「世界の山ちゃん」が飲茶の新業態「世界のやむちゃん」で新規参入。その驚きの理由と練り上げられた戦略とは?

手羽先で超有名なチェーン居酒屋店が、ナゼまるで異ジャンルの飲茶に進出を? 担当者にそんなギモンをぶつけてみると、そこには大いなる野心と確かな勝算がありました。

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「世界のやむちゃん」

この店名を聞いたとき、名古屋のみならず今や全国にその名をとどろかす手羽先の大型チェーン「世界の山ちゃん」をどこかのお店がパクった、もとい、オマージュでつけたのだろうと思った。

実は「やむちゃん」は「山ちゃん」の系列店。壮大な冗談ではない。その事実を知ってまたまた驚いた。

 

「私たちが狙っていたのは、まさにそのリアクションなんです!」

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そう話すのは、「世界の山ちゃん」を手がける株式会社エスワイフード・業態開発部副部長の堺和也さん(写真)だ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:店名を聞いて「おや?」と、思ったらまずネットで検索しますよね。そして、当店のウェブサイトにたどり着く、と。そういう想定のもとでお店のネーミングを考えました。

yamchansakae.owst.jp

 

やむちゃんは、その店名からでもわかるように、扱うのは飲茶。なぜ、まったく異なるジャンルの業態を手がけようと思ったのか。堺さんに話をうかがうとともに新業態店の全容をレポートする。

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▲「世界のやむちゃん」はビルの2階。階段を上ると「世界の山ちゃん」のキャラクター“鳥男”がお出迎え

 

悲願だった別業態の出店

山ちゃんの別業態は、栄・女子大小路と最近鶴舞にもオープンした「ら~めん やどかり屋」とフランチャイズで別のラーメン店、さらにカフェレストランの計4店舗。

国内外に78店舗展開する山ちゃんにしては決して多い方ではない。

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▲2019年1月にオープンした「ら~めん やどかり屋 鶴舞店」(エスワイフード提供)

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:弊社の山本重雄前会長もかつては女性専用のバーや海鮮居酒屋店を手がけたこともありましたが、長くは続きませんでした。新業態店を出すことは山本前会長の悲願でもあったんです。

 

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▲山本重雄前会長(エスワイフード提供)

 

山本重雄前会長は、2016年8月に59歳の若さで亡くなった。今はその意志を継いだ妻の久美氏が代表取締役として手腕を振るっている。

 

「女性向けカジュアルな飲茶」という未開拓の市場

一方、堺さんがエスワイフードに入社したのは昨年6月。それまで別の会社で店舗開発の仕事をしていて、新業態店のためにヘッドハンティングされたという。つまり、半年でゼロから「世界のやむちゃん」を立ち上げたということになる。

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f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:まず、新業態を考えるにあたって、山ちゃんにこれまで来店されたことがないお客様、つまり、おもに女性をターゲットにしようと思いました。名前は知っていても、一度も来られたことがないという方は意外と多いんです。

 

女性が足を運びたくなるお店をと考えてみると、名古屋にも飲茶や点心のお店はたくさんある。しかし、その多くは高級志向。それこそ山ちゃんのように居酒屋感覚で気軽に行けるお店は少ない。ここに攻め入るべきマーケットがあると確信。本格的な飲茶をリーズナブルに楽しめることをコンセプトの一つとした。

 

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▲「世界のやむちゃん」のメニュー。点心は1個68円~とお値打ち価格

 

とはいえ、飲茶に関してはまったくの素人。小籠包ひとつ作ろうにも作り方を教えてくれる人がいなかった。だったら本場へ行ってみるしかない。堺さんはメニュー開発のスタッフとともに台湾へ行き、現地の点心を食べ歩いた。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:私自身、中華料理は15年ほど前にマネージャーとして働いた程度でまったくわかりませんでした。だから、自分が実際に食べてみて、おいしいと思ったお店の味を再現しようと。幸いにも台湾にも「世界の山ちゃん」はありますから、現地スタッフにも協力してもらい、一つ一つ作り上げました。

 

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▲「世界のやむちゃん」店内。ほどよい中華感!

 

店内は、台湾の路地裏をイメージ。壁や床もわざと汚してあり、インテリアもガーデン用のテーブルやチェアを使用していて、まさに本場の屋台の雰囲気だ。カメラを店内のどこに向けても「絵」になるので、SNSをも意識してのことかもしれない。

それと、店内には日本語が書かれたポップやポスターが1枚もないことに気がついた。これもリアルを追求してこのことだろう。

 

名付け親は中学生!?

新業態店は飲茶に決定したものの、店名の“やむちゃん”はまだ決まっていなかった。命名したのは、意外な人物だった。しかも、それは偶然に生まれた。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:弊社の代表が中学生の娘さんと話しているときに、「山ちゃんが飲茶のお店をやるなら、やむちゃんでいいじゃん」と。それがきっかけとなって店名が「世界のやむちゃん」に決まりました。私自身、そのエピソードを聞いて、体に電気が走りましたね(笑)。もう8割は成功したと確信しました。

 

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▲誰もが「おやっ?」と思うネーミングじゃないと、この時代なかなか覚えてもらえない

 

8割は成功したと感じても、残り2割で手を抜くと足元をすくわれる。そこで、いかにお客さんが足を運びたくなる仕掛けを作るかに神経を注いだ。

堺さんが着目したのは、よくありがちな飲茶専門店の点心は3~5個売りで、たくさんの種類を選べない点。ここに改善点を見い出し自社メニューに反映させた。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:日本中探しましたが、点心の1個売りをしているお店はなかったんですよね。ここに勝機があるんじゃないかと。

 

実際、やむちゃんのメニューを見ると、点心は全部で41種類もあり、1個から注文できる。つまり、数多くの中から選ぶ楽しさがあるのだ。

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▲手前の列左から右へ「巾着小籠包」(208円)、「珍珠丸子」(158円)、「うさぎ饅頭」(168円)。真ん中の列左から右へ「錦糸焼売」(148円)、「翡翠餃子」(168円)、「蟹肉焼売」(228円)。いちばん奥の列左から右へ「紅色ココナッツ団子」(148円)、「黄金饅頭」(228円)、「もち米焼売」(138円)

 

さらに1個ずつ「枡(ます)」に入っている点にも注目してもらいたい。いかにも女性ウケしそうな見栄えではないか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:インスタ映えする器を探していたときに、打ち合わせ先でたまたま酒枡が置いてあったのを見つけたんですよ。底の部分に穴を開けたら、せいろの代わりになるのではと思ったんです。ただし、枡を作る職人さんはせいろとして使用することを想定していませんから、枡の厚みや高さ、使用する塗料などをテストしてはまた作って、の繰り返しでした。すべて完全オーダーメイドです。

 

“映え度”満点な飲茶メニュー

では、数ある点心の中でも評判のメニューを紹介しよう。

まずは、コンニャクの粉末でできた皮で包んだ「巾着小籠包」(写真下、208円)。弾力があって破れにくいので、通常の小籠包よりも肉汁を閉じ込めることができる。

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▲かなり熱々なのでヤケドに注意!

 

こちらは、「もち米焼売」(写真下、138円)。五目おこわを包んだ、焼売とちまきの中間にある一品。

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▲蒸し上げた餅米のもっちりとした食感と味付けのバランスが絶妙。2個、3個と注文したくなる

 

デザート系の点心では、フォンダンショコラを中華スイーツ風にアレンジした「黄金饅頭」(写真下、228円)がオススメ。

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▲頬張ると、チョコレートではなく、黄金ソース(カスタード)が飛び出す。彩り的にも思い切りインスタ映えしそうだ

 

餃子には「山ちゃん」のスパイスが

新業態店ゆえに、山ちゃんらしさはかなり薄めてあるのかと思いきや、そうではない。山ちゃんの看板メニューである「幻の手羽先」の、“幻”の名を冠したメニューが存在するのだ。それが「幻の名古屋餃子」(写真下、348円)。

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豚肉ではなく、鶏肉を使った餃子なのだが、食べてみると、山ちゃんの手羽先の味そのもの。男性にもおすすめの一品である。

 

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ご覧の通り、皿には山ちゃんの秘伝のスパイスがかけられていて、その上に餃子をのせている。

 

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これがジューシーな鶏肉のあんを見事なまでに引き立てているのだ。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:いやぁ、本当にこのメニューは苦労しました。あんにスパイスを混ぜたり、皮にスパイスを練り込んだりしましたが、熱が加わると風味が飛んでしまうんです。でも、考えてみれば、手羽先も揚げた後でスパイスを振りかけているわけですから、最初からこうすればよかったんですけど(笑)。

 

筆者がお店へ行ったのは、午後2時。にもかかわらず、店内は満員だった。それも9割以上は女性客。オープン前に堺さんが思い描いていた光景がそこにはあったのである。

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▲メニューの表紙には「世界的飲茶」。つまり、訳すと「世界のやむちゃん」……。どこまでもシャレが効いている。ちなみにメニューは持ち帰り可能

 

新業態もまずまずのスタートを切った「世界のやむちゃん」。果たして今後、どのような展開になっていくのだろうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190228183725p:plain堺さん:「世界の山ちゃん」は、いまや東京大阪にもありますから、名古屋以外の都市に出店したいですね。そして、いずれは飲茶の本場、台湾にも逆輸入という形で進出できたらと思っています。

 

東京大阪でも山ちゃんの知名度はすこぶる高く、かつての名古屋めしのお店というある種特殊なジャンルの(?)お店ではなく、リーズナブルでうまい居酒屋店チェーンとして認知されている。

また、海外のタイや台湾でもその名をとどろかせているだけに、他の都市や海外への進出はそんなに遠い夢ではないと思う。夢の「飲茶逆輸入」なるか?

 

店舗情報

世界のやむちゃん

住所:愛知名古屋市中区栄3-12-21-2 寿子ビル2F
電話:052-265-7538
営業時間:11:30~23:00 (料理LO 22:30 、ドリンクLO 22:30)
定休日:年末年始(12/31~1/3)

www.hotpepper.jp

 

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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