みんな大好き「チキン南蛮」!
見てのとおり超ハイカロリー料理ですが、おいしすぎてペロッと食べられちゃいます。
これからの蒸し暑い夏の夜に、よーく冷えたビールと一緒に食べるともう最高なわけです。
ところで、チキン南蛮って「唐揚げにタルタルソースをかけたもの」とか認識していませんか?
違うんです。チキン南蛮の本場・宮崎の味は全然違います。
もちろんタルタルをかけた唐揚げもおいしいけれど、それはもう別料理といってよろしいかと思います。では、どう違うんでしょうか?
宮崎のローカルファミレスで元祖として知られる「おぐら」で味を確かめてきました。
元祖の味は宮崎「おぐら」にあった
実は、チキン南蛮の元祖のお店は宮崎に2つあります。「おぐら」と「直ちゃん」です。どちらのお店の店主も昔延岡市にあった洋食屋「ロンドン」で修行をしており、そこのまかない料理でチキン南蛮が出ていたのがルーツといわれています。
▲なぜか入り口にはトーテムポールが
まかない料理のチキン南蛮は、揚げた鶏むね肉を甘酢に漬けたもの。今もそのスタイルで提供しているのが「直ちゃん」。そこにタルタルソースをかけて提供したのが今回紹介する「おぐら」です。「おぐら」は甲斐義光さんが、昭和31年に創業しました。
いま全国各地にある、タルタルソースをかけたチキン南蛮のルーツは「おぐら」にあるといっていいでしょう。
▲店内に入るとサンプルがずらり。チキン南蛮だけでなく、ちゃんぽんやハンバーグも好評なのだ
▲「翔んで埼玉」とコラボしていた。チキン南蛮なら喜んで食べるぞ
▲昭和っぽいなごみ感あふれる店内。青空の描かれた天井、オレンジ色のソファ、他ではあまり見かけない独特のセンスが不思議と調和している
▲マネージャーの渡部寛さん
創業者である甲斐義光さんは、2009年に83歳で他界されています。
今回はマネージャーの渡部寛さんにお話を伺いました。昭和56年に入社された渡部さんは、おぐらで働いて30年以上! 甲斐さんのことを親しみを込めて「親父」と呼びます。
伝家の宝刀! これがおぐらの「チキン南蛮」だ
まずはやっぱり元祖の味を。
これが、おぐらのチキン南蛮!
ライス付きで1,010円(税込)。タルタルソースが溺れるようにたっぷりかかっています。
この濃厚ソースはもちろんのこと、
つけあわせのナポリタンもしみじみおいしい。上品さとジャンクさが見事に調和している味で癖になります。
自己流で再現してみた
詳しいレシピの分量は門外不出とのことで、作り方だけこっそり教えていただきました。
▲キッチン撮影不可のため、著者がスーパーで購入した若鶏むね肉の画像です
渡部:鶏肉は、生後6カ月以内の鶏むね肉を使います。若鶏を使うのは食感が柔らかいからです。
渡部:鶏肉に塩コショウをしたら、小麦粉、卵液の順につけて180℃の油でからっと揚げます。
──最後が卵液。ここが唐揚げと大きく違うところですよね。
渡部:こうすることで口当たりがふわふわで、甘酢を吸い込みやすくなるからです。チキン南蛮は最後に卵液をつけるのがポイントです。
▲甘酢に漬けこんだ後の様子。このまま食べてもおいしそう
渡部:揚がったら油を切って、甘酢に漬け込みます。冷たいと料理が一気に冷えてしまうので、甘酢はあたたかい状態でキープしておくのがポイントです。ウチでは毎日甘酢を仕込んでいて、大きな鍋に酢と野菜(たまねぎ、にんじん、しょうが、にんにくなど)、砂糖を入れて煮切っています。
──甘酢のレシピは調味料だけじゃないんですか!
渡部:本格的にチキン南蛮を作っているお店は、おそらくどこも調味料だけじゃないはずです。野菜も入れることで広がりのある甘さになりますから。
──砂糖もしっかり入っていますよね?
渡部:大きな鍋で甘酢を仕込んでいますが、砂糖を5kgくらいドバドバっと入れていますね。親父はどの料理に関しても、すぐにまた食べたくなるような味のインパクトを大切にしていました。薄味より濃い味。「上品なことしとっちゃいかん」と言っていましたね。
▲最後にタルタルソースをかけて完成
▲ソースをおしげもなくかけるのがおぐらの真骨頂
渡部:タルタルソースは、自家製マヨネーズに、ゆで卵や各種スパイス、酢漬けした野菜類などを加えて毎日手作りしています。親父はいつも「なんかつけんとね」となにか一工夫しないと気が済まない人でした。だからチキン南蛮にもタルタルソースをかけたのでしょう。
──さすが元祖のチキン南蛮、とても手が込んでいました。この一皿はいくつもの細かい手順を踏んで完成しているのですね。ところで県外のチキン南蛮が宮崎で食べるのとは別物なのは、どうしてなんでしょう?
渡部:おそらくですが「なんとなくこういう料理かな」と再現すると、違うものになることありますよね。例えば秋田のきりたんぽや北海道の石狩鍋は、僕らもイメージで作っている部分があるのかなと思うんです。でも、そういう方が宮崎でウチの店に来てくれて、「チキン南蛮ってこんなにおいしかったのか」とか「今まで食べた中で一番おいしい!」「やはり別物!」とおっしゃって感動していただけるのが何より嬉しいですね。
THE「チキン南蛮」ヒストリー
ここで、チキン南蛮の歴史をうかがってみることに。すると、知らない事実がいっぱい明らかになりました。
▲創業者の甲斐義光さん
──今やすっかり宮崎を代表するご当地グルメのチキン南蛮。「おぐら」のメニューに登場したのはいつからでしょうか?
渡部:昭和31年に親父は「おぐら」を始めて、その頃はカレーやステーキ、とんかつがメインのお店でした。チキン南蛮がメニューに登場したのが昭和34年と記録に残っています。昭和40年くらいからチキン南蛮の人気が出始めたようです。
▲ちゃんぽん(740円)も人気メニュー。手作りの麺を使っているため、麺がなくなったら売り切れ
──渡部さんが入社された頃はどんな雰囲気でしたか?
渡部:昭和56年に入社したのですが、当時は10店舗くらいあって、とにかくスタッフが多かったです。社員寮もあったし、社員旅行、運動会と活気がありました。その後、親父の家族に延岡にあるお店を譲り、あちらは株式会社おぐらとして今でも運営しています。この瀬頭店と本店が、親父が運営していた店舗です。
──創業者の甲斐さんはどんな方だったのでしょう?
渡部:83歳で亡くなりましたが、直前までアグレッシブで本当にパワーのある親父でした。「これでもか、これでもか、ってやらんといかんとよ」が口癖で妥協せずやりぬく人でした。チキン南蛮に限らず、ハンバーグやカレーの味をとことん追求していました。ソースにはいろんなスパイスを試していて。とにかくアイデアマンで、何か思いついたら「明日試してみよう」じゃなくて、お店が終わった後の深夜にすぐ作っていました。
▲お店のいたるところにあるロゴマーク。このオジサンが実は創業者の甲斐さんである
▲確かに前出の写真とソックリかも!
──情熱的な経営者だったのですね。
渡部:豪胆さと繊細さを兼ね備えた人物で、本当にこのロゴの顔そのまんまのイメージですよ。
こんなことがありました。僕の下で働いていた従業員が辞めて、周りの人から私が原因だと責められて。その後、親父に呼ばれて「人の上に立つのはどれだけ辛いか俺はよくわかっている。お前の気持ちはよくわかっているよ。心配するな」と声をかけてくれました。今でも涙がでそうですね。そういうことがたくさんありました。また親父に会いたいです。あんな人には二度と会えません。
▲親父トークをしていると顔がほころぶ渡部さん
元祖はあくまで「むね肉」
──こちらのチキン南蛮では、鶏むね肉を使用されていますよね。一方で、最近は鶏もも肉で作るお店も増えています。
渡部:そうですね。親父の家族が引き継いだおぐらの方では、鶏もも肉で作ったチキン南蛮がメニューにありますよ。
──こちらのおぐらで、もも肉のチキン南蛮を作る予定は?
渡部:ないです(ときっぱり)。もちろん、もも肉のチキン南蛮もおいしいですし、あれはあれで私も好きですけどね。
──はい。
渡部:チキン南蛮が延岡市の「ロンドン」でまかない料理として登場したのは、鶏むね肉をおいしく食べようと編み出されたと聞いています。昔は鶏一羽単位で仕入れをしていたのでジューシーな鶏もも肉と違い、パサパサしている鶏むね肉はよく余ったみたいで。ここは親父が残した店。だから親父の味を守っていきたいと思います。
▲店内には世界各国の絵や民芸品が並ぶ。甲斐さんが旅行で買い集めたそう
▲この置物はお客さんからのプレゼント。「置き場所がなくて!」とのこと。お客さんとこんな付き合いをするファミリーレストランは珍しい
渡部:おぐらに来てくれるお客さんは、昼間は観光客や県外の方が6〜7割くらいですが、夜は逆転して9.5割くらい地元の方です。家族みんなで出かけるファミリーレストランという感じで。子どもの頃、祖父母に連れられてきていたお客さんが大学生になって恋人と一緒に来たり、何世代にもわたって通ってくださっています。
あと、年末年始やお盆休みになると、必ず食べに来てくださる帰省の方も多いですね。時代に合わせて変わっていく料理もいいけれど、宮崎に戻ってきた方が、懐かしさや変わらなさを感じられるような味をこれからもお届けしていきたいです。
チキン南蛮好きな方はもちろん、そうでない方もぜひ一度「おぐら」でチキン南蛮を味わってみて欲しいです。
店内の雰囲気と相まって、「おぐら」のチキン南蛮のとりこになるはず。
【おまけ】むね派? もも派? 宮崎駅で50人にインタビューしてみた
鹿児島県在住の私。いったいむね派かもも派どちらに軍配が上がるのか、宮崎市民の評判が気になったので、宮崎駅で街頭インタビューしてみました。
女子高校生A「むね派です。子どものころから食べているから」
女子高校生B「え! そうなの? うちは昔からもも肉だよ」
宮崎ではチキン南蛮用の甘酢がスーパーで売られており、家庭で登場することも。家によってどちらの肉か違いがあるようです。
男子高校生A「え? どっちがどこの肉?」
男子高校生B「もも肉が太もものことで、むね肉はおっぱい」
男子高校生A「じゃあ俺おっぱい、むね肉派」
男子高校生B「おまえそういうのやめろよ~」
結果はもも肉派30人、むね肉派20人。高校生の帰宅時間帯だったためアンケートに協力してくれたのは10代が多く、ジューシーなもも肉に軍配が上がりました。あくまでもこれはひとつの結果で、聞く世代やグループによっては違う結果になるかと思います。
協力してくださったみなさま、ありがとうございました!
もしあなたのまわりに宮崎出身者がいたら、ぜひ「チキン南蛮はもも派? むね派?」と聞いてみてください。
会話が盛り上がるかもしれません。
店舗情報
おぐら 瀬頭店
住所:宮崎県宮崎市瀬頭2-2-23
電話:0985-223-5301
営業時間:11:00~21:00(20:00LO)
定休日:無休
書いた人:横田ちえ
鹿児島在住フリーライター。九州を中心に取材、WEBと紙の両方で企画から撮影、執筆まで行っています。鹿児島は灰が降るので車のワイパーが傷みやすいのが悩み。温泉が大好きです。