名古屋の「台湾ラーメン」は台湾でどこまで受け入れられるのか 〜あるラーメン店主の海外挑戦〜

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ニンニクや唐辛子でピリ辛の味付けをしたミンチやニラをのせた「台湾ラーメン」。1971年頃に名古屋市内の台湾料理店から生まれた創作メニューだ。だから、台湾の名を冠していても、台湾にはない。

 

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期間限定メニューとして提供しているお店や、台湾ラーメンならぬ「名古屋ラーメン」という名で出しているお店もあるようだが、いずれも台湾では定着していない。

そんな中、台湾ラーメンを引っさげて台湾の首都・台北に出店したラーメン店がある。愛知県刈谷市にある繁盛店「半熟堂」がそれだ。

 

代々受け継ぐソウルフード「北京飯」

台湾ラーメンを、台湾へ ──

 

誰しも思いつくことはあれど、誰もなし遂げなかったこの無謀な挑戦。そもそも台湾進出のきっかけはなんだったのか。

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答えてくださったのは、「半熟堂」店主の杉浦正崇さんだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:きっかけは台湾ラーメンではなく「北京飯」だったんですけどね。台湾ではご飯の上に大きな肉をのせたお弁当を食べている人をよく見かけるんです。テイクアウトすることも考えて、ウチの北京飯で勝負してみようと台湾への出店を決めました。

 

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ん、北京飯?

北京飯といえば、以前に『メシ通』でも紹介した、愛知県安城市のソウルフード。醤油と砂糖がベースの甘辛いタレで味付けしたトロトロの玉子丼に豚肉の唐揚げをのせた丼モノである。

www.hotpepper.jp

 

実は発祥のお店であるJR三河安城駅前の「北京本店」は、杉浦さんの実家なのだ。お店は弟が継ぎ、杉浦さんは刈谷市に「半熟堂」と岡崎市、安城市に「つけめん舎 一輝」を営んでいる。

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「半熟堂」は、発祥のお店「北京本店」と同じレシピで作る北京飯と「つけめん舎 一輝」で培った技術を余すことなく発揮したラーメンの二枚看板。いわば、杉浦さんの料理人としての集大成ともいえるお店だ。

「北京飯」に台湾の人がどのような反応を示すのか。それをどうしても自分の目で確かめたくなり、台北へ向かった。

 

意外! 台湾人には辛すぎる台湾ラーメン

MRT(台北市の地下鉄)忠孝復興駅を出て、歩くこと数分……。

あった。

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ここだ。確かに、半熟堂がある。

「半熟堂 台湾台北店」は、この日はたまたま杉浦さんもお店へ来ていて、台湾人スタッフたちに調理や接客を指導していた。お店はまだプレオープン中だったため、提供できるメニューは限られていたものの、名物の北京飯は用意できるとのことだった。

ところが、メニューに北京飯の文字が見当たらない。実は台湾と中国の微妙な関係から北京飯という名称が使えず、店名を冠した「半熟飯」にしたという。

 

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これが「半熟飯」(160元=約610円)。

玉子のとろみ加減やサクサク食感の豚肉の唐揚げ、甘辛いタレの味の何もかも「北京本店」と同じだった。ほかのテーブルには家族連れで来店している台湾人が半熟飯やラーメンをおいしそうに頬張る姿もあった。

遠い異国の地で地元の味が楽しめたことにしみじみと感動したが、杉浦さんはどこか浮かない表情をしている。聞いてみると、日本人と台湾人の味覚の違いについて悩んでいるという。

 

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▲現地スタッフに囲まれる杉浦さん

 

f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:かなり予想外だったんですが、ウチの北京飯は、台湾人にとっては辛すぎるんです。台北には日本のラーメン店が数多く出店していますが、その大半は日本人が食べておいしいと感じるギリギリまでスープを薄味にしています。しかし、それをしてしまうと、北京飯をわざわざ台湾まで持ってきた意味があるのかと。10月29日のグランドオープンまでには結論を出しますよ。

 

これは驚きだった。てっきり現地ではより辛めの味つけが好まれると踏んでいたからだ。

本来の味で勝負することしか頭になかった杉浦さんだけに、ここにきて明らかに壁にぶつかっているように見えた。

 

ローカライズはしない

杉浦さんから連絡があったのは、オープンの10日前。刈谷市の「半熟堂」へ足を運んでみると、台北店で提供するメニューの最終的な試作を行っていた。

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f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:台湾ではラーメンに限らず、東京博多札幌大阪京都という地名が付いたお店がはやっているんです。台湾人が日本でよく訪れる街の名前そのものがブランドになっているので、台湾人経営のラーメン店でも博多ラーメンと名乗っていたり(苦笑)。だから、ウチは愛知を全面に出していきます。台湾人が抱く愛知県や名古屋市のイメージは、やはり自動車産業で、おいしいものがあることを知りません。だからこそ、やる価値があるのかと。もちろん、台湾人向けに味を薄くしたりもしません。ウチの味を楽しんでもらってこそ、出店する意義もあるので。

 

祖父の代から味を受け継いできた意地だろうか。そこには、腹をくくった職人の姿があった。

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これは今、「半熟堂 台湾台北店」で提供されている「半熟飯」(170元=約650円)。味付けは同じだが、小松菜が添えられている。台湾人は日本人以上に健康志向で、ほんの少しでも野菜を入れた方が好まれるという。

 

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台湾で愛知県のイメージを定着させるために杉浦さんが着目したのは、地元で盛んな醸造文化から生まれた白醤油やたまり醤油、味噌。愛知県碧南市の白醤油メーカー、日東醸造の白醤油を使った「半熟名古屋まぜそば」(300元=約1140円)もメニューにくわえた。

 

お客さんの大半は台湾ラーメン目当てだった

そして、アノ名古屋めしも、現地向けにカスタマイズするのではなく、そのままの味で勝負するという。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:名古屋のラーメン文化を語るには欠かせない台湾ラーメンも出します。名古屋の台湾ラーメンも、名古屋で始まった当初は辛すぎて受け入れられなかったと聞いています。しかし、何度か食べるうちに辛さの奥にあるおいしさにハマっていくのが台湾ラーメンの魅力です。必ず台湾でも定着すると確信しています。

 

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これが「台湾ラーメン」(220元=約840円)。

ちまたには、ただ単に既存の醤油ラーメンの上に台湾ミンチやニラをのせただけの台湾ラーメンも多いが、これは完全に一線を画する。杉浦さんが修業先で教わった台湾ラーメンをベースに一からレシピを考案。最大の特徴は、豚骨と鶏ガラのスープで唐辛子やニンニクを煮込むことで辛みをアップさせていることだ。

 

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しかも、台湾ラーメンの知名度を上げようと、グランドオープン初日はナント100食限定で10元(=約40円)で提供するという。

 

帰国後、台湾での反響を聞いてみた。

 

f:id:Meshi2_IB:20181222150328p:plain杉浦さん:台湾人経営のラーメンがだいたい100元(=約380円)くらいですから、10元というのがいかに安いかわかるでしょう。初日に訪れたお客さんはほぼ全員、台湾ラーメン目当てでしたね(笑)。中には一度に2杯注文する方も……(苦笑)。辛さは選べるのですが、「もっと辛くても大丈夫」というお客さんもいて安心しました。肝心なのは、台湾ラーメンとは、半熟飯とはこういうものだ、というプロモーションを徹底することではないかと思っています。

 

これを聞いて、日々名古屋めしをリポートしている私も安堵(あんど)感に包まれた。台湾ラーメンは台湾でも通用したこと以上に、杉浦さんの味が現地で受け入れられたことが何よりうれしかった。

 

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半熟飯も「今まで食べたことのない味!」と評判は上々で、大口のテイクアウト注文が入ったこともあるという。

今後は愛知県のたまり醤油や味噌を使ったメニューを投入していくのだとか。同じ愛知県民としてこの上ないエールを送りたい。

 

お店情報

半熟堂

住所:愛知県刈谷市桜町1-46
電話番号:0566-91-0638
営業時間:11:30~14:00、18:00~23:00(金曜日・土曜日は~24:00)※スープがなくなり次第終了
定休日:日曜日

www.hotpepper.jp

 

半熟堂 台湾

住所:No. 32號, Lane 190, Section 1, Dunhua South Road, Da’an District, Taipei City, 台湾 106
電話番号:+886 2 2776 6665
営業時間:11:30~14:00、17:30~20:30(金曜日・土曜日は~21:00)
定休日:月曜日
Facebook:https://www.facebook.com/Hanjukudo/

 

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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