生き残り戦術の秘密は特異なキャリアにあり
元自衛官にして元ホスト、現役のWEBデザイナーにして複数の会社経営をしているという抜群にユニークな経歴を持つ白坂翔(しらさか・しょう)さん。
現在もっとも力を入れている事業のひとつが「ボードゲームを遊べるお店」として、都内を中心に全国10店舗以上を展開中のJELLY JELLY CAFE(以下JJCと略)の経営だ。
お店の様子やオススメゲームを紹介してもらった前編に続き、さらに
- そもそもボードゲームカフェはもうかるの?
- ウェブマーケティングって、なにをやっているのか
- スタッフ集め、育成などはどうしているのか
- ツッコミを入れざるを得ない白坂さんのキャリアについて
などなど、今回は経営面や白坂さんのキャリアなどに焦点を当て、勝ち組ボードゲームカフェの秘密に迫る。
ぶっちゃけボードゲームカフェって、もうかるの?
ここは白坂さんが率いるJJCの「池袋2号店」。店内は明るく大変カジュアルでポップな雰囲気である。後々このしつらえも考え抜かれた戦略だと判明する。
──さきほどはオススメゲームのご紹介などありがとうございました。で、さっそくなのですが、ボードゲームカフェってもうかるんですか?
白坂:そういう話ですか(笑)。
──ぶしつけすぎてすみません(笑)。私も含め、みんなお金の話は好きなだと思うのでまずは聞いてみたかった……というのは半分冗談、半分本気なのですが、そもそもボードゲームって国内の市場でどれくらいの規模があるんですか?
白坂:ざっくり大きな話をすると、市場規模で見るとめちゃめちゃ小さいんですよ。業界として「市場規模が何億円」って出せないくらい、正式な値がでないくらい小さい。まだ発展途上というところもありますので、そういう意味ではめちゃめちゃおいしい業界というわけではないです。
──でも裏を返せば市場にまだ伸びしろがあり、ライバルも少ないということでもありますよね?
白坂:おっしゃるとおり、ブルーオーシャンの業態なのです。早めに仕掛けて業界を盛り上げる側に立てればまだまだ戦えるのかなという気がしてます。で、うちは幸いにも仕掛けたのが早かったので(筆者注:JJCは2011年に開業)。今から7年前なんですけど、当時ボードゲームカフェなんてほとんどなかったですからね。
今ではそれこそ日本に300店舗くらいあるといわれてますけど、当時は本当に数十店舗とかしかなくて。その頃からやってたっていう強みは確かにあります。
──ボードゲームはここ10年くらいどんどん盛り上がってきて、特にこの2〜3年はメディアでの露出が格段に増えましたよね。芸能人でもボードゲーム好きを公言する人も増えましたし。
白坂:そういう意味ではウチはまだまだ戦えるなっていうところですけど、最近その盛り上がりもあってかボードゲームカフェも増えてきたりとかして、若干飽和状態というかレッドオーシャンっぽくなりつつあります。
それは業界にとってはいいことなんですけど、その分ライバルも増えてくるのでで生き残るためにちょっと今後は苦労しそうだなと。それはここ1年感じているところではあります。
──とはいえ多店舗化・フランチャイズ化しているのはJJCだけで、業界最大手に見えるのですが?
白坂:ウチだけではないんですけど、店舗数でいうと一番多いですよね。ボードゲームカフェとしては多いかな。
──ボードゲームの盛り上がりに比例するようにボードゲームカフェのオープンもここ数年で急増した印象があります。
白坂:ボードゲームカフェがここ数年で異常に増えた理由としては、やっぱりハードルの低さみたいものがあって。飲食店、例えばなんですかねぇ……。中華料理屋さんやスターバックスみたいなカフェやりたいとなると、まあまあな費用がかかりますし、レシピだとか知識も必要じゃないですか。
▲海外のクラウドファンディングで購入したという特注ドリンクホルダー。底面は樹脂で加工されておりテーブルにビタッと密着。プレー中に手や腕が多少当たったところでビクともしない。ゲーム周辺グッズにもそこかしこにこだわりが感じられる
──そういった形態の店舗に比べると確かに開業しやすそうですね。
白坂:行ってみるとわかるんですが、ボードゲームカフェって、パッと見はボードゲームがあって、机と椅子があるだけ。で、食事を出さなくても飲み物だけで成り立つので、そのハードルの低さを魅力的に感じて参入してきてる方が正直多いと思うんですよ。
──そう聞くと私も「苦しい宮仕えよりも、ボードゲーム好きだからいっちょカフェでも始めてみるか!」という気持ちになってきました(笑)。
白坂:厨房設備を入れてとか、食材仕入れてとか、イニシャルコストがガッツリかかる飲食店と違って、ゲームと机と椅子さえあれば成り立つので「俺でもできそう感」はちょっとあるかなと思いますね。
──で、実際にカフェも始めてしまう人が多いということですね。
白坂:それはよくも悪くもというところなんですけど……まぁ、それで業界が盛り上がってるというのは事実なんで良いことなんだと思います。
その反面、あんまり経営のスキルのない方が、ボードゲームが好きっていうだけで脱サラをして始めるっていうケースが少なくないので、あんまりうまくいってないところもチラホラでてきてるなっていう印象ですね。
そもそも回転率が悪くなりがちな業態。利益はどう確保しているのか
ボードゲームカフェは究極的にはゲームと机と椅子さえあればよく、イニシャルコストを抑えられるので意外に参入のハードルが低いことがわかった。
また経営的にはメニューをドリンクに絞ることで食材ロスのリスクを減らし、お客さんの回転率の低さ(ユーザーは固定料金で数時間滞在する)をワンオペにすることなどで対抗し、ランニングコストを極限まで抑えこむことで、少ないお客さんでも利益を出す構造になっているという。
そのため大きく儲もうけることはないが、手堅く黒字を確保し、十分資金を貯めてから次の出店をするという「カメさん経営」でじりじりと店舗を伸ばしてきたそうだ。
だが参入障壁が低いということは、逆にいえばライバルがどんどん増えていくことでもある。
──お店の性質上、売るものは「ボードゲームの体験」ですよね。コンテンツ自体は他店との差別化をしにくいようにみえます。でもお店によって勝ち組と負け組が出始めているというお話でした。うまくいってないお店は、なにがダメなのでしょうか?
白坂:やっぱりその、なんですかね……広報というか……プロモーションやブランディングとかも含めてなんですけど「お店の見せ方」があんまりうまくいってないお店が多いのかなっていう印象はあります。
──たしかにJJCは、WEBサイトも今いるこのお店もカジュアルでポップなイメージを徹底しています。気軽にお店に行ってみたくなる作りになっていますね。
白坂:当時、ボードゲームのお店の多くは秋葉原とか、公民館とかで遊ばれてたんですけど、それをもうちょっとカジュアルに入りやすい感じのホームページとかを作ってやれば、いけるんじゃないかっていうのはありましたね。
──白坂さんはウェブデザイナーのお仕事もされています。そういった視点も自社のサイトやお店の作りに反映されている?
白坂:ウェブサイトを制作して納品したお客さんに「サイトを作っただけでは誰も来てくれませんよ」「それだけではお客さんは増えませんよ」ということはよく言っています。
──その後はいわゆるマーケティングが必要になってくる、と。
白坂:やっぱりウェブサイトだけ作って「みんな来てね!」だけだと、結局特定の検索ワードだけに引っかかった人しか来ない。どうにかサイトへ一般の人も来る入り口を作ってあげる必要がある。
──具体的にはどんな方策をするのですか?
白坂:最近だとSNSの普及などもあって入口を作りやすいので、コンスタントにブログを書いたりとか、TwitterやFacebookとひも付けて告知してうまくウェブサイトに誘導するなどです。
──そもそもウェブサイトを開設したところで、そのページを認知してもらえなければ存在しないのと同じですもんね。サイトへの誘導の入口がたくさんあったほうがいいわけですね。
白坂:とはいえ本当のゴールは、例えばウチの場合だとサイトを見て認知をしてもらったうえで、さらにお店に足を運んでもらうまでがやっとゴールなんですけど。
──JJCではそれが成功している、と。
白坂:うちも店舗が増えてきてますけど、いまだに「横浜にも店舗があったなんて知らなかったよ」って言われたりもするので、まだそこにウェブマーケティングとして届けきれてないというのはあります。
──JJCでもまだまだ試行錯誤の最中なのですね。
お店経営の最大の肝は「人材」
ハード面ではライバルと差をつけにくいボードゲームカフェという業態。白坂さんのビジネスでは、お店を差別化して集客の拡大させるためにウェブマーケティングを強く意識していることがわかった。そして、さらに重要なものとは?
──シンプルにみえるボードゲームカフェですけど、経営面からみるといろいろと考えどころが多いですね。
白坂:大前提として必要なのは、「スタッフが丁寧に案内や接客をしてくれるか」も大事です。最近はライトユーザーがほんと増えているので、棚をぱっと見てみても90%以上は知らないゲームなわけですよ。
──私もボードゲームは好きでそれなりに遊ぶ方なのですが、それでもこの棚を見ると遊んだことがないタイトルがけっこう多いです。
白坂:店長にゲームのラインアップは任せています。それが店舗ごとの良さになればいいなぁと思っているので。
▲JJC池袋2号店の松田店長と打ち合わせる白坂さん。次回の仕入れについて話しているようにも見受けられるが、ひょっとしたら単に愛好者ふたりがボードゲームについて熱く語っているだけなのかもしれない
──スタッフを信頼して、ある程度の裁量権を渡しているのですね。
白坂:その上で本当にそのお客さんに合ったゲームを紹介できて、わかやすいルール説明をして楽しんでもらえるかというのが2回目以降の来店につながるところだと思うので、それができるかどうかですね。
──ソムリエに近いですね。最高の料理を提供したとしても、スタッフの接客の態度でお店の印象が随分変わってきてしまう。しかもお客さんの気分や経験値に合わせて適切なゲームをアテンドする技量も必要。そんな人材をどうやって集めているのですか?
白坂:ありがたいことにボードゲームカフェで働きたいという子が多くて、募集をかけるとけっこう集まってくれます。
▲このゲームトレイ、アンツルから発売されており四隅のボタンを外せば1枚布になり携帯にも便利。捨て札用に使ったり、フェルト製で消音効果もあるのでサイコロを投げ入れてもうるさくない
──JJCに入りたいという人は、事前に相当ボードゲームの知識・経験・研鑽が必要になってきそうですが。
白坂:知識量はそこまで求めてなくて。例えば「ボードゲームは10個しか知りません」っていう人でも、少ないからダメってことはないですね。
それよりも「最近ボードゲームにすごくハマっていてどんどん新しいものを覚えたいです」とか「ここでどうしても働きたいです!」という意欲のある人間を積極的に採用するようにしています。そこは割と大事な部分というか、力を入れてますね。
──かならずしもマニアックな知識は必要ない……。
白坂:逆にいうと「ボードゲームが家に何百個あります」「ルールたくさん知ってます」っていわれても「お客さん対応があまり上手でなさそうだな」「接客向いてなさそうだな」っていう子はちょっと……。
──つまりボードゲームに対する情熱に加えて、コミュニケーション能力も見ている?
白坂:そこの部分は重視してますね。
──お店の立地もかなり重要だと思うのですが、ボードゲームって遊び出すと2〜3時間は軽く飛んじゃいますよね。となると素人目にはユーザーとして狙うのは自由に使える時間が多い大学生かなと。大学が近くにある土地を探したりするのですか?
白坂:いや、おっしゃるとおりで割とそこは意識しています。あとそうですね駅近もそうですし……。ただ大学が近くなくても若者が集まる街であれば……渋谷とかそうですね。
──開業当時と今では客層も変わってきましたか?
白坂:今でこそお客さんの男女比は半々くらいになってますけど、カフェを始めたばかりの頃はボードゲームをやる人っていうのは今よりもサブカル臭が強かったですし、当時は9割男性で40代・50代の方たちが多かったですね。
元自衛隊で元ホスト。ツッコミを入れざるを得ないキャリアについて
冒頭にも書いたように、白坂さんのキャリアは非常にユニークだ。そこでの得た学びが今の経営術の礎になっているのだろうか。それらの時代についてのエピソードもいろいろと聞いてみた。
──おそらくあちこちで聞かれすぎているでしょうからスルーしようかとも思ったんですけど、でもやっぱり聞かずにはいられない! 白坂さんのプロフィールを拝見すると「元自衛隊で元ホスト」とありますが?
白坂:といっても、もう10年以上たつんですけど…….。その昔はそのネタというか、初対面の時、自己紹介にそれを言っておけば鉄板みたいところがあったんでよく使ってて。最近それに頼らないようにはしてるんですけど。
──学費が無料になる防衛大に入ったのも、親御さんに負担をかけたくないという気持ちがあったからとか。
白坂:そうですね。そういうふうにいうと聞こえはいいんですけどね。なんか早く自立、独り立ちしたかったというのはあったかもしれませんね。
──それでいきなり防衛大生(身分としては自衛隊員)への入学を決断するのもスゴイですね。
白坂:極端な話、親から仕送りをされたお金でエロ本とかを買いづらいなあって思っちゃったんですよ(笑)。「自分で稼いだお金だったら好きに使える」という生活に憧れがあって、防衛大学校ならそれがかなえられるところがありましたから。
──防衛大出身の知人がいるわけではないので、あくまで私のイメージでお聞きするのですが、「戦略」とか「戦術」とかが学科にありそうですし、その知見が今の経営面にも役立っているのかと想像するのですが……。
白坂:いっても普通の大学と同じなんですよ、ほんとに。数学とか物理とか英語とかの授業がありつつ、時間割の体育くらいのノリで、戦術とか戦闘技術とかの授業が入っているだけなんで。
── 戦略や戦術などをがっつり習うわけではないのですね。
白坂:まあ、もちろん夏休みや冬休みとかの1〜2週間、どこかの駐屯地に行って訓練するっていうのあるんですけど、知識ベースで戦争の戦略とか戦術を学ぶ……というのはあんまりなかったかな。
──そうすると意外と普通の大学とあまり変わらない。
白坂:卒業すれば大卒の資格は取れるので。一般の教養としてちゃんと第二外国語とかもありましたし。普通の大学と違うところは、そもそも文部省ではなくて、防衛省の管轄で全寮なんですよ。全員で寮生活をしなければいけない。
特徴的なのは平日は外出できなくて土日も「外出点検」を受けて合格でないと外に行けない。だから1年生くらいだと点検にまあ受からないので、午前中は出れずやっと午後に出られる……みたいな。
──そちらはイメージどおり(笑)。点検で「貴様ぁ、ベッドのシーツが乱れてる。連帯責任で全員腕立て伏せ始め!」みたいな。
白坂:アイロンがけがちゃんとされているかとか、ヒゲ剃っているかとか。ほんとに「ヒゲ不備」とかあるんですよ。「1時間後の点検までに直しておけ!」みたいな(笑)。
──やっぱりそういうのはあるんですね。
白坂:そういう意味では一年生から四年生まで全寮生活で「一年生に人権はない」みたいな生活をしていたので、上下関係や学生同士の生活みたいなものはたしかに勉強にはなったなぁ。経験としてはちょっと積めたところはあったかな。
──で、そういった生活を頑張っていたのに、ある時学校を辞めてしまうんですよね。なにか理由があったのですか?
白坂:あんまりいい話じゃないかもしれませんけど、ある意味で自衛隊は「受け身」の組織じゃないですか。仕掛けられたら動くし、災害が起きたら動くしという意味では逆に何かが起きないと動かない組織なわけですよ。
──日々厳しい訓練をされていて、何かあったときはとても頼もしい存在ですけど「専守防衛」っていう大前提がありますもんね。
白坂:となると「モノづくり」っていう概念があんまりない。クリエイティブの要素がなさすぎて、そこが欲しくなっちゃったんですよ。そういう仕事がしたいっていう反動もあって会社を作りたいなとか辞めたいなっていう。
──そして在学中にウェブデザインを独学し、そのまま会社を立ち上げてしまう。
白坂:それこそよくわからないのに、それっぽいっていう理由だけでMacを買って、自分以外は皆Windowsのなか、ひとりで勉強して……みたいなことは当時してましたね。
──どこかに就職したり、専門学校に行かずにウェブデザイナーになっちゃうというのもすごい。
白坂:パソコンは好きだったし、インターネット関係の仕事はしたいなと思っていたので。あと大学が情報工学科だったので、プログラミングみたいなことも勉強していて、インターネットだとかシステム構築とか、そういうところは大学で学びましたね。
自衛隊員から歌舞伎町のホストへ
──で、自衛隊時代以上にお聞きしたいのが、起業のためにまずはホストになったというお話……。
白坂:「起業するのにお金は必要だろう」ということで、どうすれば手っ取り早く貯められるかって考えた時に思いついたのがホストだったという安直な発想です。
──ホストというとすぐに新宿を連想してしまうのですが、場所は?
白坂:歌舞伎町ですね。
──ドラマの世界だと、カリスマホストが登場してゼニと女をはべらせて……というイメージですが、実際のところ、ホストの仕事はもうかったのでしょうか。
白坂:あれはなんていうのかな……よっぽど才能がない限りは、やっただけもうかる仕事だと思ってて……真面目に出勤してお客さんにマメに連絡とっていれば、普通のサラリーマンくらいは絶対に稼げるはずなんですよ。
──飛び抜けたルックスやトーク術がなくてもいけるんですか? ちゃんと出勤して顧客、というか女性客に連絡さえすれば大丈夫なんて意外でした。
白坂:でも、それすらやらないホストが多すぎる。そもそも「フリーターやるぐらいだったらホストやるっしょ!」みたいな甘い考えの人間が多い世界なので。
──テレビのドキュメンタリーで見たダメホストは、たしかにそんな感じでしたね。
白坂:たとえばお店を遅刻するにしても、事前にお店に電話連絡すればいいんですね。無断遅刻は罰金1万円取られるんですよ。そんなの絶対嫌じゃないですか。なのに彼らは無断遅刻を平気でするんですよ。
──事前に連絡するだけで1万円が引かれないなら、そうすればいいのに。
白坂:お金の価値がわかってない。週6の出勤だったので、休みがなくてけっこう大変だったんですけど、ちゃんと出勤してれば1カ月1万円の皆勤賞がボーナスでもらえたんですよ。
──普通の企業で1カ月の皆勤に対するボーナスなんて逆にないですよ。いい会社だなあ(笑)。
白坂:でも、ちゃんと皆勤賞を達成するのは2人くらいなんですよ。みんな休むんですよね。週6で働きたくないから。僕の場合は「週6で休みなしでお店に行くだけで1万円もらえるんなら、普通は行くよね」みたいな。
──そうか、前職は自衛隊ですもんね。しかも全寮制の生活のなか、上下関係と規律がムチャクチャ厳しい環境にいたわけで。
白坂:だからそんなの屁でもないんですよ。以前だったら、オンタイムだと怒られるんですよ。「なんで5分前に来ないんだ!」という環境にいましたから。だから「ちゃんとやれば儲もうかるのになぁ」って思いながらやってました。
──ホスト時代はいわゆる「太い客」はついていたのですか?
白坂:太いお客さんはあんまりいなかったんですよね。僕はその、なんていうんですかね、すごい細かい話ですけど「数」で勝負してて……。
──特大ホームランを一発狙うよりも、コツコツとバントを当てていくような?
白坂:皆勤賞以外にも、毎月いろいろな賞があるんですよ。「キャッチ賞」とか「指名賞」とか。新人の時は「キャッチ賞」が毎月1位だったんですよ。で、「指名賞」もホストを初めてから6カ月くらいすると1位を取り始めて。
「あえて太いお客さんを狙わない」「逆張りする」
白坂:お客さんの数だけでは負けなかったんですけど、僕のお客さんはみんなちょっとずつしかお金を使わないんで。ターゲットにしていた客層は夜の仕事をしているようなお金を持っている子ではなくて、普通の大学生とか会社員のお客さんが多くて。自分のなかでそういうお客さんの層を大事にするように意識してましたね。
──あえて太いお客さんを狙いにはいかなかった?
白坂:そこはちょっとあんまり自分のスタイルに向いてないなって。けっこう重いんですよね。
──「重い」とは?
白坂:それこそ業界の話になりますけど、そういう「太いお客さん」には休みの日に会ってあげなきゃいけないんですよね。あとは彼女にしないといけない、とか……。そういう感情的に重くなるようなことはあまりしたくなかったので。
──華やかな世界の裏側で、痴情のもつれが原因の悲惨な事件もありますもんね。
白坂:ホストをやってる間は「お客さんとは付き合わない」ってみんなに宣言してました。だから絶対に刺されない営業の仕方をしてた。
──「刺されない営業」って……(汗)。なかなかハードな業界ですね。
白坂:それとホストの具体的なテクニックでいうと、お客さんの女性に給料のいい夜の仕事をさせてなんぼ、みたいなところがあるんですよ。「お前が頑張るなら俺もナンバーワンになるから、よろしくな!」みたいな。
──うわっ、すさまじい。というかエグい。それは愛憎が逆転すれば刺されもしますね。
白坂:仮に刺されなかったとしても、結果としてお客さんに飛ばれちゃうんですよ。
──お客さんにツケで飲ませてた場合、その相手がバックレた場合は担当ホストが弁償するっていうあれですね。
白坂:だからホストが急に借金まみれになっちゃうことがある。そういうのは避けたいなというのがあって。だから僕は逆張りをしてて、例えば具体的にいうと、お店で黒髪のホストは僕だけだったんですよ。
──逆張り……なんかボードゲームっぽい、というかギャンブル用語か。
白坂:後ろから見るとみんな同じ髪型……みたいな。僕はそこに埋もれてもしょうがないから、黒髪にして。
──ボードゲームの経験はなくても、その頃から戦術をしっかり練って実行してたんですね。
白坂:自分なりに考えてましたけど今思えばアホなことも。例えばお金のために夜の仕事にハマってしまった子を、普通の仕事に戻るようにすすめて、実際にそうさせていました(笑)。
──ええっ、ルックスの逆張りだけではなく接客方法までも逆張りを!?
白坂:そうすると女の子的には「こんなホスト見たことない!」ってなるんですよ。普通やらないから。だからあまりお金は使わなくなるんだけど、長くお店に来てくれて飛ばないんですよ。
──大きくハネないけど手堅く。白坂流経営術の原点みたい感じですね。
白坂:女の子が誰も(売り上げにつながる)シャンパンを入れてくれないんだけど、お店のランキングには入るというよくわからない売り方をしてましたね。
──そもそもホストの仕事をしたのも、一緒に会社を立ち上げようと約束した友達の卒業を待つ間だけと決めていたとか。
白坂:友達がそのまま卒業しないで自衛隊に行ってたら、たぶん今でもホストをやってた可能性もありますね。楽だから。
──ホスト間の争いとか、色恋もビジネスに変えるから精神的にはきつい仕事なのかなと思っていましたが……。
白坂:女の子とお酒を飲んでいるだけでまあまあ生活ができたら、辞めづらいというか。それこそ目標とか夢がないとなかなか抜け出せない。実際、「この仕事以外は難しいんだろうな」って人たちもたくさんいたんで、そこはちゃんとリミットを決めててよかったと今になると思いますね。
「またJJCが変なことやってる!」って注目されないと
──このインタビューも最後になりました。よかったら今後の目標を聞かせてください。
白坂:今まで店舗を徐々に増やしてきましたが、お店を増やすとボードゲームのお客さんって確実に増えてくるなって感じています。今後もコンスタントにお店を増やしていきたいなって思ってますね。
──そのほかにも目標はありますか?
白坂:店舗数があるぶん、プロモーションもしやすいという強みがあるので物販の方にも力を入れてきたいなと。
──お客さんが、遊んだゲームを気に入ってくれて「これどこで手に入りますか?」という流れは当然ありますからね。
白坂:仕入れて売るっていうのもやりつつ、オリジナルゲームもちょこちょこ増やしつつあります。もともとはカフェだけやっていこうと思ってたんですけど、この業態で認知されているのでそこをいかさない手はないなと。
──店舗と物販の両輪でガシガシ稼いでいく、と。
白坂:店舗があることで、お客さんの好きなゲームの傾向のデータもあったりしますから、「JJCでオススメ」というブランドを使って販売にも力を入れてきたいですね。
──お客さんの生のデータをお持ちというのは強い。そういえば「ボードゲームボーイズ」なるラップのグループも率いているとかいないとか。
白坂:ラップは今も次の曲を作ってますね。先ほど申し上げたとおり、ボードゲーム業界だけだと市場が小さくて分母が限られている。なので、もっと他の業界を絡めて、そこからボードゲームに興味を持ってもらおうかと。
──自分のところのビジネスだけではなく、業界の裾野そのものを広げようという試みですね。
白坂:そのためにどうすればいいかというと「ボードゲーム ✕ ◯◯」の「◯◯」のところをうまいこと考えていきたいなと。今後の目標で課題でもありますね。そういうことをやって、「またJJCが変なことやってる!」って注目されないと。今後も頑張っていきたいですね。
──本日は長時間に渡る取材にお付き合いいただき本当にありがとうございました!
JELLY JELLY CAFEの取材を終えて
取材を終えて印象的だったのは、自分のアンテナを信じ、普通であればためらうような世界へも軽やかに飛び込んでしまう白坂さんの「思い切りの良さ」だ。
それに加え、その世界で勝つため、生き残るための「戦略・戦術」をしっかりと立案し、かつ即時に実行しているように見受けられること。ひと言でまとめると「有言速攻」というとこだろうか。
ゲームカフェ業界をリードする秘訣(ひけつ)は、そのあたりにあるのかもしれない。
白坂さんがオーナーをする「JELLY JELLY CAFE」は本記事の執筆時点で、国内に11店舗展開されている。店の雰囲気は明るくスタッフも親切なので「世界のボードゲームで遊んでみたい!」という方は近くの店舗を探し足を運んでみてはいかがだろうか。
お店情報
JELLY JELLY CAFE 池袋2号店
住所:東京都豊島区池袋2-12-9 広瀬ビル 3F
電話番号:03-5904-9914
営業時間:13:00~23:00 ※日曜日営業
定休日:不定休
書いた人:飯炊屋カゲゾウ
1974年生まれの二女一男のパパ。共働きの奥さんと料理を分担。「おいしいものはマネできる」をモットーに、料理本やメディアで紹介されたレシピを作ることはもちろん、外で食べた料理も自宅で再現。家族と懐のために「家めし、家BAR、家居酒屋」を推進中。「双六屋カゲゾウ」名義でボードゲーム系のライターとして活動中。「子育屋カゲゾウ」名義で育児ブログも更新中。
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