プロフェッショナル執事・新井直之が教える意外と庶民派?世界の富豪たちの知られざる食事情

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年収1,000万円に届いたら、お金持ち!?

そんな世間のモノサシでは計れない世界に身を置き、本物のお金持ちたちのムチャなオーダーに応え続ける男。

それが今回登場する、新井直之さん。

日本バトラー&コンシェルジュ株式会社の創業社長であり、世界トップ10に入る大富豪からも信頼される現役の執事(バトラー)だ。

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買おうと思えば何でも買えるレベルのお金持ちは、いったいどんな「食」を楽しんでいるのか。そこには、庶民の想像を二段、三段と上回る世界があった。

 

資産50億円以上の大富豪のムチャに応える執事の仕事

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──そもそも執事さんはどんな仕事をしているんでしょうか? 執事服で大富豪のワインや料理をサーブし、家政婦さんを取り仕切る……。映画や漫画で見たイメージ以上の具体的な仕事ぶりが思い浮かばないのが、正直なところです。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井さん(以下敬称略):もちろん、映画のようにワインや料理のサービングもします。ただ、より比重が大きいのは秘書的な業務です。日々のスケジュール管理、ご子息の学校の送り迎えといったご家族のサポート、ハウスメイド、専属シェフのマネジメント、資産管理のお手伝い。その他、エアコンの修理や庭木の剪定の手配など、家の中の細々したことも執事が行います。
企業で言えば、総務全般の仕事とイメージしていただければ、間違いないのではないでしょうか。

 

──お客様である大富豪の皆さんは、どのくらいのお金持ちなんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:私ども日本バトラー&コンシェルジュを通じて専属の執事を1人雇うと、年間1,500万円から2,000万円かかります。お客様は、それだけの金額を払ってでも、生活の快適さを求め、庶務一般を任せることで、ご自身の時間を作り出すことに価値があるとお考えになっている方々です。
皆さんに直接「年収は? 資産は?」とお聞きしたことはありませんが、年収で言うならば5億円以上、資産なら50億円以上の方々がお客様となってくださっています。

 

──資産状況の調査は行われるんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:調査はいたしませんが、執事の依頼のお問い合わせをいただくときは口コミも多く、ある程度、名のある方からご紹介いただくんですね。そうすると、お客様が企業経営者であったり、大株主であったりすることがわかります。
持ち株の比率や年間の配当額はある程度、類推できます。また、日本には2005年まで高額納税者公示制度がありました。こちらの名簿を見ることでも、どんな方か分かります。この10年で急に大富豪になられた方は、少ないですから。

 

──お客様は基本的に日本在住の大富豪ですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:日本国内が7割、アメリカ、ヨーロッパ、アジアが3割です。外国人ゲストの場合、日本に別荘をお持ちで、その管理と来日期間中の執事業務という契約も多いです。また、ご旅行の間だけという依頼もあります。昨年もサウジアラビアの王族の方をアテンドしました。

 

──大富豪ならではのムチャな依頼もありますか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:お客様は社会的に地位の高い方、大企業の経営者やそのご一族などなので、基本的には不可能はないと思っていらっしゃるんですね。ですから、私たちの感覚からすると“ムチャ”なご依頼は執事にとって日常茶飯事です。
例えば、お客様の1人に、雑誌『フォーブス』が発表する長者番付でトップ10に入ったことのあるヨーロッパの大富豪がいらっしゃいます。日本に別荘をお持ちで、あるとき、「次に行くときは温泉に入りたい」という連絡が入りました。あなたが執事でしたら、どうされますか?

 

──全く判断がつきません。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:さすがに温泉の素の入った入浴剤というわけにはいきませんよね。私は温泉地で売られている源泉の湯を大量に購入。給水車を手配して、別荘の浴槽にたっぷりの湯を入れました。しかし、来日時にそれを見た大富豪は首を振り、「源泉のかけ流しで入りたいんだ」「来年を楽しみにしている」と。

 

──もしかして温泉を実際掘ったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:おっしゃる通りです。別荘の所在地が、温泉地から源泉を引くには遠く、掘るしかありませんでした。専門の業者を手配し、敷地内のあちこちを試掘。1年後、1000メートル掘った穴から温泉が出たんですよ。その間、「温泉はどうなった?」と確認の連絡が入っていたので、掘り当てたときは本当にホッとしました。ちなみに、1年間で温泉を掘るのにかかった費用は、約1億円以上です。

 

──年に1回入る別荘の温泉に1億円……ありがとうございます。ムチャの基準が見えました。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:大切なことなのでもう一度お伝えしますが、皆さん、基本的には不可能はないと思っていらっしゃるんです

 

意外に質素? 大富豪が愛するたまごかけごはん

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──本題の“食”についてですが、やっぱりお金持ちは毎日すごい食事を楽しまれているのでしょうか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:お客様は日頃、会食やパーティが多いので、そういったときはイメージどおりだと思います。ミシュランの星付きレストランや一流ホテルのケータリングなど、いわゆるすごい食事をされています。

 

──すごい食事というと?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:私の記憶に残っている中では、いいカニが揚がったらしいと聞きつけ、「今から、カニを食いに行くぞ」と言って上海へ飛んでしまった大富豪。大間のマグロを一匹どんと買い入れ、解体ショーをされて、ご招待したお客様だけでなく、ご近所にもお寿司を配った方。海外の方で豚の丸焼きでパーティをされている方などが印象に残っています。ただ、ご自宅での毎日の食事は質素で、素朴なメニューを好まれる方がほとんどなんです。

 

──質素で、素朴……。例えば、どんなメニューを?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:たまごかけごはん、野菜炒め、焼き魚、煮魚、肉じゃがなど、和食の定番メニューです。

 

──執事さんが作るんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:いえ。

 

──お金持ちが自分で?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:いえいえ。

 

──じゃあ、どなたが?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:専属のシェフですね。

 

──シェフがたまごかけごはんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:はい。お米やたまごは契約している農家から直送されたものです。しかも、お米はシェフが一粒、一粒仕分けていき、大きさを揃えてから炊き上げます。

 

── 一粒、一粒、揃えて炊くんですか……。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:以前、私もどうしてそんな手間のかかることをされるのか不思議でシェフに聞いてみたことがあります。すると、米粒を均等にすることで炊きあがりが良くなり、食べたときの口触りが劇的に良くなるんですね。

 

──ホントですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:米粒が立っている感覚とでも申しましょうか。これは私も実際に食べ比べてみて、実感しました。シェフ曰く、普通に市販されているお米でも粒を揃えて炊くとおいしくなるそうです。

 

──真似したくても、手間暇をかける時間が……。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:私も同感です。専属シェフのいるお客様だからできることですよね。実は大富豪の3大興味事項がございまして、お金、教育、健康です。なかでも健康は特に重視されています。
なぜかと言いますと、命は平等に与えられ、買うことができないものだからです。ある程度のお金を持っている方々は人生を楽しまれていて、自分の時間を作ることもできます。ただし、それは土台となる健康があってこそのこと。ですから、日頃の食事においては、産地や調理方法にこだわられるのです。

 

──ちなみに、そのたまごかけごはんに値段を付けるとしたら?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:たまごは1個1,000円、お米は1キロ4,000円ですから、素材だけで言えば1杯2,000円ほどです。そこに専属シェフ、私たちバトラーの人件費を含めると、30,000円以上でしょうか。

 

──見た目は質素でも、素材にこだわっているわけですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:例えば、マンゴーは宮崎産、鯖は大分県豊後水道の佐賀関産など、産地を指定される方がほとんどです。食材の出自にこだわるのは、食が健康を作るという考え方からです。印象に残っているお客様では、徹底的に水にこだわられる方もいらっしゃいました。ご指定は、ハワイコナ沖の海洋深層水。これを毎日空輸されるのです。取水や輸送のコストを加えると、コップ1杯60,000円。その水をぴったり18度に調整して、お飲みなります。

 

──なぜ、その水でなければいけないんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:私もさすがに「これは怪しいウォータービジネスに騙されているのでは」と心配したのですが、ご自身の体を健康に保つため、ちょうどいいミネラル量の水を探した末、たどり着いたのがハワイコナ沖の海洋深層水だったそうです。「体の80%は水でできている。健康状態に強い影響を与えるんだよ」と。
そのお客様の家では飲用だけでなく、料理にもハワイコナ沖の海洋深層水が使われていました。単価を考えると恐ろしいことになりますが、それよりも健康を重要視されるのです。

 

旬のスズキを冷凍保存、サバを求めて漁船をチャーター

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──取り寄せるのが大変だった食材はありますか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:海外からのゲストで、5月に「柿が食べたい!」というリクエストがありました。調べてみると、柿は温室栽培されておらず、収穫の季節にならないと市場に出回りません。それでも詳しい方にお聞したところ、南半球のオーストラリアになら、似た果物があるらしい、と。すぐに現地の農園に連絡し、取り寄せてみました。
ところが、食べてみると味が違うんですね。このときばかりはリクエストを叶えることができず、干し柿をお出ししました。ゲストの反応は、「うーん」という微妙なものでしたが……。

 

──旬のある食材は季節を外すと難しそうですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:そうですね。3月に「スズキの洗いが食べたい」と依頼されたときは、解決まで1年がかりのプロジェクトになりました。

 

──1年?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:スズキの旬は夏なんですが、3月でも手に入ります。最初はその時期に購入できる最も良いスズキを洗いにしてお出ししたんですが、「これは違う」「おいしくない」と。水産会社に問い合わせたところ、夏のスズキはイワシを食べ、体を動かし続けているから身が引き締まっておいしくなるのだそうです。逆に冬場は餌となる小型の回遊魚が少ないので、貝やゴカイを食べ、じっとしているので味が落ちてしまいます。

 

──旬ばかりはどうにもできないですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:もちろん、その旨はご説明するのですが、それでも「おいしいスズキの洗いが食べたい」ということで、翌年に向けて打開策を考えました。

 

──南半球に獲りに行くとか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:専門の解凍機を持つ業者に頼み、夏に水揚げされた旬のスズキを冷凍保存しました。今は冷凍技術が発達し、冷凍しても細胞が壊れにくく、専門の解凍機を使うことで解凍時にもダメージを与えない方法があったのです。スズキの洗いをおいしく食べていただくための、1年越しのプロジェクトでした。

 

──執事というより、商社マンのような仕事ぶりですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:そうですね。大富豪の素材へのこだわりはパーティを主催されるときにも発揮されます。例えば、招待するゲストの出身地に由来したメニューをお出しすることで、おもてなしの心を表すのです。
秋田出身のゲストには、デザートに秋田のりんごを使ったパイをお出しする。
北海道の釧路出身の方がいれば、近くで獲れた鮭をマリネにしてお出しする。
そんなふうに参加されるゲストの出身地やバックボーンを考えて、食材を集めるわけです。業者に頼んでいては時間的に間に合わないこともありますから、執事が現地に行き、手に入れることもあります。

 

──手に入れるというと?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:最近では、サバを釣ったことがありますね。千葉出身のゲストに新鮮なサバのお刺身をお出ししたいというオーダーでした。

 

──サバはスーパーでも売っている大衆魚ですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:一般に出回っているサバは巻き網漁で漁獲されたものがほとんどです。ところが、サバの身は繊細で水揚げされたときにバタバタと激しく動くだけで、味が落ちてしまいます。新鮮でおいしいお刺身というオーダーをクリアするには、釣り方を工夫しなければいけません。

 

──釣り師の顔もお持ちなんですね……。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:重要なのは、サバに余計な筋肉を使わせず、釣り上げることです。針にかかったら一気に巻き上げ、もう1人がタオルを持ってキャッチして、バタつかせず、首折りし、血抜きをします。その後、氷水に漬けて運び、すぐに刺し身にしてお出しすると、本当においしく仕上がります。

 

──そこは漁師さんに頼めないんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:サバ数匹を丁寧に……というオーダーは難しいですから。先日も私ともう1人の執事で漁船をチャーターし、千葉の犬吠埼沖で釣り上げました。

 

──お金持ちの「素材」へのこだわりはよく分かりました。逆にジャンクな食を愛するお金持ちというのは、いないんでしょうか? たとえば投資家のウォーレン・バフェットさんはコカ・コーラやマクドナルドのハンバーガーが大好きで、株を持つだけじゃなく、毎日飲み食いしているというエピソードもありますし。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:一代で財を成したお客様の中には、私たちにも身近なお店に足繁く通われている方が少なくありません。たとえば一代で売上げ500億円規模の企業を作った50代のお客様は、毎月25日になると必ず富士そばへ行かれます。なぜかと言うと取引先への支払い、従業員の給料を払うとお金がなくなっていた創業時、唯一の自分へのご褒美が、富士そばでかけそばとカレーのセットを食べることだったそうです。

 

──ささやかなご褒美ですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:そして、月次の決算が良かったときは、そこにコロッケを付けることにしていた、と。この習慣が今も続いていて、お客様はかけそばとカレーのセットで原点回帰されているわけです。ちなみに数年前、赤字転落したときは富士そばに行かず、「戒めだ」と仰っていました。

 

──ただ好きなだけじゃなく、意味付けがあるんですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:そうですね。一代で財を成す方は、日常の何気ないものに深い意味を見出される感性があるように感じます。たとえば、定期的に崎陽軒のシウマイ*1弁当を食べるお客様がいます。横浜出身の大富豪で、シウマイ弁当には完璧な調和があると仰っています。
シウマイ、たけのこ、焼き魚、からあげ、あんず……とバラエティに富んだおかずがあって、このバランスが絶妙だからおいしい。どれだけ財産を築いても、仕事とプライベートのバランスが崩れたら、幸せにはなれない、と。

 

──深いですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:シウマイ弁当に人生を映しながら、まるで「シウマイ弁当道」のように追求されています。私個人の感覚としては、そこまで? と感じてしまいますが、こうした感性があるからこそ、大きなチャンスを掴むことができるのかもしれません。

 

たまの休みは高級店のランチで自分の仕事を見つめ直す

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──ちなみに、執事の皆さんは仕事場である大富豪の家で、どんなごはんを食べているんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:常勤でお仕えしているときは何かと慌ただしく、昼ごはん、夜ごはんを食べ逃すことが多いですね。その代わりと言ってはなんですが、私たち執事はシェフの作った料理をお出しする前に毒味します。それが昼ごはん、夜ごはんになってしまうケースもありますね。

 

──常勤じゃない場合はいかがですか。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:時間があるとき、私が心がけているのは、なるべく大富豪の方々が食べに行くような高級店に足を運ぶことです。ただし、ランチ限定ですが。高級店は夜に行くととんでもないお値段になってしまいますが、ランチタイムは高いと言っても知れています。そこで、食事はもちろん、店の雰囲気、サービスを味わい、大富豪の皆さんがどういうところに惹かれ、お金を払いたいと思うのかを勉強するわけです

 

──ランチ一つとっても勉強の場なんですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:普段は節約しているという方も、週に1回、月に1回と決めて、高級店に足を運ばれてみてはいかがでしょうか。眺めのいい高層階でのランチ、一流ホテルでのランチ、夜は1人数万円の寿司店でのランチ。非日常の時間を過ごすと、気持ちも変わり、仕事へのモチベーションも上がります。将来の自分に向けたささやかな投資として、費用対効果は非常に高い選択だと思います。

 

──高級店の良さは?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:高級店は、料理とサービスの質が違います。普通のお店は、お客様の来店に気づくと、元気よく一定のトーンで「いらっしゃいませ!」と出迎えるのがほとんどかと思います。しかし、高級店ではお客様の表情を見て、どういう「いらっしゃいませ」がいいかを考えます。落ち着いた声がいいのか、元気よく言った方がいいのか。状況に応じて、分けているんですね。そういったきめ細やかな対応が全体の雰囲気を作っています。

 

──マニュアルにはない接客術ですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:食事の出し方にしても、作業になっていないか。お客様の状態を見て、丁寧な心配りが添えられているか。プロの細かい仕事に触れることで、自分の仕事を振り返る機会にもなります。やっつけ仕事になっていないかな? と。

 

──執事さんはサーブしているだけじゃないですね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:適切な提供トークができるかどうかも執事にとって重要なスキルです。言葉次第で、お客様が味に集中できるかどうか変わってきますから。たとえば、「こちらは香川の鈴木農園から取り寄せました、有機飼料で育った○○鶏の朝採りたまごを使った、たまごかけごはんでございます」とお出しするのと、「たまごかけごはんでございます」では、サーブされた側の味への集中度が変わってくるわけです。

 

──確かに情報があるとないとでは印象も違いますね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:食事は、食材にプラスして情報を味わう要素も大きいのかなと思います。特に大富豪が好まれる素材を味わうような素朴な和食では、その要素が大きくなっていく気がします。シンプルなものほど、演出の効果も大きくなっていくのかな、と。ですから、私たちも食材に関する知識を十分に頭に入れてからサーブします。とはいえ、あまり長く語ってはご迷惑になりますから、基本は15秒以内にまとめます。

 

──時間まで意識しているんですか!

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:ただし、会食の席などで、お相手の方とのお話が盛り上がっているときは、10秒くらいに。お一人のときは少し長めにして、提供トークを介して話が広がるよう心がけます。

 

──話が広がる提供トーク?

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:大事なのはすべて伝えるのではなく、質問ポイントを残すことです。たとえば、たまごかけごはんをお出しするとき、あえて産地名を言わずに話します。「こちらは鈴木農園から取り寄せました、有機飼料で育てた○○鶏の朝採りたまごでございます」と。
すると、「鈴木農園どこにあるの?」と気になりますから、質問を受けて「香川県の〜」と続けていきます。このように、あえて不足を用意して伝えることで、食を味わう際のアクセントになるわけです。

 

── 一方的に話すだけではいけないと。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:こうしたやりとりは非常に重要で、グルメサイトの評価でも単においしいだけで高評価が付くわけではないと思います。サービスを含めたコミュニケーションを通じて、お客様の感情が動き、また来たいという気持ちになれれば、極端な話、飛び抜けておいしいわけではなくても高い評価が付くはずです。

 

──確かに接客が良ければ、おいしく感じますしね。

 

f:id:exw_mesi:20190621174421j:plain新井:これは普段の仕事でも同じで、あなたの上司も「あいつはなかなかいいな」と感情が動いた後、「そういえば、仕事も早いな」と論理的な理由付けをしていきます。大富豪がパーティで招待客の出身地に合わせたメニューを用意するように、あなたも接待の場面で取引先の部長の出身地にちなんだお店を選ぶといった気遣いを見せていきましょう。「今どき、昭和的な仕事の仕方だ」と思われるかもしれませんが、もてなされた側、あなたに接待を任せた上司の感情はいい方向に動きます。
“食”を通じた人との接し方を見直すことで、あなたの評価を高めることもできるのです。

 

 

 

ミネラルウォーターをスーパーで買えばコップ1杯十数円。

たぶん、味はそんなに変わらない。

特売のたまごとお米でたまごかけごはんを作れば、一膳やっぱり十数円。

炊きたてごはんなら、十分おいしい。

そこに強すぎるこだわりを発揮して、厳選に厳選を重ねるお金持ちたち。

その行動をポカーンと呆れつつ眺めるか、ここにチャンスがあるかも……と捉えるか。

今回、食のエピソードではなかったので割愛したものの、新井さんの語る大富豪の暮らしには、それを成り立たせるプロの姿があった。

肌触りにこだわる大富豪向けに、愛用のシーツをクリーニングする高級リネン専門のクリーニング店、健康を人一倍気遣うお金持ちを顧客とするサプリメントコーディネーター、クライアントが世界のどこに出かけても常に帯同するヨガインストラクターなど、富裕層が相手だからこそ、成り立つ大きなお金が動く仕事の世界があった。

もし、自分がお金持ちに何かを提供するとしたら……?

そんなことを考えながら、まずは背伸びして高級店のランチタイムに挑むところから始めたい。

 

撮影:武田敏将

 

*1:崎陽軒はシウマイと表記

書いた人:佐口賢作

佐口賢作

2児の子育てでてんてこまいのおっさんライターです。90年代の半ばから雑誌、書籍で原稿を書き、RealPlayerが最新技術だった頃、初めてWebで記事を書きました。生ビールとサッカーをこよなく愛しています。

Twitter:@guchi10

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