熱々の鉄板でいただくケチャップ味のイタリアンスパゲティー、通称「イタスパ」。昭和30年代に名古屋の喫茶店から生まれた名古屋めしの一つだ。
調理する傍らで鉄板を熱するため、手間がかかる上にガスコンロも占領されてしまうので、一時期イタスパを出すお店が少なくなった。
が、'13年頃に起こったナポリタンのブームでイタスパは再び脚光を浴び、喫茶店のみならず、カフェや居酒屋さんでも食べられるようになった。
全国でも珍しい鉄板スパ専門店
そんななか、鉄板スパゲティーの専門店があるという情報を入手した。それも名古屋ではなく、隣の三重県桑名市にあるという。
鉄板スパの専門店は、発祥の地である名古屋でも見たことがない。なぜなら、イタスパを含めて鉄板スパはあくまでも軽食であり、味噌かつ定食や唐揚げ定食などを差し置いてメインを張れるようなメニューではない。
それに、鉄板さえあれば、家庭でも簡単に作ることができるので、専門店は成立しないと思うのだ。
さまざまな疑問を抱きながら、桑名へと車を走らせた。
東名阪自動車道桑名ICから15分くらいで鉄板スパゲティー専門店「伊勢ノ花天(いせのかてん)」に到着。
レトロな喫茶店をイメージしていたが、それに反して和カフェっぽい。
このギャップも面白い。
こちらが店長の志賀昭太さん。開店したのは5年前。もともとはおかゆ専門店として営業していたという。
「メインはおかゆでしたが、サブメニューにナポリタンを出していたんです。これも好評でしたが、2年ほど前、試しに鉄板で提供したら、おかゆを凌ぐほどの評判になったんです。いっそのこと、鉄板スパゲティーの専門店にリニューアルしようということになりました」(志賀さん)
一番は「鉄板イタスパ」
8〜9割のお客が注文するという看板メニューの「ふわトロ卵の鉄板イタスパ」(880円)をさっそく作っていただいた。
麺の上に整然と並ぶ赤ウインナーが目を引く。ほかにも玉ネギとピーマン、マッシュルームと、イタスパ定番の具材も入る。
他店のイタスパは、席まで運ばれるまでに卵が固まってしまうことが多いが、ここのはメニュー名の通り、時間が経ってもふわトロ。
こりゃうまそうだ!
麺を卵に絡めながらフォークに巻きつけて、フーフー、ハフハフしながらパクリ。
ちまたの喫茶店のように、味付けはケチャップと思いきや、これはまったく別物。トマトの酸味だけではなく、香味野菜をじっくり煮込んだような深いコクがある。トロトロの卵とともにいただくと、マイルドな味わいとなって、うまさはさらに倍増する。
また、麺をかむと、跳ね返されるような弾力がとても心地良い。ソースも麺も他店とは完全に一線を画していることがわかった。
「残念ながらソースの中身は企業秘密で申し上げられませんが、自家製です。懐かしい味わいになるように、やや甘めにしてあります。まずはそのまま召し上がっていただき、お好みで粉チーズやタバスコで味の変化をつけるのがオススメですね。麺は特注の太さ2.2ミリの極太生麺を注文を受けるごとにゆで上げて提供しています。乾麺では味わえない、もっちりとした食感が楽しめますよ」(志賀さん)
ミートソース&インディアンも
鉄板スパ専門店だけに、メニューはイタスパだけではない。
こちらは「鉄板ミートソーススパ」(880円)。
トマトと野菜、肉のうま味を凝縮させたミートソースのうまいこと!
ソースの濃厚な味わいと極太麺のマッチングも絶妙だ。
こちらは「鉄板カリースパ」(930円)。
名古屋の喫茶店では、「インディアンスパ」と呼ばれていて、ミートスパのように麺の上からカレーソースをかけたものが一般的。
しかし、ここのはカレーソースで麺を炒めた焼きカレー風。それゆえにカレーの香りと風味が引き出されて、フォークが止まらないほどのうまさ。
焼きそば好きにはたまらない
削り節や青のりの香りが食欲をそそる「鉄板ソーススパ」(780円)は、名古屋の喫茶店でイタスパと並ぶ定番メニュー、鉄板焼そばをアレンジ。
スパイシーなソースがしっかりと染みた麺のもちもち感がたまらない。目玉焼きをつぶして、黄身に絡めて食べるとなおうまい。
鉄板スパは以上の4種類。いずれも専門店ならではのこだわりがあることがわかった。逆に言えば、世の中の鉄板スパにはこだわりがなさすぎるのだ。とくにイタスパはその最たるもの。炒めた麺と具材にケチャップで味付けして、鉄板にのせて溶き卵を流し入れれば、「そこそこうまい」イタスパは誰でもできるのだ。
一方、ここのイタスパはソースと麺を見直し、ブラッシュアップさせたのである。専門店たる技と工夫がいかされている。
なお、こちらの「伊勢ノ花天」では、持ち帰り用のレトルトソース「レトロなイタリアンスパゲティーソース」(380円)も販売中。店頭のほか、ネットでも購入できる。
「鉄板スパは年輩のお客さんにとっては懐かしく、初めて食べる若いお客さんにとっては新鮮に映るようです。自分で言うのもアレですが、おいしさには自信がありました。だから、専門店にしても十分に勝負できると思っていました。もっと多くの方に食べていただいて、将来は名古屋に進出できればと考えています」(志賀さん)
名古屋市内、それも観光やビジネスで多くの人が集まる名古屋駅あたりに出店すれば、一大ブームを巻き起こすかもしれない。
お店情報
伊勢ノ花天
住所:三重県桑名市江場903-3
電話番号:0594-25-2001
営業時間:11:00~21:00
定休日:火曜日
ウェブサイト:http://katen.shop-pro.jp/
※この記事は2017年8月の情報です。
※金額はすべて税込みです。