「大谷キラー」と呼ばれた男はいま ──。三菱日立パワーシステムズ・二橋大地選手が迎える勝負の夏【新・男の野球メシ 社会人野球編】

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100回目の節目を迎える夏の甲子園に先立ち、今年も「第89回 都市対抗野球大会」東京ドームで開幕する。7月13日から12日間、予選を勝ち抜いた32チームが全国から集結し熱戦が繰り広げられる社会人野球の一大イベントだ。

そこで『メシ通』では、プロとも、高校野球とも違う、独自の文化を醸成してきたアマチュア野球の最高峰で、この夏本格デビューを飾る注目のスラッガーにインタビュー。「あの夏の記億」と「社会人野球での現在」を語ってもらった──。

 

二橋:大学に入ったぐらいの頃は、必ずと言っていいほど出るその肩書きに悔しさを感じることもありました。試合でどんなに活躍しても、自分より彼の名前のほうが先に出る。今となっては、こうして取材もしてもらえてすごくありがたいことだと思えますけど、あの当時は「いつか話題性だけじゃないことを自分の力で証明してやる」って気持ちのほうがやっぱり強かったんですね。

 

都市対抗野球大会本戦の常連であり、社会人野球の強豪として知られる三菱日立パワーシステムズ(MHPS)。去年に引き続き、今年も横浜市の代表として出場を果たす。その選手たちが、前身の三菱重工横浜時代から足繁く通うラーメン店が「一文無」である。

現在、MHPSに所属する二橋大地は、大事な試合前には必ず食べるという“勝負メシ”ニラ玉タンメンを頬ばりながら、「あの夏」のことを語りはじめた。

 

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▲社会人2年目を迎え、強豪・MHPSでも期待のスラッガーとして台頭する

 

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▲「一文無」店内には歴代の神奈川県代表のペナントがズラリ。野球愛が伝わってくる

 

「大谷を倒した男」の葛藤

高校3年生だった2012年の夏。

 

二橋は、強豪・盛岡大附高の4番打者として、宿命のライバル・花巻東高と県大会の決勝戦で激突。直前の準決勝・一関学院戦で高校生史上初の160km/hをマークしていた、かの大谷翔平(現・エンゼルス)から決勝の3ランホームランを放ち、一躍時の人となっていた。

 

むろん、大多数の野球ファンが期待していたのは甲子園で躍動する大谷の姿。それを打ち砕いた二橋の強烈な一発は、それがレフトポール際のきわどい当たりだったこともあって議論百出。当の盛岡大附にも「大谷の甲子園行きを阻止した」ことに対して、何本ものクレーム電話が寄せられた。

 

二橋:僕らの野球部は、僕を含めてもともと県外出身者が多いから、全員が地元出身の花巻とやるときはどうしてもアウェイな感じにはなってしまう。なので、そこはまぁ、しょうがない部分もあるのかなと。とはいえ、僕らにとっては「負ける気がしない」って思えるぐらいやってきた練習の成果が出た試合。僕自身にも「入った」っていう確信はあったんで、周囲の雑音みたいなものはそこまで気にならなかったです。そもそも寮生活の僕らは携帯をもつのも厳禁だったから、ネットでたたかれたりしているのを実際に見たのも、引退後でしたしね(笑)。

 

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▲チームのモットーは「野球は楽しく」。レギュラー奪取がまずは当面の目標だ

 

それが「甲子園出場への近道」と信じて最激戦区・神奈川から、地縁のない岩手への“留学”を決めた二橋にとっては、そこに待ち受けていた「100年にひとりの逸材」と目される同学年の“怪物”との出会いは、文字通りの想定外。「聞いてないよ」とツッコミたくもなる出来事ではあったろう。

 

だが、憧れの聖地への切符は、そんな“大谷超え”なくしてはつかめない。1年生の時点で140km/h超えのボールをいともたやすく投げこむ“怪物”のズバ抜けたポテンシャルを目の当たりにすれば、自然と気持ちは固まった。

 

二橋:入学した時点で「花巻にヤバいやつが入ったらしい」ってウワサは聞いてたんですけど、実際に見たら、本当にヤバくて……(笑)。地元のテレビとかでは当時からけっこう騒がれてたんで、仲間うちでは「怪物退治するぞ!」とかってよく言い合ってましたね。

で、2年の秋に負けてからはもう、とにかくチーム全体で速いボールを打つ練習。12mとかの至近距離から全力で投げた球をひたすら打つっていうのをひと冬やって、夏の大会直前は150km/h、160km/hにセットした(ピッチング)マシンを、さらに近い10mぐらいの場所に置いて、1球目は見て、2球目でバント、最後に打つ……って感じで打ちこみました。実は彼のボールを打席で見るのは、あの夏が初めてだったんですけど、おかげでまっすぐに関しては、そこまで速いとは思わなかったですね。まぁ、スライダーとかの変化球は見た瞬間、「絶対ムリ!」って感じでしたけど(笑)。

 

「いまでも得意」というスピードボールへの対策はすでに万全。ずっと目標に掲げてきた“怪物退治”も成し遂げて、悲願の甲子園にはチーム一丸、意気揚々と乗りこんだ。

当時の盛岡大附は、春夏通じて8度の出場を誇りながらも、そのすべてが初戦敗退という不名誉な記録の真っ只中。かかる“初勝利”への期待にも、応える自信はもちろんあった。

 

二橋:内容的にも勝てた試合だったんですけどね。でも、気がついたときには、延長12回でサヨナラ負け。あのときは涙も出ないぐらい負けた実感が全然沸いてこなくて、帰りのバスでもただ呆然としてました。ちなみに、相手(島根・立正大淞南高)のエースは、MAX128km/hとか。いまにして思えば、スピードボールに目を慣らしすぎて、逆に打ちあぐねてしまったところもあったんだと思います。一応、僕自身は2安打したんですけどね(笑)。

 

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JX-ENEOSとの代表決定戦ではスタメンにも抜擢。期待に応える活躍をみせた

 

社会人の熾烈(しれつ)な生存競争

そして現在 ──。

福島・いわきにある東日本国際大で野球漬けの日々を過ごした二橋は、自ら希望して飛びこんだ社会人野球の世界で一意奮闘。2年目を迎えた今季は、「優勝候補」にも数えられる強豪・MHPSにあっても出場機会を大幅に増やすなど、着実に力をつけつつある。

 

二橋:野球をやっている以上は、目指すべきゴールはプロだと思ってますけど、今は与えてもらった限られたチャンスをモノにして、チーム内の競争に勝つことが先決。(都市対抗の本戦で)ベスト4までいった去年はベンチにさえ入れなかったので、今年はなんとか結果を出して、少しでもレギュラーに近づけたらなと思ってます。もっとも、立場的にも僕はとにかく一生懸命やるだけ。まわりの状況を見渡せるほどの余裕はまだないですしね。

 

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▲“勝負メシ”は決まって「ニラ玉タンメン」(880円)と「焼きめし」(720円)

 

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▲看板の一文そば(930円)と茶碗焼きめし(370円)

 

くだんの大谷を筆頭に、94-95年生まれはとりわけ多くのプロ選手を輩出する“黄金世代”。練習試合などを通して親交のあった青森・光星学院(現・八戸学院光星)出身の田村龍弘(12年・ロッテ3位)、北條史也(同・阪神2位)ら、ひと足先にプロへと進んだ同級生たちの活躍ぶりを見聞きすれば、当然そこには「自分もあわよくば……」と欲も出る。

 

だが、そこは強者ぞろいの社会人。生半可な気持ちのままで通用するほど甘くもない。休部した系列の三菱重工長崎との統合で、ただでさえ激化するチーム内の競争を勝ちぬくうえでも、「いまが正念場」と二橋も言う。

 

二橋:ボーイズ(リーグ)、高校とずっと一緒だった佐藤廉(パナソニック)や、出口心海(日本通運)も同じ社会人で頑張っていますし、同世代には中学時代に対戦もしていて、いまやジャパンの4番も打つ東京ガスの笹川(晃平)のようなスゴい選手もいますしね。なので、僕にできることは、いまこの場所で彼らと切磋琢磨(せっさたくま)しながら結果を残していくことだけ。もしドラフトへの道が開けるとしても、それは一生懸命やった先にしかないと思うんで。

 

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▲身体が資本。ふだんは油モノを控えるなど食事にも気を使う

 

自己評価はあくまで「ヘタクソ」

小学校から大学まで“定位置”はずっと「4番・ファースト」。強豪チームでプレーする現在とその経歴だけで判断するなら、彼は間違いなく野球エリートではあるだろう。

しかし、当の本人による自己評価はあくまで「ヘタクソ」。甲子園にまで出場した輝かしい実績は、人一倍の練習量をこなした結果として付随してきた副産物でしかないという。

 

二橋:今の僕があるのは、ボーイズで1日1000、高校でも最低500……と、どんなに体調が悪いときでも、毎日欠かさずバットを振ってきたおかげ。そりゃ昔は「やらされてる」って思ってた時期もありましたけど、やっぱり練習はウソをつきませんからね。

その試合ですべてが決まるっていう局面でヒット1本が出なくてベンチ入りから外された高2の夏。個人的にもあんな悔しさは、もう二度と味わいたくないんです。

 

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▲「一文無」では、ワンタンメン(930円)も評判メニューのひとつ

 

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▲ナスと豚肉の豆板醤炒め(780円)など一品料理も豊富

 

怪物との因縁を糧に

ちなみに、大谷翔平の実父は、MHPSの前身である三菱重工横浜でもプレーした社会人野球の元選手。今大会には、初出場を決めたトヨタ自動車東日本のコーチ兼外野手として実兄・龍太も出場するなど、二橋の野球人生にはやはり、かの“怪物”との数奇な縁がつきまとう。

 

二橋:彼のお父さんがウチの出身だったことは、入社が決まってから知りました。大学のときは取材されるたびに「プロで再戦して、今度は文句なしのホームランをバックスクリーンに打ちたい」とか言ってましたけど、その彼もすっかり遠い存在になっちゃって……(苦笑)。まぁ、今はどこにいてもネットで情報が見られますし、ニュースとかで「あいつも頑張ってんな」ぐらいの感じで思ってもらえてたらうれしいなって。そのためにも僕も負けずに頑張っていきたいなと思ってます。

 

MHPSのチーム方針は「食べて鍛える」というシンプル・イズ・ベスト。二橋自身もこの1年で身体をさらに大きくし、90kgだったベンチプレスも110kgまで上がるようになっている。

 「自分のアピールポイントは打撃」と言いきる24歳の若きスラッガーが初めて挑む都市対抗の緒戦・ホンダ鈴鹿戦は、7月15日14時プレイボール。アマチュア最高峰の大舞台で躍動する原石の輝きに、いまから要注目だ。

 

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【二橋大地(にはし・だいち)】

1994年4月14日、神奈川県生まれ。右投げ右打ち。ポジションは内野手(ファースト、サード)。小学1年から軟式野球を始め、中学時代はボーイズリーグの強豪『瀬谷ボーイズ』で活躍。同チームの同級生5人とともに進学した盛岡大附高では、1年秋からベンチ入り。3年夏には高校通算39本塁打の4番打者として大谷翔平率いる花巻東高を撃破し、甲子園にも出場した。東日本国際大を経て、17年から三菱日立パワーシステムズ(MHPS)でプレー。

 

写真提供:三菱日立パワーシステムズ 硬式野球部

 

お店情報

一文無(いちもんなし)

住所:神奈川横浜市西区浅間町2-98-5
電話:045-316-8517
営業時間:11:30〜14:30、17:00〜22:00
定休日:木曜日

www.hotpepper.jp

 

書いた人:鈴木長月

鈴木長月

1979年、大阪府生まれ。関西学院大学卒。実話誌の編集を経て、ライターとして独立。現在は、スポーツや映画をはじめ、サブカルチャー的なあらゆる分野で雑文・駄文を書き散らす日々。野球は大の千葉ロッテファン。

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