ビールは「注ぎ分け」でもっと美味しくなるってホント?麦酒大学の学長・山本さんに教わってきた

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ビールは「注ぎ方」でもっと美味しくなる

こんにちは。いつも酔いどれハッピー野郎、人呼んでふつかよいのタカハシと申します。

ところで、私がよく飲むお酒のBEST3に堂々ランクインするのがビール。

ある日、いい酒場を求めて街をふらふらしていたところ、発見してしまったんです。

麦酒大学(ビールだいがく)」の文字を……。

なんでもこのお店、ビールを「注ぎ分け」することで、ビールをさらに美味しく飲ませてくれると話題のお店。

皆さんは「注ぎ分け」という言葉を聞いたことはありますか? 

そして「注ぎ分け」とは、いったいどんなことをするのでしょうか。

 

「麦酒大学」という名前のビアバー

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中野駅南口から徒歩約2分。

「レンガ坂」と呼ばれるお洒落ストリートの一角に「麦酒大学」はあります。

 

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「大学」という名前の通り、店内の黒板にはビールの作り方や雑学が丁寧に記されています。さらに、グラスなどのグッズがずらり。見ているだけで胸が高鳴ります。

 

ビールはメンテナンスで味が格段に変わる

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こちらが麦酒大学学長こと、店主・山本祥三さん(以下・山本さん)。

至高の1杯ができるまでには、さぞかし紆余曲折があったことでしょう……。

根掘り葉掘り伺うことにします。

 

──そもそも、山本さんが飲食業界に入られたきっかけは?

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:広島屋」という中野の酒屋で働いていて、飲食店にお酒を提案営業する仕事をしていたのが始まりです。

 

──なるほど。そこから「麦酒大学」を開業したのはなぜですか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:あるとき、営業活動の一環で飲食店のビールサーバーを洗浄していたところ、お客さんから「洗いたてのサーバーで注ぐビールを飲ませてよ」と言われたんです。いざビールを提供したら、その方の表情ががらっと変わって。「美味しい!」と。嬉しかったですね。この経験から、もっとたくさんの方にビールの魅力を伝えていきたいと思い、開業しました。

 

──「メンテナンスによって変わる味の違い」に興味を持ったのが始まりだったんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:そうですね。「ビールって、メンテナンスでここまで味が変わるんだ」と体感して。「もっとビールを美味しくするためにはどうしたらいいのだろう」と興味を持ち、独学で勉強するようになりました。

 

グラスに注ぐ技術で味が変化する「注ぎ分け」とは?

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▲基本の4種に加え、アレンジメニューも

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:「同じビールの味わいを、グラスに注ぐ技術で変化させること」を「注ぎ分け」といいます。 注ぎ分けの技術は、広島にある「ビールスタンド重富」のオーナー・重富寛さんに学びました。

www.hotpepper.jp

 

──ビールにもたくさんの種類がありますが、麦酒大学の注ぎ分けでは「キリンラガー」のみを使用しているのだとか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:はい。ビールに親しんでもらうため、大手4社(サントリー、キリン、アサヒ、サッポロ)の主要銘柄のいずれかを使用しようと決めていました。その中でも、昭和8年の復刻サーバー、現代の最新サーバーを使用して注ぎ分けたときに明確に味が変わったのがキリンラガーだったんです。

 

──早く飲みたくなってきました……(白目)。

 

昭和の復刻サーバーと現代のサーバーの違い

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▲左が現代の最新サーバー。中央が昭和8年の復刻サーバー

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:主に2つの違いがあります。1つ目は注ぎ口。昭和の復刻サーバーは水道の蛇口のようにくるくる回し、ビールの液体と泡のバランスを調整します。現代のサーバーはシリンダーで液体の流れを制御するので、手前に引くとビールが出て、奥に押すと泡が出る設計になっています。

 

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▲左が昭和時代のサーバーに取り付けられていたカラン(注ぎ口)、右が最新型

 

──おもしろいですね。カランだけでも全然違う。

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:2つ目は、ホースの太さ。昭和の復刻サーバーは速く、現代のサーバーはゆっくりしたスピードでビールが出て来ます。誰がやっても綺麗にビールが注げるようなサーバーが必要だったので、徐々に改良されて今の形に変わったんですね。

 

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▲上が昭和時代のビールホース、下が平成のビールホース

 

──樽の冷やし方も、サーバーによって異なりますか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:はい、変わります。昭和の復刻サーバーを使用するときは、冷却機能がないので樽自体を冷やしています。

 

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▲昭和の復刻サーバー用の樽

 

逆に、現代のサーバーは機械の中に氷が張っており、冷却機能があるので常温で保存していますね。

 

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▲現代の最新サーバー用の樽

 

サーバーを毎日2回洗浄することで味が変わってくる

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──美味しいビールを提供するために気をつけていることはありますか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:器具を分解して営業前と営業後の2回、毎日細部まで洗浄しています。放置していると、ビールに含まれている糖分が固まり、臭いの原因になってしまうので。あと、1年中店内の温度を23度に保っていますね。

 

──なぜ23度なのでしょう?

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:美味しいビールを提供するためには、樽の温度に合わせて適正な圧力をかけることが大切なのですが、主要銘柄の炭酸圧は23度のときに安定すると言われているんです。注ぐ技術以前に、「ガス圧をどれだけ毎日同じ状態に保てるかが肝」と言っても過言ではありません。

 

──サーバーに応じて、グラスを変えたりなどはしていますか?

 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:していません。純粋に「注ぎ分け」で味が変わるのを知ってもらいたいので、グラスは全部「うすはり」で統一しています。どの国のビールがどのグラスと合うかを解説する場合には、変える場合もありますけどね。

 

「注ぎ分け」で本当にビールが美味しくなるのか

話を聞いていたらもう、飲みたくて飲みたくてたまらなくなってきた筆者。

今回は、全11種類の注ぎ分けのうち、以下の3種類の注ぎ分けを見せていただくことにします。

  • 麦酒大学注ぎ……現代の最新サーバーで注ぐ大定番の注ぎ方(定番)
  • 3度注ぎ……3度に分けて注ぐことでマイルドな味わいに変化する(定番)
  • ミルコ……チェコ伝統の注ぎ方。ミルキーで柔らかい味わいなアレンジメニュー

他にも、こんな注ぎ分けのメニューがあるそうです。いつか全部試してみたい!

  • 1度注ぎ……昭和8年当時の復刻サーバーで注ぐ伝統の注ぎ方。香りと味わいのバランスが絶妙(定番)
  • 2度注ぎ……柔らかい泡と味わい深い旨味が凝縮された注ぎ方(定番)
  • 灘コロンビア……八重洲の名店「灘コロンビア」伝統の注ぎ方(アレンジメニュー)
  • 爽快注ぎ……ふんわりした泡でアジアのビールを思わせるライトな飲み口(アレンジメニュー)
  • メルティ……ミルコを注ぎ足しながら作る、甘みが最大限に感じられる注ぎ方(アレンジメニュー)
  • 麦酒大学 3度注ぎ……適度に炭酸が抜けることでお腹がふくれない、苦味も感じられるスッキリタイプ(アレンジメニュー)
  • 大澤注ぎ……ビールも泡も飲みやすい一番マイルドなタイプ(アレンジメニュー)
  • 重参注ぎ(2杯で1セット)……苦味MAXと飲みやすさMAXの2杯セット(アレンジメニュー)

 

①麦酒大学注ぎ

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「麦酒大学注ぎ」は、現代の最新サーバーを使用。

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ビールが7割の量になるまで優しく注いでいきます。

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こちらが途中経過。

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グラスについた泡を水で洗い流したら......

 

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完成です。

クリーミーできめ細かい泡と、キレのある喉越し、口にしたときの爽快感......三拍子揃った、まさに理想のビールでした。いやぁ、360度、どこから見ても美しい......!

ここは桃源郷だったのでしょうか。


②3度注ぎ

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「3度注ぎ」は、昭和の復刻サーバーを使用。高い位置から勢いよくビールを注いでいきます。

 

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泡でいっぱいにしたら……

 

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一度時間を置いて、液体に戻します。

 

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この工程を繰り返すこと3回。

 

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5分ほど時間をかけて、完成です。

勢いよく注ぐことで、苦味と炭酸が抑えられ、甘みを感じます。ビール初心者にオススメ。ふんわりとした泡立ちも特徴的です。

 

③ミルコ

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昭和の復刻サーバーから直接泡を注ぐチェコ伝統の注ぎ方「ミルコ」。

 

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繊細かつ大胆な手さばきで泡を一気に注ぎ入れ……

 

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あっという間に完成です。

 

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ミルキーで柔らかい味わい、まさに「ミルク」を思わせるようなコク。

時間が経つと泡の部分が液体に戻るのも面白い! 女性に人気というのも頷けるマイルドさです。

自宅で「3度注ぎ」する方法

この感動体験を、自宅に持ち帰りたい。

そんなあなたにオススメな、山本さん直伝ビールの注ぎ方とおつまみレシピをご紹介します。(※今回は、練習用として水で注いでいます) 

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1回目は、「グラスの背の高さ」の倍の高さからビールを注ぎ、泡だらけにします。

 

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泡と液体が半々になったタイミングで、2回目も高い位置から注ぎます。

盛り上がった泡がグラスの縁まできたら3回目を注ぎ、完成。

 

「慣れるまでは、空き缶に水を入れて練習を重ねるとイメージがつかめるかも」と山本さん。缶全体を傾けるのではなく、缶のおしりだけをあげるイメージで注ぐのがコツなのだそう。

 

枝豆の麦酒漬けとビールは好相性

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麦酒大学人気メニューのひとつ「枝豆麦酒漬け」(400円)も自宅で再現可能。

350ml缶のビールに大さじ1杯の塩を加え、吹きこぼれないよう弱火で温めます。

あらかじめ茹でておいた枝豆をそのビールに漬け込み、冷蔵庫で一晩冷やしたら完成。

余談ですが、炭酸には口内の油脂分を洗い流す作用があるため、塩や油が含まれているおつまみは抜群にビールに合います。

唐揚げもいいなァ(遠い目)。

 

本物のビールを体験してほしい 

f:id:Meshi2_IB:20190603104709p:plain山本さん:麦酒大学を始めてもう間もなく3年が経ちますが、うちに来て最後までビールが飲めなかった方は数えられる程度です。ビールが苦手と言う人は、まだ「本物のビール」を飲んだことがないのだと思います。

 

そう熱く語る山本さん。

その言葉は、至高の1杯を提供するための徹底的なメンテナンス、そして何より山本さん自身のビール愛に裏打ちされていました。ぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。私は、もう1回行きます。

 

お店情報

麦酒大学(ビールだいがく)

住所:東京都中野区中野3-34-23 辻ビル2F 
電話番号:03-4291-8571 
営業時間:17:00~24:00(L.O. 23:30) 
定休日:日曜日 

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書いた人:ふつかよいのタカハシ

ふつかよいのタカハシ

三度の飯より酒が好きなライター。主戦場は赤提灯酒場。365日中、300日は飲酒。1人でも多くの人と盃を交わすための我が人生。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。酒情報を楽しく発信する「酔いどれnote」やってます。

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