豚唐onふわトロ玉子の「北京飯」にインスパイア系が存在したとは!

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愛知県安城市民が愛してやまない北京飯(ぺきんはん)。ご飯の上にトロトロの玉子と豚肉の唐揚げがドーンとのる安城市のソウルフードである。

このメニューを考案したのは、新幹線三河安城駅の近くにある「中国料理 北京本店」。以前に『メシ通』でも紹介したことがあるが、北京飯について軽くおさらいをしておこう。

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▲これが北京本店が誇る「北京飯」(600円)!

 

北京飯が誕生したのは、半世紀以上も前。「北京本店」の創業者で現・店主の杉浦充俊さんの祖父がまかないの玉子料理を作ろうとしたところ、誤って別のタレを玉子の上にこぼしてしまった。捨てるのももったいないと思い、食べてみたところ美味しく、それが北京飯のヒントになったという。

 

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北京飯の特徴は、大きく分けて2点。まずは、醤油と砂糖をベースとした専用のタレで味付けした、ふわふわトロトロの玉子。中華鍋で手早く調理するのだが、秒単位でとろみ加減が変わってくるので、タイミングが重要なのだ。

 

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ご飯の上にふわトロ玉子をのせただけでも十分に旨いのに、豚肉、それもやわらかくて脂の少ない内モモ肉の唐揚げをのせる。食感を良くするために、衣には小麦粉ではなく片栗粉をまぶして揚げている。ふわトロの玉子とともに、この「豚肉の唐揚げ」も北京飯の特徴だ。

 

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北京飯が食べられるのは、発祥の店「北京本店」の他にもう1店ある。杉浦充俊さんの兄、正崇さんが刈谷市で営むラーメン店「半熟堂」でも定番人気となっているのだ。

さらに、一昨年の10月には、看板メニューである北京飯と台湾ラーメンを引っ提げて台湾・台北に「半熟堂 台湾台北店」をオープンさせたことは『メシ通』でも紹介した。

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つまり、北京飯の味を正統に受け継いでいるのは、杉浦兄弟ということになる。

ところが、安城市には名前こそ北京飯ではないものの、ご飯の上にふわトロ玉子と豚肉の唐揚げをのせたメニューを出すお店があるという。

そう、いわば「北京飯インスパイア系」。

しかも、地元のお客さんを中心に根強い人気を誇り、「メジャーになりすぎた北京飯よりも、むしろオレはコッチの方が好き!」というインディーズ系バンドの追っかけのような熱烈なファンも多いとか。

 

その名も「支那飯」

そんなわけで、今回はインスパイア系を紹介してみたい。

まず、訪れたのは、JR安城駅前の商店街にある「八宝亭」

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▲この昭和の香りがする町中華に、知る人ぞ知る北京飯インスパイア系があるというのか

 

お店は、店主の岩月憲男さんと奥様の千恵子さんが夫婦二人三脚で切り盛りしている。憲男さんは名古屋市や蒲郡市、大府市の中華料理店で修業した後、1970(昭和45)年に「八宝亭」を開店。来年で50年目を迎える老舗だ。

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「ウチでは『支那飯』っていうんだけどね」と憲男さん。

中国の首都である北京に対して、支那とは何ともダイナミック(笑)。スパゲティーナポリタンに対する名古屋のイタリアンスパゲティーに近いネーミングセンスにちょっと面食らったが、何はともあれまずは作っていただくことに。

 

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味のベースとなるのは、他のメニューにも使用する甘酢。これに醤油と塩、コショウを加える。北京飯はご飯がすすみまくりの絶妙な甘辛さ加減が際立っているが、支那飯はどんな味がするんだろう? まったく想像がつかない。

 

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唐揚げに使う豚肉は、肩ロースを使用。北京飯は内モモ肉を使用した淡泊な味わいだが、肩ロースに少しだけ入る脂身が味にどのような影響をもたらすのか? とても興味深い。ちなみに唐揚げは北京飯と同様に3個のっかる。

 

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豚肉を玉子にくぐらせて唐揚げ粉をまぶした後、油でカリッと揚げる。その傍らで玉子の調理に取りかかる。

 

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タレと玉子を軽く混ぜ合わせた後、北京飯には入らないカマボコを投入。

ん?  これって……ほとんど玉子丼ではないか!?

ますますわからなくなってきた。そして、中華鍋で手際よくふわトロに仕上げていく。

 

玉子オン・ザ・豚唐の理由は……

そしてあっという間に完成。

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これが「支那飯」。値段は驚きの550円!

見ての通り、玉子丼のようにカマボコが入っていることと、豚肉の唐揚げが玉子の下に隠れているのが最大の特徴だ。

「北京飯」とは逆の順番だが、これはこれでかなり食欲をそそられる……。

 

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玉子の下に隠れた豚肉の唐揚げを引っ張り出して、ご飯とともにいただく。

うん、旨い!

たれの味付けは、甘さ控えめ。中華鍋でしっかりと火を通しているからなのか、甘酢の酸味はほとんど感じられない。その分、コクが増している。また、ふわトロの中にあるカマボコの食感も心地良い。

驚いたのは、豚肉の唐揚げ。上に玉子をのせることでタレが衣に染み込むのである。例えるならば『緑のたぬき』。『どん兵衛』のように衣がサクサクの“後のせ”も旨いが、“先のせ”でシミシミの衣もまた格別なのだ。

憲男さんによると、支那飯は創業当時から出していたという。その理由は簡単明快なものだった。

「もともと私の実家はここで農機具店をやっていて、その隣が『北京本店』だったんだ。私は小学生の頃からアルバイトで出前持ちをしてた。中学生になると、厨房で調理をするようになった。そこで北京飯も作っていたんだよ」

その後、「北京本店」は現在もお店がある三河安城駅前に移転することになり、憲男さんは自分で開いた店舗で「八宝亭」をオープンさせた。支那飯は、当時の北京飯のレシピをそのまま再現しているとのこと。

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「今のレシピは知らないけど、昔はこういう味だった。ただ、唐揚げを玉子の上にのせると、マネしているみたいで嫌だから玉子と唐揚げを逆にしたんだ」

半世紀経っても支那飯の支持は衰えないそうで、「玉子多め」や「玉子固め」、「上だけ(ご飯抜き)」など、自分好みの味をリクエストする常連客もいるそうだ。

現在、ご主人の憲男さんは御年72歳。いつまでも美味しい支那飯を作り続けていただきたいと願うばかりである。

 

お店情報

八宝亭

住所:愛知県安城市朝日町23-4
電話番号:0566-76-3447
営業時間:11:30~14:30、17:00~21:00
定休日:木曜日

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本家が実食! その感想は……

続いて向かったのは、安城市東新町にある「味覚亭」。ここには店名を冠した「味覚飯」という北京飯インスパイア系メニューがあるという。

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ところが! 先日、テレビの取材が入り、放映直後は多くのお客さんが押し寄せて店内は大パニックになってしまったそうで、取材はNG。それでも何とかお願いできないかと交渉した結果、撮影した写真と食レポの掲載許可をいただくことができた。

 

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店内に入って、まずはメニューをチェック。味覚飯は……あった!

ん? 「味覚飯・肉」(670円)とある。これは豚の唐揚げがのっかることを意味していて、ほかにエビの天ぷらがのる「味覚飯・エビ」(720円)もあるそうだ。

ここは北京飯と味を比べてみたいので「味覚飯・肉」を注文することに。

 

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そして、目の前に運ばれたのがこれ。豚肉の唐揚げは食べやすいようにカットされている。

おや? 唐揚げの衣がドライではなくウェット……。と、いうことは、“後のせ”ではなく、玉子を調理する際に軽く煮込んであるようだ。北京飯との見た目の違いはそれくらいか。

いちばん肝心なのは味だ。では、いただきます!

……と、その前にスペシャルゲストを紹介しよう。刈谷「半熟堂」の店主、杉浦正崇さん。そう、北京飯伝承者の一人であり、「北京本店」の長兄、いわばラオウ的な存在。彼に食べてもらい、感想を聞いてみたかったのである。

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「えっ!?  感想? っていうか、実はときどき食べに来てるんですよ。『味覚飯』、旨いですもん。それに、ここの二代目と僕は高校時代の同級生なんです。お互いにお店を継ぐということで、一緒にラーメンを食べ歩いたりもしていました」と、杉浦さん。

 

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では、実際に食べてみよう。おっ、北京飯よりもやや甘みが強い。全体的に味が濃いような気がする。でも、しつこさはなく、まったりとした甘さ。思わず、ご飯を掻き込みたくなる。玉子のとろみ加減も完璧だ。

 

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やはり、豚肉の唐揚げはタレがシミシミ。しかも、内モモ肉や肩ロースではなく、バラ肉を使っている。それだけに油とタレの甘みが相まってめちゃくちゃ旨い。これが北京飯でも支那飯でも味わえない味覚飯ならではの特徴だろう。

「『味覚飯』の方がガツンとくるジャンクな味わいなんですよね。僕もたまに無性に食べたくなります(笑)」と、杉浦さんも太鼓判を押す。

 

お店情報

味覚亭

住所:愛知県安城市東新町8-2
電話番号:0566-76-6655
営業時間:11:00~15:00、17:00~20:00
定休日:水曜日

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今回は「北京本店」がある安城市で北京飯インスパイア系を調査したが、安城市の隣にある岡崎市や西尾市、半田市にもあるらしい。

この状況をもう一人の北京飯伝承者、杉浦充俊さんは果たしてどう思っているのだろうか?

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「どんどんやればイイと思いますよ。安城に来たら、ウチに限らず玉子の上に何かをのせた丼ものが食べられるという観光プロモーションができたら面白いですよね」とのこと。

さすがは元祖、肝が据わっている。

この際、安城市を中心に周辺の市町村も巻き込んで、北京飯っぽいメニューの頂上決戦「P-1グランプリ」を開催してみてはいかがだろう。盛り上がること必至だ。

 

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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