日本各地の醤油を100mlの瓶に入れて売る「職人醤油」という店があるらしい
「職人醤油」という名前を初めて聞いたのは、先月アボカド専門店「立呑 あぼ太郎」さんを取材していた時のこと。
「ほぼマグロをクラフト醤油で」という名前のアボカド料理を頼んだら、一緒に小瓶に入った醤油が出てきたのです。
統一された小瓶にそれぞれ違うラベルの、タイプが違う醤油です。
あぼ太郎店主の佐藤さんによると、「全国のこだわりの醤油のなかから、アボカドに合う醤油を職人醤油さんという会社にお願いして選んでもらっています。社長さんが全国の蔵を回って、地元で愛されている醤油を100mlずつで売っているんですよ」とのこと。
そして、それぞれの料理に合う醤油を選んでいただいて試してみると、それぞれまったく違う味わいなのです。職人醤油の冊子を見ると、全国のたくさんの醤油がずらり。
醤油がこんなに全国で作られていたなんて!
そして、それを少しずつ売るってどういうこと?
気になって仕方がなくなってきたので、職人醤油まで行ってみることにしました。
群馬県前橋市の職人醤油本店を訪ねてみました
商品は全国各地の取扱店でも購入できます。
でも、ここはせっかくなので、前橋本店まで行ってみました。
職人醤油前橋本店は、群馬県前橋市、電車だと上毛電鉄・三俣駅が最寄り。
車だと関越自動車道・前橋インターを降りて10分ほど。
店の外装もロゴもスタイリッシュ。ここからも醤油に対する思いが感じられます。
酒粕、もあるようです。
入り口は手で開けます。醤油の瓶のイラストがかわいい。
店内には例の醤油の小瓶がずらりと並んでいます。
年収トップクラスの会社をやめて、醤油の販売を始めた理由
職人醤油前橋本店がある、群馬県前橋市は代表の高橋万太郎さんの出身地です。
落ち着いた雰囲気の店内です。お子様連れのお客様もゆっくり選べるように、と絵本などが並べられたキッズコーナーも。
代表の高橋万太郎さんは、1980年生まれ。群馬県前橋市出身。
立命館大学卒業後、株式会社キーエンスで精密光学機器の営業に従事し2006年に退職後、株式会社伝統デザイン工房を設立。2008年5月に職人醤油をオープン。
以前に勤めていた会社である株式会社キーエンスは、大阪府に本社を置く精密光学機器の製造販売をしている会社です。営業力が大変高く、社員の給料が日本でトップクラスに高いことで知られています。
高橋さんはなぜ、そんな会社をやめて、醤油を販売する店を作ったのでしょうか?
──大学では何を専攻していらっしゃったのですか?
高橋さん:経済学部でした。
──学生時代から醤油には興味があったのでしょうか?
高橋さん:いえ、多分普通です。他のいろいろな食材と同じで、特に意識はしていなかったです。
──会社をやめる時には、自分で会社を設立することは決めていたのですか?
高橋さん:そうですね。伝統的なものでやりたいなと思っていました。独立して何かをやりたいと思っていたのですが、具体的にコレというものは見つかっていませんでした。
──独立して自分の道を歩みたいという気持ちだけがあったんですね。
高橋さん:そうですね。もやもやした気分になっている時に、アップルの創業者スティーブ・ジョブズの卒業祝賀スピーチ(2005年6月12日、スタンフォード大学)に出会いました。
「自分が本当に心の底から満足を得たいなら進む道はただ一つ、自分が素晴しいと信じる仕事をやる、それしかない。そして素晴らしい仕事をしたいと思うなら進むべき道はただ一つ、好きなことを仕事にすることなんですね。まだ見つかってないなら、探し続ければいい。落ち着いてしまっちゃ駄目です」この文章が最後のひと押しでした。
──学生時代から日本の伝統的なものに興味をお持ちだったのでしょうか?
高橋さん:いえいえ、特に興味はなかったんです。自分に営業の力があるとして、「良いものを作っているのに、営業力が足りなくて困っている業界はどこだろう?」と考えた時に、伝統産業や地域産業に目が止まったんです。
──やめた後に新婚旅行で、車で日本全国を回ったそうですが、その時には醤油にターゲットを絞っていたのですか?
高橋さん:その段階では特に絞らず、伝統産業全体を見ていた感じですね。陶器、漆器。たわし、仏壇など。最終的に300アイテムくらいのリストを作って、いろいろ回って、そこで絞り込んだんです。
▲統一された100mlサイズの醤油の小瓶が並ぶ
──他に有力だった商品は、どういったものでしたか?
高橋さん:醸造関係が多かったと思います。お茶とか日本酒とか。
──そのなかで醤油に決めた理由はなんだったのでしょうか?
高橋さん:日本人に欠かせないものであって、なおかつ消費者の立場からすると「選んで買っていない存在」かなと思いましたので。面白いかなと思って。
──選んで買っていない、とは?
高橋さん:ただ醤油が並んでいても、普通の人ってどれを買っていいかわからないと思うんです。自分もある程度勉強したはずなのに、百貨店の醤油売り場で壁一面並ぶ醤油から、どの醤油を買うべきか全くわかりませんでした。
では、自分ならどうしたいかを考えてみると、少しの量でいいから試食をしてみたいけど、1リットルの醤油を数本買うのはハードルが高すぎるわけです。では、小さいサイズにしよう。というわけで、100mlの瓶に入れて売ってみようということになりました。
「そちらで一番の看板商品を、そのまま小さくしてください」
この100mlの瓶をよく見てみると、不思議なことに気がつきます。
ラベルのどこにも「職人醤油」の表記がないのです。
店でこの醤油を見かけた消費者は同じ瓶が並んでいるので、当然同じメーカーのものだと思うと思うのですが、瓶の裏には蔵元が直接販売している商品と同じように、原材料名やメーカー名しかありません。
▲瓶の規格は統一されていますが、ラベルのデザインはバラバラ
──ラベルに「職人醤油」の表記がないのはなぜでしょう?
高橋さん:ラベルはいじりたくないという話をしています。蔵元さんには、「そちらで一番の看板商品を、そのまま小さくしてください」って言ってます。ラベルもそのまま小さくしてくれればいいよ、って言ってます。特にこちらではいじりたくないと思うので。そこで、かなり個性が出るんじゃないかなと思います。
──「100mlの小瓶でしか販売しない」というポリシーの理由は?
高橋さん:気に入ったら大きいサイズのものを蔵元さんから直接買ってもらえればいいかなと思っています。自分が買い手の立場になっても、ネットでも探せますので、だからそこに関わるってことはしない方がいいのかな、と思います。
──蔵元さんの高年齢化もあり、直販や対応に慣れていない方が多く、そこで売りづらくなっている面もあると思うのですが、そこの部分のサポートはしてらっしゃいますか?
高橋さん:特にないです。それはそれぞれが自分でやらなくちゃいけないことだと思うので。それに、そこまで困っている人はいないような気がなんとなくします。今、ネットでモノを売るのは、それほどハードルは高くないと思うんです。
▲醤油のタイプは、出汁入り、甘いものなどいろいろ。
──amazonなども利用できますし。
高橋さん:そうですね。そこら辺のことは蔵元さんが自分でしっかりやっていかなくちゃダメだと思いますし。もっと買ってくれる人、使ってくれる人との距離を縮めないといけないと思います。特に若い人はその中心になっていくべきだと思うし、僕が出て行く必要はないと思っています。
──お客様の層はどんな感じでしょうか?
高橋さん:いろいろです。男性の方も女性の方もいて、年齢も若い方から上の方まで。30代~40代が一番多い気がしますね。あとは、食に興味がある人が多いような気がしますね。
──職人醤油で取り扱ったことによって、こんなに売り上げが上がったよ、といった声を蔵元さんから聞くことはありますか?
高橋さん:蔵元さんから、うちで購入したのがきっかけでお客様から連絡をもらったという話はききますね。それから真偽は定かではないですが、地方のコンビニチェーンとかで「地元の醤油を使って焼きおにぎり作ろう」みたいな企画が出た時、地元メーカーの醤油を探すためにうちのサイトを見ていただいている……そんなパターンが多いようです。そういった企画で声をかけてもらった時に、きっかけを訊いたら「ここ(職人醤油のホームページ)見たから」っていうのは多い気がしています。
置く場所によって「高い」とも「安い」とも言われる
──100mlの値段が、主婦感覚からすると高めな気がしますが。
高橋さん:実際高いですし、食品店などでは高いと言われます。一方で、うちは雑貨屋さんに置いてもらっているところが多いのですが、5本セットで2,000円のギフトセットなどにすると逆に安いって言われます。置く場所によって、反応が真逆だなと感じます。
──この100mlのパッケージングは職人醤油さんでやっているのですか?
高橋さん:いえ、うちは特に何もしないんです。蔵元さんに充填とラベル貼るとこまでやってもらってます。
──意外です! この製品になった状態で仕入れるんですね。
高橋さん:そうですね。手で注いで詰めているところも多いです。小ロットなので、機械の設定を変えるよりも、手でやっちゃった方が速かったりします。それで、ラベルも手で貼ってたり。
──手間がかかるんですね。では蔵元さんが自社で売っている大きい容量のものよりも単価が高くなることもあるのでは?
高橋さん:なかにはあります。蔵元さんによってはこれよりもっと大きいサイズでもっと安く売っているケースもあるので、価格と量が逆転しているケースもあります。ですので、こちらで試していただいて、気に入ったら蔵元で買ってくださいというスタンスですね。
──「職人醤油」というネーミングの由来は?
高橋さん:聞いてわかりやすいネーミングにしたいと思ってたんです。で、そういう感じでいろいろ紙に書きながら考えたんだと思います。もう10年以上前なのでちゃんと覚えてないんですけど。
名前をきいたら、何やっているのかって全体のことがわかるようなもので、できれば日本語の表記がいいなと思っていたので、キーワードを出して掛け合わせてできたと思います。
──「職人」の「醤油」。すごく中身がわかりやすいネーミングだと思いました。ご自分で職人になってみようと思ったことはありますか?
高橋さん:そういうのはないですね。
──もともと、「職人と消費者をつなぐこと」に興味があったんですか?
高橋さん:そうですね。もの作り自体は、たぶん僕は、やり出したら好きだとは思うんですけど。でも、それより今のポジションの方が全体を見たときには力が発揮できるかなと思います。今の立ち位置が自分にも合ってますし、いいかなと思います。
約50の蔵元、約90種類の醤油
職人醤油の直営店である前橋本店と松屋銀座店には、職人醤油が取り扱っているすべての銘柄が揃っています。
──今こちらにある醤油は、何種類くらいなのでしょうか?
高橋さん:今取り扱っているのは、メーカーでいうと50社くらい、種類は90種類くらいです。
──これは常にアップデートされているのですか?
高橋さん:そうですね。新しく回っているところもありますので。
前橋本店には、蔵元さんが作っている醤油以外の商品もあります。
鰹ではなく、鰯の削り節。
米麹。
麺つゆ、みりん、梅酒など。
「アポなし」で全国約400軒の醤油の蔵元を訪ねた
高橋さんは今までに日本全国の約400軒の醤油の蔵元を訪問してきました。そして、現在取り扱っているのは約50の蔵元の約90種類の醤油です。そのことについて印象的な蔵元さんのエピソードを含めてうかがってみました。
──取り扱う蔵元さんを決めるポイントはなんでしょう?
高橋さん:僕は人で選んでいます。本当にいい作り手さんかどうかっていうところで。
──醤油にかける情熱とか、そういうものでしょうか?
高橋さん:それよりも、ちゃんと考えて、ちゃんと作っているかっていうことです。昔ながらの作り方が良いという人でも、「どうして昔ながらの製法が良いのか」という考えをきちんと持っているか。一方で新しいものを採り入れようという時でも、どういう理由があってそれを採り入れているか。そういう考えがしっかりしている人が、僕は信用できるなと思うし、基準にしています。話してみて、人柄を含めて考えがしっかりしている人ですね。
──醤油の作り手さんの後継者事情は厳しいのでは? 年配の方が多いのですか?
高橋さん:それはいろいろですけど、メーカーさんが減っているのは事実です。10年くらい前には1,600くらいあったんですよ。それが今では1,250くらいだと思うので。
──減ってきたとはいえ、思っていたよりたくさんあるんですね。醤油に適した気候は? 意外とどこでもできるのですか?
高橋さん:そうですね。むしろ昔、自動車がない時代に液体を運ぶのって相当大変なことなんですよ。なので、必ずその土地に作り手がいるんです。醤油も味噌も日本酒も。そういうものって、人が担いで山を越えて何千里っていうのが無理なので。必ずその土地に合ったものがあります。
──自然や気候や原材料によって個性が出そうですね。
高橋さん:そうですね。でもどちらかといえば、気候よりもその土地の人の味覚の方が重要です。味の好みですね。まわりの人がおいしいっていうからそれを作るっていうのが自然な流れじゃないですか。寒い地域と暑い地域だと求められる味が違うので、それに伴って味が変わってきたんだと思います。
──印象的だった蔵元さんのエピソードを教えてください。
高橋さん:「門前払い系」といえば大久保(醸造店)さんですね。ホームページも持っていなくて、百貨店のバイヤーとかが来ても帰しちゃう。頑固というよりは、好き嫌いでしょうか。
──年配の方ですか?
高橋さん:そうですね、もう70代くらいかな。お蕎麦業界とか老舗の料亭業界だとすごく有名です。みんなが使いたいと言うけど、なかなか売ってくれないみたいな、そういうところです。
──長野は蕎麦屋さんが多いので地元の老舗さんが使っているのでしょうか?
高橋さん:そうですね。あと東京の有名な料亭もかなり使ってます。そういう有名なところが使っているので、「扱いたい」と言っても、「いやいや」みたいな。ホームページを持っていないので、よくうちに間違い電話がかかってくるんですよ。「大久保醸造店」で調べるとうちのサイトが一番上に出てくるので。
──ここは、こういうところだとご存知の上でうかがったのですか?
高橋さん:いや、僕は基本、事前のアポイント無しのノーアポで回るんです。ただここは、雑誌に載っていたのでアポイントを取ろうと思って電話したら「いや~うちは売らないよ」って。そこで「まあお話だけでも」って押しかけて行って。
朝の10時くらいにお邪魔して、ず~っと話をして、出てきたのが夕方の6時でした(笑)。最終的に「ああ、いいよ」って感じになりました。
──10時から6時って……8時間も! どう言って説得したんですか?
高橋さん:いや、もうずっと話を聞いていただけです。話をずっと聞いていて、お昼どきになったら「じゃあ、蕎麦でも食いに行くか?」って近所の蕎麦屋さんに連れていってもらって。その後、「うち来るか?」って。大久保さんの趣味の館があるので、そこに行くと昔の蓄音機があるんです。レコードを手で回して聴く、戦前くらいの蓄音機で。そこでいろいろなレコードをずっと聴かせてもらって、話を聞いて……みたいな感じです。
──では、人として気に入っていただいた。
高橋さん:ですかね。で、100mlの商品も作ってもらえることになりました。初回訪問で一番長くいた醤油屋さんです。
──最近の蔵元さんでは、どういったところがありますか?
高橋さん:まだ、カタログに載っていないのですが、鈴木醤油店。福島の蔵元です。鈴木さんもホームページを持ってないんですよ。なので「鈴木醤油店」で検索するとやはりうちのサイトが一番上に出てくるんです。で、これもお客様が間違えるんですよ。
本当に「手作り」と呼ぶことができる蔵元
▲鈴木醤油店(福島県岩瀬郡天栄村)写真提供/職人醤油
高橋さん:すごいちゃんとしてるんですよ。若いご夫婦がやっていて。特徴なのが、昔ながらの木桶と、これが、麹を作る麹蓋(こうじぶた)ってところなんです。麹作りをするところなんですが、この麹蓋って作り方で麹を作っている蔵元ってもう全国探しても10軒もない感じなんです。
▲鈴木醤油店(福島県岩瀬郡天栄村)写真提供/職人醤油
高橋さん:この「室(むろ)」という部屋の中に積まれているのが麹蓋です。
──クラシックな製法?
高橋さん:かなりクラシックです。
──若い方達があえてこのやり方で作っているんですね。
高橋さん:そうなんです。ここには最初関西のテレビのロケで行ったんです。タレントさんが何かのマニアの人に密着をするというもので、僕が醤油の蔵元を訪ねるところに一緒に密着するという企画で。
▲鈴木醤油店(福島県岩瀬郡天栄村)写真提供/職人醤油
──テレビの時は、一応アポを取ったんですか?
高橋さん:いえ、本当にノーアポだったんです。ご主人の鈴木さんは職人醤油のことは知っててくれていて、「連絡したかったんですけど、連絡を躊躇してたら本当にアポなしでくるんですね」って驚いてました(笑)。で、ちょっとテレビもいるんですけど、取材いいですか?って。
ここはホームページもないので、まったく情報がない状態だったんですが、中を見せていただいたら、醤油の作り方がすごくてびっくりしたんです。
──この方々は、元々あったご実家の醤油蔵を継いだんですか?
高橋さん:そうです。醤油の世界で「手作り」というワードって、定義がしっかり決まっているんです。そのひとつで「麹蓋を使う」というのがあって。だから多くの蔵元は「手作り」って呼べないんです。ただ、ここは堂々と「手作り」と呼ぶことができるという作りをしているという意味でもすごく珍しいんですけど、さらに今まであまりにも知れ渡ってない、多分誰も知らないです、この蔵元さんのことは。
▲鈴木醤油店(福島県岩瀬郡天栄村)写真提供/職人醤油
──では、まさに職人醤油さんが紹介をしなくては! という蔵元ですね。こういうところを紹介することに使命感みたいなものがあるのでは?
高橋さん:う~ん、使命感ってほどじゃないですが、面白いですよね。そうそう。散々言ったんです、とりあえずホームページ作った方がいいよって。せめてドメインだけ取りなって言ったんですけど、なかなか。まあ、そういう人だからこそ、こういう手間のかかる昔ながらの作り方をするんじゃないかな。
▲鈴木醤油店が経営するりんご園 写真提供/職人醤油
高橋さん:あと、りんご農家をやってらっしゃるんですよ、ここ。だから珍しいですよ。りんご作りながら、醤油も作るっていう。
店内ですべての醤油の試食ができる
醤油に興味があるけど、何を選べばいいかわからない、そんな時はとにかく店に足を運んでみましょう。
前橋本店と松屋銀座店ではすべての銘柄が試食でき、好みや用途に合わせてアドバイスもしていただけます。
醤油のタイプは大きく分けて6タイプ。
- 白醤油
- 淡口醤油
- 甘口醤油
- 濃口醤油
- 再仕込醤油
- 溜醤油
それぞれのタイプ別に、好みや用途に合うものを選んでいただいて、試食をして選べます。タイプ毎の特徴や合う料理もわかりやすく教えていただけます。
試食は小さいスプーンでひと舐めずついただきます。
高橋さん:こっち(向かって左側)にいくほど見た目は薄くなってしょっぱいんです。こっち(右側)にいくと見た目が濃くなる。だから素材を味わいたい、素材を生かしたいときは左側、逆に味を足したいときは右側。
わかりやすくいうと、塩とか、レモンとかオリーブオイルとかかけたい感じのものには薄口(白醤油、淡口醤油)が、ソースをかけたい時には濃口(濃口〜溜醤油)で。
──濃口の醤油はソースがわりにも使えるんですね。
高橋さん:よくお刺身にはどれって聞かれるんですけど、白身系だと塩レモンがいいと思うので左側。マグロ系なら右側ってイメージです。卵かけご飯でも、いい卵をもらったよってときは左側なんです、で、普通の卵をおいしく味わいたい時は右側で。
──いい卵はそれを生かして、普通の卵はコクを足す感じですね。
一般流通していないレアな醤油も
こちらは大変レアな醤油、生揚(きあげ)醤油。
通常の醤油は製品化する時に熱処理をしてから瓶詰めをしますが、これは醤油を搾って熱処理をしていない、「生」の醤油。
商品として一般流通はしておらず、醤油メーカー間や加工品メーカーに対して販売されています。熱処理等をしていないので微生物が生きていて、そのまま瓶詰めをすると密閉空間で発酵がすすみキャップが飛んでしまいます。
生揚醤油は直営店のみでお好みのサイズで購入できます。
高橋さん:生揚醤油は常温で置いておくと、どんどん発酵が進んでしまうので、冷蔵保存してください。醤油は熱処理、火を入れた段階で香りが立って完成するんです。ですので、この醤油はそのままだとあまり香りがありません。
生揚醤油のおすすめの使い方は、料理をする時に入れて、さっと火を通すんです。そうするとその瞬間に醤油が完成して、まさにできたての一番フレッシュな香りを味わえるんです。
──できたての醤油! 生揚醤油で焼きおにぎりをしたら、最高でしょうね。醤油の世界を知って良かったこと、料理の仕方が変わったりとかしましたか?
高橋さん:僕、料理をほとんどしないんですよ。ただ、醤油がおいしいと、なんでもおいしいですよ。単純なところですが。回転寿司とかでも、おいしい醤油を持っていくと全然違いますよ。おいしくなります。単純にそれです。
──『メシ通』読者に、職人醤油の魅力をアピールしてください。
高橋さん:醤油って、使ってみないと絶対わからないものなので、まずは使っていただければ、すごく魅力をわかってもらえると思います。うちの商品はいろいろな醤油を試していただくのに良いと思います。
また職人醤油の商品は、結婚式用などのギフトラッピングもできます。お二人の地元の醤油を組み合わせてプチギフトにする、なんていうのもおすすめです。
──最後に、醤油という食材の魅力を教えてください。
高橋さん:とにかく使ってみてください。僕は醤油は日常にある食べ物のなかで一番、費用対効果が高い食品だと思っているんです。
例えばお肉とかお野菜とかで良いものを買おうとすると、1食あたりに換算して、数円とか数十円高いものを買ってもあまり差はないと思うんです。でも醤油って1食あたりでいうと、1円高い醤油を使うだけで劇的に変わると思うんです。すごく良い素材じゃなくても醤油がしっかりしてるとおいしくなります。そういった意味では費用対効果がすごく高い食品だと思います。
──なるほど、費用対効果の高い食材!
高橋さん:だから、ちょっと面白い、個性的な醤油を使っていただくのはありなんじゃないかなと思います。1本だと高いと思っても、これだけでこんなにおいしくなるんだったら、って納得していただけると思います。
知れば知るほど、奥の深そうな醤油の世界。
職人醤油さんが扱っている醤油のそれぞれの個性や、おすすめレシピなど、一度ではとても伝えきれないので、また別の機会にご紹介したいと思います。
乞うご期待!
お店情報
職人醤油 前橋本店
住所:群馬県前橋市西片貝町5-4-8
電話番号:027-225-0012
営業時間:10:00〜18:00
定休日:月曜日