AIが導き出す「ベストなシウマイ弁当の食べ方」は本当に美味しいのか?→食レポしてみた

崎陽軒「シウマイ弁当」の食べ方は人生の数だけある。それでは、“最も美味しい食べ方”をAIに算出させてみたら……? そんな怪企画にチャレンジしたのが、話題の同人誌『食べ方図説』。食レポ&インタビューで研究成果に迫ります!

f:id:exw_mesi:20211013135631j:plain

AI × シウマイ弁当 = ?

「AI×医療」「AI×ビジネス」「AI×将棋」。私たちの常識を一変させるテクノロジーとして聞かぬ日はないAI(人工知能)が、遂に崎陽軒シウマイ弁当の領域に進出! AIによって「シウマイ弁当の食べ方」にイノベーションは起こるのか?

 

f:id:exw_mesi:20210908000821j:plain

(画像提供:食べ方学会)

 

……と仰々しい導入になりましたが、先日出版された同人誌『食べ方図説』の新刊では、「AIに聞いたシウマイ弁当の食べ方」という特集が組まれました。

これまで、シウマイ弁当の品数11種を「どう攻略するか?」について、各界の著名人やアンケートをもとに異様な熱量で研究を進めてきた同誌。

www.hotpepper.jp

「崎陽軒シウマイ弁当編」としては4冊目となる今回は、AIを用いた味覚分析に取り組むAISSY株式会社の味博士・ 鈴木隆一さんの協力を得て、「ご飯とおかずの食べ合わせをAIによって得点付けする」企画となっています。

 

f:id:exw_mesi:20210817004532j:plain

(画像提供:食べ方学会)

 

ページをめくると、個々のおかずごとに味を分析したレーダーチャートが。「しょっぱい」「あまい」などの味覚が定量的に数値データとして出力され、味の違いが一目瞭然。このデータをAI解析にかけてみると……

 

f:id:exw_mesi:20210912002217j:plain

(画像提供:食べ方学会)

 

食べ合わせの相性を100点満点でスコア化。

鈴木先生曰く、99点以上のスコアに出会うことは滅多に無いそうですが、なんと驚くことにシウマイ弁当には99点以上を叩き出した組み合わせが、5つも検出されたとのこと(!)

これまでに検出された99点以上のスコアは、ミシュラン星つきのお店の「肉×ソース」や某チョコレートスナック菓子の「チョコ×スナック部分」など。必ずしも高級料理がハイスコアになるわけではないそうですが、今回の結果には先生も驚きの様子。

……おそるべし、百年越えの長寿企業。長く愛されるには長年の努力があるということですね。

 

いざ、実食!

f:id:exw_mesi:20210810223954j:plain

しかし、AIによる血の通わぬ計算結果を鵜呑みにしてしまっていいのか!? 本当にそれって美味しいの? ということで今回は、横浜在住8年目、シウマイ弁当が血肉となりつつある筆者が「AIに聞いたシウマイ弁当の食べ方」を実食します。

 

f:id:exw_mesi:20210817004644j:plain

(画像提供:食べ方学会)

 

『食べ方図説』ではこのように、データを元に鈴木先生が算出した全34手の食べ順が、数ページにわたって紹介されています。

高スコア群の中でも、特に「芸術的においしい」という99点以上の組み合わせを効率よく食べられるのがAI流です。

目を引くのは、「シウマイ3個に辛子・しょう油をつけ、残りの2個に何もつけない」というトリッキーなスタイル。永きにわたり争いが止まない「辛子・しょう油をつける/つけない論」は終焉を迎えることができるのでしょうか(なお、筆者は全てのシウマイに辛子・しょう油をつける派です)。

冊子を弁当箱の隣に開いて、さっそくいただきましょう。

 

f:id:exw_mesi:20211013135700j:plain

初手、何もつけていないシウマイ。

 

f:id:exw_mesi:20211009180013j:plain

2手、筍煮。

おっと、いきなり奇手が出ました。「シウマイ(何もつけない)×筍煮」というおかず同士の組み合わせは、AIによる解析では99.0点と、滅多にない「芸術的においしい」レベルです。

序盤早々から仕掛けられて面食らいましたが、なるほど、たしかに味の調和がいい。

……というか、美味しい。噛めば噛むほど筍煮がシウマイのうま味を引き出していくようで、99点台の威力を思い知ります。シウマイを飛車、筍煮を桂馬とするならば、敵陣に突入する飛車と、それをサポートする桂馬といった具合でしょうか 。控えめながら扱いの難しかった筍煮が、攻めの立役者となった瞬間でした。

AIによって定跡が変わった将棋のように、シウマイ弁当の世界にも変革が訪れたのかもしれないと思わせる一手です。

 

f:id:exw_mesi:20210726150330j:plain

3手、ご飯一俵。

 

f:id:exw_mesi:20210726150354j:plain

4手、辛子・しょう油つきシウマイ。

これは定跡通りの大駒を使ったダイナミックな勝負手です。「俵型ご飯×シウマイ(辛子・しょう油つき)」に対し、AIの出したスコアは99.2点

もちろん美味いとは知っていたけれど、客観的な指標を見て食べると妙な納得感が。「自分も美味しいと思ってるけど、AIも美味しいと言っている」という二重の理解が得られます。

最近の将棋観戦で、AIの評価値を確認しながら対局を見る感覚にも通ずるものがあるかもしれません。

 

f:id:exw_mesi:20210817004714j:plain

(画像提供:食べ方学会)

 

激しい序盤戦を終えると、中盤は「クライマックスに向けての間奏」とのこと。終盤は怒涛の展開が待っているようです。

 

f:id:exw_mesi:20210726150626j:plain

21手目でご飯1/2俵を口にしてからの、22手、鶏の唐揚げ1/2。

こちらも99点台の神の領域、「俵型ご飯×鶏の唐揚げ」。実は鉄板とされていた「俵型ご飯×シウマイ(辛子・しょう油つき)」よりも、0.1点スコアが高いのがこの組み合わせ。

甘味を多く含むご飯と絡んだ唐揚げは、まるで馬に成った角行のように口内を大暴れします。「馬は自陣に」というセオリーがありますが、もはや終盤の混戦状態に定跡など通用しません。

 

f:id:exw_mesi:20210726150707j:plain

34手、あんず。

その後も激しい攻撃を受け続けましたが、遂に必至。あんずは「参りました」の意。

完食まで15分程度ながらも、一手一手の意味や次の展開を考えながら食べていると、あっという間で充実した時間を過ごすことができました。

「AIの判断を信頼していいのか?」と斜めに構えながら始めた食レポでしたが、批判的思考態度を持ってシウマイ弁当を食べることなんて、普段はなかなかできません。AIの採点をもとに自分の舌でチェックするという行為そのものに、非日常を堪能できます。

結論:AIの評価値を見ながら食べるシウマイ弁当は、美味しいし楽しい。

 

制作者に聞いてみた

せっかくなので、どうしてシウマイ弁当の食べ方をAIに聞いてみちゃったのか、制作者である「食べ方学会」会長の市島晃生さんに伺ってみました。

f:id:exw_mesi:20210726150824j:plain

──「AIに聞いたシウマイ弁当の食べ方」、非常に美味しくて満足しました。これまでは各界の著名人に食べ方をインタビューをされていましたが(冒頭のリンクを参照)、第4巻ではどうしてAIを選んだのでしょうか?

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島さん(以下敬称略):きっかけはテレビ番組に出演した際に、AISSY味博士の鈴木先生と出会ったことでした。休憩中にご挨拶として『食べ方図説』を渡してみたら、すごく興味を持ってくれたんですよね。それで「先生の研究って、シウマイ弁当でもできますよね」と言ってみたら「できますよ」と。
「じゃあ、食べ合わせに点数をつけて順序も出せますよね?」って聞いたら「出せますよ」と即答で、「それならやりましょう!」って。そんなノリで決まりました(笑)。

 

──先生との出会いから企画が生まれたんですね。

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:さらに聞いてみたら鈴木先生が横浜出身だったことも大きくて、それはやるしかないですよね。先生の研究って普段は企業からの商品開発のような、ちゃんと大きな予算が組まれて使われるものなんですよ。同人誌だからノリでやってもらいましたけど、新刊の表紙に大きく飾れるようなテーマができたな、と思いましたね。

 

──それからどういう運びで研究が進みましたか?

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:研究は先生にお任せしているんですけど、溶液があって、その中におかずを入れて潰すんですね。味のエキスが溶液に浸透したら、それをビーカーに入れて分析します。それで出てくるのが、このレーダーチャートです。

 

f:id:exw_mesi:20210726151538j:plain

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:この絵面、めっちゃ理系っぽいじゃないですか。『食べ方図説』にこんな理系っぽい絵面って全くなかったですから、面白くてこのまま載せようと。ちなみにこのチャートも、ルート(平方根)を使ってキチンと算出しているらしいんですけど、全然わかんないんですよね(笑)。

 

──そのあたりは鈴木先生に一任していたと(笑)。

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:どうしても先生にお願いしたかったのが、シウマイに辛子・しょう油をつけた場合とつけない場合の2パターンで点数を出してもらうことでした。そこは譲れないところとして、無理やりお願いしたんですよ。

 

──その結果、辛子・しょう油をつける/つけない論争に終止符が打たれたと冊子の中では結論づけられていますね。

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:そうなんです。今回の最適解は3個のシウマイに辛子・しょう油をつけて、2個のシウマイに何もつけない布陣になりましたけど、これまでの争点って「全部つけるか/全部つけないか」だったわけじゃないですか。
AI的に高スコアのものを食べ続けるためには、つける/つけないの極端な話ではなくて、つけたシウマイとつけないシウマイを、何と組み合わせるかという観点が必要になるんですね。AIによって、長年にわたる議論が終わったんです。

 

──私は全部つける派でしたが、「シウマイ(何もつけない)×筍煮」が本当に美味しくて、99.0点のすごみを感じました。

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:美味しいですよね。私も「俵型ご飯×シウマイ(辛子・しょう油つき)」が最強の組み合わせだと信じて疑っていなかったし、ご飯と一緒に食べないともったいないと思っちゃうから、自力では絶対見つけられなかったはずです。なんなら「俵型ご飯×シウマイ(辛子・しょう油つき)」はスコア的には3位ですしね……。シウマイ弁当のアイデンティティとは? という話にもなってくるんですけど(笑)。

 

「シウマイ弁当ゲノム解析」はまだ始まったばかり

f:id:exw_mesi:20210817004747j:plain

(画像提供:食べ方学会)

 

──人間の発想では到達できない、AIの本領が存分に発揮された企画だったと思います。

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:そうですね。今回は予算の都合で全ての組み合わせを分析できたわけではなくて、「俵型ご飯×◯◯」と「シウマイ×◯◯」だけスコアを出しているんですよね。
巷で美味しいとされている「鶏の唐揚げ×あんず」とか「蒲鉾×玉子焼き」とか、おかず同士の組み合わせも重要なはず。シウマイ弁当ゲノム解析はまだまだ始まったばかりです。

 

──めちゃくちゃ壮大そうに聞こえる話ですね(笑)。でも、AIで全て答えが出てしまったら食べ方学会的にはやることが無くなってしまうのでは……?

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:そんなことないですよ。例えば、今回の結果だと「俵型ご飯×あんず」が90点以上のスコア、つまりAIは「おいしい」と判断しました。でも、これって試さないですよね。
まだAIは不完全で、食感とか匂いとか、人間にとっての美味しさに必要な要素が解析できないというのもありますが、そもそも私はAIに文句をつけてもいいと思うんですよ(笑)。あくまで一つの基準として、「AIはこの組み合わせが美味いと言っている」くらいに捉えています。

 

──絶対的な指標ではないと。

 

f:id:exw_mesi:20210726151327p:plain市島:変な例ですけど、誰かと「俺の食べ方の方が美味しい!」って争いが起きた時に、AIが出したスコアを一つの指標として持ち出すことができるじゃないですか。それって、ゲームになって面白いなと思うんですよね。
もっと言えば、占いみたいなイメージで楽しんでもらえたらと思っています。まあ、科学的に正しいということは間違いないんですけどね(笑)。

 

──なるほど。科学との付き合い方は、現代人にとって重要なテーマですね……。次回以降の研究も楽しみにしています! 本日はありがとうございました。

 

市島さん曰く、「『食べ方図説』は実践用の冊子として机の横に置いて開きやすいように中綴じ製本をしている」とのこと。

ぜひ皆さんも、AIが導くシウマイ弁当のベストな食べ方に挑戦してみてください。

 

書いた人:namahoge

namahoge

95年生まれ、横浜市在住。大学在学時に地域文芸誌『三浦半島ジャーナル』を発行。現在は音楽や料理、文学、ローカルなどをテーマに取材・撮影・執筆を手掛けるフリーライター。好きな料理はお粥。

過去記事も読む

トップに戻る