長崎は諫早市出身の人に面白い料理を教えてもらいました。その名もヒカドという、具だくさんの汁物です。
これ、豚肉と魚のブリが一緒に入ってるんです。「えっ、肉と魚を一緒に!」と最初は驚きました。正直「どっちかだけでよくない……!?」とも思ったんですね。
片方だけで十分うま味も出るし、材料費もかさんでしまう……なんて思ったんですが、味わってみて考えを即座にあらためました。
こういうおいしさ、初めてだ。
豚とブリのWうま味、すごくこう……新鮮な味わいだったんですよ。今まで体験したことのないうまさ。そしてこの汁「とろみ」が付いているんですが、その付け方がまた意外なんです。
うん、これはやりたくなる気持ち、わかる。わかるよ。『メシ通』でぜひ紹介させてもらいたいぞ!
ということで、いろいろ現地レシピ調べてみました。作りやすくシンプルなやり方を考えたので、ご紹介しますね。
「ヒカド」の作り方
【材料】(4人前)
- 大根 100g
- ニンジン 50g
- サツマイモ 140g程度
(具として80g、すりおろす分に60g程度)
- 豚ロース 80g
- ブリ 80g
- ダシ 800ml(好みのダシでOK)
A
- 酒 大さじ2
- みりん 大さじ2
- 醤油 大さじ3
1:大根、ニンジンは皮をむいて、1cm角に切ります。まず1cm幅の輪切りにして、上の写真のようにタテヨコに切ってください。
サツマイモは洗って水気を切り、皮付きのまま同様に角切りに。
豚ロース、ブリも同じぐらいの大きさに切っておきます。
地元の人からは「あんまりきれいにやろうとせず、ざっくりで構わんよ」とありがたいアドバイスも。はい、ざっくりやらせていただきます!
2:鍋にダシを入れて、大根、ニンジン、サツマイモを先に入れて10分中火で煮ます。
3:ブリと豚肉も加えます。
4:A(酒、みりん、醤油)を入れます。
5:中火にして、ふつふつ泡だつ程度でさらに10分ほど煮ます。
6:アクは随時取り除いてください。
7:煮ている間に、皮をむいてサツマイモをおろします。量は大さじ2程度。
おろしサツマイモで汁にとろみをつけるのがヒカド・オリジナル。
こういうやり方があるんだなあ、初体験でしたよ。
8:さあ、すりおろしたサツマイモを加えます。
9:ひと煮立ち(一度沸かせること)すると、本当にトロみがついてくる!
うつわに盛って、完成です。
豚とブリのダシ、合わさるとなんとも独特のおいしさ。そして「サツマイモの甘み×醤油」がまたいい組み合わせ。パッと見はすごくなじみのある日本の汁のなのに、「一度も体験してきてない味だよこれ」感がすごい。
名前の由来
「ヒカド」という名前なんですが、ポルトガル語が由来で「picado」(細かく刻まれた)から来ているよう。江戸時代にポルトガル人が長崎に来航していた頃、伝わった料理が起源のようです。
当時は、ポルトガル商人と結婚した日本女性もいたとのこと。長崎で手に入る食材と調味料で、夫のために故郷の料理に近いものをなんとかこしらえようとしたのかな……と想像しました。次第にそれが独自の進化を遂げて、今に至っているんでしょうね。
さてヒカドですが、具材や細かいポイントは人それぞれ。他に聞かれたものを挙げておきますね。
- ブリではなくマグロ、カジキマグロ、ハマチでやる人も
(これと決まっているのではなく、そのとき安いものでやればいい。逆に「ブリが安いし、豚肉も家にあるからヒカド作ろう」とかそういう感じ、と教えてくださった方あり)
- 豚肉ではなく、鶏肉でやる人も
- ブリだけでやる人も
- 他の具材ではしいたけ、干ししいたけ、コンニャクなどを加える人も
- いりこだしに干ししいたけだしを合わせでベースにする人も
- 青ネギを刻んで最後に散らしてもうまい
現在は給食でも出るようです。ヒカドはサツマイモのおいしい秋冬の料理とのこと、ぜひ寒いうちにおためしください。あったまる料理ですよ!
そして「フカボリ 美味なるご当地グルメ」は今回が最終回。今まで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
参考資料
『聞き書 長崎の食事』(社団法人 農山漁村文化協会)
『百花繚乱ふるさとの味 長崎料理』(脇山順子著 長崎新聞社)
企画・文・撮影:白央篤司(はくおう あつし)
「暮らしと食」、郷土料理やローカルフードがメインテーマのフードライター。CREA WEB、Hot Pepper、サイゾーウーマン、hitotemaなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』『自炊力』『たまごかけご飯だって、立派な自炊です。』など。家では炊事全般と土日の洗濯、猫2匹の世話を担当。