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秋葉原に中華の“秘境”見つけたり。「過橋米線」で激レアな雲南料理を食べる

神田 こだわり 雲南料理 西牟田靖

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中国は広い。面積は日本の約25倍。冬はマイナス40℃以下という酷寒の地があるかと思えば、冬でも泳げてしまう常夏の場所すらある。国境を面しているのはロシア、モンゴル、北朝鮮、インド、カザフスタン、アフガニスタンにベトナムなど。実に14カ国にものぼっている。

中国の内陸、その最南部に雲南という名の省がある。

省とは日本でいう都道府県に当たる行政単位。県にあたるといっても雲南省だけで約4659万人(2012年末)、面積は約39万平米と日本とほぼ同じ。西にミャンマー、南にラオスとベトナムと面する内陸の山岳地帯という特徴を持っている。

緯度が低く、常夏の場所ばかりかと思いきや、山が多いため、常夏ではなく常春の場所があったり、万年雪をいただく5000メートル級の山があったりもする。気候や地形がバラエティに富んでいるため、南国の果物やキノコ類など、食材は豊富。中国の他の地域にはない特色ある料理が特徴だ。

 

雲南の山を越えると、気候や風景、人の顔や衣装がかわった

今回はそんな一風変わった雲南料理を食べさせてくれるレストランを紹介してみよう。と、その前に思い出話を披露させていただきたい。

 筆者は昔、雲南省を2カ月ほどかけて旅行したことがある。シベリア鉄道に乗って北京からモスクワへ向かうつもりがトラブルに巻き込まれて乗り遅れ、失意のなか、何のあてもなく向かったのが、雲南省だったのだ。出かけたのは1992年だから、もう20年以上前のことになる。省都の昆明(クンミン)から夜行バスで一晩、長いときは二晩かけて、あちこちに出かけていった。

ちなみにこの昆明、人口300万人を超えていて、年間を通して20℃を超えない気候から春城と呼ばれている。

 

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野を越え山を越え。ガードレールのない山道をすすんだり、あるときは震動のためにシートが壊れたり。田園風景を望んだり、落石に行く手を阻まれたりしながら、シートに座り、ひたすら耐えに耐え、目的地へ向かった。

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かつて川端康成が「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」と書いたように(『雪国』より)、山を越えると世界がかわった。雲南の山をバスで越えると、気候がかわり、風景がかわり、住んでいる人々の顔立ちや衣装がかわっていった。

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市場に行くとこの通り。売っている物も劇的にかわった。左上から時計回り順に芭蕉(バナナ)に菠萝蜜(パイン)、芒果(マンゴー)に椰子(ココナッツ)、そして甘蔗(サトウキビ)。

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市場の中や道路沿いには露店があり、ありとあらゆる食材を扱っていた。写真には写っていないが、雷おこしのように固めた納豆やみそ、なれずしといった発酵食品が売られていて、中華料理というより日本料理に近い気がした。ミャンマーの国境近くの少数民族の路上市には日本でも食材として使われている蜂の子が売られていた。

もしかすると、漢民族の支配に絶えかね、南に逃げたのが雲南の人たちで、海を越え東に逃げたのが日本人ではないか。確証はないがそんな気がした。

 

下の写真は屋台で食べた麺類。右はミャンマー国境の街で食べたインド系の店主が作るカレー味のラーメン、左は肉団子たっぷりの麺。どちらも米の麺だった。

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23年前の筆者。弱冠22歳。意外なことに現在と体型はほとんど変わっていない。にしても屋台の餃子は美味しかった。

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スパイシーでホクホク感がたまらない山椒ナス

さて。昔話はこのぐらいにしておこう。筆者にとっては懐かしく、おそらくほとんどの『メシ通』読者にとっては珍しい、雲南省の料理を扱う店があるというので出かけてみた。それが今回紹介する「過橋米線」(かきょうべいせん)である。

秋葉原の電気街からほど近いところにあり、最寄りの駅は都営地下鉄の末広町駅。そこから徒歩1分だ。

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平日、18時すぎの店内。この後1時間もしないうちに満席になった。なかなかの人気店である。

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店内の壁にはエジプトの遺跡によく見られる象形文字、ヒエログリフに似ている壁掛けが。これはナシ族が使うトンパ文字というものだろうか。

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ちなみに雲南料理だが、お店のウェブサイトによると次の通り。

雲南省は、中国の西南部に位置し、年中春のような天候が続いており、「植物王国」「香料王国」「薬草の故郷」「キノコの故郷」などと呼ばれています。山の幸に恵まれ、豊富な天然食材にこだわり、各少数民族の食習慣や知恵を絞りながら「過橋米線」や「気鍋鶏」などを代表とする雲南特有の食文化が発展されてきたのです。雲南特産の味噌や宣威ハムを使いながら、古くから香りよく軽微な辛さや酸味を表す特徴が伝えられる一方で、新しい菜肴の創作方法を絶えずに代々の雲南人に探究されつつあります。

そう、「架橋米線」というのは料理の一種らしいのだ。ほとんどの日本人にはまだなじみがないのではないだろうか。

 

さて、お通しはピーナッツとキュウリ。小皿料理は30種類もあり、すべて298円。

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ひとまず、現地風の飲み物「アモンドミルク」(298円)。現地の屋台にありそうな味だ。飲み物はソフトドリンクの他、ビール、焼酎、ワイン、日本酒、カクテルと各種取りそろえてある。中国酒は紹興酒、白酒などがメニューにあった。

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雲南家庭料理の「山椒ナス」(894円)。ナスをニンニクとともに揚げてあって、まるでジャガイモのようなホクホク感。そしてかなりスパイシー! これは雲南で食べてないなあ。広すぎて網羅しきってないらしいぞ。

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滋味深い鶏スープと、厚揚げと餃子のミックス料理

次はこの店の二大名物の一つで、代表的な雲南料理である「薬膳気鍋鶏」(やくぜんきなべどり、894円)。

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店のウェブサイトには「雲南料理に使われる汽鍋(チーグォ)という、独特の形をした鍋に、食材と薬材を入れた料理です。まるで小さな、しゃぶしゃぶ鍋なのですが、穴が小さいところがポイントになります。蒸気を循環させて、中に入れた食材や漢方薬は時間をかけて蒸します」と紹介してあった。

一見したところ、鶏のスープといったところだろうか。しかし、鶏のダシが嫌というほど出ていて、中には鶏肉というより鶏ガラそのものといった骨だらけの鶏肉がぎっしり。同行した『メシ通』の担当編集者Mは唸りながら「こんなに濃い鶏ガラスープを食べたことがあるだろうか」とひと言。確かに濃厚! 

油っこいのに、身体の中から健康になっていくような、滋味深いスープだ。塩と少しの香辛料しかつかっていないのに、独特の濃厚さがある。表面には鶏の脂がギトギト浮いており、この脂と薬膳の効果なのか、身体が温まる感じ。

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「老江湖豆腐」(ロウジャンフードウフ、745円)。一見すると、天飯か麻婆豆腐風。ところがレンゲで割って、口の中に入れると、厚揚げの中には餃子の具(ひき肉)という意外な組み合わせ。厚揚げの上にかかっている麻婆豆腐のタレという組み合わせも面白い。「俺のような餃子も厚揚げも好きなヤツにはたまらない料理ですよ」と編集M。

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後でウェブで確認してみると、上にかかっていたのは麻婆豆腐のタレではなく、雲南の味噌なのだという。思ったよりは辛くなかった。

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お店の名前にもなっている雲南省の伝統料理「伝統雲南過橋米線」(894円)。なんだかつけ麺のような見かけをしている。

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これは筆者も省都、昆明で食べた記憶がある。フィルム時代だったのでけちって写真を撮らなかったが、油が膜となり、冷めにくく温かい麺だったと記憶している。

ちなみに過橋米線という変わった名前にはいわれがある。お店のウェブサイトから引用してみよう。

昔、ある秀才が蒙自の南湖にある小島で科挙の試験勉強に励んでいた。聡明な妻が食事を作って運ぶのだが、彼がすぐに食べないので、いつも冷めてしまう。ある時、妻が鶏のスープの壺を触ると熱い。中を見ると、上に油の熱い層があり、熱気を封じ込めていた。妻はこれにヒントを得、この後、夫に運ぶ麺のスープに鶏油を貼るようになり、夫に熱い麺を食べさせることができるようになった。いつも「橋を渡って行く」ので“過橋米線”という。

食べ方はかなり独特だ。麺以外の具は、鶏肉、豚肉、宣威ハム、チャーシュー、いかの皿、鶉卵、湯葉、もやし、豆苗の小皿。この順番でラーメン鉢に入れていくよう、店員から助言された。

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 20年以上前なのでさすがに入れる順番は忘れていた。

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具を入れて食べてみる。あっさりしているけど具だくさんな鶏だしのラーメン風。麺はラーメンにしてはやや太めで、色も白いので、ちょうど稲庭うどんのよう。

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さきほどの「薬膳気鍋鶏」もそうだが、雲南料理は非常にヘルシーである。食べること自体が薬のような効果があるのかも知れない。

 

シメは「普洱茶(プーアル茶)」(298円)をホットで。このお茶、実は雲南省が原産のお茶なのだ。血圧を下げ、血の巡りを良くする効果があり、専門店で買うと値段はピンキリ。筆者も実は結婚式のお祝いに20年物をいただいたことがある。

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身体に良さそうで、普通の中華とは少し違った独特な雲南料理。アキバの本店でぜひ食べてみて下さい。

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おまけ:お店の壁にはこんな色っぽい壁掛けが!

 

お店情報

架橋米線

住所:東京都千代田区外神田6-5-11 MOAビル1F
電話番号:050-5834-5826
営業時間:11:30~14:30 、17:00~23:30 (LO23:00) 
定休日:無休
ウェブサイト:http://www.hotpepper.jp/strJ000678864/

 

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書いた人:
西牟田靖(にしむたやすし)

1970年大阪生まれのノンフィクション・ライター。多すぎる本との付き合い方やそれにまつわる悲喜劇を記した自著「本で床は抜けるのか」(本の雑誌社)を2015年3月に出版。主な著書は「僕の見た大日本帝国」「誰も国境を知らない」など。

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