「冷や汁」、ご存じですか?
こんにちは、郷土料理を研究しているフードライターの白央篤司です。
冷や汁は宮崎県の郷土料理と思われがちですが、実際は日本各地で昔から食べられているもの。きょうはそのごく簡単な作り方と、「本格的にやってみたい!」という方向けのレシピ、そしてちょっと変化球メニューの3本立てでお伝えしますよ。
残暑きびしいお昼などに、ぜひ試してみてください。
冷や汁を「冷たい味噌汁」にしないためのコツ
まず、一般的な冷や汁のレシピを確認してみましょう。宮崎でよく食べられているレシピを参考にしてみます。
- いりこ、ゴマをフライパンなどでから煎りする。
- すり鉢に①、味噌を入れてよくすり上げる。
- よくすり混ぜた②の味噌に焼き目をつける。
- キュウリを輪切りにして塩揉みしておく。大葉は千切り、ミョウガは小口切りにする。
- 3の味噌を水で溶く。
- 4の野菜類を好みの量加える。ごはんにかけていただく。
と、いうものです。
まずもって、大前提となるのが、
このすり鉢とすりこぎがあること。
でも……
「ないよ!!!」
という人が大多数ですよね。じゃあ、どうするか?
「普通に味噌汁つくって冷やして、そこに野菜やゴマを入れればいいんじゃないの?」
と、思われるかもしれません。実際にやってみたんですが、やっぱり「単なる冷たい味噌汁」と冷や汁って全然別物なんですよ。
いろいろ試した結果、冷や汁を冷や汁たらしめているポイントがは2つ。
1:味噌に焼き目をつける。
2:具材に塩揉みキュウリを入れる。
私はこれこそが、冷や汁の味わいを構成する二大柱だと思いました。ほどよく焼きのついた味噌の香ばしさ、揉むことで凝縮されたキュウリの味わいと香りが、冷や汁には欠かせないのです。
味噌にどう焼き目をつけるか
実際に冷や汁を作っている地方を取材すると、練った味噌をそのまますり鉢ごと、直にコンロの火にかける人が多いんです。でも、これは慣れてないと危ない。初心者にはおすすめしません。第一、すり鉢がないとできませんしね。バーナーでもいいんですが、これまた持ってる人は少ない。ということで参考にしてほしいのが上の写真。アルミホイルとオーブントースターを使って焼き目をつけるのが手軽でおすすめ。アルミを長方形に折って、真ん中に味噌をぬってください。ここもポイントは2つ。
1:なるべく味噌を平らに。
ぬりムラがあると焦げができやすくなります。上の写真、あまり良くない例ですね(笑)、すみません。ただ、ひどい焦げじゃないかぎり、さほど味に影響しません。焦げてしまったら、その部分だけ削ってください。
2:焼き時間はざっくり、6~10分ぐらい。
これ、トースターによってかなり違うんですよ。ずっと加熱できるタイプのものもあれば、高温になりすぎると加熱が止まるものもあり。なので、面倒ですがはじめて作るときはトースターから目を離さないのが大事です。最初に5分ぐらい焼いてみて、時間を加減しましょう。ここまでくれば完成はもうすぐ!
加熱後は当たり前ですがアルミ、熱くなってますよ! 取り出すときもご注意を。
全体的にこんがりとなればOKです。焼き目をつけることで味噌の香ばしさが際立ち、冷や汁らしい香りがうまれてきます。
塩揉みキュウリってどうつくるの?
キュウリを薄めの輪切りにして、少量の塩をふり、わしゃわしゃ揉んでください。
それで完成。
もう見た目とか考えず、ギュッと揉んじゃってOKです。塩の量ですが、ごくごく少量でいいです。私はキュウリ3本に対して塩小さじ4分の1ぐらいでやっています。1本なら「ひとつまみ」程度でOK。これ、多すぎると冷や汁自体味が濃くなるので注意ですよ。揉んだら冷や汁ができるまで冷蔵庫に入れておきましょう。だいたいキュウリ1本で2人前ぐらいになります。
ごく一般的な味噌で冷や汁をつくってみた
味噌もいろいろありますよね。
宮崎県はじめ、九州地方の冷や汁は麦味噌でつくられることが多いんです。さっぱりした麦味噌は実際冷や汁によく合うんですが、東北や関東で日常的に使われる米味噌(信州味噌系)で試してみたところ、まったく問題なく、おいしい。
今回は値段も手ごろで、全国各地で手に入りやすい「だし入り合わせ味噌」でトライしてみます。
- アルミにぬって、オーブントースターで8~9分加熱して、こんがりさせます。ちなみに我が家のトースターは高温になりすぎると止まってしまうので、このぐらいの時間がかかりました。もっと連続で加熱できるタイプなら、より短時間で仕上がります。
- 次は、これを水で溶いてきます。
☆水と味噌の基本の割合(1人前)&必須の具その2
味噌大さじ1に対して、水100ml程度
これ、味噌によっても濃さが違うので、あくまで原則です。水を8割ぐらい入れたところで一度味見をしましょう。ただ、あまり難しく考えないで。濃かったら水を足す。薄かったら味噌よりも醤油を少々加えてください。慣れてきたら、濃いめに作って氷をたくさん入れてもいいですよ。 - 最後に具材を入れましょう。冷や汁の必須の具として塩揉みキュウリを挙げましたが、次点はすりゴマです。本来はすり鉢でゴマもすっていくところ、すりゴマで代用しますよ。もしあれば、刻んだミョウガ、シソもぜひ!
さあ、いただきましょう!
おお、おいしいぞ!! ごくフツーのだし入り味噌でもかなりのレベルです。
最初に「一般的な冷や汁レシピ」として、いりこをすり鉢で味噌とすり和える…とありましたよね。あれって、魚介のうま味を味噌にプラスして味わいアップ……という意味なのです。
実際、いりこ(頭とはらわたを取ったもの)とゴマをフライパンで煎ってから、すり鉢でよーく味噌と練り合わせてつくった冷や汁は、実にうまいもの。手間をかけただけの味になります。だし入りの味噌は最初からこのうま味がプラスされているわけですが、正直、冷や汁にして、ここまでおいしくなるとは思っていませんでした。
簡単につくりたい場合は、だし入り味噌に焼きをつける。これで充分!
冷や汁に合わせるごはんはかために炊くのがおすすめ。水を気持ち少なめにしてください。もし可能ならば、麦ごはんでゼヒ。相性がとってもいいのです。
クセになるサッパリ感! ツナ缶冷や汁
さて、ちょっと本格的なつくり方でやってみましょう。
宮崎の冷や汁を取材していたとき、家ごとのいろいろなバージョンを耳にしました。「味噌にいりこを加える」派以外に、焼いたアジだったり、カマスの干物だったり、タイやトビウオを焼いて加える……という人も。
中でも印象的だったのが、
「めんどうくさいので、ツナ缶で代用している」という声。おお、魚を焼いてほぐす手間をはぶいた省略&缶詰の活用レシピ! 実際にやってみたら、さっぱりライトな味わいの冷や汁になるんです。すり鉢をお持ちの方は、ぜひぜひ試してみてください。2~3人前のレシピを以下に記します。
1:すり鉢にツナ缶(水煮タイプ)1缶を汁ごと入れ、味噌大さじ3、ごま大さじ3を入れて、すり合わせていきます。できればゴマをフライパンに入れ、弱火で3分ぐらいゆすりつつ煎るとさらに香ばしくなりますよ。その際は油などをひく必要はありません。「ピーナッツも加える」という宮崎のかたもけっこういました。
2:あせらず、ゆっくりすっていきましょう。ちなみに料理人のかたはこの「する」という言葉を忌み言葉として使わない人も多いです。「あたる」っていうんですね。すり鉢も「あたり鉢」って呼びます。
3:このぐらいまでになればOK。めんどうなら、ツナ缶と味噌だけにして、最後にすりゴマを加えてもいいですよ。
4:さあ、水に溶きましょう。300mlを用意して、まず、200mlを入れて味見してください。それで残りを加えつつ、好みの味に。味見は3回ぐらいまでを目安に。何度も味見するとよく分からなくなるものです。好みの濃さになったら、野菜類を入れます。
ツナ缶のごく淡く優しい風味が、さっぱり軽く食べたいときにぴったりなんですよ。ちょいゴマ油を垂らしてもおいしい。写真の具材ですが、鮮度のよいナスが手に入ったので、キュウリ同様に塩して揉んだのを入れました。慣れてきたら好みの野菜をプラスして自由に楽しんでください。
ちなみに、塩して揉んだキュウリやナス、そのままでもいいつまみになりますよ。そこにおかかなんかを和えるとさらに風味アップ。
赤だしと白みそは冷や汁に合うのか!?
さて、最後に変化球を。
日本にはいろんな種類の味噌がありますが、愛知県や岐阜県で愛される八丁味噌を使った「赤だし」、そして西日本でおなじみの「白味噌」、この2つは冷や汁に合うのだろうか? ちょっとトライしてみました。
それぞれ前述の
- 一度、オーブンで焼き目をつける
- 塩揉みキュウリを入れる
という条件で作りましたよ。
赤だし冷や汁
赤だし、よくシジミの味噌汁で使われますね。正直「あまり合わないかなあ……」と思っていましたが、キリリと冷やすとなかなかにおいしい。
ただ、焼き目をつけることで赤だしの特性であるスッキリした辛さを殺すきらいがありました。なので、ごく控えめに焼きづけ。甘めの具材が合うと思い、ゆがいたトウモロコシを具材に加え、アクセントにクレソンを散らしました。うん、サラダスープ感覚で食べられます。
【ごく簡単なレシピ】
材料:赤だし(大さじ3)、水300ml
作り方:味噌をオーブントースターで6分半焼きをつけ、水で溶いて塩揉みキュウリ、トウモロコシ(簡単にすませるなら缶詰がおすすめ)、クレソンを入れる。
白味噌冷や汁
食べるまでは内心、「ちょっとキワモノな仕上がりになるのでは……」と思ってたんですが、これが意外や、イケる! おお、うれしい誤算……。
冷たいポタージュのようなおいしさ。赤だしとは逆に、強めに焼き目をつけるのがおすすめ。白味噌はまろやかな甘みが特徴ですが、この甘さを引き立たせるには酸味や苦味のある野菜がいいように思い、スライスした紫玉ネギ、カイワレ大根、そしてプチトマトを入れました。食欲のないときにもよさそう。サラダスープとしての新しい可能性を感じました。
【ポイント】白味噌の場合は水少なめに!
今までは「味噌 大さじ1に対して水100ml」でしたが、白味噌の場合はこれだと薄くなりすぎました。「白味噌大さじ1に対して水60~70ml」ぐらいでやられるほうがいいです。
【ごく簡単なレシピ】
材料 白味噌 大さじ3 水 200ml
作り方:白味噌をオーブントースターで6分半焼きをつけ、水で溶いてよく冷やす。具材はトマト、カイワレ菜、その他スプラウト類がおすすめ。クルトンを入れてもおいしい。
最後に
母方の実家では、夏になるとよく冷や汁がつくられていました。場所は新潟と山形の間ぐらい、山間の農家なんですが、昼休みにパパッとつくって食べるんです。
叔母がつくる冷や汁はとてもおいしく、具は薄切りキュウリのみ。あとは氷が浮かぶだけのシンプル極まりないものでしたが、初めて食べたときはそのうまさに驚きました。夏の農作業でたくさん汗をかいた人々が、ミネラルと塩分と水分を同時に補給するのにピッタリな料理だったんでしょうね。
つくり方を聞いておけばよかったのですが、あいにくと機を逃しつつ、叔母を亡くしてしまいました。
日本の郷土料理、これからもいろいろ取材していきたいと思っています。静岡の港町ではカツオの切り身を入れる冷や汁もあるんですよ。夏以外でも、食欲のないときなど、ぜひぜひ冷や汁を楽しんでください。
企画・文・撮影:白央篤司(はくおう あつし)
「暮らしと食」、郷土料理やローカルフードがメインテーマのフードライター。CREA WEB、Hot Pepper、サイゾーウーマン、hitotemaなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』『自炊力』『たまごかけご飯だって、立派な自炊です。』など。家では炊事全般と土日の洗濯、猫2匹の世話を担当。