豚肉が入っていない「とん汁」開発の裏話を伊藤園に聞いてみた

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肌寒い時期になると、いつもに増して飲みたくなる豚汁。

 

かく言う私も、最後の晩餐に選ぶとしたら豚汁と答えるほど魅了されているひとりです。

 

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そんな汁物を代表する一品が、フード系飲料「とん汁」(130円/税抜)として伊藤園から発売され話題になりました。

 

www.itoen.co.jp

 

一口飲むと……豚肉のうま味が絶妙に溶け込んだ味噌の風味が口に広がり、さらにじゃがいもやごぼう、こんにゃくなどの食感が次々と楽しめます。

 

ですが、この「とん汁」……なんと主役とも言える豚肉が入っていないのだとか!

 

「じゃがいも、ごぼう、こんにゃくがあって、なんで豚肉が入っていないの?」「どう頑張っても、豚肉は入れられなかったのか」「代わりのポークオイルってなに?」などなど……いろんな疑問が湧き上がることでしょう。

 

そこで今回は、「とん汁」誕生の真相を突き止めるべく、伊藤園にお邪魔してきました。

 

「とん汁」デビューのきっかけ

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お話をうかがったのは、「とん汁」の開発に携わった、マーケティング本部・新ブランド育成グループの潮木さん。早速、「とん汁」についての気になるあれやこれを聞いていきましょう。

 

──飲食業界で初となる広口缶の「とん汁」。まず、この「とん汁」はどのようなきっかけで発売に至ったのですか?

 

f:id:exw_mesi:20181129160229p:plain潮木さん:もともと伊藤園では、1999年からフード系飲料として「みそ汁」を販売していました。秋冬に需要が上がる暖かいフード系飲料を開発するに当たって、さらにお腹にたまりやすく、小腹を満たせる「とん汁」を作ることとなりました。

 

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▲伊藤園が発売しているフード系飲料のラインナップ。春夏向けとしては「寒天しるこ」、冷やしておいしい! シリーズの「特濃コーンポタージュ」「大納言しるこ」が発売されている

 

──なぜ他の汁物でなく、「とん汁」になったのでしょう?

 

f:id:exw_mesi:20181129160429p:plain潮木さん:過去数年の量販店におけるカップ味噌汁・お吸い物の売上実績を見たときに、通年で人気があるのは味噌汁でした。ただ、9~3月の時期は豚汁が味噌汁を追い抜いていたんです。そこで豚汁に白羽の矢が立った、という感じですね。

 

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▲「みそ汁」も広口缶で、同じサイズ(165g)

 

──長年販売していた「みそ汁」の知見があれば、商品開発はスムーズに進んだのでは?

 

f:id:exw_mesi:20181129160600p:plain潮木さん:「とん汁」なら今まで販売していた「みそ汁」の技術をいかしながら、派生した商品を作れると思っていました。ですが、最初試作で出来上がった「とん汁」はただのしょっぱい味噌汁になってしまって……。我々が求めていた、豚汁ならではの濃厚な味わいだったり、コクというものがなかなか出てこなかったんです。

 

──しょっぱい味噌汁……。

 

f:id:exw_mesi:20181129160618p:plain潮木さん:さまざまなインスタントの味噌汁や豚汁を試飲しているうちに、豚汁には、味噌の味の濃さだけでなく、コクや豚肉の風味が重要なんだと改めて気付かされました。そこで、味噌の配分量や具材を調整していき、現在の状態に至りました。

 

──この「とん汁」、普通の豚汁よりちょっと薄味ですよね?

 

f:id:exw_mesi:20181129160634p:plain潮木さん:定食などで提供される豚汁はご飯と一緒に味わうものなので、濃いめでも味のバランスがとれると思うんです。ですが、「とん汁」はあくまで飲料として販売しているので、濃すぎると別にお茶などの飲み物が必要となってしまいます。一本で完結させるためにもあっさりした味わいに仕上げました。

 

……たしかにそう言われてみると、通常の濃さだったら逆に喉が乾いちゃうかもしれません。そこは合点がいきますね。さらに、具材についても切り込んでみます。

 

豚汁なのになぜ豚肉が入っていないの?

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──「とん汁」発売後、消費者からはどんな声が寄せられましたか?

 

f:id:exw_mesi:20181129160945p:plain潮木さん:「本当に豚汁だ!」や「ちゃんと根菜の味がする」などの声が挙がっているのを見てうれしかったです。その一方で、やはり「豚汁なんだから豚肉が入っていた方がいい」という声もありましたね……。

 

──「とん汁」に豚肉が入っていないのは何か理由があるのでしょうか?

 

f:id:exw_mesi:20181129161004p:plain潮木さん:企画段階では、もちろん豚肉を入れるという案が出ていましたし、缶に入れる具材の量が限られる中でも「豚肉は絶対に必要だよね」という意見は実際にありました。スーパーやコンビニで売られているカップ型の豚汁にも豚肉は入っていますからね。ですが、実際に豚肉を入れて試飲して見た結果、一口飲んで「豚汁だ」という印象が持てるような味わいにならなかったんです。

 

──それはなぜですか?

 

f:id:exw_mesi:20181129161027p:plain潮木さん:まず、缶入りというところで、難しい部分はあるんです。インスタントのカップの豚汁とは違い、フード系飲料の「とん汁」は保存環境が全く異なります。豚肉が味噌汁に浸った状態になると、肉から出てくる油がちょうどいい具合に混じり合わず、食感も好ましいものではなくなってしまいます。その結果、我々が求めている豚汁らしい味わいが実現できなかったんです。もちろん、開発チームと共に何回も試作はしたんですが、味や食感などトータル的なところで、最終的に納得いく水準までに到達できませんでした。

 

──開発に時間をかければ、豚肉を入れられるという問題でもない?

 

f:id:exw_mesi:20181129161048p:plain潮木さん:残念ながらそのように言わざるを得ません。消費者の方からは「大豆ミートとか擬似肉でも良かったのでは?」という意見もいただきましたが、実はこちらも開発段階で試しました。ただ、味として合格とは言えず、逆に、肉ではないものを入れるのもどうか、という意見もあり、豚肉を入れずに豚汁感を出すというところに注力することに決めました。

 

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──そこで、ポークオイルを代用したんですね。

 

f:id:exw_mesi:20181129161354p:plain潮木さん:はい。ポークオイルを入れてみたら、食感や風味が納得できる出来となったので、ポークオイルを採用しました。

 

──このポークオイル、どうやって作られているのでしょう?

 

f:id:exw_mesi:20181129161427p:plain潮木さん:細かくした豚肉に熱を加えて出てきた油を抽出しています。さらにそこから、油の不純物を取り除いてポークオイルを作っています。

 

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──「とん汁」に入っている野菜やこんにゃくなどの具材はどのように選んだのですか?

 

f:id:exw_mesi:20181129161543p:plain潮木さん:一般的にイメージされる、オーソドックスな豚汁の具材を入れています。かつ、じゃがいもはホクホク、ごぼうはシャリっ、こんにゃくはプリッという、それぞれ違う食感を楽しめる野菜を選んでいます。

 

──なるほど。そういうロジックだったんですね。

 

「とん汁」が販売されるまでの知られざる苦労 

──完成に至るまでどれくらいの味噌汁や豚汁を試したんですか?

 

f:id:exw_mesi:20181129171105p:plain潮木さん:スーパーや、コンビニで販売されているおよそ数十種類のインスタント系の味噌汁や豚汁を試しましたね。

 

──数十種類……!「さすがに飽きた」とはならなかったんですか?

 

f:id:exw_mesi:20181129171117p:plain潮木さん:それぞれ微妙に異なる味わいだったので飽きはこなかったです。ただ、開発時期は半袖を着るような季節で。暑い日が続くのに毎日お昼になると味噌汁や豚汁のカップにお湯を注ぐ姿を見られては、同僚から「またかよ!」と突っ込まれていました(笑)。

 

自動販売機は営業の最前線!?

「とん汁」開発の陰で精神的にも物理的にも汗を流していた潮木さん。さらに、伊藤園に勤めている社員ならではの職業病も存在するのだとか。

 

──やはり他社の商品は日頃からチェックしてしまうものなのですか?

 

f:id:exw_mesi:20181129162611p:plain潮木さん:そうですね。レストランの立て看板などに「◯◯スープ」と書かれていたりするとつい立ち止まって見てしまいます。あとは、自動販売機があれば自然にチェックしてしまいますね。これは弊社全員の職業病かもしれません。

 

──社員全員!? どんな職種に就いててもですか?

 

f:id:exw_mesi:20181129162628p:plain潮木さん:はい。というのも、実は営業車に商品を積んで、伊藤園の自動販売機に飲料を補充したり、小売店様に納品したりする「ルート営業」という職種はほとんどの社員が通る道なんです。

 

──外部の専門業者でなく、伊藤園の社員さん自らが行なっているのですね……!

 

f:id:exw_mesi:20181129162644p:plain潮木さん:自動販売機は、どの地域にどの飲料の需要が高いのかがわかる営業の最前線です。例えば「急に缶コーヒーが売れだしたな」と思って周囲を調べてみたら、近くに工事現場ができていたり、「若い人に人気の飲料がよく売れているな」と思ったらそこが学校の通学路だったり。

 

──その自販機が置かれた環境に合わせてラインアップが決められているんですね。

 

f:id:exw_mesi:20181129162658p:plain潮木さん:そうですね。自動販売機の製品を決めることは小さなお店を作ることと似ています。お子さんが多い地域には、低い背丈でもボタンが押しやすい一番下の段にお子さんが好む飲料を配置したりもしています。

 

──これから伊藤園のフード系飲料はどのように展開されていくのかをお聞かせください。

 

f:id:exw_mesi:20181129162711p:plain潮木さん:伊藤園は、製品開発をする上で「自然・健康・安全・良いデザイン・おいしい」という5つのコンセプトを掲げています。お客様が安心して手に取って喜んでもらえるような製品をお届けしたいですね。手軽で、豊かな食生活の一助となっていきたいです。

 

通勤時間や、飲み会の締めの一杯に!

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というわけで、伊藤園の「とん汁」開発の裏側についていろいろと聞いてみました。豚肉を入れられなかった背景としては、肉から出る油による味の調節、肉自体の食感などさまざまな要因が絡んでいたようです。裏を返すと、豚汁という料理が奥深い食べ物だと言えるのかもしれません。

 

すっきりとした飲み口が特徴の「とん汁」。朝食を食べ損ねた通勤時間や、飲み会の締めの一杯などにおすすめですよ!

 

www.itoen.co.jp

※価格は税抜です。

 

書いた人:いちじく舞

いちじく舞

フリーライター・編集者。音楽専門学校を卒業後、地下アイドル→銀座ホステス→広告モデル→OLという散らかった経歴を経て、ライターとして独立。得意分野は、グルメ、体験ルポ系の企画。撮影や画像加工もします。

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