「こちら側のどこからでも切れます」は本当なのか?パッケージの謎についてメーカーの担当者に聞いてきた

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お菓子を食べるとき。
料理をするために冷蔵庫から食材を手にしたとき。
疲れたから今日はカップ麺で済まそうと思ったとき。
お弁当やお惣菜を買って帰ったとき。

たいていの場合、食べる前に必ず出合うものがあります。

 

「パッケージ」です。
食品を包む袋やフィルム、入れ物のことです。

 

飲み食いしたら捨てられるパッケージですが、道具を使わずに手でさっと開けられるととっても気分のいいもの。その快適性の裏には数々の企業努力が秘められています。今回は、身近にありながら普段あまり気に留めることのない「パッケージ」の秘密について、さまざまなメーカーのご担当者に話をうかがいました。

 

「こちら側のどこからでも切れます」のしくみは?

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▲カップ麺についている粉末スープの袋。これを開けなければ食事にありつけない!

 

インスタント食品の粉末の袋やお菓子の袋、納豆のタレやお弁当の醤油やわさびの袋など、ありとあらゆる食品袋に表示されたこの言葉。これは「マジックカット」と呼ばれる開封加工が施されたパッケージで見かける言葉です。これは実際にやってみると、

本当に「どこからでも切れます」

 

手でストレスなくスッと開けられます。このワードに裏切られた経験があるという人は、たぶんそれは類似商品であって「マジックカット」ではありません。
※一部「マジックカット」ではないものあります。

 

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▲「マジックカット」が施された箇所であれば、上からでも横からでも切れるのだ


「マジックカット」は食品だけにとどまらず、医薬品や電子部品にも多岐にわたって採用されている日本独自の技術の結晶。そんなヒット商品である「マジックカット」について、開発元である旭化成パックス フィルム営業部 永松さんにうかがいました。

 

―― 「マジックカット」って切れ目が入ってなくてもスーッと切れますよね。なんでですか?

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▲表面にたくさんのキズがついている(画像提供/化成パックス株式会社)


永松さん:
袋の表面に小さな三角形の “キズ” が無数についています。このキズの大きさや形、キズとキズの間隔や加工面積に対する比率などを研究して試作を繰り返した結果、「マジックカット」が誕生しました。袋に無数のキズを加工するために特殊な刃を開発しています。

 

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▲キズの拡大写真、よく見ると三日月形をしている(画像提供/化成パックス株式会社)

 

―― 「マジックカット」と書かれていないものもあるんですか?

 

永松さん:商品によっては「マジックカット」「Magic Cut」「笑顔のマーク」のいずれかを表示しています。表示のないものはマジックカット製品ではありません。

 

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▲笑顔マークから文章まで、商品によってロゴはさまざま(画像提供/化成パックス株式会社)

 

―― 商品化して30年になるとか。開発のきっかけは?

 

永松さん:「マジックカット」の仕組みのことを私たちは「易開封技術」と呼んでいますが、1982年に特許申請をして1987年に登録されているので、2017年でちょうど30年ですね。きっかけは、当時の専務が出張帰りにビールとおつまみを買って新幹線に乗った際に、おつまみの袋がうまく開けられなかったんですそこで、帰社後に「指で簡単に開けられる袋を作れないか」と持ちかけたのがきっかけです。それまでにもさまざまなパッケージを作っていましたが、このときから「開けやすさ」に注目して開封技術の研究を始めました。

 

―― 日常の小さなストレスがきっかけに! 商品化したことで何か新しい変化はありましたか?

 

永松さん:「マジックカット」の技術を応用したさまざまな商品が誕生しました。食料品の他にも医薬品や電子部品など、内容物の性質や形、数によって、それに対応した機能的なフィルム包装を開発しています。今ではどこからでもまっすぐに切れる「マジックカットストレート」や、粘着剤が残らずにどこからでも手で切れる結束テープ「マジックカットテープ」など、入れるものや開け方のニーズに合わせて、数多くのフィルム包装を製造販売しています。

 

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▲粉末からソースのような液状のものまで、あらゆる中身を包装することができる(画像提供/化成パックス株式会社)

 

―― たくさん種類があるんですね。パッケージを開発するにあたって大切にしていることを教えてください。

 

永松さん:弊社の製品はどれも生活に密着したものです。ですから、日常の困ったこと、あればいいなと思うもの、大きな夢ですが「昨日まで世界になかったもの」を実現化していきたいです。生活が便利になって皆さんに喜んでいただけると、私たちもうれしいですね。

 

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▲中身が折れたり割れやすいものでも、形を保ったまま開封することができる


ちなみに、「マジックカット」が施された製品であれば、ほとんど場合は簡単に開けることができますが、お弁当に入れられた調味料の袋など、油や水分がついていると開けにくいことも。そんなときは、「使用するシーンや環境に影響されない技術の開発は私たちも意識しているところですが、現状では袋についた油分は拭き取っていただくと、スムーズに切れると思います(永松さん)」とのこと。

 

進化を続けるビールの容器

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▲(画像提供/キリン株式会社)

 

お次は、ビールの缶とびんについて。
コンビニやスーパーの陳列棚を見ると一見どれも同じように見える缶やびんですが、よく見ると商品によって使う素材や形状に違いがあることに気づきます。そこで、「キリン一番搾り生ビール」や「キリン 氷結」、「キリン のどごし<生>」に代表される、キリン株式会社 コーポレートコミュニケーション部 菅原さんにうかがいました。

 

―― 缶にはアルミ缶とスチール缶がありますが、だいたいコーヒーはスチール缶、ビールはアルミ缶のようです。使い分けの基準は何でしょう? 

 

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菅原さん:一部例外もありますが、一般的には薄くて柔らかいアルミ缶は中から圧力がかかる炭酸飲料に向いています。一方で、かたくて丈夫なスチール缶は、中身が充填(じゅうてん)された状態で高温・高圧で殺菌処理(レトルト殺菌)をするお茶やコーヒーに向いているんです。最近では、どちらの飲料にも使える底が白くて丈夫なスチール缶の一種「タルク缶」も開発されましたが、弊社の炭酸を含む商品は大半がアルミ缶を使用しています。

 

―― 中身によって違うんですね。チューハイやジュースの缶も違うんでしょうか?

 

菅原さん:ビールと他の商品の違いというよりも、製品の特長によって違います。缶の形状や薄さについてもさまざまな缶があるんですよ。

 

―― では、ビール缶はなぜ350mlと500mlなのでしょうか?

 

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菅原さん:もともと日本の飲料缶の容量は200mlと250mlが主流でした。諸説ありますが、200mlは牛乳瓶サイズが受け継がれたと言われています。一方で、缶の先進国であるアメリカでは12オンス(米液量オンス)、16オンス缶が主流でした。日本にアメリカ製の製缶機が輸入されたので、次第にアメリカンサイズが標準化していったと聞いています。現在の350ml、500ml缶は12オンス、16オンスをキリのいい容量に変換したものです。ちなみに135ml缶も販売していますが、こちらは主にお酒の弱い方やシニアの方など、あまり量を飲まない方にご購入いただいております。お供え物としてご使用になる方もいらっしゃるようです。

※オンス=ヤードポンド法における質量や液量の単位で、液量(体積)の方を「液量オンス(fluid ounce、記号はfl oz)」と呼ぶ。アメリカとイギリスで若干異なり、アメリカ液量オンスでは1us fl oz≒29.5735mlとなる

 

―― 大びんは633mlとずいぶん中途半端ですよね。数字の根拠は何でしょうか?

 

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▲中途半端な容量に思える大びん(画像提供/キリン株式会社)

 

菅原さん:昔は容量の規格がなかったのでサイズもまちまちでしたが、1944年(昭和19年)8月に、当時メーカーで使用していたびんの中で最も容量の少ない「三合五勺一才(さんごうごしゃくいっさい)」に統一されました。これが現在の大びん1本の容量で、メートル換算だと633mlになります。小びんも同様に一合八勺五才(334ml)に統一されています。

 

―― そういえばワインにはペットボトルがありますが、ビールではないんですか?

 

菅原さん:通常のペットボトルはわずかながらも空気(酸素)を通しているので、空気に弱いビールや発泡酒には不向きなんです。でも実はペットボトル入りのビールもあるんですよ。現在は主に「ホームタップ」という弊社の会員制宅配サービスでお届けするビールにペットボトルを使用しています。このペットボトルは、弊社の独自技術で酸素を通さない特殊なコーティングを施し、ビールのおいしさを保つ工夫をしているんですよ。

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▲「ホームタップ」で使用されているペットボトル容器(画像提供/キリン株式会社)

 

さすが大手ならではの技術力!
鮮度を保つためのパッケージ技術も日々進化を遂げているようです。


※「ホームタップ」の詳細はこちら
現在、新会員の募集は好評につき中断しているそうです。

 

―― パッケージデザインに関してのこだわりはありますか?

 

菅原さん:商品それぞれに、その商品のコンセプトにあった工夫をしておりますが、遊び心も大切にしています。例えば、1933年頃からラベルに「キリン」という隠し文字を入れています。明確な理由は不明ですが、デザイナーの遊び心で入れたとも、偽造防止で入れたとも言われています。

 

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▲よく見るとたてがみの中に「キ」「リ」「ン」の文字が書かれている!

 

ちなみに、何かの衝撃で膨らんでしまった缶については、「密封状態であれば開けていただいても大丈夫です。心配な方はお客様相談室などにご連絡いただけると、より的確な対応ができると思います」という菅原さん。心配な場合はお客様相談室へ!

 

目的に応じて形を変えるスナック菓子の袋

続きまして、身近な食品パッケージといえば「スナック菓子の袋」

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開けるときは上の開口部を引っ張って開けるのが一般的ですが、うまく開けられずに無理に引っ張って中身が暴発することも……。そこで、「ポテトチップス」「かっぱえびせん」など、ロングセラーのヒット商品を数多く生み出してきた、カルビー株式会社の広報部 広報課 幕内さんにうかがいました。

 

―― まず改めて教えてください。ポテトチップスの袋の正しい開け方とは?

 

幕内さん:袋の背面にあるつまみ(シール部)の上部をつまんで開封していただくことをおすすめしております。食べかけの袋は、中身が空気に触れないように密封していただくと多少もちは良くなりますが、開封後はできるだけお早めにお召し上がりいただければと思います。

 

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▲やはり上部を開くのが一般的。すべって開けづらいときは手や袋についた油分を拭き取ろう

 

―― 密閉が大事なんですね。それでも食べきれないこともあると思うのですが、開封済みでしけってしまったポテチの復活技はありますか?

 

幕内さん:開封後はお早めにお召し上がりいただくことをおすすめしておりますので、特に復活技などはご案内しておりませんが、個人的には、しけってしまったチップスは辛子マヨネーズと絡めてサンドイッチの具にするとおいしいですよ。

 

―― ポテチサンドですか! 手軽でいいですね。ところで袋の背面の貼り合わせた部分にある「**」マークの意味って何の意味があるんですか?

 

幕内さん:商品を包装する際に、「ズレを防止するための目印」として使用しております。ポテトチップスの袋は、1枚の平たい状態のパッケージフィルムを背中と上下を貼り合わせて袋状にしています。この作業は包装機で行っていますが、人の目で見てもズレがわかりやすいように、背中の貼り合わせた部分(平面時の左右部分)に「**」マークをつけております。

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▲背面の貼り合わせ部分には他社では見られない「**」マークがある

 

―― 最近では「じゃがりこ」や「ポテトチップス クリスプ」などの筒形ケースや、「極じゃが」のように袋が自立するタイプなど、さまざまなパッケージがありますよね。普通の袋と何が違うんでしょうか?

 

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幕内さん:カバンなどに入れて持ち運んでもつぶれないように携帯性をもたせたり、机の上に置きやすいように安定性を重視したりするなど、お仕事や勉強の休憩中に食べていただきやすい形状となっております。

 

―― 商品ごとに食べるシーンを想定しているんですね。ところでポテチの袋って、なんであんなに膨らんでいるんでしょうか?

 

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▲パンパンの状態で売られているポテチの袋(画像提供/カルビー株式会社)


幕内さん:あれは窒素を入れているからです。また、窒素で袋をふくらませることで、割れやすいポテトチップスを守るという目的もあります。ポテトチップスの油が酸化して味や臭い、色などが変わらないために施している、おいしさを守る工夫です。

 

―― パッケージに関して、カルビー独自の工夫があれば教えてください。

 

幕内さん:中身のおいしさを保つことを最重視しております。1975年に発売したポテトチップスは油の酸化が早く、品質維持がとても難しい商品でした。そこで、試行錯誤を重ねて現在では一般的に使用されている「アルミ蒸着フィルム」を1980年代に業界でいち早く取り入れたんです。また、より良い商品、より良いサービスのために、お客様の声から学びたいと考えております。パッケージに関しましても、実際にお客様の声から学ばせていただき、改良した例がいくつもあります。

 

―― 具体的にはどんな改良ですか?

 

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▲シリアル商品「フルグラ」(画像提供/カルビー株式会社)

 

幕内さん:例えば「フルグラ」は、“1度に食べきれないのでジッパーをつけて欲しい” というご指摘を受けてジッパーをつけました。表記についても “原材料名を見ただけでは、アレルゲンとなる食品が使われているのかどうかがわかりにくい” というお声に対して、製品に含まれるアレルゲンが一目でわかるように表示を改良したり、“「フルグラ」1食分の目安を教えてほしい” というお声を受けて分かりやすく表示したりと、常に改良を続けています。また、「じゃがりこ」では、カップの高さを低くすることで、梱包材を無駄に使わない環境対策にも取り組んでいます。

 

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▲目安となる1食分の表示を分かりやすく表記

 

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▲製品に含まれるアレルゲンも大きく目立つように大きく表記されている

 

大事な商品を守るために、そして情報を分かりやすく伝えるのために、パッケージにもさまざまな工夫が施されているんですね。最後に個人的に気になることを聞いてみました。

 

―― 幕内さんが個人的に好きなカルビー商品は?

 

幕内さん:すべての商品が大好きですが、しいて言うなら2017年に発売した「極じゃが」でしょうか。開発担当者が「幅と厚み」にこだわり抜いた商品で、ザックリ、サクッ! とした食感とじゃがいも本来の風味がしっかり楽しめます。スタンドパウチ型のパッケージを採用しており、デスクに置いて食べやすいのでとても好きな商品のひとつです。

 

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▲ざっくりした歯応えで素材本来の味を楽しめる「極みじゃが」(画像提供/カルビー株式会社)

 

大事な商品を守るための工夫が至るところに施された食品パッケージ。
開けたら役目を終えて捨てられてしまう運命の彼らですが、身をていして中身を守る頼もしいボディーガードです。みなさんも、今度は食べる前に少しだけ、彼らに注目してみてください。

 

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 「ありがとうパッケージ。 

 そして、さようならパッケージ(モグモグ)」

 

【番外編】カルビーの人がすすめる! 「簡単ポテチサンド」

カルビー広報部の幕内さんがおすすめしてくれた、しけったポテチの活用法「ポテチサンド」にチャレンジしてみました。用意したのは、「ポテトチップス のしりお」「ポテトチップスギザギザ コク深いチキンコンソメ」「ピザポテト」の3種類。

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【作り方】

  1. マヨネーズに練りがらしを適量混ぜる。
  2. そこにしけったポテチをちぎって混ぜる。
  3. 好きなパンではさむ


以上!

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▲今回はホットドッグ用のパンで3種類作ってみた

 

ポテチが食べ応えのある「具」に変身!

 

食べてみると、意外にポテチ感は薄く、チップスが適度な塩気のある「具」として存在感を発揮しています。パンの相性ともマッチ。ジャンクなスナック菓子が見事にお総菜パンに化けています。
 
刻んだハムを入れたり、お好みでブラックペッパーをふったり、玉子サンドやコールスローサラダに砕いたポテチを混ぜ込んだり、アレンジしてもきっとイケるはず! しけっていないポテチならザクザクとした食感も味わえます。説明するまでもなく簡単なので、機会があればぜひチャレンジしてみてください。

 

といっても、ポテチを余らせることはまずない山口でした。

 

書いた人:山口紗佳

山口紗佳

ビアジャーナリスト/ビアテイスター 1982年愛知県出身、名古屋と東京の編集プロダクションで雑誌や広告、書籍の制作経験を経て、静岡県西部でビール代を稼ぐフリーライターに。休日はオートバイで食材調達ツーリング。ビールとバイクと赤が好き。

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