「変わらないなんて僕には無理なんです」店主とともに進化し続ける“横浜ベジナポ”とは

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ラーメン、カレーとともに我が国の国民食の一つとも言えるスパゲッティ・ナポリタン。イタリア料理がこれほどまでに定着している昨今において、やや置きざりにされた感のあったスパゲッティ・ナポリタンはどこかバタ臭くもありながら、今もなお日本人の心と食欲をくすぐり続けている。

ナポリタン発祥とされる横浜で「日本ナポリタン学会」を率いる者として、その奥深さを伝えていきたいと思う。

 

地元スーパー・コンビニでの商品化、そして「ハマ弁」にも登場したナポ界のニューカマー 

横浜は関内。2020年には横浜市役所の移転を控え、大きな変化が待ち受けているこのエリアは、プロ野球シーズンともなれば横浜スタジアムへ詰めかける人で賑わうが、一方で最高のナポリタンを追求し続ける熱い洋食店が存在する。

 

その店の名は「洋食バル 横浜ブギ」。2010年にハイボール酒場としてオープンして以来、洋食にも心血を注ぐ。

 

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▲前店舗よりも入りやすい雰囲気となった「横浜ブギ」店舗入り口

 

特にナポリタンには格別のこだわりを持ち、試行錯誤を繰り返しながら2017年に「横浜べジナポ」(880円)として一旦の完成を迎える。2.2㎜の太麺スパゲッティという懐かしさを残しつつ、これでもか!というほどの野菜が豊富に入った新しいタイプのナポリタンは、罪悪感を感じない満足感を得られる一品だ。

地元スーパーやコンビニでの商品化、そして給食のない横浜市の中学校で実施されている「ハマ弁」においても期間限定ながらメニュー化され、市内の現役中学生にもその名を知らしめて、ただ今ブレイク中のナポリタンである。

 

そんなナポリタンに懸ける店主の思いや「横浜べジナポ」の秘密を、お店を訪ね聞いてみた。

 

横浜べジナポ」に至る過程が、『メシ通』過去記事にあった

まず最初に、こちらの記事をご覧いただきたい。

www.hotpepper.jp

 

過去にもこの『メシ通』では、松沢直樹氏の執筆によって「横浜ブギ」が紹介されている。
この当時の店舗も関内エリアではあるが、中区南仲通(「関内」という駅名はあっても地名はない)のビルの地下1Fに存在していた。

 

しかし記事を見ての通り、当時の「横浜ブギ」のナポリタンは「ナポリタンハンバーグ」という形をとっていたのだ。
これはこれで素晴らしいが、どちらかといえばナポリタンが脇に回り、トッピングの妙が成せる業とも解釈できる。

 

「ハイボール酒場」から、「洋食バル」へ、ランチ営業も開始

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現在の店舗は同じく関内エリアである中区本町1丁目のビル2Fとなっている。地下だった前店舗から地上に顔を出したことで、通りを歩いていてもポップな「YOKOHAMA BOOGIE」のネオンが目立つようになった。

 

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▲「日本ナポリタン学会」では2014年より認定店舗とさせていただいている

 

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▲現在の店舗に移転してから、前店舗では行っていなかったランチ営業も開始している

 

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▲前店舗よりも席数を増やし、定員はカウンター10名、テーブル席40名に。「ハイボール酒場」のコンセプトは残しつつ、「洋食バル」としたことで気軽な食事使いができるよう、テーブル席の空間が広くなっている

 

店主・岡添勉さんが横浜で歩んだ35年 

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──改めまして、「横浜ブギ」としての歴史、そして岡添さんの経歴を教えてください。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:横浜ブギ」は2010年6月11日に関内のさくら通りにオープンし、現在の店舗は関内のベイスターズ通り、2018年5月7日にオープンしました。
私は大阪出身なのですが、横浜に出てきてからの35年間は飲食業界一筋です。関内のライブレストラン&バー「Bar Bar Bar」では、前身の「マジック」というライブハウス時代も含め約10年間店長を、「ビストロ酒場 MarineClub」でも17年店長を務めてきました。

 

──35年間の中で、いろいろな料理人との出会いもあったと。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:ええ。「Bar Bar Bar」時代はホール中心でしたから料理人ではなかったのですが、厨房にフレンチシェフがいたので、その姿をホールの立場から毎日見ていただけでもかなり身に付きましたね。実際料理を作る側に立つようになってからも、いろいろな料理人と仕事してきたことが記憶として刻まれているからこそ、今に生かせています。

 

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──移転されてからは、ランチ営業を始められましたね。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:横浜べジナポ」をランチメニューで出しているので、ナポリタンを作る機会がぐっと増えました。ナポリタンはたくさん作ることで美味しさに変化する、成長していくと考えているので、日々作らせてもらえる喜びを感じています。

 

──ランチを始めてから何か苦労された点はありますか。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:ランチ営業は時間が限られるため、手際良くいかに美味しいものを提供できるかが求められます。数をこなさなければならないので、一つのフライパンで4人前を作ることもありますが、100%自信を持って提供できるナポリタンを! と考えると、一つのフライパンでは2人前がベストかなと。ソースの絡み方や火の通り方も変わってきますからね。

 

いよいよ「横浜べジナポ」の全貌に迫る

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──では、「横浜べジナポ」についてお聞きしたいと思います。僕が会長を務めている「日本ナポリタン学会」が認定店舗とさせていただいた2014年頃のナポリタンは今と違うタイプで、その時々で変遷をたどっていると思うのですが、今の形に至った背景を教えてください。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:2010年オープン当初のナポリタンはラタトゥイユベースでした。2015年頃にはハンバーグがのった高級感のあるナポリタン。そして、2017年からはカポナータがベースの「横浜べジナポ」という形になり、現在へ至っています。

 

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──「横浜べジナポ」のレシピといってはアレですが、簡単に作り方を教えてください。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:まずはソースですね。イベリコ豚の脂がやや多めなベーコン、ピリ辛なソーセージ、玉ねぎ、そして“ベビーしいたけ”を炒めたところにカゴメの業務用ケチャップの「洋食屋のケチャップ」を投入し煮詰めたものが、うちとしてのナポリタンソースとなります。
そこに2.2mmの太麺スパゲッティを絡めて、カポナータをかけて絡めたら完成です。

 

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──ナポリタンといえばきのこ類、マッシュルームが主流ではありますが、“ベビーしいたけ”というのは初めて聞きます。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:岩手県・岩泉産のものです。オープンして間もなく東日本大震災があって、何か復興に役立つことが出来ればと、東北の食材をメニューに取り入れています。
通常のしいたけを栽培する際に間引いたものがこのベビーしいたけで、ほとんどが廃棄されると聞きました。通常のものと味も香りも変わらない上に、ナポリタンの具材としても小ぶりでちょうど良いので、うちで取り入れるようになったんです。

 

──「横浜ブギ」特製のナポリタンソースだけでもかなり美味しいナポリタンだと思うのですが、それに加えての「横浜べジナポ」の肝、カポナータですね。カポナータにはどんな野菜が入っていますか。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:ホールトマトをベースに、玉ねぎ、セロリ、赤と黄色のパプリカ、ナス、ズッキーニ、それとトッピングでバジルが入ります。

 

──夏野菜が多いですね。冬場などは夏野菜が高騰したり、手に入りにくいのでは?

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:はい。なので冬場はレンコンなどの根菜を入れています。

 

──夏バージョンと冬バージョンが楽しめると。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:そういうことですね。

 

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──「べジナポ」というだけあって、たくさんの野菜を使っているなあという印象ですが、肉もベーコンとソーセージ、2種類を使っているのが素晴らしいですね。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:イベリコ豚のベーコンはオレイン酸が豊富で良い旨みが出ます。炒め油もオリーブオイルを使っているので「ダブルオレイン酸」ですね。

 

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▲ナポリタンはカレーのインド風/欧風、ラーメンの豚骨/鶏がらのように大きな違いはないが、ケチャップの銘柄や炒め油で変化を楽しめる。炒め油は、バターやマーガリンではミルキーな香りが口いっぱいに広がり、ラードではコクが出る。オリーブオイルもトマトとの相性が良いのでおすすめだが、肉系をバラ肉のベーコンで組み合わせると、ベーコンの脂とオリーブオイルが融合して王道感のある味わいとなるのだ

 

新しいナポリタンのルーツは、母の味にあった 

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──岡添さん自身がこれほどまでにナポリタンに力を入れるのは、「横浜」でお店を出しているということが大きいのですか。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:そうですね。ナポリタンは横浜発祥と言われていて、店名も「横浜ブギ」にしたように、地元・横浜を意識したコンセプトでやっていこうと考えていたので、ナポリタンを看板メニューとしています。

 

──岡添さんの人生の中で、ナポリタンとはどのような存在だったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:今はだんだん減っているのかも知れませんが、昭和の時代は母親が土曜日のお昼やお弁当に、オムライスだったりナポリタンを作っていたものです。僕の母も、家にあるニンジンなどのあり合わせの野菜を炒めて、よくナポリタンを作ってくれました。
日本の「洋食」って家庭料理でもあると思うんです。ナポリタンにしても、ケチャップでまとめればどんな具材でも美味しく仕上がるというのが家庭料理的ですよね。我々はプロの味でなければならないけれど、そういう意味では真似できる味でもある

 

──岡添さんのお母様の味が、野菜を多く使う「横浜べジナポ」のルーツになっているのでしょうか。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:そうかも知れませんね。最近では「○○野菜のナポリタン」のような、明らかにうちのべジナポを意識しているのだろうというものが出回り始めていますが、真似されるとなんか嬉しいんですよね。

 

「カゴメナポリタンスタジアム2017」で“ナポリたん賞”を受賞、そしてブレイク 

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──この「横浜べジナポ」で、2017年の「カゴメナポリタンスタジアム2017」の関東ブロック予選を突破して全国大会に出場、“ナポリたん賞”を受賞されました。そもそもの「横浜べジナポ」誕生は、このイベントがきっかけだったんですよね。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:まず主催であるカゴメさんに引っかかるナポリタンにしようと考えた時に気づいたのが、「カゴメさんは単なるケチャップやソースのメーカーではなく、野菜を売っている会社なんだ」ということ。そこで、野菜を多く使用したナポリタンを作ろうと「横浜べジナポ」という名前を思いつきました。

 

──他の出場者はハンバーグやりんごなど、“そそる感じのトッピング”が多い中で、岡添さんは「野菜」で勝負したのですね。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:はい。カゴメさんの社内評価はすごく高かったようです。ナポリタン好きのYouTuberの方も「『横浜べジナポ』が一番!」と言ってくれたのですが、それが投票での勝負となるとまた違って。
確かにトッピングで魅せるというのも勝負を左右する部分はありましたが、「横浜べジナポ」はとても自信のあるものでしたので、自分のアピールが足りなかったと反省しています。

 

──優勝は逃しましたが、それでも“ナポリたん賞”を受賞して「横浜べジナポ」の知名度は一気に広がりました。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:おかげさまで、その後も商品の監修やデパートの催事等の打診をいただいております。今はスーパーマーケットの「フジ」や「ローソン・スリーエフ」でも、監修商品として「横浜べジナポ」を販売していただいています。

 

──中学校給食のない横浜市では「ハマ弁」という独自の制度が取り入れられていますが、それにも採用されたそうで。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:今年の2、3月の期間だけ「ハマ弁」でも「横浜べジナポ」をメニューとして採用いただきました。中学生にも概ね好評だったようで、横浜市の林文子市長も「美味しい」と言ってくれたそうです。「ハマ弁」はもっともっと普及してほしいですね。

 

客の嗜好も変わっていくから、料理もそこに合わせ続けていく 

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──この「横浜べジナポ」も、ゆくゆくはさらに進化していくものなのでしょうか。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:老舗には「何十年も変わらない味」という良さがあります。しかし、うちは老舗じゃない。変わらないなんて僕には無理なんです。「あぁ、これは美味しい!」と思っても、次の日にもっと美味しいものが生まれるかもしれない

 

──世の中には美味しいものがいっぱい溢れていますものね。

 

f:id:exw_mesi:20190419211529p:plain岡添:料理人も日々成長しているし、お客さんの舌も成長していく。店をやっているからには、そうした変化に付いていかなければならないと考えていますので、「横浜べジナポ」も一応の完成形ではありますが、これからまだまだ進化していくと思います。次の「カゴメナポリタンスタジアム」が開催されるときは、絶対優勝したいです!

 

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先日、イチローが引退した。

何を唐突に?と思われるかもしれないが、28年もの彼の野球人生を見てみると、その年ごとにバッティングフォームが変わっているのがわかる。

大記録を達成してもなお最大のパフォーマンスを披露するため、常に進化を求めてきたイチローと、最高のナポリタンを追求し続ける岡添さんの姿を重ね合わせずにはいられなかった。 

 

お店情報

洋食バル 横浜ブギ

住所:神奈川横浜市中区本町1丁目8 SKビル2F
電話:045-651-3787
営業時間:11:30~14:00(平日のみ)、17:00~24:00
定休日:不定休

www.hotpepper.jp

 

書いた人:田中健介

田中健介

横浜発祥と言われるスパゲッティナポリタンを愛し、2009年より「日本ナポリタン学会」会長として、横浜を中心にナポリタンの面白さを発信する。著書に「麺食力-めんくいりょく-」(2010年、ビズ・アップロード)、連載に「はま太郎」(星羊社)の「ナポリタンボウ」(2017年〜)など。

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