ひつまぶしを味わうなら、うまい・お値打ち・本家ほど混まない「のれん分け店」を狙え!【名古屋めしライター大推奨】

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ここ数年、価格が高騰している鰻。ひと昔前と違って、食べる機会が減ってしまった。名古屋で鰻といえば、何といっても「ひつまぶし」だが、3,500円~4,000円は覚悟せねばならない。

でも、土用丑の日くらいはおいしい鰻を食べたい。

とはいえ、老舗店や話題店となると、早朝から長蛇の列。並んでいる人の半数以上は県外のお客さんだろうが、3~4時間待ちなんてザラ。そこで今回は、地元・名古屋在住の私がアノ有名店の味を受け継いだ新店を紹介しよう。

 

名店仕込みの「うな丼」が2,000円!

名古屋の鰻を語るとき、絶対にハズせないのが市内熱田区の「あつた蓬莱軒」

ひつまぶしの発祥店ともいわれ、2000年代初頭の名古屋めしブームでその名を全国に知らしめた名店中の名店である。

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昨年12月、北名古屋市の名鉄犬山線西春駅近くにオープンした「うなぎ 蓬春(ほうしゅん)」は、その店名からもわかるように、「あつた蓬莱軒」からのれん分けしたお店だ。

 

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店主の近間篤さんは、「あつた蓬莱軒」で25年間にわたって修業を積み、矢場町の松坂屋名古屋店南館10階にある松坂屋店で料理長を務めた。

 

「蓬莱軒出身の方のお店はたくさんありますが、正式にのれん分けしたのは、ウチを含めて5軒しかありません。店名に“蓬”が付いていることと、本店の主人から贈られた口上書を掲げてあるのがのれん分けのお店になります」と、近間さん。

 

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これが口上書。要するに、料理人として本店の味と技術を修得したことと、お店を訪れたお客さんにこれからもひいきにしてほしいとの旨が書かれてあるのだが、言葉の一つ一つに何ともいえない重みがある。これを受け取った近間さんは、身の引き締まるような思いだったに違いない。

 

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さっそく鰻を焼いていただくことに。

本店と同様に、炭火で焼き上げる。うちわであおいで火力を調節し、鰻そのものの味を最大限に引き出す。鰻は脂ののり方や身のやわらかさなど品質を重視しているため、産地を特定せず、時季ごとに厳選したものを使用している。

私感だが、「あつた蓬莱軒」よりもサイズが大きいように思える。

 

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まず、作っていただいたのは、「うなぎ丼」(1,980円)。

シンプルに見えるが、近間さんが修業した25年間のすべてがこの一杯に凝縮されていると言っても過言ではない。それが今どき1,980円で食べられるとは!

鰻をひと口……。炭火焼きならではの香ばしい風味がふわっと広がって、鼻からスッと抜ける。

身はふんわりとしていて、皮はパリパリ。

うん、これ、これっ!

「あつた蓬莱軒」の絶妙な焼き加減そのものである。

 

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唯一、微妙な違いを感じたのは、タレの味付け。「あつた蓬莱軒」ののれん分けのお店であれば、まったく同じタレを使っていると思ったが、実はそうではないらしい。

 

「蓬莱軒のタレのレシピは、創業者一族しか知りません。本店の総料理長ですら知らないんです。戦時中、タレを“疎開”させていたくらい、お店にとっては命なんです。ただ、ヒントやアドバイスはいただけます(笑)。独立する際にいただいたタレに、自分なりにアレンジしたタレを注ぎ足しながら作っています」(近間さん)

 

やはりハズせない「ひつまぶし」

蓬春のメニューの中でも、やはり圧巻は「ひつまぶし」(3,200円)。

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おひつに入ったご飯の上にギッシリと敷き詰められた鰻をご飯とともに茶碗によそって、まずはそのまま。鰻を細かく刻んでも香ばしい風味は変わらず。

う~ん、やっぱりうまいなぁ。

 

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念のために、ひつまぶしの食べ方をおさらいしておこう。

まず、一杯目はそのまま。焼き加減など鰻そのものの味やタレの味付け、ご飯との一体感を堪能しよう。

 

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二杯目は、ネギやワサビ、海苔などの薬味をのせて。

そのままたべるよりも口当たりがさっぱりとするから不思議。私はこの食べ方がいちばん好き。考案した「あつた蓬莱軒」は本当にスゴイと思う。

 

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三杯目は、熱々のだし汁をかけてお茶漬け風に。

鰻の香ばしさとダシの味と香りが相まって、これもめちゃくちゃうまい! きっと、この食べ方が一番という方も多いだろう。

 

「お客様が『おいしかった!』と、笑顔で帰っていただければと思って、毎日鰻を焼いています。ひつまぶしの食べ方は、一応決まりはあるものの、お好きなように召し上がっていただければイイんです」と、近間さん。

味もさることながら、客をおもてなす心もしっかりと名店から受け継いでいる。

 

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お店情報

うなぎ 蓬春

住所:愛知県北名古屋市九之坪宮浦76-1
電話番号:0568-68-6004
営業時間:11:30~14:30(LO 13:30)、17:00~21:30(LO 20:30)
定休日:水曜日

 

名物は「肝入り上ひつまぶし」

もう1軒ぜひ紹介したいのが、2018年1月、地下鉄東山線ほか伏見駅6番出口すぐの御園座タワー1階にオープンした「鰻う おか冨士」

 

こちらは市内昭和区白金にある「うな富士」初ののれん分け店舗だ。「うな富士」は、名古屋の食通たちの間で知らない人はいない名店中の名店。しかも、創業は1995年(平成7年)と、老舗鰻店が多い名古屋においては比較的新しい。

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「うな富士」の創業者、水野尚樹さんは、製粉会社で主に養殖鰻の飼料を研究、開発をしていた。同時に鰻のタレの糖度と塩分濃度を分析し、名古屋で好まれる味のデータ化にも取り組んでいた。三河一色や浜松などの養鰻場では、水野さんの仕事ぶりや熱心さは有名だった。

水野さんは30代で納得する味を完成させて、50歳のときに満を持してお店を開いた。瞬く間に評判となり、平日でも開店と同時に満席になるほどの盛況ぶり。週末ともなれば、お店の前に設置された日除けのテントの中で多くのお客さんが席が空くのをひたすら待っていた。そんな様子を目の当たりにして諦めて帰って行くお客さんも多い。

地元在住の私に言わせると、暑さ厳しい土用丑の日に行くのは、無謀そのもの(笑)。それなりの覚悟が必要なのである。

 

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▲「うな富士」創業者の水野尚樹さん(左)と、かぶらやグループ代表の岡田憲征さん(右)

 

「鰻う おか冨士」の経営母体は、市内に居酒屋さんや中華、寿司、ステーキハウスなど全18業態の飲食店を手がけるかぶらやグループ。代表の岡田憲征さんは、15年ほど前から鰻業界への参入を考えてはいたものの、なかなかできずにいた。

「私自身が納得できる、本当においしいお店で修業がしたいと思っていました。とくに『うな富士』の鰻に魅了されて、鰻のことを教えてほしいと水野さんに直談判しました」と、岡田さん。

素人が気軽に参入できるような世界ではないことを誰よりも知っているだけに水野さんはその申し入れを一蹴。しかし、岡田さんは諦めきれず、社員を養鰻業者のもとへ送り込み、鰻について一から学んだ。そんな岡田さんの鰻に対する情熱が伝わったのか、水野さんはお店での修業を受け入れた。

 

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現在、料理長を務める久國浩一さん(写真上)は、養鰻業で1年間働いた後、2年間「うな富士」で修業を積んだ。

期間こそ短いと思われるかもしれないが、修業で肝心なのは時間ではなく密度である。何よりも、水野さんから技量を認められたからこそ、料理長として焼き場に立っているのだ。

彼の腕には“根性焼き”のような痕が無数にある。聞いてみると、鰻を焼く際に脂が飛んでヤケドを負ったのだという。修業の過酷さが伝わってくる。

 

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さて、ここの名物は、大きな肝焼きをたっぷりのせた「肝入り上ひつまぶし」(5,450円)。

当たり前の話だが、肝は鰻一匹に付き一個しかとれない。そのため、このメニューは数量限定。しかも、すぐに売り切れてしまうので、注文時に確認が必要だ。

また、肝焼きのサイズから鰻の大きさも想像がつく。ひつまぶしには大ぶりで肉厚な鰻がまるごと一匹使っているそうだ。

 

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「『うな富士』と同様に、鰻の全収穫量の約2割しか獲れない“青ウナギ”を使っています。その名の通り、真っ青な色をしていて、肉付きがよくてやらわかいのが特徴です」(岡田さん)

 

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肝焼きと細かく刻んだ鰻を一緒に口へ運んでみる。

うわぁっ! 肝焼きの濃厚なうま味と肉厚な鰻のフワフワの食感、香ばしさが一つに。

これは鰻好きにはたまらない!

特筆すべきは、やはり甘さと辛さのバランスが絶妙なタレだ。これが鰻と肝焼き、ご飯を見事なまでに一体化させている。「うな富士」の味とまったく遜色がない。

 

「うな富士出身のお店はたくさんありますが、水野さんが研究を重ねて完成させたタレは門外不出。同じタレを使っているのは、のれん分け店であるウチだけなんです。ありがたいことです」(岡田さん)

 

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薬味をのせたり、だし汁をかけてもおいしい。それは、ひつまぶしそのものの完成度が高いからにほかならない。

今年4月、水野さんは「うな富士」の経営権をかぶらやグループに譲った。水野さんは相談役として、後進の指導にあたるという。水野さんは7~8年前から女将さんが膝を悪くしたことをきっかけに引退を考えていたのだが、後継者がいなかったために悩んでいた。そんな折に岡田さんとの出会いがあったのだ。

「水野さんから事業継承の話をいただいたとき、かつて私の両親が広島で営んでいた食堂のことを思いました。中華そばが名物でしたが、両親も高齢になったため、10年ほど前、お客さんたちに惜しまれながら廃業しました。帰郷したとき、多くの方から『あの味が忘れられない』と言われて心が痛みました。これと同じように『うな富士』の味を絶対になくしてはならないと強く思いました。『うな富士』と『鰻う おか冨士』の両店が今後100年、200年と続くために全力を尽くしていきます」(岡田さん)

 

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お店情報

鰻う おか冨士

住所:愛知名古屋市中区栄1-6-15 御園座タワー1階
電話番号:052-211-3988
営業時間:11:00~14:00、17:00~22:00
定休日:月曜日 ※月曜が祝日の場合は営業
ウェブサイト:http://tps://unagi-okafuji.com/

 

今回、名店ののれん分け店2軒を紹介したが、両店とも将来は行列必至のお店になるのは間違いない。

ちなみに今年2018年の土用丑の日は、7月20日(金)と8月1日(水)。さすがに本店よりは混雑が少ないかもしれないが、一年でもかき入れ時なので時間に余裕をもって行くのがベターだ。

 

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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