妄想と創作のはざまで味わうオンリーワンメニューの個性派カレー! 「妄想インドカレー ネグラ」【高円寺】

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「妄想インドカレー」と聞いて、なんのことやら? と思うだろう。妙に引っかかってしまう店名の由来は、インドに行ったことのない店主が、本場へ思いを馳せて作り上げた想像上のメニューを出すという意味合いが込められている。

店主の大澤思朗さんいわく「インドカレーを勝手に解釈した我流の偽物カレー」とのことだが、実際に食してみるとこれは我流を極めた、実にオリジナリティあふれる味。奇抜な店名以上に味覚を驚かされた!

 

「最短距離」のカレー屋さん

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▲お店の右はギャラリー。いかにもサブカルの街・高円寺なたたずまい

 

ここ「妄想インドカレー ネグラ」は、東京・高円寺駅南口の商店街からすぐ。

狭いバーを改装した店内の席数は6席のみ。バーカウンターの奥で店主が切り盛りしていて、お客さんとの距離感がおそろしく近いカレー屋さんだ。そして取材中もひっきりなしにお客さんがやって来るお店である。

 

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▲カウンターを隔てているとはいえ、近すぎるこの距離感。自然と会話も弾む

 

個人経営ならではの独特な方針で、メニューは基本的に常に2種類で、店主の考えたインドカレーがメイン。

鍋の中のカレーソースが尽きると、新しいカレーを考案して作るという、日替わりというか鍋替わりの運営だ。試しにインスタグラムでハッシュタグを付けて「#妄想インドカレー」を検索すると、毎回違うカレーがずらりと並ぶ。

妄想を日々生産し続けているのだ……。ほぼ毎日メニューが変わるため、メニュー表もなし。なので、今日は何が食べられるかは、店主に直接問いかけるしかない……!

 

混ぜ合わせることで劇的な味変が!

さてさて期待も膨らみつつカレー2種の相掛けを注文。出てきた本日の妄想カレーは見た目もオリジナル!

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▲合掛けのカレーライス、1,000円(写真上)。ちなみに片方掛けは900円

 

左右別のカレールウを掛けるのは、毎日共通とのこと。南インドの庶民食「ミールス」がベースとなっているが、他では例えようのない妄想インドカレーを解説していこう。

 

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こちら側は、エビと中国の香酢を使ったビンダルカレー。

カレーに使われているスパイスは3、4種類。野菜の甘味などの素材の味を引き立てるために、最小限に抑えている。そしてこれが意外なのだが「食べ終わった後に美味しいな」と思える味を作るために、にんにく、生姜、赤唐辛子は入っていない。それもあって、スパイスの風味とエビの甘みが純粋に楽しめる味だ。

 

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こちら側は、今の時期しか出回らない「葉たまねぎ」を使ったキーマカレー。

「葉たまねぎ」のさっぱりとした甘味と肉の旨味がマッチ。食材の購入は八百屋さんと話をして、季節の野菜を取り入れることが多いという。

ライスは、タイのジャスミンライスにクローブとカルダモンを混ぜて炊いたもの。スパイス尽くしなひと皿だ。

 

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皿の中央に盛られたサラダは、生食ができるホワイトセロリとニンジンを和えたもの。と、ここで店主の大澤さんからアドバイスが。

 

ぜひ2種類のカレーを混ぜてみてください。乳化するので味がまろやかになっていきます(大澤さん)

 

言われたとおり、さらっとした2種類のカレールーとサラダを少しづつ混ぜながら食べると、味が変化して面白い。味の角が取れていくというのか。野菜のシャキシャキ感と、カレーのスパイスの風味、ライスの甘さが渾然一体となって舌を楽しませてくれる。このお店ならではの食べ方が意外とイケるのだ。

 

カレーよりもスパイシーなチャイ

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▲野菜を和えているスパイスは、野生のブラッククミン(左)。右は通常のクミン

 

このお店ならではのこだわりは、スパイスにも表れている。インドの市街地から約2時間かかる山岳地域の村でしか取れない自生のクミンを、海外に住む知人に取ってきてもらい輸入している貴重な品だ。

ただ、最近は治安が悪くなって取りにいけなくなったそう。存在するだけで物語を背負っている食材だ。見た目だけでなく、野生の雑味があってワイルドな香りが、スーパーなどで売っているクミンとはもうぜんぜん違う。

 

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辛さが足りなければ、スライスした青唐辛子を投入できる。際立つ辛さを追加。

 

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食後に出てきたのは、これも変わった逸品。チャイのまろやかな味のイメージを覆す、スパイシーな妄想チャイ(500円)。

なんとカレーひと皿分のスパイスが入っているとのことで、食前に飲んでしまうと、チャイの辛さでカレーが味わえないため、食後の一杯となる。

 

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スパイシーなチャイには、削ったジャグリ(ナツメヤシ、サトウキビなどの糖蜜)と砂糖を混ぜたものを入れると甘みが増す。大量のスパイスの効果で、身体が自然にホカホカと温まり、健康になりそうな飲み心地だった。

 

あなたのスパイス調合します

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元々はクラブイベントなどでケータリングをしていた店主の大澤さん(左)と、近藤さん。

ストリートアートのレセプションパーティーから商店街のお祭りなどにも出店し、呼ばれたイベントのコンセプトに合わせたスペシャルカレーを作っていたのが発端だ。車の免許を持っていないため、カートで荷物を運んで出店を続けたという苦労もあったという。

修行中もメニューのチャレンジを続け、サンマとスダチを使ったビリヤニ(!)など、個性あふれる料理が好評だったそうだ。スパイスだけでなく、カルチャーの匂いもプンプン漂ってくるのは、いろいろなイベントに参加した過去の経験からだ。

 

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お店の客層は、高円寺ならでは。近所には飲み屋さんも多く、仲間同士の小さなコミュニティーも多々。そこでの口コミによる来客が営業に直結している。

毎回メニューが変わるため、平日に通い続ける人もいるお店になった。カレー屋さんなのにビールを飲みに来るだけの変わった人もいるのは高円寺ならでは。

 

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厨房がないのでスパイスが丸見え。高円寺でお店を開いているインド人の方が偵察(?)に来て、スパイスを見て「ふーん、これ使っているんだ(笑)」と言われたそうだがその真意は分からず。

 

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ひときわ目を引く「あなたのスパイス調合します」のメッセージ。お客さんと話しながら、その人に合うスパイスを調合してくれるサービス。ここでしか手に入らないので土産に最適だろう。

 

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お店オリジナルの缶バッチも販売中。

 

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いかにもロックな街、高円寺らしいフライヤーも。

 

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21時以降はバーとして営業。日替わりのバーテンダーがお店に立つ。メシ時だけでなく、夜も賑わっている。

残念なことに「妄想インドカレー ネグラ」は、現在の店舗での運営は2016年7月末までとなる。理由はお店が入っている建物の老朽化で取り壊されるためだ。次に味わえるのはいつになるのかわからないので、想像上の味覚の旅に出られるは今のうちに。

 

お店情報

妄想インドカレー ネグラ

住所:東京都杉並区高円寺南4-25-1
電話番号:非公開
営業時間:13:00~21:00 ※日により変動します。facebookページで事前確認してください。
定休日:月曜日、火曜日
ウェブサイト:facebookページ

※本記事は2016年4月の情報です。

 

書いた人:高岡謙太郎

高岡謙太郎

オンラインや雑誌で音楽・カルチャー関連の記事を執筆。共著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』など。

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