麻婆丼のうまい店
どこの駅からも遠い、台東区橋場にある「みづの家」という町中華を散歩の途中に見つけました。
吉原大門の交差点から西北にのびる「日の出会商店街」を抜け、さらに「アサヒ商店街」を抜けたところにお店はあります。
最初にうかがったのが木曜日で、お店は閉まっていました。表の貼紙によれば、水曜日と木曜日が定休日のようです。
あらためてお休みではない日にうかがい、麻婆丼を注文しました。
実はこのところ初めて、訪問する町中華では麻婆丼を注文することが多いのです。
やっているところとやっていないところがある微妙なメニューだし、やっていてもメニューの真ん中くらいに記載されていることが多くて見逃しがちなのですよ。でも、そういうメニューがおいしいお店こそが、実力店だと思うのです。
▲麻婆丼(750円)
はい、こちらの麻婆丼。めちゃくちゃ美味しいですよ。
メニューにはもうひとつ激辛麻婆丼というのがあって、たぶんそちらはけっこう辛いのでしょうけれど、こちらの普通のものもけっこうシビれる辛みがあって、スパイシー。
壁には「みづの家はSNS OK!」の文字があったり、会計でPayPayが使えたりして、けっこう今風だったりします。
こんなお店なら、きっとまかないメシもおいしいのではないかと、取材をお願いしてみたところ、OKをいただきました。
以降、連絡はLINEでということで、ホール担当の大島登志夫さんからこんな文章が届きました。
いやぁ、花山椒を使った「まぜそば」!
そそられますね。さっそく教えていただきましょう。
1955年開業の中華です
左がホール担当の大島登志夫さん、右が今回、まかないメシを教えていただくオーナーシェフの水野雅友さんです。
──水野さん、こちらのお店の創業はいつでしょうか?
水野さん:1955年です。もともとはあんみつ屋としてスタートし、そのうちラーメンを出すようになったそうです。
──水野さんで何代目になるんでしょうか?
水野さん:私で3代目になります。それでは厨房へどうぞ。
水野さん:今回はまず花椒油(ホアジャオユ)をつくります。入手などが大変ですがお店で使っているものにします? それとも、入手の簡単なほうにしますか?
──むむむ、そうきますか。えっと。やはりスーパーなどで材料が揃えられるほうがいいですね。
水野さん:わかりました。それでは、市販の粉山椒を使います。材料はこちらをご覧ください。
(注:花椒油とタレは完成した状態です)
シビれる「花山椒まぜそば」のレシピ
【花山椒まぜそば・材料】(1人分)
花椒油分
- 粉山椒 5g
- 水 5g
- サラダ油 100g
---------------------
まぜそば分
- 中華麺 30g
- 太麺 30g
- 加水麺 30g
- 白髪ねぎ 適量
- キャベツ 1~2枚
- 白菜 1枚
- もやし 適量
- レタスなど 数枚
- 肉そぼろ 50g
- 市販の胡麻だれ 100g
- 豆板醤 小さじ1/2
──ちなみにお店のものだとどういうものなんでしょう?
水野さん:いい花山椒(ホール)を自分のところでグラインド(※挽いて粉にすること)します。味は格段にちがいますよ。
水野さん:粉山椒を5gほど用意してください。
──はかりで5gを計測するのですね。はかりのない人はどうしましょう?
水野さん:ぜひ買ってください(笑)。料理には必要なので、千円以下でも売ってますから。
水野さん:ボウルに水5gを加えて、混ぜます。
水野さん:水を入れるのは、粉山椒が焦げるのを防ぐためです。意外と知らない人が多いんですけど、ここ、ちゃんとやってくださいね。
水野さん:サラダ油を180度まで熱してください。
──温度計が出ましたね。温度計がない場合はどうすればいいでしょうか?
水野さん:これもぜひ買ってください。料理の腕がグッと上がりますし、今は安くなって700円ぐらいのものもありますよ。温度が高すぎると苦くなるし、低すぎると香りが出ませんから、温度はきちんとはかりましょう。
──なるほど、ちゃんと重さや温度をはかることで失敗しなくなるのですね。
水野さん:時々まぜながら、3回くらいに分けて100gのサラダオイルを注ぎます。香りがたってきたのわかります?
──おおっ、山椒のいい香りがしてきましたよ。
水野さん:これで花椒油のできあがりです。これを覚えておくといろいろと応用できますよ。たとえば、粉山椒ではなく一味にして、濾したものがラー油になりますしね。また、常温でも3ヵ月くらいは持ちますから多めにつくっておくといろいろな物に使えます。
水野さん:それでは、まぜそばの麺ですね。麺はなんでもいいんです。生麺、乾麺、太いのでも細いのでも。
──スーパーで売っている中華麺やインスタントラーメンでも大丈夫ですか?
水野さん:はい、どんなものでもいいですよ。パスタでもいいです。
水野さん:ウチではよくやるのですが、いろいろな麺をいっしょに使うっていうやり方です。今回は3種類の麺を使ってみました。
水野さん:黄色いのが普通の中華麺、白っぽいのがつけ麺用の太麺、それから加水麺ですね。
──いやぁ、これはどういう感じになるのか楽しみですね。
水野さん:たとえば、パスタが2人分、インスタントラーメン1人分あるけれど、3人分の料理をつくりたいときなど一緒に使ってしまっていいんですよ。そうすることで、麺の食感に複雑さが増しますから。
水野さん:あと、材料は冷蔵庫に入っているものでいいですよ。今回はちょっと半端な白髪ねぎ、あとランチのつけ合わせであまったサラダ。野菜はね、冷蔵庫の中を見て、キャベツあります、白菜あります、青菜あります、もやしあります。こんな感じであるものを入れちゃいますね。
あと肉っけも欲しいですよね。あれば、チャーシュー、あるいはハムやベーコンなどなんでもいいですよ。今回は担々麺に使っている味のついたひき肉にしてみました。それから麺と花椒油。
──具材にいいものやNGなものはありますか?
水野さん:なんでもいいですよ。わかめやキノコ類でもいいですね。とくに自宅で作る場合はできるだけ具材の種類や量を多くしたほうがおいしくなりますよ。お店だと原価を考えなくちゃいけないけど、自宅ならそれはないでしょうし(笑)。
水野さん:タレもなんでもいいんです。今回は冷蔵庫に入っていた市販の胡麻ドレッシングを100g。
水野さん:そこに豆板醤を小さじ半分ほど入れます。混ぜればタレのできあがりです。
──これは簡単でいいですねぇ。ウチの冷蔵庫にも入ってますよ、両方とも。
水野さん:そーなんです。タレも冷蔵庫に入っているものでいいんですよ。さて、ここから調理にかかります。鍋ひとつでやっていきますよ。
まかないメシならでは! 数種類の麺で食感を愉しむ
水野さん:まずは麺を茹でていきましょう。それぞれ茹で時間が違うので、時間がかかるものからお湯に入れていきます。まずは太麺が3分半、加水麺が2分半、中華麺が1分です。
──麺を茹でるときのコツみたいなものはありますか?
水野さん:そうですね、とにかくたっぷりのお湯で茹でることですね。それから茹で時間などはきちんとタイマーを使ってください。太麺を入れて1分経過したので、加水麺を入れます。
水野さん:1分半後、中華麺を入れるタイミングで野菜を入れちゃいます。混ぜながら茹でてください。
水野さん:火はずっと強火ですね。
水野さん:1分後にこれをザルにあげます。ここでお湯をよく切ってください。
水野さん:丼に移します。それでは盛り付けです。
水野さん:タレをかけます。
水野さん:サラダや肉そぼろをのせ、最後に白髪ねぎをのせます。
水野さん:花椒油をかけまわして、できあがりです。
クセになるような、シビれるウマさ
いやぁ、これはおいしそうですね。麺もたっぷりですよ。
よく混ぜていただくのがいいようです。
──大島さんいかがでしょう?
大島さん:おいしいですね。自分はけっこう「シビれ好き」なので、花椒油が入っていないまかないにも花椒油をもらってかけるほどです。
──へえ、どれどれ。
よく混ぜていただきましょう。麺は食べ応えがあっておいしいですね。
3種類の麺がいいハーモニーですよ。
別々というよりも、ひとつのチームになっていますね。スルスル入っていきますよ。
そして、後からシビれがきますね。
これはクセになるおいしさです。一気に完食ですよ。ごちそうさまでした。
簡単なのでぜひ自分でも作ってみたいです。花椒油も自作してみます。
──しかし、これはお店で使っている花椒油ではないわけですよね。それでこんなにおいしいんだから、お店で使う花椒油も気になります。
水野さん:まだ未定ですが、お店のホームページで花椒油は売ろうかと思っています。
みづの家さんの麻婆丼が食べたくなったら
お店は浅草、三ノ輪、南千住といった駅が最寄りですが、どこからも結構歩きます。
お散歩好きな方ならこのあたりはなかなかいい散歩コースがたくさんあるので、歩いてもいいでしょう。
交通機関を使うなら「めぐりん」という台東区のコミュニティバスが便利です。
浅草駅より「北めぐりん(浅草回り)」を使って「橋場一丁目」で下車するとすぐ。
上野駅からは「ぐるーりめぐりん」で「清川清掃車庫」で下車すると徒歩3分くらいです。
お店情報
みづの家
住所:東京都台東区橋場1-32-7
電話:03-3874-4933
営業時間:10:00~14:30(LO)17:00~22:30(LO)
休日:水曜日、木曜日
書いた人:下関マグロ
1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)、『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、に『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)など著書多数。