「くさうま」と呼ばれる宇部ラーメンをご存知でしょうか。
首都圏での知名度はあまりないかもしれませんが、山口県の宇部市内で60年間ひっそりと受け継がれてきたご当地ラーメンです。
その特徴はこんな感じ。
- 本州では唯一、久留米ラーメンの流れを汲んだ、正統派とんこつラーメン
- 茶色く濁った濃厚なとんこつスープと、やわめに茹でた中太麺の組み合わせ
- とんこつラーメンでありながら、キクラゲではなくシナチク(メンマ)をのせる
- 強いとんこつの臭いと後を引く味のうまさ(通称「くさうま」)
▲宇部を代表する一久のラーメン(写真提供:株式会社一久食品)
宇部市内外に8店舗を展開する“宇部ラーメンの雄”こと「一久(いっきゅう)」ではなんと、50年も前の昭和45年からお持ち帰り用のラーメンを販売しているとのこと。まさにお土産ラーメンのパイオニア! これだけ歴史の古いお土産ラーメンを、わたしは他に知りません。
今回は巣ごもり生活が続く今だからこそ、おうちで手軽に食べられる一久のお土産ラーメンを紹介したいと思います!
麺! スープ! 具材! すべてがお店仕様
▲ホームページから注文ができます
「昔ながらの」という枕詞が似合う一久のホームページですが、こちらから通販の注文ができます。着払いや銀行振込のほか、カードも使えるのがうれしい。
さて、今回注文したのはラーメン2袋、ぎょうざ、特製チャーシュー、特製シナチク(メンマ)。まずは届いた商品を見ていきましょう。
▲パッケージにいる女の子の名前は「きゅうちゃん」というそうです
▲これが一久のお土産ラーメン。手に持つとずっしりとした重さを感じます
お土産ラーメンはなんと490円と、価格もとってもリーズナブル!
それにこのラーメン、山口県内のデパート、スーパー、空港などで販売されていますが、お店の味そのままのストレートスープや生麺を使っているため、「お土産」としては異例の消費期限の短さ(届いてからわずか一週間!)。
▲重さの秘密は原液スープでした
スープは粉末ではなく、お店とおなじスープをそのままパック詰めするというこだわり。誰でもかんたんにおいしいラーメンが食べられます。
そもそもこのお土産ラーメン、店舗開業当初は良いスープが出来ているにもかかわらずお客さんが来ないことがしばしばあり、捨ててしまっていたスープをどうにか活用できないか? という発想から生まれたそうです。
ちなみに50年前はスープを袋に入れ輪ゴムで縛り、冷まして冷凍、具と麺を別の袋に入れ包装紙に包んでいたんですって。それがおいしいと評判になり、“宇部ラーメンの雄”と言われるようになった現在も、お土産ラーメンにこだわっているとのこと。
お店そのものの味を楽しめるお土産ラーメンは今でこそ珍しくなくなりましたが、50年前からこんなにこだわっていただなんて……!
▲特製チャーシュー
同じく通販で買える特製チャーシューは、なんと270円(8枚)という破格の値段。ふつうのラーメン屋さんだと1枚100円くらいしますよね……!
お土産ラーメンに同梱されているチャーシューは、日持ちをさせるために一度ボイルしているそうですが、特製チャーシューはボイルをしていないお店そのままの味です。そのため、製造日からわずか3日しか持たないんですって。
比べてみると一目瞭然! 同梱のチャーシュー(左)と特製チャーシュー(右)では大きさがひと回りほどちがいます。食感もかなり変わるので、ぜひとも特製チャーシューを頼むことをおすすめします!(食レポは後ほど)
同様に、シナチクも比べてみると厚みがぜんぜんちがいます。手前の2本がラーメンに付属のもの。奥の2本がトッピング用の特製シナチク(240円/100g)。
こちらも製造日から3日しか持ちませんが、お店そのままの味を楽しめるので、ぜひ併せて購入してみてはいかがでしょうか。
ぎょうざだって生!
そしてラーメンと並ぶ一久の名物といえば、ぎょうざ(350円/10粒)。
▲チルドタイプの生ぎょうざ
冷凍ぎょうざを使うチェーン店が多いなか、一久では生のぎょうざにこだわっています。
▲どうですかこのツヤ
主な具材はキャベツ、玉ねぎ、豚バラミンチ。キャベツは阿知須産、玉ねぎは秋穂産と地元山口市の契約農家から新鮮な野菜を仕入れているそう。野菜のカットから脱水、ミンチ製造過程にいたるまですべて自社工場で行っているため、保存料などはいっさい使っていません。そのため、これまた消費期限は製造から4日間。
▲まずはぎょうざを焼きます
一久さんいわく、「表面に焦げ目がついたら、ぎょうざの高さの1/4くらいの水を入れて、フタをして蒸し焼きに。水気がなくなる少し前に、ごま油を大さじ1杯くらいフライパンに注ぎ、フタをして火力を上げて焼き上げると、より一層カリッとおいしく食べられますよ」とのことです。
▲こんがり焼けました。おいしそう!
特製の皮は、表面がカリッと、底はもっちり。野菜は歯ごたえもあって、しゃきしゃきでおいしいですよ。
一久名物・びっくりラーメンとは?
さて、今回はふつうに宇部ラーメンとぎょうざを作って食べるだけでは終わりません! これらの商品を使って、一久の名物メニューを再現してみたいと思います。
それがこちら、びっくりラーメン。
▲びっくりラーメン(写真提供:株式会社一久食品)
通常の1.5倍の麺にスープ、さらにチャーシュー、シナチク、もやし、わかめ、ネギ、そしてぎょうざまでトッピングした、ボリューム満点の一品です。それにしても、いったいどうしてこんなメニューが!? 株式会社一久食品 代表取締役社長の紀之崎さん、教えてください!
紀之崎さん:はい、現会長が35年前に考案しました。もともと「当社のトッピングを全部のせる」というコンセプトだったのですが、インパクトが足りないということで、「ゴマのすり鉢ぐらいの丼にしてぎょうざものせよう!」となったそうです。
──なんと、インパクト重視だったんですね!
紀之崎さん:はい、店舗で見ると結構迫力がありますよ。現在は使用しておりませんが、レンゲも当初はおじやを作る時に使っていた、大きな木製のものをつけていました。
──それはすごい……! ラーメンの量はどれくらいあるのでしょうか。
紀之崎さん:店舗では通常のラーメン1玉が120g、スープは1杯あたり270ccとなっているのですが、びっくりラーメンはその1.5倍です。
──びっくりラーメンは麺が180g、スープが405ccというわけですね。
紀之崎さん:ただ、ご自宅で再現していただく場合、お土産ラーメンの麺は1玉110g、スープは260ccとなっておりますので、量を正確に再現するのは面倒かもしれません。
──お店のラーメンとお土産ラーメンで麺やスープの量がちがう理由はあるんですか?
紀之崎さん:元々は同じ量、同じ価格で販売しておりましたが、自社工場を作った時にお土産ラーメンの自動販売機を製造しました。
当時はかまぼこ用の自販機を流用したのですが、箱を含めて重さ400g以上の商品を販売するのが難しかったんですね。そのため今の分量になり、価格もそのぶん安く設定して、現在に至ります。
▲お土産ラーメンの自動販売機(写真提供:株式会社一久食品)
──なんと、お土産ラーメンの自販機があったんですね! そして、それが量の基準になっていたとは……! 歴史があるゆえのエピソードかもしれません。
びっくりラーメンの再現はスピード命だ!
それではお土産ラーメンを使って、びっくりラーメンを再現していきましょう。分量に関しては少し多いですが、麺を2玉、スープを2つ使っていきます!
先ほど作ったぎょうざはいったんテーブルに置いて、ラーメンの調理を始めますよ。まずは鍋をふたつ用意し(スープ・麵用/具材用)、お湯を沸かします。鍋がひとつしかない場合は、スープ→もやし→麺の順番で茹でてくださいね。
▲一久のとんこつスープを……
▲ドボン!
スープを熱湯のなかに入れて4分。そのあいだに具材の準備をしておきましょう。
▲チャーシューとシナチクを並べておきます
お店ではチャーシューは5~6枚、シナチクは80gのせているそうなので合わせました。準備ができたら電子レンジで温めておきます。タイマーは50秒にセット。
▲もやしとわかめ、ネギはスーパーで買ってきました
熱湯でわかめひとつまみを戻しつつ、ネギともやしを用意。
▲もやしを投入!
もやしの分量は「手でひとつかみ」とのこと。測ってみたら100g程度でした。
▲もやしを茹でます
スープを丼にあけたタイミングでもやしを投入。ここからはスピードが勝負です!
▲麺を入れます
先ほどまでスープを温めていた鍋に麺を投入! 一久の麺の茹で時間はなんとわずか50秒!
▲2玉を泳がせます。茹で時間が短いので、差し水はなくてもOK
50秒経ったら麺を引き上げスープのなかへ。さらにもやし→チャーシュー→シナチク→わかめをトッピングし、もやしの上にはネギをちらします。
そして最後に、先ほど焼いておいたぎょうざをトッピングすれば……!
▲これがおうちで作った「びっくりラーメン」だ!
どうでしょう。本家のお店とそっくりのビジュアルでは?
▲あらためて、こちらがお店からいただいた「びっくりラーメン」の画像です
ついに対面したびっくりラーメンの味は……?
さて、一久名物のびっくりラーメン、いったいどんな味なのでしょう。
具を片付けなければ麺にたどり着きません。まずはチャーシューを1枚……うまい。バラ肉を使った特製チャーシューは熱で脂が溶け、ほろりと崩れるような食感。
ラーメンに付属のチャーシューももちろんおいしいのですが、比べてみると食感に大きなちがいがありました。消費期限が短かかろうと、ぜったいに特製チャーシューは追加するべきです!
▲いろんな角度からどうぞ。ぎょうざのインパクトが想像以上に強い
▲こちらから見ると、ぎょうざとネギを支えているのがもやしであることがわかる
ただ、気になる点がひとつ。せっかくカリッと仕上げたぎょうざをラーメンに入れて、食感は失われないのでしょうか?
結論から言えば、それはまったくの杞憂でした。表面はカリッとしつつ、裏側はもちもちのぎょうざの皮は、まるでワンタンのよう。濃いとんこつスープと絡み、想像以上に合います。今度から家でラーメンを作るときはぎょうざをのせよう……!
▲この顔から味が想像できるでしょうか
そして、何といっても基本のラーメンがおいしいです。のどごしのあるストレート麺に臭いが立ちのぼるスープが絡みます。これが宇部ラーメンの特徴「くさうま」……!
宇部ラーメンの雄と呼ばれる一久、宇部市民の心をわしづかみにするはずです。この味に魅せられるファンは多く、実は誰もが知るあの名作アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』にもカップラーメンとしてこっそり登場しているんですって。
味のブレも手作業の証
最後にもう一度、紀之崎さんにお話をうかがってみましょう。
──一久のこだわりはなんでしょうか。
紀之崎さん:創業当時と変わらぬ味を守り続けていることです。また、各店舗ではスープを手作業で仕込んでいます。
──お土産ラーメンは1日に何食ほど出ているんでしょうか。
紀之崎さん:お土産ラーメンは工場で製造しており、1日1,000食を作っています。釜の大きさはちがえど、店舗とおなじ製法で作っているため、スープを炊くのに時間がかかります。また、天然の豚骨を使っているため、日によって味のブレもありますね。これ以上たくさん作ると、良質なスープが提供できないので、1,000食が限界です。
──工場でもお店と同じ方法で作っているんですね!
紀之崎さん:はい、同じ材料でも気候・温度・湿度などで味が変わるため、熟練の感覚が必要です。濃度計なども使用しますが、確認程度ですね。そのため私や社長は午前中工場にびっちり入り、会長もスープの確認に会社に来るほどです。
──お土産ラーメンに対する想いが強すぎる……!
▲想いのつまったお土産ラーメン(写真提供:株式会社一久食品)
──最後に、読者のみなさまへのメッセージをお願いします。
紀之崎さん:はい、昔と変わらぬ製法を守り、変わらぬ味を提供させていただくことが当社の役目だと思います。けっして万人受けするラーメンではありませんが、地域に根付いた味を残していきたい。この一心でがんばってまいります。
「くさうま」な宇部ラーメンを代表する、一久のラーメン。本格的なとんこつスープゆえに臭いも強いですが、ぜひとも一度食べてほしい味です。この機会にぜひ、取り寄せてみてはいかがでしょうか。
とんこつと言えば九州のイメージが強いかもしれませんが、宇部ラーメンを食べずしてとんこつを語ることなかれ! と叫んで今回の記事は締めさせていただきます。