読売ジャイアンツを支えた走塁職人・鈴木尚広に聞く「常に自分のベストを保つには?」【集中力ないひと必読】

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16年シーズン限りで惜しまれつつも現役を退いた元読売ジャイアンツ・鈴木尚広(すずき たかひろ)さん。

ストイックかつ入念な準備で、球史に残る唯一無二のポジションを築きあげた“足”のスペシャリストに、ベストなコンディションを保つ「食」の秘訣(ひけつ)を聞いてきた。

 

1軍になって磨かれた節制意識

──現役時代の鈴木さんと言えば、誰よりも早く球場入りして出番にそなえる職人肌。食事面に関しても相当こだわられていたのでは? と想像するわけですが。

 

鈴木:もちろん自分なりに気をつけてはいましたけど、そこまで極端なことはしなかったですよ。そもそも、寝ているとき以外はほぼずっと野球のことを考えてるような「オン」の状態だった当時の僕にとっては、食事は数少ない「オフ」の時間。そこで「あれもこれも食べられない」ってやってたら、せっかくの楽しみが逆にストレスにもなりますしね。

 

──とはいえ、そこにはやはり「自分ルール」のようなものも?

 

鈴木:暴飲暴食はしないとか、まぁ、ごく普通のことですよね。焼肉屋さんに行くなら、脂身は避けようとか、野菜を多めに取ろうとか。「好きなものを好きなだけ」じゃなく、「腹八分ぐらいにしておこう」みたいな、自分のなかでの範囲を決めるようにはしてました。ただまぁ、僕自身は意識的に食べないとすぐに痩せちゃう体質なんでね。エネルギーの源である炭水化物なんかの糖質は、一般の方と比べてもかなり多く取っていたほうだと思います。

 

──そういった節制を意識されるようになったのはいつ頃から?

 

鈴木:しっかり考えるようになったのは、やっぱり1軍に定着してから。若い頃の秋季キャンプとかでは、それこそ質より量で、コーチの方から「食事もトレーニングだ。食べ終わるまで帰さないぞ」みたいなことも言われましたけど、ある程度年齢がいってくると、どうしたって基礎代謝は落ちるし、身体にも変化は出てきますしね。同じ油を取るにしても、抗酸化作用のある亜麻仁油にしてみたり、足りない部分はサプリメントで補ったり……。食事に関してもその都度自分なりに考えて、工夫をするようにはなりました。どんな仕事であれ、健康であるに越したことはないですし、結局は、身体が資本ですからね。

 

──たしかに、それが引いてはけがをしない身体作りにもつながるわけですもんね。

 

鈴木:ただ、僕自身は1日3食、決まった時間に食事をするのが正しいことだとはまったく思っていなくて、朝はスムージーとか酵素ジュースだとかで済ませることも多かったです。個人的には、「時間が来たから食べる」ってより、「おなかが空いてから食べる」ぐらいがちょうどいい。ただでさえ夜型な僕ら野球選手は、朝起きてすぐでは早いんです。なにしろ、十分に胃を休めてあげるためには12時間ぐらいは必要だと言われていますからね。

 

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自分の中の「合う/合わない」を常に意識

──亜麻仁油やサプリといった健康的なワードが出てきましたが、ご自身で取りいれられた「食」に対するこだわりは、ほかにもありますか?

 

鈴木:食事はともかく、お水だけは「これしか飲まない」っていうものがありますね。岐阜のほうに湧いている天然水なんですけど、休みのときとかに往復9時間ぐらいかけてくみにいって、ポリタンクに100リットルぐらい積んで帰ってくる。それを毎日1リットルずつ飲むっていうのを、ここ数年の日課にしています。おそらくスーツケースの中に何本もペットボトルを詰めて移動していた選手は、僕ぐらいのものだったんじゃないですかね(笑)。キャンプのときなんかは、当然、ポリタンクごと宿舎に送ってましたしね。

 

──となると、そのお水にたどり着くまでには「水探し」の紆余(うよ)曲折も?

 

鈴木:ネットとかでもいろいろ調べて、トータルで数十カ所は回ったんじゃないかな。もっとも、「僕にとって合う」ってだけで万人に合うとは限らないですし、僕自身が「水っていちばん大事だよね」ってことに気づいて、自分の身体のためにやってるだけのことなんで、取りたててどうと言うことでもないんですけど……。でも、いいんです。遠いから行かない、近いから行くとかって、それじゃこだわりになりませんしね(笑)。

 

──水が違うと、やはりパフォーマンスも変わりますか?

 

鈴木:体調は全然違いますよね。市販の水っていつ採られたものかわからないなと。 同じ飲むならやっぱりフレッシュなものがいい。これはもう人それぞれだし、ただ僕が疑り深い性格なだけかもしれないですけど、タウリンとかをサプリメントで取るにしても、人の手が加えられたものより天然のもののほうがすごく効くような気がするんです。あくまでも僕のイメージだけど(笑)。

 

──なるほど。信じるか信じないかは自分次第。「実感」に勝るものはないと。

 

鈴木:食生活であれ、練習であれ、最終の意志決定権は常に自分にあるわけですから、何事もまずはトライして、自分の感覚のなかでの「合う」「合わない」を取捨選択していくっていうのは、すごく大事なことだと思うんです。同じ人間でも、身体の構造までは同じじゃない。だからこそ、自分のオリジナルを作りあげていく作業は不可欠なんじゃないのかなって。実際、睡眠にしたって、「5時間ぐらいがちょうどいい」って人もいれば、「8時間寝ないとダメ」って人もいる。肉ばかり食べていてるのに長寿な人も世の中にはたくさんいますよね。

 

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ルーティン化することで集中できる

──ちなみに、現役を引退されてからは食生活にも変化が?

 

鈴木:おつきあいなんかもあるんで、お酒は多少飲むようにはなりましたけど、全体としてはそんなに変わっていないですね。いまでも時間を見つけて身体は動かすようにはしていますし、体質としての「合う」「合わない」が客観的にわかるアレルギーテストとかも、1年に1回は受けるようにはしています。やっぱり生きている限りは、そこには気を使いたい。いくらお金があったとしても、健康じゃなかったら元も子もないですしね。

 

──プロ野球選手には「なにかと言うと肉」なイメージもありますが。

 

鈴木:うーん。実家がお肉屋さんな僕が言うのもなんですけど、個人的には肉より魚のほうがいいっていうのはありますね。もちろん肉も好きなんですけど、魚のほうが調理法もバリエーションに富んでますし、なんて言うか、作る人のこだわりを前面に出せる感じがするじゃないですか。あと貝類も好きなんで、貝だったらたぶん24時間食べられるような気がします(笑)。

 

──お仕事柄、いろんな場所に行かれることが多いと思いますが、「食」に関しての「マイブーム」的なものはどうでしょう?

 

鈴木:子どものときから好きっていうのもあって、その土地土地のおそばはよく食べますね。おそばが有名なところって、水がきれいだったり、自然環境がいい場所が多いですし、そういうところでゆっくり香りを楽しみながら食べたいなって。昔は高級な焼肉屋さんとか、カウンターのお寿司屋さんで食べるのがカッコいいと思っていたんですけど、最近はもっぱらこぢんまりしたおそば屋さん。板わさなんかをつまみながら飲んで、シメでおそばを食べるっていうのが、カッコいいなって思うようになりました。

 

──では最後に、鈴木さんがここまで大成できた「秘訣」をぜひ。

 

鈴木:自分を変えたいと思ったら、とにかく行動でまわりを納得させる以外にないですし、そのためには「こう!」と決めたものを、できるまでやり続けるしかないと思います。同じことをやり続けて、それが自分の中でのルーティンになってしまえば、なにも考えなくても集中力は発揮できるものですし、結果も自然とついてくる。準備さえしっかりできてさえいれば、いざというときに「集中しよう」なんて思うまでもないですからね。

 

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【鈴木尚広】

1978年4月27日、福島県生まれ。右投げ両打ち。相馬高から96年のドラフト4位で巨人に入団。02年に就任した原辰徳監督に見出されて1軍初出場を果たすと、“足のスペシャリスト”として一躍台頭。03年以降は7年連続でチームトップの盗塁数をマークしたほか、08年には、緒方孝市以来18年ぶりの30盗塁にも到達して、ゴールデングラブ賞も獲得した。通算の盗塁成功率.829は、200盗塁以上の選手中では歴代トップ。終盤の勝負どころで送られる“代走の切り札”として決めた132盗塁は現在もNPB記録となっている。

 

撮影:石川真魚

 

※この記事は2017年11月の情報です。

 

書いた人:鈴木長月

鈴木長月

1979年、大阪府生まれ。関西学院大学卒。実話誌の編集を経て、ライターとして独立。現在は、スポーツや映画をはじめ、サブカルチャー的なあらゆる分野で雑文・駄文を書き散らす日々。野球は大の千葉ロッテファン。

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