかも」とか急に言われて、こっちにしてみたら「え!!? 」って。

 

ナオ:「あの!? 」って思いますよね(笑)。

 

パリ:本当ですよ!「あの」じゃなかったらどの? って感じですが(笑)。ユザーンさんとばななさんはもともと、お互いを本名から「まほちゃん」「湯沢くん」って呼び合うほど仲良しで。それで、僕が作った「酒たぬき」というキャラクターのLINEスタンプをばななさんが気に入り、お互いに使ってくださっていたというありがたい話があって「あれ描いたやつと飲むから来ない?」みたいに声をかけてくれたという。ものすごく粋な男なんです! ユザーンさんという人は。

 

ナオ:そして日常の中に、急にばななさんが現れて。

 

パリ:現実感なかったですよね。その日「友愛(肉料理の美味しい居酒屋)」~「ひょうたん(大衆的タイ料理立ち飲み)」という練馬の酒好きなら誰もが飲み歩いたことのあるコースをたどったんですけど、そこにユザーンさんとばななさんがいるという。ひょうたん名物の激辛おにぎりを食べて「辛い~!」とか言って。

 

ナオ:「ばななさんほどの人でも、辛いと思うんだ!」って。

 

パリ:当たり前なんですけどね(笑)。

 

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▲吉本ばななさん×ユザーンさん+パリッコ、鼎談収録時の様子

 

ナオ:素朴な疑問として、そんなすごい方たちと同席して緊張しないですか?

 

パリ:そこはあの、最初はもちろん緊張しますけど……あとは酒の力で(笑)。

 

ナオ:ははは、酒の力すげー。でも確かに、美味しいつまみとかを食べた時、感じることはみんな大体同じですもんね。

 

パリ: そうそう。「これうまいね!」「そうだね!」って。西野カナの歌よりも幅広い世代が共感するテーマというか。

 

ナオ:うまい店の肉豆腐とか、累計100万枚以上売れてますもんね。

 

パリ:今まで肉豆腐より売れたCDはないんじゃないかな?

 

ナオ: CDの負けだぁ。

 

理想の酒場の条件は、ホッピーのナカがなるべく多い店!?

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▲スズキナオさん。「チミドロ」というテクノラップバンドのリーダーでもある

 

パリ:『酒のほそ道』という、飲兵衛のバイブル的漫画の作者、ラズウェル細木先生にも登場していただいたんですが、ばななさんと共通するのが、偉大な人ほど偉ぶらないし、本当に立場の違いによる垣根を感じさせないようにしてくださるんですよね。

 

ナオ:我々、たまにラズウェル先生と飲ませてもらったりしますが、世代もずいぶん上の大先輩なの「教えてやる!」みたいなこと一切ないですもんね。自分が今後何年もお酒と上手に付き合っていくことを考えたら、すごく色々なハードルがありそうじゃないですか? 健康とか。

 

パリ:ですよね。だけどラズウェル先生なんか、どう見たって若いし、スマートだし、本当すごいですよね。あの方こそ日本の酒飲みの鏡だって思うなぁ。それでいて、ちょっとネタバレになっちゃいますけど、インタビュー中で先生が語ってくれた理想の酒場の条件が「ホッピーのナカがなるべく多い店」という(笑)。

 

ナオ:庶民感覚までも忘れてない(笑)。ラズウェル先生のインタビュー会場は、石神井公園の「スマイリー城」でしたね。先生が焼鳥を焼いてる写真がまた良くて。

 

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▲先生が焼鳥を焼いてる

 

パリ:そうそう。お客さんが自分で焼き鳥を焼ける店なので。まず店員さんに「どっち側の人が焼き手をやりますか?」って聞かれるんですよ。それによって配置が変わって。で、僕はインタビュアーなんですけど、「あ、そっち側でお願いします」って(笑)。絵的に絶対、先生が焼いた方が面白いと思ったからなんですが、そういうことも笑って許してくれるという。

 

ナオ: 先生の焼いた焼鳥を食べたなんていいなー。

 

パリ:絶品でした。

 

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▲焼鳥の味を思い出して酒を飲むパリッコ

 

「うまいもの」が好きか、「酒場」が好きか

ナオ:吉田戦車先生の取材には、僕もはしっこの方で立ち会わせていただいて光栄でした! 大ファンなので。

 

パリ:僕もです。我々の世代は特に影響受けてますよね。学生時代、夢中で『伝染るんです。』や『ぷりぷり県』を読んでいた自分が、まさか先生と酒場で同席する日がくるなんて思ってもいませんでしたよ。

 

ナオ:ね! そして戦車先生も穏やかで、どんな店にも良いところを見つけて愛しそうな、器の大きさを感じましたね。

 

パリ:共通してますよね。そういう寛大さって、場や人をどれだけ楽しめるかっていう、「うまいもの」が好きか「酒場」が好きかっていう違いというのがひとつ、ポイントとしてあると思うんですけど。

 

ナオ:確かに。会場となった吉祥寺の「闇太郎」も、お客さんでもマナーが悪ければ遠慮なく注意したりする、愛すべき大将のいる居酒屋なわけで、それに対して「こっちはお客様だぞ!」って怒る人もいれば、戦車先生のようにそういう部分も含めて楽しみ、通うお客さんもいて。

 

パリ:闇太郎の大将なんか最高すぎて、うちら一発で惚れましたけどね(笑)。

 

ナオ:はは。で、さらには、家での料理、晩酌の楽しみ方の話などもたくさんしてくださって。

 

パリ: 最高でした。家族でキャンプへ行って、周りはみんなバーベキューしてるなか、ガスコンロでおでんだけ食べた話とか。しかもお子さん連れで(笑)。「練り物は甘すぎて飽きる。大根が普段の2倍おいしかった」みたいなことを大真面目に語る楽しみというか。

 

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▲「すごい引力をもった店だったな~」と闇太郎に思いをはせる

 

磁場は「赤羽」じゃなくて「清野とおる」なのかも

ナオ:『東京都北区赤羽』の清野とおる先生と、赤羽の“赤”ではなくて違う色の付く街で飲もうというコンセプトで「白山」で飲み歩いてた企画も面白かったです。あれ、かなりの時間、ただ歩いてるだけでしたよね。

 

パリ: あの日、2時間くらいはただ歩きました(笑)。

 

ナオ:危うく酒場が関係なくなりそうな。でも清野さんと歩いてたら、それだけで酒が不要なくらい楽しそうですよね。

 

パリ:清野さん初のグルメ漫画『ゴハンスキー』の単行本第1巻に、僕も何話か登場させてもらってるんですね。その中で、全然赤羽じゃない、僕の地元の練馬区に清野さんが来てくれて一緒に飲むエピソードがあって、そういう時もやっぱり、清野さんの周りだけにおかしな人が現れるんですよね。強力な磁場を持っているのは、実は「赤羽」じゃなくて「清野とおる」なんじゃないかっていう。かせきさいだぁさんと清野さんも面識があったらしいんですが、かせきさんも清野さんに対しては同じようなことを言われてて。

 

ナオ:(笑)。かせきさんのお話にも色々な発見がありました! 俺、インタビューでかせきさんが出身地である静岡の話をたくさんされているのを読んで、さっそく静岡までおでん食べに行きましたもん。

 

パリ:それはすごい! 確かに聞かせてくださる話が全部、なんだか幸せそうで、真似したくなるんですよね。こたつの上に新聞紙敷いて、大好物の落花生をバリバリむきながら食べるとか、忘れかけてた幸せの形だなって思いました。

 

ナオ:実家が酒屋と居酒屋をやっていて、 小さい頃から“ザ・酒場”な環境で育っていたというのも意外で。

 

パリ:実家がそういう人って、僕らからするとサラブレッドなわけで、まさかシティー派、世田谷カルチャーのイメージが強いかせきさんが生粋のサラブレッドだったとは!と。僕はとにかく昔からかせきさんのファンで、じっくりとお話を聞いて人間的にもさらに大好きになってしまいました。あまりにも質問しすぎて、全体の1/10 くらいしか本誌に収録できなかったのが残念で……。LB(リトル・バード・ネイション)黎明期のお話なんか悶絶ものだったんですが。

 

ナオ:たまりませんね! それでもかなりボリュームありましたよね。でも確かに、どの対談も、収録できたのってほんの一部でしょう?

 

パリ:そうなんですよ。何しろ本当にがっつりと飲みながらなんで、押切蓮介先生と山本さほ先生が、超ディープなゲームトークを30分くらい繰り広げていても、面白すぎるけど収録できないですもんね。

 

ナオ:その対談の中では、漫画『岡崎に捧ぐ』に出てくる幼馴染の「杉ちゃん」こと、ミュージシャンのディスク百合おんさんが、実は山本先生にとってすごく重要な役目を担ってたってことがわかって面白かったです。

 

パリ:彼がいなければ『岡崎に捧ぐ』はこの世に誕生していなかったのかもしれないという。ただ、その話はファンの間では有名だったりするんですが、その時の詳細な状況を聞くと、ところどころ美談でもなかったり(笑)。そこにも酒に酔った勢いがあったりして、そのあたりの話がひっくるめて聞けたのは最高に面白かったですね。

 

尊敬できる酒場人の共通点は「偉ぶらないこと」

ナオ:そして最後に、坂崎重盛さんのインタビューがこの1冊に重厚感を与えていて。

 

パリ:今回のインタビューで唯一僕が同席できなかったのですが、編集部からの強い推薦でご登場いただきました。僕も大好きな『東京煮込み横丁評判記』という本では、本当に気取らない飲み歩きエッセイを書かれてたりしますけど、実際に昔、僕とナオさんで立石で飲み歩いた時、路面店の、それこそ超~大衆的な飲み屋でお見かけしたりしましたよね。

 

ナオ:うんうん! ああいう店に普通にいるのはすごいっすね。

 

パリ:江戸川橋の居酒屋にいらっしゃるのを見たことあって、本当に現場主義というか。

 

ナオ:かっこいいですねー。

 

パリ:THE ALFEEの坂崎さんの叔父さんにあたる人で、文化人としての憧れでもあったらしいですよね。で、やっぱり気取らずに色々話してくださるんですが、その話に重みがありすぎて。

 

ナオ:文化とともに酒がある感じで、東京の少し昔の風景も出てくるし、 歴史を感じましたね。

 

パリ:ロマンのある、憧れる世界ですよね。ただ、感覚はやっぱり変わらない、というとおこがましいんですが、今回のインタビューの中でも、阿佐ヶ谷の某ロックバーで、どう見ても混んでないのに「満席です」って断られてしまったらしく、それを怒るんじゃなくて楽しんでたりして。そういう、おごらない、偉ぶらないっていうのは、言ってみれば、尊敬できる全酒場人に共通する部分なのかなと。

 

ナオ:そこは通じてますよね、みんな。

 

パリ: 通じすぎててこわいっす。

 

ナオ:まとめると、そういうお酒の楽しみ方のヒントがたくさん詰まった本ということですね。

 

パリ: そうなんです。わかりやすいまとめありがとうございます!

 

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▲キャッシュオンの立ち飲み屋で残った小銭は、次の店に持ち越しがち

 

というわけで『酒場人』、とても短時間で魅力を伝え切ることのできないような、本当に濃密な一冊に仕上がりました。

今回エピソードをご紹介したような対談、インタビュー以外にも、ちょっと他では読めないようなディープな記事がたっぷりと詰まってて、読めば酒場に繰り出したくなること間違いなし。コンビニ、書店などでお見かけの際は、是非手にとってみてください。

 

2016年4月18日には第2号目も発売予定。乞うご期待!

 

書いた人:パリッコ

パリッコ

DJ/トラックメイカー/漫画家/居酒屋ライター/他。FUNKY DANCE MUSIC LABEL「LBT」代表。酒好きが高じ、雑誌、Webなどの媒体で居酒屋に関する記事を多数執筆中。

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