世界中で話題の料理動画「Tasty」とは
ぼんやりとFacebookを眺めていたら、昨年頃から早回しのレシピ動画を見かけるように。料理がものの1分でサクサク作られ、ついつい見入ってしまう中毒性の高い動画ばかり。
しかもやたらとシェアされている。撮り方も丁寧で、よく見てみると再生数も桁違い……!
見ているだけで腹の虫が鳴ってしまう動画の数々をまずはとくと見てほしい!
▲「Tasty Pizza Puff Pastry Twists」ヒネリを効かせたピザのレシピ動画が一番好評。なんと1億5千万回再生!
▲フランスの動画。パンとエメンタールチーズを焼いたもの。「Miam Pain à l'emmental et au comté 」
▲ドイツのホットドッグの動画。ポテトとウィンナーは国民食。「demis Bolinhos de hot dog」
▲ブラジル発、サラダとベーコンのフレッシュな動画。「einfach Bacon-Tomaten-Avocado-Salat」
▲こちらはイギリスの動画。鳥の胸肉を使ったハッセルバック・チキン。「proper Hasselback Chicken」
テーマは「自分でも作れそうな料理」
この動画の配信元を調べてみると、海外のウェブメディア『BuzzFeed(バズフィード)』が運営する「Tasty(テイスティ)」というサイトであることが判明。さらに2015年には日本支社である『BuzzFeed Japan』が設立され、2016年8月からは「Tasty」の日本版「Tasty Japan」が正式に配信され始めていた。
さっそく『メシ通』は『BuzzFeed JAPAN』を直撃! 話題の秘密と、動画が作り出すユニークな食文化についての考えをうかがった。
▲今回取材に応じてくれたのは、BuzzFeed Japan代表取締役社長の上野正博氏。
──上野社長、本日はよろしくお願いします。「Tasty Japan」を見てまず不思議に思ったのが、サイト自体が「Tasty.com」のような母体のサイトがないですよね。
『BuzzFeed』は、1日に約600本の動画や記事を作っています。そのうち、世界中の『BuzzFeed』上で共通して読まれているものはそこまで多くなく、7割がFacebook、Twitter、Snapchatなど、様々なプラットフォームで閲覧されているんです。つまり、私たちは記事やコンテンツを作る企業であり、読者の方が読みたいプラットフォームにコンテンツを配信するという考え方ですね。「Tasty」も同様の方針に基づいて運営しています。
──なるほど、だから個人的にはFacebookで見かける機会が多いわけですね。そもそも「Tasty」自体は、当初どういった経緯で始まったんですか?
「Tasty」はFacebookの動画配信プラットフォーム「Facebook Video」の発表がきっかけで、その際に米国『BuzzFeed』にもコンテンツ配信のリクエストがありました。『BuzzFeed』はテキストや画像ベースのコンテンツが主流なのに対し、Facebookの動画は正方形のフォーマットが条件。そこで社内でどんなコンテンツを作るか議論する中で「料理動画を作ったら?」というアイデアが出てやってみることにしたんです。提供開始後は、動画のカメラのアングルや動画の早回しのスピード、尺などを繰り返し何百回と改良し、現在の「Tasty」で配信している形になりました。
──あの絶妙なカメラアングルや尺は最初から決めていたわけではなく、集計されたビッグデータによって、ベストな形になっているんですね。
「Tasty」は基本的にスマートフォンで見ることを想定しています。また、提供するレシピ自体は多くの人たちに「これだったら私でも作れるかも」と思ってもらえるようなものが中心です。見て楽しく、そして作ってみようかな、と思えるような料理動画を心がけています。
レシピをシェアしあう時代
──「Tasty Japan」のレシピは会議で決まるものですか?
そうですね。日本と米国ロサンゼルスに「Tasty Japan」のチームがあります。彼らは共に週一回はレシピを検討し、日米間でコラボレーションしながら日々動画を作っています。
──世界的な規模ですね。各国のレシピが公開されていて。
「Tasty Japan」で提供する動画の多くは、日本で撮影しています。世界的にも「Japanese Food」は人気が高く、本国の「Tasty」などでも動画を配信しています。また、他の国の料理コンテンツも、日本で食材が手に入るものであれば「Tasty Japan」で提供することもあります。「Tasty Japan」の動画に対する反応は非常にうれしいですね。わずか1週間で700万回ほど再生されまた「寿司ドーナッツ」は、ドーナツの型にご飯を入れてひっくり返したオリジナルのレシピで、 これは日本で撮影しました。コメントもバラエティに富んでいて、外国人の方から「ウニって食べられる事を知らなかった」という反応があったり。このレシピは特に海外の「Tasty」でも人気のコンテンツですね。
▲ワールドワイドな発想ならでは。「Tasty Japan 【おもてなしに】4種の寿司ドーナッツ」
──食文化で交流が生まれていますね。
日本で見てくださる方々もコメントしますが、 海外の方は友達をタグ付けして「今週末これを作ってみようよ」というコメントをする場合も多く見られます。コンテンツのシェアも、国によって様々ですよね。
──レシピをシェアしあうのが今の時代ということでしょうか。ところで「Tasty Japan」の好評な動画は?
一つ例を挙げると、「海苔とチーズの卵焼き」です。卵焼きにチーズと海苔を入れるのですが、チーズを入れると断然巻きやすくなる。普段あまり料理をしない方でも、「Tasty」には「へぇ!」と参考になる点があると思います。
▲四角いフライパンは日本ならではだとか。「今夜のおつまみはこれ。海苔とチーズの卵焼き」
──動画を作成して壁にぶち当たることはありましたか?
一緒に作っていく中で色々な発見はありますよね。今年、「Tasty」のアメリカチームのメンバーが来日したのですが、そのうちの一人は日本の食事を初体験で、焼き鳥やラーメン、寿司は知っているけど、モツ鍋は知らなかった。また、彼らは「日本の家庭では、だいたい毎食、和食を作るものだ」と思いこんでいるところがあった。そこで、『Buzzfeed Japan』のスタッフが集まって”実家の料理”を実演してみたところ、日本の料理のバリエーションの幅広さに非常に驚いていましたよ。その後、「Tasty Japan」チームのコラボレーションにより「4種の寿司ドーナッツ」が生まれました。
これが「Tasty Japan」の制作風景だ
──企画会議や制作現場にはやはりフードコーディネーターの方もいらっしゃるんですか?
「Tasty Japan」専属の社員がいます。アメリカと日本にチームがあ
り、料理を作る人、映像を撮る人、みんな専門スタッフですよ。いずれの動画も、時 間をかけながら、レシピを考案し、そして撮影に挑んでいます。
▲こちらがアメリカのスタジオでの「Tasty Japan」制作風景
──想定する視聴者はいますか?
特には想定していませんが、現状ではネット活用している世代のうち、20代から30代が圧倒的に多いんです。視聴しているプラットフォームでは、インスタ映えもするので、最近Instagramからの閲覧の伸びが大きくて、フォロワーが33万人になっています。Facebookが 88万人で、その他、TwitterとPintarest、それと『Buzzfeed Japan』のトップページからも 動画を配信しています。コンテンツはだいたい1日1本で、コメントも何千件と付くものもありますね。
──料理はだれにでも共通することですしね。では最後に、ネットの世界では最近「Tasty」と同じような料理動画が急激に増えていますが「『Tasty』はここが違う」という部分を教えていただけますか?
「自分でも作れるもの」でしょうか(笑)。実際に、私自身も何度か試しに作ってみましたよ。それと、常にデータを重視し、改良を重ねている点。視聴者の方に最後まで見て、そしてシェアしてもらえるように考えています。シェアしてもらってコメントを書いてもらうことで、エンゲージメントが生まれる。そこが「Tasty」や『BuzzFeed』の特徴だと思います。『BuzzFeed』の理念は「人々の実生活にポジティブなインパクトを与えるため」に記事やコンテンツを作ること。料理動画を通じて、少しでもコミュニケーションが密になったらと思っています。
──ありがとうございました!
※数字に関するデータは8月31日時点のものです。