「カレーは飲み物。」という店名に隠された大胆さと緻密さ。壬生代表のパンクでファンクな経営論

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ラノベ系の店名は「カレーは飲み物。」が先駆け

カレーは飲み物。

 

こんな看板を掲げたカレー屋が、東京にある。オープンは2012年。今では決して珍しくなくなった、飲食店に文章のような店名を付けた“元祖”と言っていいだろう。

 

店に一歩足を踏み入れれば、そこは硬派かつシンプルな作り。メインのメニューは基本的に「赤」と「黒」の2種類のみで、ご飯は小盛(200g)でも大盛(450g)でも値段は変わらない。さらにトッピングは10種類のなかから3つを選べ、これまたどれを選んでも追加料金はない

 

運営する株式会社のみもの。は、池袋店、秋葉原店など「カレーは飲み物。」各店を展開するだけでなく、「とんかつは飲み物。」「焼きそばは飲み物。」「ハンバーグは飲み物。」と立て続けに「飲み物。」シリーズの新店舗をオープンさせ、2019年10月現在で22の店舗を運営している。

 

ネットでは店名のインパクトに関する話題が先行しがちだが、この勢いを見るに、もしかしてそこには緻密なマーケティング戦略があるのでは……。そう考え、同社の代表・壬生裕文さんに話を聞いてみた。

 

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▲「黒い肉カレー」は小盛でも山盛でも900円

 

「〇〇は飲み物。」発想の原点は“岡村ちゃん”?

──飲食業界の社長さんって、ギラギラしていて小脇にセカンドバッグを抱えているイメージだったんですが、壬生さんはそういう雰囲気じゃないですね。

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生裕文さん(以下、壬生):ゴルフもやらないですし、時計にも興味がないですし、物欲があまりないですね。ファッションは好きですけど、高級車に乗るよりは自転車で街を走りまわるくらいがいい、といった感じですね。

 

──「カレーは飲み物。」は、いかにして生まれたのでしょうか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:最初は蕎麦ですね。2010年に池袋で「池袋 壬生」っていう自分の名前を付けた蕎麦屋を始めたんです。「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。」っていうキャッチコピーで。店名に注目していただくというのは、そこからスタートしています。ラノベ(ライトノベル)系のネーミングというんでしょうかね。

 

──ターゲットも、そうした層ですか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:20代から50代の男性会社員と、いわゆる「オタク」な男子です。基本的には、彼らが集まるところに出店する感じですね。だから、池袋とか秋葉原周辺に店舗が多いんです。

 

──語りかけているような長い店名のお店は、ここ数年で増えましたね。

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:10年近く前からそういうことをやっていたので、「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。」っていうキャッチコピーは、その走りだったんじゃないでしょうか。

 

──そのラノベのタイトルのような発想はどこから?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:小学生のときから岡村靖幸さんがすごく好きで。意識はしてなかったんですけど、その影響はあるのかなって思うんです。

 

──あー! 名曲『あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう』ですね。

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:まさにそれです。小学生にしては早熟な感性だったと思うんですけど、結構聞いていました。岡村さんの言葉選びの面白さとか特別感には、たぶん相当影響を受けていますね。

 

赤と黒の「いつか世に出したかったカレー」

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──「なぜ蕎麦」は今も続いていますが、そこからカレー専門店の「カレーは飲み物。」につながっていったのはなぜでしょうか。

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:僕は昔、飲食店を再生するような事業をやっていたことがありまして。そのとき「ランチをもうちょっとカジュアルにしたい」っていう、フランス料理のレストランからの依頼をもとに作ったカレーがあったんですよ。

 

お店は結局、立ち退きでなくなっちゃったんですけど、そのカレーがすごく美味しかったので、いつか世に出したいっていう思いがありまして。「なぜ蕎麦に〜」の調子がよくて、2年ほどで2号店を出せることになったので、「じゃ、このタイミングでカレーの店を」ってことで。

 

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▲「赤い鶏カレー」は小盛でも山盛でも850円

 

──「カレーは飲み物」という言葉自体は、もとからありましたよね。

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:小学校の頃観ていたテレビ番組『オレたちひょうきん族』の「ひょうきんベストテン」のコーナーで、ウガンダ・トラさんが発した名言(※正確には「カレーライスは飲み物」)ですね。

 

30年くらい前からずっと残っている言葉って、なかなかないんですよ。TVで生き残って、さらにネットの時代になってからもネットスラングみたいなかたちで生存している。そこに注目していて、もしカレー屋をやるときはこの言葉を使えたら面白いなと。

 

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▲「カレーは飲み物。」1号店の前に立つ壬生さん

 

──先に言葉があったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:いや、やっぱり商品が先ですね。どれも基本的に商品ありきなんで。まず美味しいカレーがあって、それを「どうやって売っていこう」っていう考え方ですね。

 

──店名の印象と違って、食べてみると意外に繊細なカレーなんですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:そうですね。欧風カレーをベースにアレンジをかけているので。こういうスタイルのカレーが、本当の「日本のカレー」なんじゃないかなと思います。

 

──繊細なのに量もちゃんとありますし。

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:うちのお客様ってすごく舌が肥えてるんですよね。いわゆる「オタク」層のひとたちは量も食べますし、味にはかなりうるさい。
そのなかでちゃんと評価をしてもらってるというのは、「飲み物。」シリーズ成長の大きな力になってるんじゃないかなと思いますね。

 

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▲公式サイト上の壬生さんはちょっと雰囲気が違う

 

オーソドックスなゴシック体に込めた意味

──店名には「〇〇は飲み物。」以外の候補はあったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:いや、これしかなかったですね。「カレーは飲み物。」を作った2012年にはすでにSNSが流行り始めていたんで、工事の段階で看板が付いたら、みなさん写真を撮っていくんです。それを見て「これはいけるんじゃないか」っていうのはすごくありましたね。

 

──SNSでの拡散については、最初から意識していた?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:そうですね。僕自身はSNSをやってないんですけど、そういう時代になっていくのはわかっていたので。看板に注目してもらうっていうのは、雑誌『宝島』の連載「VOW(バウ)」のイメージですね。ちょっと面白い看板なんかを撮って投稿するっていう。

 

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──看板の色やフォントは簡潔というか、デザイン性があまりないですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:看板のフォントはあえてやっていまして。というのも、僕らのなかで「どこにでもある食材を工夫で美味しくする」っていうテーマがあるんです。
特別なものを使って特別なことをやったら、それは美味しくて当たり前だと思いますが、その「特別なもの」がなくなったら、その商品が成立しなくなる。

 

だからよくある食材を、人にはできない工夫とか手間をかけてサービス化することで、長く生きる商品づくりをする。そういうのもあって、オーソドックスなゴシック体のフォントでの表現がちょうど合っていたかな、と思っています。

 

──店名にしろ看板にしろ、そうした方向性を打ち出すのに不安はなかったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:不安っていうか、「反対があったほうが正解」っていう感覚が昔からありまして。ふつうなら反対するじゃないですか。でも、そうすることで競合がいなくなったり、意外とすんなりいけたりするっていう感覚ですね。

 

「カレーは飲み物。」の1号店を出すときも、スタッフから「冗談でしょ?」とか「電話にどうやって出ればいいんですか?」みたいな話はありましたけど、「いや、『“カレーは飲み物。”です』って言えばいいじゃん」って(笑)

 

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▲カレーのトッピング。10種類から3つを選ぶ

 

──トッピングが数種類のなかから選べて、しかも追加料金なし。これは当初から考えていたものですか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:そうです。これも一種の(飲食業界への)アンチテーゼなんですけど、ふつうトッピングするとどんどん高くなるじゃないですか。軽く1,000円を超えちゃう。
個人的にも、お支払いのときに予定していた金額とギャップがあるのはすごく嫌だなと思っていたんで。そこへの逆張り的な発想からのスタートですね。同一料金でお得感をつけて、あとは味を変化させてたっぷり食べてもらって、というところです。

 

「もう商品はなんでもいいじゃん」の境地へ

──カレーから、とんかつ、焼きそば、ハンバーグへと広がっていったのはなぜですか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:カレーってオペレーションがすごく簡単だから多店舗化には向いているんですよ。実際、「カレーは飲み物。」がすごくヒットしたことで出店を加速させていくんですけど、そんな中でカレーの大会がありまして。
純粋にうちのカレーの反応を確かめたくて出てみたんですが、あきらかにダントツの行列だったのに3位だったんです。


その時に「カレー1本で頑張っても、商業的な大会で評価が左右されるってどうなんだろう? 同じことをずっとやり続けるのって意味あるのかな、面白くないな」って思ってしまいまして。
そこから「飲み物。」シリーズを展開したわけです。

 

僕たちの店名の“飲み物”って“概念”なんです。商品はなんであれ、「美味しくて、お得で、お腹いっぱいになれる」っていうことが、フードビジネスにおいてすごく大事なことなんだって気づきまして。
もう、商品はなんでもいいじゃん」みたいな。

 

そんなわけで、カレーの次は「とんかつは飲み物。」、その次は「焼きそばは飲み物。」ときて、今年は「ハンバーグは飲み物。」を出しました。

 

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▲2019年4月にできたばかりの「ハンバーグは飲み物。」

 

目標とするのは地元・南信州のソウルフードメーカー

──意識していたり、目標としている会社はありますか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:僕の地元・長野県に伊那食品工業っていう会社があるんです。寒天のメーカーなんですけどね。

 

──寒天?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:「『かんてんぱぱ』の会社」って言ったら、長野の人はみんなわかります。地元のソウルフード的なおやつなんです。寒天の粉に味が付いていて、それを水に溶かして、冷蔵庫で固めるんですけど。

そこがめちゃくちゃいい会社なんですよね。経営理念が「年輪経営」で、いきなりじゃなくて、年輪のように少しずつ成長していくっていう方針でやっているんです。目標というか、憧れみたいな感じですね。

 

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▲『ミュージック・マガジン』の表紙風に加工された壬生さん 

 

──ハンバーグの次の「飲み物」はもう考えているんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:10種類くらいは作ろうかなと思ってるんですけど。商品は僕らの共通の概念に沿ってやっていけるものだったらなんでもいいんです。スイーツでもいいし、サラダでもいいし。
たとえば「俺はビーフストロガノフがすごい好きだ」っていう気持ちがあって、知識も調理技術もあって、哲学を持った“ビーフストロガノフオタク”みたいな人がいれば、「ビーフストロガノフは飲み物。」を出しますし。


あとは、「飲み物。」シリーズとは別なんですけど、オタク用語で「推し」って言葉があるじゃないですか。“推しメン”とか。今、あの“推し”をテーマにしたドリンクスタンド推しのいる生活。」をやろうと思っています。

 

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▲完成したばかりの「推しのいる生活。」ロゴ

 

──「僕の推しはイチゴミルク」みたいな?

 

f:id:exw_mesi:20190928222023p:plain壬生:いえ、ドリンク自体への「推し」ではなくて。コンセプトは、美味しい飲み物を通して“推し”がいる生活を豊かにする。池袋での“推し事”やオタ活の止まり木として、楽しく使っていただけるカフェにしたいですね。

 

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なるほど壬生さんは、2つの面を持つ人でした。

 

ひとつは、販売するものは「概念」に合うものだったらなんでもいいという大胆さ
インタビューでは紹介しきれませんでしたが、コアな常連さんが東京から地元・山梨に帰ることになったとき、「『カレーは飲み物。』を出店したい」と壬生さんに訴えたことをきっかけに、甲府への出店を決めたというエピソードも。
そういう、「よし、やってみるか」で突き進む大胆な面があるのです。

 

もうひとつは、客が飽きないよう工夫し、「どうすれば知ってもらえるか」を計算し尽くす緻密さ。繊細に作られたカレーを、おもしろ店名や目をひく看板といった“スパイス”を加えて届ける「技」をも持っています。

 

きっと、その2つの面を巧みに見せたり隠したりすることで、「飲み物。」シリーズをここまで育ててこれたのでしょう。

 

お店情報

カレーは飲み物。 池袋

住所:東京都豊島区池袋2-19-3
電話:03-6912-8823
営業時間:11:00~カレーが無くなるまで/17:30〜カレーが無くなるまで
定休日:無休

https://nomimono.co.jp/

 

www.hotpepper.jp

書いた人:土井大輔(たちこぎライダー)

土井大輔(たちこぎライダー)

ライター。出版社を経て、ゲームメーカーで歴史ゲームの開発に従事。やっぱり会社員は向いてないなと気づき、独立。ひとり株式会社を立ち上げた。年老いた女将がいる居酒屋を求め、夜ごと街をさまよっている。

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