長年愛され続けるカレー弁当専門店に聞いた「冷めてもうまいカレー」に隠された秘密

芸能人のロケ弁を中心に長年愛されている「オーベルジーヌ」。しかし、なぜ冷めているはずのカレー弁当は、それほどまでにうまいのか。カレー弁当専門店に冷めてもうまいカレーの作り方の極意を取材しました。

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みなさん、カレーは好きですか?

こんにちは、ライターの刈部山本と申します。僕は専門的なカレーの知識等はないものの、家庭のカレーが大好きなんです。

冷めると固まってしまう自家製カレー。それ故に、いつも多めにカレーを作るんですが、唯一の悩みは2、3日カレー三昧になってしまうことでした。

 

とはいえ、2日目以降の寝かしたカレーが好きなので全く苦ではないものの、何日も食べきらずにいると衛生的な心配がありますよね。なので、カレー弁当にしてお昼にいただくくことがあるのですが……。

 

家庭のカレーって冷めると脂分が固まって、舌の上でザラザラとした感覚が残ってしまいませんか? それが理由で、僕は冷めたカレーを好きになれなかったんです。

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冷めると固まってしまう自家製カレー

そんなある日、こんなことを思ったんです。

「冷めてもうまい専門店のカレーと家庭のカレーは何が違うんだろう?」と。もし専門店のような冷めてもうまいカレーが作れたら、職場でも美味しいカレーが食べられるのでは!?

 

そんな妄想を膨らませてしまった私は、ロケ弁を中心に長年愛され続けている「オーベルジーヌ」に取材を申し込み、「冷めてもうまいカレー」の秘密を教えることになったのです。

 

冷めてもうまいカレーの秘密に迫る

というわけで、最寄りの四谷三丁目駅からオーベルジーヌ四谷本店に向かっていると、早速お店を見つけました。

(※当記事の取材は2021年7月に実施しました。また取材に際して感染対策を十分に配慮した上で行っています。)

 

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まず、2Fにあるお店を訪れて感じたのは、想像よりもお店が小さいということでした。オーベルジーヌは多い月で3万食ものカレー弁当を配達しているとのことで、もっと大きな店舗をイメージしていたのですが、これにはかなり驚きました。

冷めると固まってしまう自家製カレー

そして、お店前にはデリバリー用のバイクがズラッと並んでおり、たくさんのカレーを持った方々が続々とバイクにまたがり消えていきます。その後も次から次へとバイクが出ていっては戻ってきます。オーベルジーヌ……どんだけすごいんだ!?

(※取材はお邪魔にならないようにアイドルタイムの15~16時に実施しました。)

 

そんな驚きを隠せないままお店の扉を開けると、代表取締役である髙橋祐介さんと店長の千葉博暉さんが出迎えてくれました。

今回はこのお二人が「冷めてもうまいオーベルジーヌのカレーの秘密」を教えてくれるそうです。

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左:店長の千葉博暉さん 右:代表取締役の髙橋祐介さん

 

これがオーベルジーヌの欧風カレーだ

まずはオーベルジーヌのカレー弁当はどのように盛り付けられているのか。実際のオペレーションから見せていただきました。

 

まずはご飯の盛り付けから。迷いなく盛られたご飯は普通盛りで280g。その後、しゃもじを使ってお米を撫でるように成型することで、ご飯からは光沢感が出現しました……。この間わずか5秒ほど。

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尋常じゃない速さでお米が盛られていく

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匠の撫でにより光沢感が生まれたお米

次に、下茹でされて柔らかくなった後に、カレールーでも煮込まれ、ほろほろになった角切りビーフを贅沢に3つほど器へ。

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これは絶対にうまいやつ

そこに、ゼロから作り始めると5日間かかるというカレーソースを注いでいきます。

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カレーはレードル(おたま)で注がないようです

最後に、季節ごとに産地を変えている茹でたメークインとトッピングをのせ、あっという間にオーベルジーヌのビーフカレーが完成です。

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お新香はコラボ期間中ということで岩下の新生姜となっています

 

オーベルジーヌのカレーを支える唯一無二の玉ねぎ調理法

さて、それではここから「冷めてもうまい」オーベルジーヌのカレーを支えているこだわりを解き明かしていきます。

 

――まずはオーベルジーヌのカレーに関するこだわりについて教えていただけますか?

 

髙橋さん:そうですね。まずうちのカレーって賛否両論があって。美味しいという方と、甘ったるくて全然美味しくないという2パターンに分かれるんです。

 

――確かに、口に入れてまず感じるのは砂糖でも入ってるのか? というくらい強烈な甘さでした。水飴のような甘さの後にピリッとスパイシーな辛さとうまみが追いかけてくる。うま味の層があると言いますか。

 

髙橋さん:そうなんです。うちのカレーの特徴の1つは独特の甘さにあるかなと思います。そして、その正体は玉ねぎなんです。

 

――玉ねぎからあの甘さが出ているんですか? 水飴のように甘かったのですが。

 

髙橋さん:玉ねぎに関しては、正直何度も何度も試行錯誤を重ねていまして。スライスしてみたり、炒めてみたり……。あらゆる方法を試した結果、行き着いたのが皮を剥いた玉ねぎをそのまま水で煮出す方法なんです。

寸胴いっぱいに皮を剥いた玉ねぎと少量の水を入れて、超弱火で3日間煮込むんです。

 

――玉ねぎはスライスして炒めて飴色にするものだと思っていましたが、そのまま煮出すんですか。

 

千葉さん:玉ねぎはあえてそのまま煮ています。そのままだと砂糖水みたいに甘くなるんですが、スライスしたり半分にカットすると苦くなるんですよ。

 

――それだけで味に変化があるんですか……。玉ねぎって面白いですね。

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玉ねぎは国産のみを使用。寸胴いっぱいの玉ねぎはなんと約20kg!

髙橋さん:そして、これが3日間煮込んだ玉ねぎのブイヨンを濾したものです。玉ねぎの自然な甘さと香辛料の辛味が両立できている秘密はこれですね。

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玉ねぎの甘さが最大限抽出されたカラメル色のブイヨン

 

オーベルジーヌのカレーができるまで

――ちなみに濾した玉ねぎはどうしているんですか?

 

髙橋さん:玉ねぎの実の部分はミキサーでペースト状にして、さらに半日かけて炒めて水分を飛ばします。それをカレールーに混ぜ込んでいきます。

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ペーストにした玉ねぎはカレールーと混ぜ合わせる

千葉さん:ちなみにこのカレールーは、小麦粉にカレー粉などのスパイスを混ぜて作っています。

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カレールーは冷やすことで粘度が増すそうだ

千葉さん:このカレールーに、玉ねぎのブイヨンと牛肉を煮込んだ際に出たビーフブイヨンを足して仕上げていきます。5日間程でオーベルジーヌのカレーは完成になります。

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左が中辛 右が辛口

――なるほど。というかオーベルジーヌのカレーの作り方全公開になってませんか? これ公開しちゃって大丈夫なんでしょうか?

 

髙橋さん:はい、公開していただいて大丈夫ですよ。実は『カレーバイブル』という書籍で作り方も全部公開してるんです。気になった方は是非買ってみてください。

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あ、レシピ公開しちゃってるんだ……

 

なぜオーベルジーヌのカレーは冷めてもうまいのか?

それでは本題に移っていきたい。ここからは「冷めてもうまいカレーの謎」について、なんでも教えてくれる髙橋さんと千葉さんに直撃していきます。

 

――オーベルジーヌのカレー弁当って、基本的には食べるときに冷めているはずなのに、芸能人に長年愛されていますよね。冷めても美味しいカレーの秘密を教えて下さい。

 

髙橋さん:そうですね。例えば家庭のカレーの場合だと、1日冷蔵庫に置いてから温め直したりして食べますけど、冷蔵庫に入れておくとカチカチになっちゃうじゃないですか?

 

――はい、油が固まってドロっとします。

 

髙橋さん:その現象って、温度が下がることで油が固まり、肉などのゼラチンや小麦粉が固まることによる要因が強いと思います。

しかし、うちのカレーはバターを多めに使っていたり、小麦粉の中に油分を入れてるので固まりづらいと思います。店側としては温かいものを食べてほしいですけどね。

 

――冷めてから食べられることを想定して作られているわけではないんですか?

 

髙橋さん:冷めても美味しく食べていただけるようにたくさんの工夫していますが、小麦粉を使っている限り、絶対に凝固してしまうので。温かいままの方が美味しく食べられるとは思います。

 

――では、お弁当用に冷めても美味しいカレーを作るにはどうすればいいでしょうか?

 

髙橋さん:そうですね……。市販のカレールーを使って冷めても美味しいカレーを作るのは難しいように思いますね。小麦粉が入ってますから。

ですが、例えばグリーンカレーとかレッドカレーのようなシャバシャバしたカレーならば凝固は防げるかもしれません。小麦粉が入っていないので、冷めても美味しく食べられるかもしれませんね。

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1日に何度も何度もカレーを味見するため、家でカレーは食べないそう

 

家庭のカレーを菌の増殖から防ぐ方法

――ちなみに夏場だと食中毒を心配される方も多いかと思います。オーベルジーヌさんはどんな対処をされているんですか?

 

髙橋さん:衛生面に対しては、第三者機関に依頼して状態をチェックしていただいています。具体的に言えば、「カレー弁当を室温25℃を維持した状態で、1日でどう菌が増殖するのか」について確認してもらっています。

ご飯を炊き上げた時って100℃を超えてますし、カレーを製造する時にも湯煎機の中で95℃以上をキープしているので、その時点ではほぼ無菌に近く、殺菌にもつながっています。

要するに、「盛り付けから1日以内であれば衛生的に問題ない」という証明書をいただいているので、安心して販売しています。ただ、カレーは元々菌が多い食べ物ですので、当日中に召し上がってもらっています。

 

――なのでオーベルジーヌさんは、温かい状態のままで配達しているわけですね。

 

髙橋さん:はい。お弁当を冷まして、保冷剤と一緒にお出ししてるところも多いようですが、カレーという特性上それは難しいですし。

あと、温かいものが冷めていくよりも、冷たいものが温かくなっていく方が菌って増えるんです。なので、衛生証明と併せて考慮した結果、温かいままお渡ししています。

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安全面でも管理されたオーベルジーヌのカレー弁当

――なるほど。ちなみに家庭のカレーをお弁当にする時に気を付けた方がいい点はありますか?

 

髙橋さん:実は家庭のカレーって菌が増殖しやすいんですよ。

 

――それは何故ですか?

 

髙橋さん:家庭のカレーって根菜を具としてたくさん使っていますよね。例えば、ニンジンやジャガイモです。

それらの根菜類は、冷ます過程で”ウェルシュ菌(または、ウエルシュ菌)”が発生しやすいので、具材はお肉と玉ねぎくらいにして、根菜を避けるだけでだいぶ違うと思います。

 

――それは知りませんでした!

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オーベルジーヌのトレードマークでもある別添えのメークイン

 

茹でたジャガイモがそのまま添えられている理由

――あっ、オーベルジーヌでジャガイモが別添えなのは、衛生面での理由があるわけですね!

 

髙橋さん:いや、実はそうではなくて。カレーにジャガイモやニンジンが入ってると家庭のカレー感が出ちゃうじゃないですか。

 

――確かに。

 

髙橋さん:ウチは専門店なので、家庭のカレーと差別化を図る意味で具材がシンプルな欧風カレーにしているんです。ジャガイモは完全に分けて考えているからこそ、いまの形になっているんです。

ちなみに、カレーを召し上がっていただいた後に、ジャガイモにバターを付けて食べると、完全なお口直しになるんです。こちらから食べ方を押し付けるわけではありませんが(笑)。

 

――あれはお口直し用なんですね! なぜ茹でたジャガイモがそのまま添えられているのか謎だったんですが、そういった狙いがあったんですね。

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茹でたジャガイモが添えられている背景を説明する髙橋社長

 

オーベルジーヌのような冷めてもうまいカレーは家で作れるのか?

最後に、オーベルジーヌのような冷めてもうまいカレーを家庭で再現することはできないか伺ってみた。

 

髙橋さん:まずうちのようなカレーを家庭で作ろうと思うと、玉ねぎのブイヨンを作るために、寸胴で3日間煮込まなければいけません。僕も家で再現できるか挑戦してみたことがあるんですが、器具の内側が真っ黒に焦げちゃうんですよ。洗うのも大変で、他に使えなくなってしまいました。

 

――3日煮込むとなれば、ずっと火を見ていないといけないし、光熱費が高く付きそうでですね。

 

髙橋さん:そうですね。うちのカレーは高いと言われることがあるんですが、1杯のカレーを作るために、相当な時間と手間をかけています。

 

――確かにあれだけの材料を5日かけて仕込んでいることを考えると、専門店から買うのが一番お得で美味しい! となりそうですね。

 

髙橋さん:あとは、冷めても固まらないように、ブイヨンや油分をカレールーと配合していくわけですが、これはもう相当難しいと思いますね。僕たちも何度も試行錯誤した上でようやくレシピができているので。

 

――確かに必要なモノを集めるだけで数日費やすことになりそうですね……。これは、冷めてもうまいカレーを作るのは想像以上に大変そうですね。

 

普段は見ることができないカレー専門店のプロの仕事を目の当たりにした結果、冷めてもうまいカレーを作ることは不可能だと悟った筆者。家庭で冷めてもうまいカレーを作るのは、衛生的にも技術的にも現実的ではないのかもしれません。

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取材中も丁寧にカレーを混ぜ続ける千葉さん

 

唯一無二のオーベルジーヌのカレーはお取り寄せが可能

最後に、強烈に甘いのにスパイシーという唯一無二のオーベルジーヌのカレーは、お取り寄せやテイクアウトすることが可能であることをご紹介します。

一般の人には食べるチャンスがないものだと思い込んでいた方には、ぜひお取り寄せであの味を自身の舌で体感してみてください。

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公式サイトの通販ページにはズラリとカレーが並ぶ

ちなみに実際に注文してみると、5日ほどで冷凍されたカレーが自宅に届けられます。

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取り寄せの場合はカレーのみでご飯などは自分で用意します

レンジで温めて食べたところ、テイクアウトと変わらない味わいでした。そして、最後にこれだけは伝えさせてください。

「カレーが好きならオーベルジーヌのカレー弁当は食べておいて損はない」と。

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お店情報

オーベルジーヌ・四谷本店

住所:東京新宿区四谷3-1 福島ビル2階(最寄駅:四谷三丁目駅)
電話番号:03-3357-7418
営業時間:11:00~15:00/17:00~21:30 (日・祝のみ ~20:30)
定休日:なし(年末年始のみお問い合わせ下さい)

 

書いた人:刈部山本

刈部山本

スペシャルティ珈琲&自家製ケーキ店を営む傍ら、ラーメン・酒場・町中華・喫茶で大衆食を貪りつつ、産業遺産・近代建築・郊外を彷徨い、路地裏系B級グルメのブログ デウスエクスマキな食卓 やミニコミ誌 背脂番付 セアブラキング、ザ・閉店 などにまとめる。メディアには、オークラ出版ムック『酒場人』コラム「ギャンブルイーターが行く!」執筆、『マツコの知らない世界』(TBS系列)「板橋チャーハンの世界」出演など。2018年5月には初の単著となる『東京「裏町メシ屋」探訪記』(光文社)を出版。

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