浜名湖の観光釣り船「たきや漁」で、ボクたちが見た真夏の夜の夢

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以前、『メシ通』で岡山県の網つき小屋「四つ手網」を体験してきたことを記事に書いた。

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その鮮烈な経験について誰かに会うたびに話していた時期があったのだが、私の父に話をした際、「たきや漁は知ってるか?」と聞かれた。

なんのことか分からず詳しく聞いてみると、「たきや漁」とは静岡県の浜名湖で行われている漁法のことで、費用を払えば一般客も体験することができるものだという。さらには捕った魚をその場で調理して食べさせてくれるらしい。父がその「たきや漁」を体験したのは十数年前か数十年前か、とにかくかなり昔のことらしいのだが、その記憶が今も思い出に残っているのだという。

 

さっそく調べてみたところ、「たきや漁」は今も行われていて、毎年5月中旬から9月下旬まで営業していることがわかった。ぜひ体験してみたいと思い、メンバーを募って7月上旬の週末に行くことにした。

 

体験レポートの前に、まずは「たきや漁」の料金システムについて紹介したい。

  • 船には1隻につき大人4人まで乗ることができる
  • 料金は1隻あたり2万7,000円(価格は以下すべて税込み)
  • ただし、この金額2万7,000円はあくまで「調理なし」のもので、捕れた魚介類は各自が持参したクーラーボックス等で持ち帰ることになる
  • 捕ったものをその場で調理してもらって食べたい場合は3,000円が追加でかかり、合計3万円

定員いっぱいの4人で参加したとすれば、一人あたま7,500円で漁体験と食事までのすべてができるというわけだ。

漁は毎日、日没後に開始され、漁を90分ほどしたあとに食事が90分間。合計3時間ほどで終了となる。船は全部で25隻あるそうで、私の参加した7月頃だと19時半から開始になることが多く、予約が多数入った場合は23時半頃から深夜までの「第2部」が行われることもあるそうだ。

 

小型ボートに乗り込み、いざ出航!

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事前に電話で予約を入れると、当日の集合場所が教えられる。指定されたのは浜松市内、JR弁天島駅からほど近い「弁天島海浜公園」の桟橋だ。

僕らのように鉄道を使って「たきや漁」に参加したい場合は、JR弁天島駅が最寄りなのだとか。浜松駅から12分ほどでたどり着く駅である。 

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駅から歩いて5分ほどの公園につくと辺りは真っ暗だったが、それらしき小型ボートが見つかった。

これに乗るのか。

 

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「お待ちしてました〜、では足元に気を付けて乗ってください!」と、心の準備もなくもういきなり乗船だ。

「たきや漁」には一隻につき一人の船頭さんが乗船し、漁場まで案内してくれたり、参加者をサポートしつつ率先して漁をしてくれたりする。

 

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今回私たちがお世話になったのは山本達矢さんという若い船頭さん。 

各自が腰に巻くタイプのライフジャケットを装着し終えたところでエンジンがかかり、ごう音とともに船が猛スピードで湖面を走っていく。

 

夜の浜名湖面を疾走!

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さっそく最初の漁場へと移動するという。「競艇の選手ってこんな視界なのでは?」と思うほどのスピード感だが、それでも時速30キロほどなのだという。湖面すれすれを走るので体感速度がものすごい。

 

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海で船に乗って沖へ向かうような感じとはまったく違い、湖のすぐ脇に住宅が立ち並んでいたり、橋がかかっている下をギューンとくぐり抜けたりと、アーバンな景色の中を駆け抜けていくのが面白い。

まだ何もしてないけど、夜の浜名湖を小船で疾走するというこの体験だけですでに価値があると思えた。

 

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強い風に吹かれて全員強制オールバック状態。

 

ちなみに、私たちが移動していたのはこの地図でいう右下の円で囲んだ部分。

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船に乗りながら「浜名湖って広いんだなー!」などと感動していたのだが、「たきや漁」の行われる範囲は浜名湖全体の中の何分の一かのエリアなのだ。

浜名湖の広さ、恐るべし。

 

ひと突きでいきなりカニが

さて、しばらく進んだところで船頭の山本さんが船のエンジンを止めた。ここが一カ所目の漁場だという。

山本さんが船のへさきの部分に立ち、LED電球を水中に浮かべる。

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ちなみに今はLED電球が使用されているが、「たきや漁」が始まった100年以上前はたいまつの明かりが使われていて、火を焚(た)いて漁をするから「焚き屋」とよばれるようになり、そこから「たきや漁」という名前が生まれたのだそうだ。

 

LED電球が湖面を照らすと、薄緑色の世界が足元に広がる。なかなかに幻想的な眺めだ。

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「たきや漁」は、明かりで湖底を照らし、目視で見つけた魚介類をモリで突いて捕るというシンプルな漁法である。

浜名湖の中でも、漁を行うエリアは深くても水深1メートルほどらしい。湖の底が見え、モリが届く浅さだからこそ行えるわけだ。

水深が極端に浅いエリアに誤って入り込むと船が座礁することがあり、「もしそうなったら、お客さん全員降りて船を押してもらいます(笑)」という。マジか!

 

目視で行う漁ゆえに透明度が非常に重要になってくる。例えば、乗客の体感には全然苦にならい程度の小雨でも、雨が降ってしまえば湖面に波紋が絶え間なく広がり、湖の底が見えなくなってしまう。また、強い風が吹くと湖面にさざ波が立つ。そのため、「たきや漁」の船は雨天時と風の強い日には出ない。

取材当日は折しも天候の不安定なタイミングで、浜松でも前日に降った雨がようやく上がったばかりという状況。それによって少し湖の水が濁ってしまっており、条件的には少し難しい状態だということだった。 

 

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「ただ、水が濁ってる時はこうやって湖が緑色に光るんで幻想的だって喜ぶお客さんが多いんですよねー」と教えてくれながら山本さんがおもむろにモリを湖中に差し入れた。

 

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「ん?」と思ってモリの先を見ると、いきなりカニゲットである。

 

「たきや漁」ではガザミ、タイワンガザミ、イシガニなどのカニが捕れるそうだ。湖底にいるカニを見つけたら真上からスッとモリを下ろすだけで捕れるとのこと。

山本さんが「右側にいるの見えますか?」、「あっ左にもいますよ」などと指示を出してくれるのに従って、参加者も実際にモリを持って漁をする。

 

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モリの先はこんな感じ。柄は長く、3メートルほどはあるだろうか。最初はこの長いモリの扱いに手間取る。

 

水音しか聞こえない静寂の世界

今回は3人のメンバーのうち2人がそれぞれモリを、もう一人がタモ(網)を持って小魚をすくい取るという役割分担で、たまに交代しながらやってみた。 

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初心者にとって一番捕りやすいのはカニだそうで、まずはそこからスタート。

私もやってみたが、何回か失敗しつつも予想以上に上手に捕ることができた。素早く逃げ回るのを追いかける感じではなく、気配を消してモリを一気にスッと湖底におろして捕るイメージだ。

 

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サヨリなどの小魚はタモじゃないと捕れないため、タモ係も重要な役割。モリとは違い、魚の進む先をうまく予測するセンスが必要となる。これまで問われたことのないセンスである。 

 

釣り経験も乏しく、普段特にアクティブな活動もしていない非力なメンバーであったが、次々と獲物をゲット。

山本さんによると「水が濁っているんで心配していたんですけど、思ったより捕れますね」とのことで、この条件下では及第点と言えるペースのようだ。

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漁場まで移動してきた際のエンジンのごう音の中とは打って変わり、漁をしている最中は水音しか聞こえない静寂の世界だ。

緑色に浮かび上がる湖面をじっと見つめながら、ゆっくりと滑るように船が進んでいく。穏やかで少し緊張感のあるこの時間がたまらない。旅から戻って原稿を書いている今も、一番鮮やかに思い出すのは漁をしていた静かな時間のことである。

 

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何か光るなと思って見上げると遠くで花火が上がっていた。

湖畔のホテルで結婚式のパーティーをしたりしていると花火が上がるんだとか。よく分からないけどすでに最高な上に花火まで見られてスーパー最高だ。

 

まるで「夜の水族館」状態

「では、カニは結構捕れたんでそろそろ魚を狙いにいきましょう」と山本さんが言い、再びエンジンをかけて別の漁場へ。このような感じで、何度か漁場を変えながら漁をしていく。シーズンや気候条件などにあわせて最適な漁場は変わるので、その時々のベストな場所を探すのが船頭さんの経験の見せどころなのだという。

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高速移動時の風の気持ち良さには毎度笑ってしまう。「幸せでーす!」と大声で叫んでもエンジン音で聞こえないから恥ずかしくない。

 

初心者にも捕りやすかったカニとは違い、スズキやクロダイ、カレイやヒラメといった魚や、甲イカやタコは素人にはなかなか一発で仕留めるのが難しいという。

山本さんによれば、船頭さんはどんな状況であれ参加者みんなが満足して食事できる量の獲物を確保できるという。湖水が濁って条件の厳しい今回は率先して獲物を探してくれた。

その背中が頼もし過ぎる。

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何度かトライした結果、スズキの中型サイズを指すマダカや甲イカも山本さんが仕留めてくれた。また、その後、私自身も山本さんの適確な指示のおかげで甲イカを捕ることができた。

イカは船に上げる際に墨を吐くのだが、服に墨がかかるとまず落ちないそうなので汚れてもいい格好がおすすめである。今さらだが。

 

湖底を見ていると、漁の対象にはならないフグやエイ、ウミヘビなどの姿も見える。夜の水族館のようだ。しかもすべて自然。海の生物好きにはたまらない光景である。

山本さんによると浜名湖ではここ数年「ナッパ」とよばれる藻が大量に発生してしまっているらしく、それによって生態系が壊れるなどのデメリットがいろいろ生まれてしまっているのだとか。地域で協力し、定期的に除去してはいるのだが、限界があるんだとか。「温暖化の影響もあるんでしょかねー」と苦々しく言う。

 

イカダに浮かんだ「たきや亭」

1時間ちょっとで漁が終わると「ではこれからお食事をしていただきます」と再びエンジンをかけて船を進める。

しばらくして見えてきた光景に目を疑った。

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食事の場となるのは湖上に浮かぶイカダに作られた特設スペース「たきや亭」。船でゆっくり近づいていくと天国のようにまばゆく見え「あれ、俺死んじゃったのかな?」と思うほどである。

「たきや漁」では参加者の食事スペースとして、同様のイカダスペースがいくつか設けられているそうだ。

イカダの上とはいえ、上陸してみると安定感があって揺れは気にならない。

 

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ゴザを敷いた上に座って食事をするのだが、周囲のお客さんをみるとみんな簡易テーブルを持ち込んだりしているようだった。

 

「たきや亭」には飲み物類やご飯ものの用意はないため、必要であれば各自が持ち込むことになる。常連さんたちはクーラーボックスに飲み物をたくさん入れて持ってきているようだった。我々初心者はこの通り何もなし。

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しかしこれでも十分楽しい。

 

捕れたての魚を天ぷらで……

こちらが我々の船の本日の収穫。

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自分の船で捕れたものの他、エビやタコなどの定番ものは事前に捕って用意してくれているそうで、まずはエビの天ぷらからいただくことに。

 

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山本さんが目の前で次々に揚げていってくれる。 

 

するとこうです。

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そのまんま揚げたて!

 

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さすがはオール天然モノ、これが何の調味料もいらないおいしさ。

 

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うますぎる!

 

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一方、別の場所では我々の船で捕れたスズキ(マダカ)がさばかれている。ちなみにさばいてくれているのは私たちの船の船頭の山本達矢さんの実のお父さんだという。

 

次に揚がったのは私の捕った甲イカだ。

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 捕れたてってこんなにおいしいのかと驚く。どこまでも透き通ったうま味! 感動で震えた。

 

なにからなにまでうますぎる

船頭さんの間で他の船で捕れたものを分けあったりもすることもあるようで、我々の船のスズキ(マダカ)が別のお客さんのところにも提供され、そのかわりに別の船で捕れたアナゴをいただいた。

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▲手際よくアナゴをさばきながら、参加者の一人のお子さんに「こうやってさばくんだよー」と教えてあげている山本さんのお父さん

 

山本達矢さんは一度は営業マンとして会社勤めをするも、お父さんの生きざまにひかれ、改めて「たきや漁」の船頭になることを選んだんだそうだ。

そんないい話を聞きながら、我々は持ち込んだご飯ものを取り出した。

 

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静岡の名物駅弁・東海軒の「元祖鯛めし」である。

 

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どうですかこのセンス! 我ながら最高の取り合わせだ。

 

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さばかれたアナゴがこうなり、 

 

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山本さんが捕ってくれたスズキ(マダカ)がこうなった。

どちらもうま味の塊りだ。

 

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もう「うまい! うまい!」と言い過ぎて言葉も出ない。みんな半笑いでヘラヘラ食べるのみ。 

 

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「こんな幸せなことってあるんですねー」とぼーっとしてきたところに、「カニがゆであがりましたー!」と山本さん。

 

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豪快に割って食べた身のふっくらしたおいしさ。

「カニ最高!」としか言えない自分が情けないが仕方ない。塩ゆでしただけでこんなにおいしくなるなんて、カニよ、本当にありがとう。 

 

さらにそのカニたちをぜいたくに煮込んで作った味噌汁も登場。 

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後味にダシがふわーっと強く香り、もうお腹いっぱいだけど何度もおかわりせずにいられない。

 

食べ残した分はパックに詰めてもらい、この後、宿での打ち上げのおつまみに。

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漁の時間も楽しかったが、山本さんのお話を聞きながら捕れたての魚介類のおいしさに放心するひと時も至福。

 

今まで捕れた珍しい魚だと、トビウオとか、昔は奇跡的にマグロや伊勢エビが捕れたこともあるんですよ。浜名湖が外海とつながっているところから入ってくるんでしょうね。

 

昔に比べると捕れる魚種が少しずつ減ってきていて。そういう時代の変化はあります。あと、昔はこういう場所で食事をしてなくて、船の上で天ぷらをやっていたんです。 さすがに揺れると怖いですけどね(笑)。

 

月2回ぐらい来る常連さんも多いですよ。そういう方は船頭の指示ナシにもうドンドン獲物をモリで突いて、包丁を持って来て自分で刺身にして食べたりしています。

 

天皇陛下もたきや漁をされたことがあるんですよ。

 

などなど、一つ一つの話がここでしか聞けないことだらけで面白い。

 

取材当日、私たちは「THE HAMANAKO」というホテルに宿泊したのだが、そのホテルには桟橋があり、帰りは「たきや亭」から船で直接ホテルまで送っていただくことができた。アクセスに便利なので、遠方からきて「たきや漁」をやる人はよく宿泊するそうである。

漁をして、湖の上でそれを食べ、ホテルまで送ってもらって部屋で打ち上げ。こんなぜいたくなことがあっていいのか! という最高のコースだった。

 「たきや漁」のシーズンは5月中旬から9月下旬まで。絶対に思い出に残る体験になるので、ぜひ予定をあわせて参加してみて欲しい。

ちなみに船一隻の定員は4人だが、大人数で来て何隻か船を出して参加する人も多いとか。WEB上での予約も可能なので詳しくは公式サイトをチェックしてみてください。

 

今回お世話になった「たきや漁」情報

「浜名湖 雄踏たきや漁」

住所:静岡浜松市西区雄踏町宇布見9985-3

問い合わせ電話番号:053-592-2260

takiyaryou.jp

 

書いた人:スズキナオ

スズキナオ

1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。

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