あったまるなあ!
北海道の郷土料理、「三平汁」(さんぺいじる)を作ってました。こんにちは、郷土料理を研究するライターの白央です。
「三平汁」、なんかこう……愛嬌のあるネーミングですな(由来についてはのちほど)。
料理としては、塩漬けの魚と根菜類をシンプルに煮るだけ。魚の塩分だけで、ほぼ味つけ終了。根菜たっぷりの冬の料理、これが簡単でうまいんだ。
まずはレシピをご紹介。
ハクオー流・「三平汁」のレシピ
【材料】(3~4人前)
- 塩鮭(甘口) 2切れ
- ダイコン 300g
- 玉ネギ 180g
- ジャガイモ 300g
- ニンジン 200g
野菜は上の写真のものを計量してます。参考にしてくださいね。
そして、
- ショウガ 2スライス
こちらもご用意ください。なくてもいいんだけど、やっぱりショウガがあると上品スッキリに仕上がります。私はショウガ、よく洗って皮つきのまま入れますよ。1㎜幅ぐらいのスライス。さらに、
- 昆布だし 適量(1200mlぐらい)
- 酒 大さじ1半
- うすくち醤油 大さじ1
- 塩 小さじ1
これらが必要な調味料。
「三平汁」、具材もいろいろなんです。メインとなる魚も、北海道の方に取材すると塩鮭のアラ、塩ダラ、ぬか漬けのニシンなどでやることが多いんですが、今回は手に入りやすい塩鮭の切り身を選びました。
ニンジンは皮をむいて、こんなふうに乱切りにします。
ジャガイモ、玉ネギも皮をむいて、食べやすい大きさに切りますよ。
ダイコンも皮をむいたら、2㎝幅ぐらいに切って、同じぐらいの大きさに切ります。
塩鮭は4㎝幅ぐらいに切っておきます。
【ポイント1】
もともと、すべてをぶつ切りにして豪快に煮ちゃう料理です。一応目安で大きさ、切り方を書いていますが、「自分だったらこの大きさで食べたいな」というので構いません。煮る時間も書いてありますが、最後に竹串かつまようじなりで刺して、硬ければもうちょい煮てくださいね。
【ポイントその2】
ダイコンだけ、水からゆでて15分ぐらい下煮をしておきます。こうしておくと味の染みが早くて、柔らかく仕上がりますよ。
なのでまず最初にダイコンの皮をむいて、ゆで始めましょう。ゆでている間に、他の野菜の下ごしらえ。ちなみに、おでんのときも私は最初にダイコンは水煮にします。
15分経ったら、ザルにあげてください。
鍋に全部の具材を入れて、ひたひたになるぐらいの昆布だしを加えます。
ちょっと具材が顔を出すぐらいの水の量が、ひたひた。
煮ていくと野菜から水分も出るし、調味料も加えるので、全体が浸かるほどは入れないでくださいね。
では最初に、強火で沸騰させます。
沸いたらお酒を入れて、中火にしてまず8分煮ましょう。
アクを取りつつ、一度味見をしましょうか。
この料理、塩鮭の塩加減がものによってまちまちなので、ちょっと微調整が必要。
味見をして 「しっかり塩味がある」と思えば、うすくち醤油だけを入れる。
「ほんのり塩味」と思えば、塩と醤油の両方を入れてください。
そして中火で再度8分煮れば、もう完成です。
今回はアラじゃなく切り身なので、やっぱりどーにもコクが軽い。うま味をプラスしたいので醤油を加えました。
北海道民からの口コミ
ちょっと道民の方々に、「三平汁」についてツイッターで聞き込みしてみました。
- 新巻鮭をもらったときに作る
- かつては函館駅のホームで1杯200円ぐらいで売っていた
- 鮭の頭、特に目の辺りを入れるとうまい
- 塩鮭の塩味に、味噌をプラスするのが我が家流
- 長ネギを入れる人、多し
- カレー用の野菜が余ったときに作る
うーむ、やっぱり家ごとにルールがあるもんですねえ。「郷土料理は家の数だけ味があり」私の持論です。そして玉ネギじゃなく、長ネギの人は多いんだよな。塩鮭のコクに玉ネギの甘みが加わるのが私は好きなんですが、キリッと辛めの味わいがお好きなら、長ネギでお試しください。
由来はあの有名人の祖先?
さてこの「三平汁」、ルーツを調べるとなかなかに面白い。
農山漁村文化協会の労作にして名著「日本の食生活全集」より『聞き書 北海道の食事』(矢島睿 他編/農山漁村文化協会、1986)によると、1700年代後半の文献にはもう「三平汁」が登場しています。つまり江戸時代ですな。
そして北海道・西海岸の漁村では明治以降、
にしん、ほっけ、はたはた、たら、かれいなど種々の魚を臓物をつけたまま塩漬けにしておき、その汁で三平汁をつくっていた。だが、この魚汁のにおいは強く、しだいに塩漬けの魚の身を使う料理に変化していったようである。(p.241)
とあります。
「臓物をつけたまま魚を塩漬け」していたということは、ナンプラーのような魚醤独得の匂いがあったのでしょうね。
「三平汁」が北海道の代表的な料理となったのは、明治の後期ごろのよう。現在の調理法にほぼ近い形だったようです。
当時の「三平汁」は具材もいろいろで、現在も欠かせないダイコンのほか、フキ、ゼンマイなどの山菜、タンポポ、イタドリ、ナス、カボチャなど、四季に応じて「あり合わせのごった煮がその起源」であったとも。
それで名前の由来は?
さて肝心の名前の由来。
よーく出てくるのが「斉藤三平なる人物が作りはじめた」というもの。松前藩(現在の北海道松前郡)のまかない番だった、と伝わりますが、否定的にとらえる人も。
ほかに「三平皿という専用の盛りつけ皿から名前がついた」「アイヌの人々の言葉サンペイ(=心臓)が変化した」なんて説があるのですが、ここで興味深い証言があるんです。
『高島忠夫の洋食劇場』(高島忠夫/旺文社文庫、1983)という、食と映画にまつわるエッセイ集があるんですね。
俳優の高島忠夫さんといえば40歳以上の人はおなじみですな。『ゴールデン洋画劇場』の解説者で『クイズ・ドレミファドン!』の司会者だったあの人。高嶋政宏さん・政伸さん兄弟の父親でもあります。グルメ番組『ごちそうさま』の司会でもおなじみ。
食と映画に精通され、その豊富な知識がつづられた楽しい本なんですが、この中に「三平汁」が登場します。
私の母方の曾祖父に「斉藤三平」という松前藩に奉公していたご先祖がいます。最近有名になってきた「三平汁」の創案者といわれている。この料理ほど色んな種類があるものはない。最初はとにかく安価で栄養のあるものを屯田兵に食べさすべく、手当たり次第に鍋にほうりこんだのに違いない。(中略)孫である私の母は、鰤(ブリ)を使っておりました。(p.71)
な、なんと!
いやー興味深い。ご係累(けいるい)だったんですね、家では代々作られてきたようで、レシピも掲載されています。
高島家は「元祖三平汁」として、
材料は酒の粕、白味噌(できるだけ甘くないの)、酒、ほんだし、塩、豚コマ切れ、油揚げ、ごぼう、大根、にんじん、長ネギ。(p.242)
といったものを材料に使われてます。ほぼ粕汁ですな(笑)。そしてブリから豚に替わっている。
調べてみれば高島さんは兵庫育ち、ご先祖がどこかで移住されて関西スタイルにすっかり変わったものと想像します。ただ北海道でも「三平汁」に酒粕を入れる人はわりにいるので、この共通点は面白いですね。
高島三平汁、今度作ってみよう。
と、このようにルーツも諸説いろいろの「三平汁」。『郷土料理』(龍崎英子 監修/ポプラ社、2009)によると、
北海道では、昔は大豆の栽培量も少なく、みそやしょうゆは本州から運ばれてくる貴重品でした。料理の味つけには塩がつかわれてきましたが、塩だけではうまみに欠け、ものたりなさがありました。塩づけにした魚や、その汁にはうまみが多く含まれているため、味つけにつかわれるようになったのです。(p.27)
と、そのバックボーンが説明されています。今でこそ豊かだけれど、開拓時代の北海道の歴史をも物語るのが、「三平汁」。
魚のうま味が根菜に染み込んで、実にあったまる料理なんです。日本の「魚ポトフ」ともいえる「三平汁」、興味をもたれたらぜひ一度味わってみてください。