新鮮な「ほや」を食べたら目からウロコが落ちた
ほやを食べたことがない方も多いのではないでしょうか?
キモい、クセが強そう、どうやって食べるのかわからない、などと思っている方もいるのでは?
そして、鮮度の落ちたほやを食べてしまい、「ホヤなんて、おいしくないよね」と思ってしまった方もいるかもしれません。
でも、実は新鮮なほやはものすごくおいしいのです。
筆者は最近、朝とれたばかりの新鮮なほやを食べて、そのあまりのさわやかさ、旨味に感動してしまいました。
そこで、ほやのおいしさをもっと世間に広めたい、と新鮮なほやをお取り寄せして料理してみることに。
ほやのお取り寄せをお願いしたのは、宮城県石巻市で漁師さんが運営している「株式会社 海遊」さん。
牡蠣、ほや、ムール貝の養殖、それらの加工製品の製造などを一貫して行っている会社です。
社長の伊藤浩光さんは、流通業を経て2004年に家業だった養殖業に転身。
そして韓国で人気のあるほやの養殖を増産し、韓国への輸出を始めて業績を伸ばします。
伊藤さん:高校の時の夢は栽培漁業の研究者でした。でも家が貧しかったため大学に行けなかったんです。その悔しさから大卒に負けないように古典やビジネス、経済の本を読み、独学で学んでいました。その後、流通関係の仕事をしている時に、人脈の大切さと流通業界が抱える問題を知りました。
東日本大震災で加工場が倒壊
しかし、会社が順調に業績を伸ばしていた2011年、東日本大震災により当時の加工場は倒壊、養殖施設、船、自宅のすべてを失います。
しかし、3月15日にはマイナスからの再出発を決意、2012年11月に加工場再建、2016年には現在の新加工出荷施設を建設します。
──現在は、漁業の6次産業化(注:1次・農林漁業、2次・工業、3次・商業を融合することにより新しい産業を形成しようという取り組み)に取り組んでいらっしゃるとか。具体的には、自社で一貫して加工や流通を手がけるということですよね。
伊藤さん:はい。震災を機に6次産業化を大きく進める必要性がでてきました。生産者受取価格の低迷を打開したい。地元で雇用を増やし、若い人材を根付かせたい。また、食の安心安全を求めるには顔の見える6次産業化が必要です。産地直送とトレーサビリティも重要です。
というわけで、海遊では生の海産物の他に、高品質な加工食品も各種取り扱っています。直営のレストランもあります。通販で買えるほやの加工品は、刺身で食べられる冷凍の「なまむきほや」があります。
▲引き上げられた養殖ほや。通販ではとれたてのものを発送してくれるので、東京なら翌日には届きます。
──ここ、雄勝湾のほやの特徴を教えてください。
伊藤さん:雄勝湾は海底から伏流水が湧き出ていて、世界的にも珍しいきれいな海です。ほや自体の苦味も少なく、甘みが強いです。
──雄勝湾では、昔からほやを獲っていたそうですね。
伊藤さん:はい。雄勝の私が住んでいる水浜地区と隣の分浜地区で、昔の年貢表に伊達家にほやを収めてた記録がありました。今は、震災によってその年貢表も残っていませんが。
もしかしたら、伊達政宗も食べていたかもしれないほや。
食べず嫌いはもったいないですね。それでは、いただいてみましょう。
「海のパイナップル」といわれる独特な形
ほやは、愛好者の間では「海のパイナップル」ともいわれています。
そう思うと、可愛く見えてくるのではないでしょうか?
あの形を自分で捌(さば)けるの? と思うかもしれませんが、ほやの捌き方は意外と簡単。魚が捌ける人なら楽勝だし、やったことのない人でもすぐできるようになると思います。
ほやは、氷を詰めた発泡スチロール容器で冷蔵便で届きます。届いた時にはまだ氷が残っていました。
▲ほや・大(6個2,058円)
ところで、ほやってなんでしょう?
ほや貝と呼ばれることもあるので貝の仲間だと思われがちですが、分類的には尾索(びさく)動物というもので、人間などの脊椎動物に近いグループです。
海中に住み、プランクトンを濾過して食べている動物です。
サイズは小から特大までありますが、これは伊藤さんおすすめの「大」です。
手に持つとずっしりとした手応えで、表面に張りがあります。新鮮な証拠です。
さて、捌いてみましょう。
こうしてじっくり見てみると、上に突起が2つあります。
右の突起は+(プラス)、左の突起はー(マイナス)の穴があるのがわかると思います。
こっちが+。入水孔といって、こちらから水を吸い込みます。
こっちがー。出水孔、内部の水を排泄します。
わかりやすくいうと、+が口でーがお尻のようなものでしょうか。
さて、捌いてみましょう。水の使えるキッチンシンクでやりましょう。
準備するものは、キッチンバサミ、ボウル、包丁、まないた。
捌き方はいろいろあるのですが、初心者の私に一番簡単だった、キッチンバサミを多用する方法で説明します。
ホヤの捌き方
まず、+の突起の根元をキッチンバサミでチョキンと切ります。
この時、ほやの中の水分である「ほや水」が飛び散りますのでキッチンシンクの内側で行うのが良いです。
軽く絞ると、+の突起からほや水が出てきます。
これは後でほやの身を洗ったり、出汁としても使えるので取っておきましょう。
ここで間違えてーの方を切ると濁った汚い水が出てきます。
ここは包丁を使ってもいいのですが、キッチンバサミを使うと身が傷つきにくいです。
突起の方から下の方に向かって切れ目を入れていきます。
プリッとしたほやの身が出てきました。
皮と身の間に指を突っ込んで引っ張り出します。
ツルンっと身が取り出せます。
これを包丁で2つに切ります。
もずくのようなふにゃふにゃがあるのですが、これはフンです。
これをボウルのほや水の中で洗い流します。ほや水を料理に使いたい場合は、使う分だけ取り分けておきましょう。
(注:この後、説明に使っている写真のほやはそれぞれ違う個体なので、少しずつ形が違います)
この赤黒い部分はキモです。多少の苦味とクセがあるのですが、食べられます。
ただ初心者や生で食べる場合は取り除いた方が食べやすいので、今回は取り除きます。
包丁を使っても、手で取り除いても、どちらでも良いです。
こんどはこちら側の茶色い部分。
これは腸なのですが、このまわりにフンの通り道があって汚れがあります。
そこでこのピンクの線の部分に包丁を入れて汚れを取り除きます。
こんな感じで切れ目を入れます。
中を水道水で洗いますが、ほやは真水につけると身が白っぽくなり、風味も薄くなるので、なるべくサッと素早く。
料理に合わせて、切ります。
ほやの刺身を「和風」と「韓国風」で
まずは、基本の刺身でいただきましょう。
好きな大きさに切って、お皿に盛り付けます。
わさび醤油でいただきましょう。
ほやの身に塩気が残っているので、醤油はほんの風味づけくらいにした方が良いと思います。
やっぱり新鮮なほやはおいしい。
噛むとコキュッとした食感とともに磯の香りが口の中に広がります。
生臭さはまったくありません。貝よりもクセはない感じです。
しかも、独特の爽やかさもあって、「海のパイナップル」というのは味のことでもあるんだな、とここで気づきました。
さて次は、伊藤さんおすすめの食べ方で。
── 一番好きなほやの食べ方を教えてください。
伊藤さん:私はもともとほやが嫌いだったんです。養殖業を継いでから、韓国への輸出を始め、韓国の人にコチュジャンを付けて食べると美味しいよ、と教えてもらってからほやが食べられるようになりました。今では毎日のようにその食べ方で食べてますよ。
実はほやは、韓国では日本よりもずっと一般的に食べられているのです。
韓国の刺身のタレはチョコチュジャンという唐辛子酢味噌です。
市販もされていますが、今回はコチュジャンとすし酢を混ぜて本場の味に近いものを作ってみました。混ぜる割合は好みで良いのですが、今回はコチュジャン2、すし酢1くらいにしてみました。伊藤さんのように、コチュジャンだけでもOK。
チョコチュジャンとゴマ油塩を用意しました。ほやの身に結構塩分があるので、塩はほんの少しか、なくてもいいくらいです。
確かにこれは本当に合います。
甘辛いタレの味とほやの風味がベストマッチ。
磯の香りがタレでカバーされるので、ほやが苦手だと思っている人には、まずはこの食べ方から試してみると良いと思います。
ごま油塩も、ほやの風味に香ばしいごま風味が加わってかなり食べやすいです。
お酒のつまみにもご飯のお供にも合います。
簡単で食べやすく、ほやを丸ごと味わえる「蒸しほや」
今度はとても簡単な「蒸しほや」です。
ほや水を出したほやを、皮ごと二等分にします。
フンは洗い流して、キモは取っても取らなくてもお好みで。
一応、キモを取ってみました。
蒸し器で5分くらい蒸します。電子レンジを使う場合は、ラップをして600wで2分30秒程度で(電子レンジは機種によって違うので様子を見て時間を調整してください)。
お皿に乗せれば出来上がり。 ほやの塩味だけで十分なので味付けはいりません。
パクッと一口でいただきましょう。
モキュッとした食感。
磯の香りが漂う貝のような、でももっと食べ応えがあります。
生よりも歯応えが増して、丸ごと頬張って噛み締めると満足感いっぱいです。
オリーブオイルをかけてワインのつまみにするのも良さそう。
この出汁はもちろんつまみとして飲んでしまいます。
非常にお酒がすすむ味わいです。
反対側は内臓の入り具合が違うので、ちょっと風味が違って楽しいです。
ほかほかの「ほや飯」なら、エンドレスで食べられる
これまた簡単で絶品なほや飯。
米とほやの割合はお好みで。これは米3合にほや2個です。
米は普通に研いで浸水させて、ざるに上げて水を切ってから炊飯器に入れ、そこにほやを滲み出た汁ごといれます。米2合につき大さじ1杯の日本酒を入れ(なければ省略可)、炊飯器の目盛り通りに水を足し、普通に炊きます。
炊き上がったら、さっくり混ぜて出来上がり。
山椒の葉を添えてみました。
ほやの出汁がしっかりしみ込んだご飯は、食べても食べても止まりません。
間違いのない、ほやの天ぷら
これも大好評、ほやの天ぷら。
適当な大きさに切ったほやを、普通に天ぷらにしてみました。
天ぷらの腕前がいまいちでも、味はおいしくできるのでご安心ください。
外はカリッと、中はジュワッと。これもほやに塩気が十分あるので天つゆはなくても大丈夫です。ハーブを添えたり、カレー粉を少しかけたりしてもおいしいです。
とっても簡単、ほやのお吸い物
これもとても簡単なほやのお吸い物。伊藤さんに教えていただいた食べ方を参考に作ってみました。
──他におすすめのほや料理、これは他の土地の人は知らないだろうという珍しい食べ方があったら教えてください。
伊藤さん:地元では生食が一般的ですが、一つ山を越えた農家の方では、お正月のお雑煮の出汁に使用したりしている地区もあるんですよ。
そこで、ほやのお吸い物を作ってみました。
入れるのは水とほやと少しの日本酒とお好みの野菜。ほやと野菜に火が通ったら、味見をしてお好みで塩を足したら出来上がりです。出汁はほやだけでしっかり出ます。
ほやのペペロンチーノ
ほやは、和食だけじゃないよ、ということでパスタも作ってみました。
いつものペペロンチーノを作って、にんにくと唐辛子の香りが出たところで、適当に切ったほやを入れます。
茹で上がったパスタと絡めたら出来上がり。
青みはたまたまあった内藤とうがらしの葉。ブロッコリー、バジルなどでも良し。
きのこなどを入れてもおいしいと思います。
ほやの出汁が絡んだパスタ、もちろん間違いありません。
冷凍したほやがある時は、こういった火を通した料理にするのがお手軽。
後日作ったアヒージョも絶品でした。
食べず嫌いしているにはあまりにももったいない「海のパイナップル」ほや。
ぜひ一度、皆さんにも試してみて欲しいです。
あ、もし、俺もほやが好きだ! という人は、おすすめの食べ方を教えていただけると嬉しいです。
※ほやは明記された消費期限を必ず守って冷蔵保管しましょう。生ものですのでなるべくお早めにお召し上がりください。