獲っては棄てられるゴマサバを救え!三宅島新名物「サバサンド」誕生秘話

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みなさん、サバサンドはお好きですか? 半分に切ったコッペパンに、焼いたサバと野菜などを挟んだもので、もともとはトルコの郷土料理でもあるこの料理。
その中でも、「フジロック」をはじめ色んなイベントに出店するたびに完売、食べたくても食べられない人が続出している“幻のサバサンド”があるのをご存知でしょうか。

僕も2度ほど出店していたイベントに行ってみたものの、完売で食べられなかったクチです。

 

その幻のサバサンド、作っているのはなんと伊豆諸島の三宅島とのこと。島旅研究家として生唾を飲み込みながら、行ってきました。

 

サバサンドなのに、サバが見えない!

三宅島へは、都内のJR浜松町駅近くの竹芝桟橋から夜中に出発するフェリーに乗り、6時間半。まだ夜も明けきらない時間に島に到着します。

 

幻のサバサンドが食べられるお店は、その名もストレートに「サバサンドカフェ」。三宅島には定期のフェリーが接岸する港が3つありますが、このカフェがあるのはそのうちの一つ、錆ヶ浜港近く。

そのためカフェの営業も、竹芝桟橋行きの便が港に到着する昼前から始まるそうです。実に離島っぽい。

 

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錆ヶ浜港船待合所「ここぽーと」の2階に、目的のサバサンドカフェはあります。

 

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お昼過ぎにカフェに向かうと、すでにお客さんもちらほら。島の家族連れや観光客と思しき人たちがサバサンドを頬張っていました。

 

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カウンターに行き、サバサンド(500円)を一つ注文。外からも厨房で調理している様子が見えます。パンやサバを焼く香りにそそられつつ、上にトッピングする野菜などを眺めながら5分ほど待つと、お待ちかねのサバサンドが出てきました!

 

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出てきたサバサンドは本場トルコを模したのか、英字新聞っぽい包装紙に包まれています。パンに挟まれたサバが見えないほどたっぷり乗せられた、玉ねぎの存在感がすごい。レタスもしっかりアピールしているので、サバサンドなのにサバが見えません。

 

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手に持ってみると、見た目とは裏腹にどっしりとした重さが伝わってきます。これはサバの重さなのだろうか。野菜に隠れて見えないけど、確かにその存在を感じます。 

 

大口を開けてかぶりつくと、コッペパンとはまったく違うみっしりとした噛みごたえ。パンの甘さが強く口に広がり、続いてお待ちかねのサバの味が広がります。ただ焼いただけのサバかと思いきや、こちらも甘めに味付けされていたのが予想外。最後にフレンチドレッシング風の玉ねぎの苦さと爽やかさが口の中で一緒くたになり、複雑な味を奏でています。「サバを挟んだだけのパン」という先入観を持っていると、驚くほど色んな味が楽しめるサンドです。

 

ボリュームも思っていた以上で、サバもケチらずに半身がそのまま入っているうえ、身が厚い! これ一つで十分お昼ご飯になりそうです。

 

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サバサンドを平らげたあとは、他にも気になるメニューがあったので、続けてチャレンジです。

 

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サバトマカレー(500円)は、そこそこ辛めの味付け。サバを煮込んでいると思われる具材が、キーマカレー風にみじん切りやフレーク状にされています。

  

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明日葉サンデー(400円)は、バニラのソフトクリームの上に自家製の明日葉(独特の苦味のある伊豆諸島原産野菜)ソースがかかっており、アクセントに明日葉の茎のピール、お魚のクッキーが添えられています。甘いソフトクリームに、ほんのり苦い明日葉のソースがマッチしていて、最後まで美味しく食べられました。

 

サバサンドカフェのメニュー、どれも美味しかったのですが、やはりメインのサバサンドの美味しさの秘密を知りたい。他にも美味しい魚が豊富に獲れる三宅島で、なぜ「サバ」なのか?

 

そんな疑問を胸に、サバサンドを提供している「民宿スナッパー」の奥様、野田理恵さんにお話を伺いました。

 

「島では誰もサバに見向きをしなかった」

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▲民宿スナッパーで、サバサンドカフェを切り盛りしている野田理恵さん

 

──そもそも、なぜサバだったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田さん(以下、敬称略):10年以上前になるんですが、漁協でアルバイトをしていた時期があったんです。三宅島の漁は定置網が主で、今の時期(4月中旬)だとカツオにシイラ、ムツ、キハダマグロ、春のトビウオなんかと一緒に、サバが大量に獲れるんですね。島では他にも美味しい旬の魚がたくさん獲れるので、当時は誰もサバなんて食べてなかったんですよ。

 

──サバは獲れても棄てられてしまう、と。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そうです。(2000年の)噴火前くらいの話なんですけど……ダイビング中、潜っていた付近の海上を漁船が通ったんですね。すると帰り際、行きになかったものが海底に落ちていることに気が付いたんです。

 

──まさか。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そう、サバが棄てられていたんです。例えばキンメダイ漁をしていてサバが一緒に獲れちゃうと、船に乗せておくスペースがもったいないじゃないですか。漁協まで持っていっても、昔は氷の供給が足りてない時期もあったので、「サバの鮮度を保つために氷を使うくらいなら、他のもっと美味しくて売れる魚に使いたい」と。
そのうち、「サバを入れる魚樽(漁協の青い大きな樽)はねえ!」って言われるまでになって。なんとか漁協のお魚センターの売り場に出せても、本当に売れなかったんですよ。

 

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▲三宅島の美しい海。数多くの美味しい魚が獲れるという

 

──やっぱり美味しくないんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:いえいえ。ただ、三宅島でよく獲れるゴマサバっていうのは“旬がない”そうなんですよ。マサバであれば旬には脂がのってとても美味しいんですが、ゴマサバはいつでも脂の乗りが同じで、いつ食べても不味くはないけど、すごく美味しくもない。
しかも一年中獲れるとなれば、「旬ごとの美味しい魚が豊富なのでそっちを食べましょう」と、どうでもいい魚扱いになってしまうんです。

 

──サバを加工品にしようという考えもあったんじゃないですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:ゴマサバもマサバも、脂が多くて身も柔らかいので、「くさや」にも向かないんです。同じように身が柔らかくても、シイラのくさやは作るんですけどね。
漁協のお魚センターでは、その日獲れすぎた魚を干物やフライに加工しているんですが、どうしても売れる魚が優先されてしまいます。センターのスタッフたちも「棄てられるサバをどうにかしたい」という思いはあったんですけど、優先順位が低くどうにもできなかったですね。

 

──そこでサバサンド、というアイデアが出てきたんですね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:元々三宅島ってあまり外食をしない文化で、2,500人弱が暮らす島なのに飲食店があまりないんです。食堂やレストランができても、地元の人に外食文化がないから、あまり成り立たないんですね。
それに、「島で獲れた魚は人様に出すものではない」という考え方があって、魚は基本的には島内で流通せず、いいものは築地や、今なら豊洲などの内地(島から見た本土のこと)に行ってしまいます。
だから観光客が宿に来たときに「夕飯に地魚が食べたい」と言われても、あまり選択肢がないのが実情でした。

 

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──島の周りにはこんなに海が広がっていて魚も獲れるのに、食べるところがないのはもったいないですね……

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そういう島なので、「かしこまった料理ではなく、軽くご飯の合間に軽食として楽しめるもの」ということで、サバサンドにしようと思いました。持ち歩いて手軽に食べられるし、パンや野菜を変えることで色んな味のバリエーションを出せますしね。

 

“島産島消”を目指して

 ──いただいたサバサンド、思っていたのと違ってパンもサバも甘くて美味しかったです。パンはどこのものを使っているんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:坪田地区の築穴製菓(つくあなせいか)さんのパンを使ってます。島のソウルフードですね。「昔ながらの近所で作られているパン」という感じで本当に美味しいんですよ。築穴製菓さんでは、他にも菓子パンや食パン、お祝いの時の餅まきの餅、お赤飯、時期限定でおはぎも作っています。

 

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▲築穴製菓のパン。甘くてみっしりした食感がサバサンドに合う

 

──やっぱり、サバサンドをやるなら島のパン屋さんのパンを使おうと考えてたんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:最初から築穴製菓さんのパンを使うつもりでした。ちなみに、あれはコッペパンではなくて「長ロール」という名前で、いわゆる“ドックパン”というものですね。

 

──生地がみっしりしてて甘くて美味しいですよね。お野菜も島産なんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:最初は島のものを使っていました。でもこの島の農業は、漁業よりもさらに個人レベルでやっていて、ほとんどは家庭菜園の延長なんですよね。なので、島で手に入るものがある時は使いますが、葉物も玉ねぎも今はほとんど島外のものを使っています。
そこに来て、去年・一昨年と島の明日葉の生産が追いつかず、島の畑はどこも明日葉畑に変えているので、島の玉ねぎはますます手に入りづらくて。
夏場だけやってるサルサのサバサンド(500円)に関しては、特別に島で穫れるナスとトマトを使っているのですが、これが手に入らないと作らないんです。

 

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──「作れない」んじゃなくて、「作らない」んですか。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:東京のトマトを使っても全然味が出ないので。ここの島の野菜は一気に出来て一気になくなっちゃうので、サルサのサバサンドは材料があっても二週間ほどで終わっちゃうんです。 野菜って本来、そういうものじゃないですか。旬があって、それを過ぎればなくなる。

 

──サルサのサバサンド、ものすごく食べたい……。ちなみに今日は何食くらい出ましたか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:今日は、30食ちょっとくらいですね。土曜日にしては少なかったですね。日曜はもうすごくて、11時半にお店が開くのを待ってる人がいるんですよ! 開店と同時に一気に注文が入るので、作りまくります。

 

──サバはお店で注文が入ってから焼いてるんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:港で揚がったものを一気にさばいて、下地を焼いてから冷凍しています。そうやっておかないと、カフェでの提供には間に合わないですね。
冷凍したものからその日提供する分を民宿のオーブンで焼き直して、脂分を飛ばしてカリッとさせ、自家製の蒲焼のタレをからめてから、港のカフェに持っていきます。

 

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──あれ、蒲焼のタレだったんですか。甘辛くて美味しかったです! 上に乗っているみじん切りの玉ねぎも、また絶妙な爽やかさで。カラシも結構効いてますよね。この味になるまでは結構試作を重ねたんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:これについては最初から結構味は決まっていたので、試作はそんなに大変じゃなかったですね。
今回食べていただいたバージョンのサバサンドは、一番手間がかかるのでうちで作り続けていきますが、例えばカレー味とかもっと簡単な味付けで作れるものは、島内の他のお店でもやってもらいたいなと思ってて。

 

──“おらがサバサンド”、ですね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そうです。「みんなでサバサンドを作りませんか」ということをあちこちの飲食店さんに話をしに行ったんです。スタンプラリーを作ったりすれば、観光客がサバサンドを食べるためにお店を回ってくれるんじゃないかって。

 

──みなさんやる気になってくれましたか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:今のところダメですね~。

 

──やっぱり島の人の頭の中には「サバなんて」というのがあるんですかね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:それもあるんですけど、「買って食べたいから」という人が多くて……!(笑) 実は、島の人がサバサンドを食べる量は増えてきているんです。

 

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「サバ」と「サバサンド」は違う?

 ──島の人もサバサンドを食べているんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:予約でもサバサンドを作って配達をしているんですが、カフェで出すものと合わせて一日で70食とか出る日もあって。そのうち予約分が50食だったりすると、カフェで出す分がほとんどなくなってしまうということも結構あります。

 

──まさか島内でそこまで人気が出るとは思わなかったですよね。観光客が食べられないという問題もありますが、結果として島民がサバを食べるようになったんですね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そういう意味では、サバをなんとかしたいという狙いは少しずつ達成されているのかなと思います。
それと、面白いですよ。サバサンドカフェにいらっしゃる島のお年寄りは!
夫婦で来られるお年寄りがいるので「デートですか? サバ食べるんですか?」って冷やかしたりするんですけど、「いや、俺はサバなんか食わないよ?」って。「え、これサバですよ?」って言っても、「これはサバサンドだからいいんだ!」とか言い張るんですよ!

 

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──「サバ」と「サバサンド」は違うと。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:違うらしいです。とあるおばあさんなんかは、私の顔を見るたびに「これ、サバ入ってるのか?」って聞いてくるんですよ。本気で言ってるのかボケてるのかわからないけど、私がサバサンドを始めた5年前からずっと言い続けてるんです……(笑)。

 

──でも「美味しい美味しい」って食べてるんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:5年間、月イチでずっと食べに来てくれていますよ。
それと、去年はサバが全然獲れなくて作れなかったんですが、「ムロアジサンドにしろ」とか「マグロサンドにしろ」とか色々言われました。「サバじゃなければサバサンドじゃないんだよ!」って言ってるんですけどね。要は、サバでなくてもいいからこのカフェを営業してほしい、ということなんでしょう。

 

──やっぱり島にファストフードがないので、そういうものを食べたいんでしょうね。そういえば、サバトマカレーも美味しかったんですが、一見サバが入っていないように見えますね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:ですよね(笑)。サバには「ピンボーン」という背中から横に出てる小骨があって、料理屋さんだと毛抜のような骨抜きで一本一本抜いたりするんですが、うちではそんなことやってるヒマがないので、その部分だけ包丁で切るんですね。新鮮なゴマサバだからできるんですが、三枚に下ろした真ん中にうまく包丁を楔形に入れると、その部分だけがぷるるるって、一気に取れるんですよ。 

 

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f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そこは血合いでくさみがあるんですが、一番栄養のあるところなんです。ただ、この辺りの部位は骨がものすごく硬くてしっかりしているのでサバサンドには使えません。
なので、圧力釜で骨と血合いをフレーク状にして、それをひき肉のように使ってカレーを作っているんです。それもよくよく説明しないと、「どこにサバ使ってた?」って言われてがっくりきちゃうんですけど(笑)。

 

──カレーになってもサバを棄てないように」っていう、最初の狙いからぶれずに続けてるわけですね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:狙い通りではありますね。「もっと魚を楽しく食べられたらな」って思うので。

 

──包装紙も、本場のトルコのサバサンドを包んでる新聞紙をイメージしていて楽しかったです。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:外食文化がない島なので、その辺りも気を遣ってますね。カフェで出しているソフトクリームもできるだけ種類をたくさん増やして、子供とお父さん、お母さんが来て楽しんで選べるようにしてます。週末はもうファミレス状態ですよ!

 

──軽食を食べるところがないから、「じゃあみんなでサバサンドカフェに行こうか」ってなるんですかね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:カフェはうちの所有してる場所ではなく、公共施設を間借りしてやっているので、持ち込みのものを食べていても全然大丈夫なんですよ。

 

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f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:実は、子供にもサバサンドを食べてもらえたら、と思ってお子様向けのものも作っています。見た目は大人と一緒だけど、上に乗ってる玉ねぎをリンゴのみじん切りに変えているので、ちょっと甘いんです。それでも子供は自分のものを食べた後にお父さんのも食べてますけど(笑)。
中には「なんで俺はいつも外のパンだけ食べさせられるんだよ~!」って怒ってるお父さんや、「半分に切りますか?」って聞くと「切ると子供に食べられるからいい」って言うお母さんもいたり。そんな家族模様を見るのも面白いです。

 

──そう考えると、今まで島の人が気軽に集まれる場所自体がなかったってことでしょうか。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:うーん、そんなことはないんですが、あの場所は極端にオープンなスペースですよね。公共施設だから誰が来てもいいし、何を食べていてもいいし、買ってから外に出てしまってもよくて、なんならうちで何も買わずに外に出てもいいですし。

 

──持ち歩きできるのはいいですよね。それも含めて、島民の心を掴んでいる感じがします。

 

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イベントでブレイク、そしてフジロックへ

 ──サバサンド目当てに島に来る観光客もいるんじゃないですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:いますね! 2014年の「島じまん」(2年に一度、竹芝桟橋で行われる東京諸島のイベント)に出店した後は、そこで食べられなかった人が来て……

 

──僕も「島じまん」に行きましたけど、食べられなかったですね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:400食用意していたのにね……。うちだけ特別枠の出店で食券制度にしてくれたんですが、お陰さまで食券を売る段階で、その日のサバサンドがなくなってしまって。2時間並んでいただいたのに買えなかった方を出してしまった時点で、失敗でした。

 

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▲「島じまん2014」の様子。伊豆諸島、小笠原諸島の各ブースで色々な物産やフードメニューが楽しめる

 

──そこまで人気が出たのはなぜだと思いますか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:それはね、物珍しさだと思うんですよ。島じまんの時は、サバサンドみたいなちょっとハイカラな食べ物があまりなかったからかな、って。
元々、島じまんに出られたきっかけが、東海汽船さん(都内と伊豆諸島を行き来する船を運航している会社)の写真コンテストでした。そこでサバサンドを撮って応募してくださった方がいて、その写真が「島のグルメ賞」という賞を受賞したんです。
受賞したメニューは都内の島料理店でメニュー化されるはずだったんですが、サバサンドだと難しいということで、「じゃあ島じまんに出店してもらおう」という運びだったんですね。
今みたいにインスタが流行る前でしたし、写真コンテストで注目してもらえたのは大きかったと思います。

 

──意図していなかったけど、最初に写真でPRというのがうまくいった理由かもしれないですね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そうかもしれないですね。ただ、島じまんでもフジロック(フジロックフェスティバル2015)でも、SNSに「食べた!」とか「ゲットした!」という投稿よりも、「売り切れで食べられなかった」というのが本当に多くて、それが申し訳なくて……

 

──それが逆に期待感を煽る形になったんだと思います。僕も島じまんで食べられなくて、「それだけ売れるんだからきっと美味しいんだろう」って思いましたし。

  

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▲僕がサバサンドを求めて行った時はすでに売り切れだった

  

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:「島じまん」では、有名人の方がゲストで出演していたんですけど、何度か島に来てサバサンドを食べてくれていたんです。それで義理堅く、島じまんのステージでも「サバサンドすごく美味しいです!」って言ってくれたんですよ。
でも、その頃にはすでに売り切れてて「ごめんなさい……!」と謝るしかなかった(笑)。

 

──フジロックに声がかかったのは、やはり島じまんで注目してもらったからなんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そうです。でもフジロックはね~、やっちゃいましたね。規制が結構厳しくて、使える調理器具がすごく限られていたり、トラックも2トンの冷凍車しか入れなくって。それでも、頑張って用意できたのが2,000食。それが一瞬でした。

 

── 一瞬!?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:初参加でいきなり「オアシス」という大きなエリアでの出店になってしまったんです。他のオアシス出店のところは母体が大きな会社で、フジロック対策課、みたいな部署があるわけです。
当然、内地に拠点があるので、途中で食材などの追加や補充ができるんですね。うちは食材を島から持ってこなきゃいけないから補充もできない。築穴製菓さんで焼いてもらえるパンも、2,000個が限界だったんですよ。

──持ってこられたとしても、そもそもパンがこれ以上作れなかったと。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そうです。島のパン屋さんなので、このためだけに増産というのはできないんです。冷凍の設備は漁協の冷凍庫を借りて、焼いては冷凍してどんどんストックしていったんですが、それでも限界があります。
そういえば、フジロックは開催直前になると、全国三紙の紙面に一面広告が出るんですよ。そこに小さくではあったんですが、「三宅島からサバサンドが来る!」って載せていただけて。
前夜祭からオープンさせてもらえたんですけど、1日目の夜は行列ができてお店を閉められず、2日目の朝には売り切れちゃいました。

 

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(写真提供:野田さん)

 

──ええっ、早い!

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:オアシスのエリアマネージャーに「売り切れました」って報告に行ったら「フジロックをなめてるのか」って言われちゃいましたね……。 そんなこともあって、フジロックに出店したのは2015年の一回だけ。
この時は東海汽船さんもすごくバックアップしてくださっていて、翌年出られなかったのは本当に残念がってくれました。

 

──それはそうですよね。「伊豆諸島のお店が、あのフジロックに出る」というのはすごいことですし。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そうですよねえ、我ながらよくやりましたし、うちもよく「出る」って言ったなと。怖いもの知らずというか(笑)。フジロックは審査も厳しくて、向こうもよく声をかけてくれたなって思います。

 

──決め手はなんだったんでしょうね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:フジロックに魚料理が少なかったから、でしょうかねえ。海を渡って出店するという物珍しさもあったとは思うんですけどね。

 

──他にも色んなイベントに出てますが、基本は依頼があったら行くことにしているんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:サバがない時は困っちゃいますけど、サバがある限りは出店するようにしています。

 

──それはやっぱり「棄てられているサバをなんとかしたい」という思いだけでなく、ご商売的なものもあるんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:いえ、イベントはどれも赤字なんです。特にフジロックはかなりの赤字でしたね。

 

──それでも、サバサンドの認知度アップを目指したい、ということですか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:それと、漁業のためですね。全国の養殖生簀で育てたサバをわざわざ食べているのに、島の人が目の前の海で獲れるサバを食べなくてどうする、ということを伝えたかったんですよ。

 

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給食に「ニセサバサンド」が出た!

──サバサンドを作り始めてから、一番印象に残っているエピソードはありますか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:すっごく嬉しかったのは、給食でサバサンドが出たんですよ。

 

──給食で出るってことは、もうその土地の食文化ですよね!

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そうなんですよー、夢だったんですよ! 小学校の先生たちが、日曜になるとうちのサバサンドを食べに来るんですが、子供たちもいるので「先生がサバサンド買ってる!」って冷やかされてるんです。そこで、給食の先生が「そんなに言うんなら給食でサバサンドを出そう」っていうことになって作ってくれたんですよ。
ただ、給食にも色々制限があって。パンは築穴製菓さんのパンでOKだったんですが、生の野菜は出せないし、サバも焼いたものはダメ。そこで玉ねぎドレッシングは茹でたコールスローでドレッシング和えにしようとか、サバは竜田揚げならOKとか色々工夫したそうです。
ところが、出された子どもたちは「ニセサバサンドが出た!!」って騒ぎになって。先生や親に「今日の給食でニセサバサンドが出たんだよ!」とかって言いふらすんですよ。親も「そうだよねえ……」って。

 

──ああー、そこは言っちゃダメ。大人の事情は大人がフォローしないと!

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:「(給食では)サバを自分でパンに挟むんだよ」とか「全然サバサンドじゃないんですけど!」とか、もうみんなにボロクソ言われたみたいで(笑)。

 

──野田さんのサバサンドが唯一無二のものになってしまうのって、“おらがサバサンド”計画的にも痛し痒しですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そうなんですよ。給食の先生は若い人なんですけど、自分で「他の先生方にも『全然違う』って言われちゃいました。私も全然違うと思います!」って言っちゃうし。

 

──そういうのを聞くと、ある意味島の人には愛されてるってことですよねえ。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:嬉しいですよね。……あの給食のあと、サバサンドカフェは荒れました。島の子どもたちがみんなカフェに来て「理恵さん、ニセサバサンドが出たんだけど、ちょっとなんか言ってやってよ!」とか「あれ理恵さんがなんか言ったんじゃないよね、理恵さんは知らないよね?」とか言ってくるんです。
「いや、知ってるから! 給食だから全部火を通さないといけないし」って全部説明したんですけど、子供はわかってくれなくて。
唯一好評だったのが、「上にピーマンがのってないのはよかった」ということ。もう、がっくりするやら面白いやらで。とにかくみんなしてフル抗議でした。

 

──実に島らしいエピソードですよね。普通は「ちょっと違うなー」と思うとか、家に帰って親に少し話すとかだと思うんですけど。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:子どもと言えば、今日もサバサンドカフェに小さい子がいたと思うんですけど、あの子は2年くらい前にそこでソフトクリームデビューをしたと思ったら、どんどん喋ったり、走ったりできるようになって、気がついたらもうサバサンドを食べられるようになってました。

 

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──島の離乳食みたいなものですね! 面白いですね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:そういう成長が見られるのも面白いです。

 

──色々お話伺えて本当に面白かったんですが、これからの目標ってありますか?

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:あとはもう、細く長く続けられたらいいですね。漁協とか農家とか築穴製菓さんも巻き込んでいるので、みんなが無理のない範囲で長く続けることが目標です。
一時的にブームになって、設備投資して「ぼーんとやる!」という島ではないですしね。内地から帰ってきた島の子どもに「サバサンドがなかった」って言われた時も、うちのサバサンドが“島の味”になったのかな、と嬉しかったです。
去年みたいにサバが獲れなくなって続けられなくなったら、そういう子どもの思い出も途切れちゃうので、まだまだ続けていかないとですが。

 

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──それって三宅島のサバが獲れなかったら作らない、というスタンスなんですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190605194210p:plain野田:作らないですね。三宅島のサバや築穴製菓さんのパンがなくなったら、もうやらない。島のものを使うことが一番の目的ですから。
以前サバのムック本などで取り上げていただいた時に一緒に載っていたお店も、今は大部分がサバサンドをやめてしまっているので、やっぱり「続ける」というのが一番むずかしいんだと思います。細く長く続けていきたいですね。

 

──いつか三宅島全体がサバサンドで盛り上がる日が来るのを楽しみにしています。ありがとうございました!

 

 

なかなか食べることの出来ないサバサンドを追ってみると、そこにはサバを取り巻く島民のドラマが広がっていました。

 

美味しいサバサンドが広まることで、少しずつ三宅島の人々のサバに対する思いも変わりつつある……と、野田さんのお話を聞いていて感じ、これからもぜひ続けていってほしいと願わずにいられませんでした。

 

お店情報

サバサンドカフェ

住所:東京都三宅島三宅村阿古672 ここぽーと2階
電話:04992-5-0002
営業時間:11:30~13:30(錆ヶ浜港に船が入港する日のみ)
定休日:不定休

www.miyakejima.com

 

書いた人:いづやん

いづやん

島旅研究家、島旅フォトライター。本業のWeb制作のかたわら、休みのたびに日本の離島を巡り歩いては写真を撮り、ブログを書き、イベントで話したり、同人誌を作って離島の魅力を発信しています。人生初離島は小笠原、一番通っているのは八丈島。

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