今やハンバーガーは「コース料理のメインディッシュ」にまで上り詰めていた

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安価で手軽に食べられる“ファストフード”から始まった日本のハンバーガーの歴史。2000年代に入ると“グルメバーガー”という言葉が生まれ、高価格のハンバーガーを肉料理として楽しむことも食事の選択肢として一般的になってきました。

そうして時代とともに進化を遂げてきたハンバーガーは、ついに“コース料理のメインディッシュ”の座に就くまでに至ったのです。

 

今回ご紹介するお店は、ハンバーガーをメインディッシュとした「ハンバーガーコース」がある、日本で唯一のお店です(筆者調べ)。

 

ハンバーガーコースは月替わり

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名古屋市東区泉。閑静な住宅街の一角にあるのが、今回訪れた「JACK’s KITCHEN (ジャックスキッチン)」。

ハンバーガーショップだと思って扉を開けると、店内の雰囲気に驚かされます。

 

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中央には真っ白で清潔感のあるカウンター。テーブルには美しくセッティングされたショープレート、ナプキン、カトラリー、グラス。椅子も普通のハンバーガーショップよりワングレード高く、ふかふかの座面と背もたれが体を優しく包み込んでくれるよう。まさに「ハンバーガーレストラン」という言葉が似合います。

 

それでは早速、JACK’s KITCHENのコースをいただきましょう。予約専用のハンバーガーコースは毎月料理の内容が替わります。今回は6月のコースを頂きました。

 

まずは前菜、「サーモンのマリネ」。

 

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涼しげなガラスのお皿にのったサーモン。そしてフレッシュな野菜。さっぱりしたドレッシングが合います。

 

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ハンバーガーという肉料理を食べにきたはずが、最初に出てくるのが魚料理とは。なんだか不思議な感覚です。

 

続いて出てきたのは、じゃがいもの冷たいスープ「ヴィシソワーズ」。

 

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高級レストランに来たのかと一瞬錯覚してしまうその美しい見た目に、滑らかな舌触り、じゃがいもの濃厚な風味。冷たいスープが心地よく喉を潤してくれます。

 

そして、いよいよメインディッシュのハンバーガーが登場。

 

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▲ジャックスバーガー (2,500円  ※その他のコース料理を含む)

 

数種類のハンバーガーの中から今回オーダーしたのは「ジャックスバーガー」。ピックを刺さずともスラっと立つその姿。赤、緑、茶色と色鮮やかな見た目。そして香ばしい肉の香り。実に美しいハンバーガーです。

 

ハンバーガーの横に添えられているのは、よくあるフライドポテトではなく「そら豆のリコッタチーズ和え」。こちらのサイドディッシュも月によって変わるのだそう。

 

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▲JACK’s KITCHENで提供されるすべてのハンバーガーにはナンバリングがなされている。筆者が頂いたのはオープンから26,065個目のハンバーガー

 

店名を冠し、JACK’s KITCHENのシグネチャーメニューでもあるこの「ジャックスバーガー」。パティ、チェダーチーズ、グリルしたバナナ、自家製ピーナッツバター、レタス、トマトを特製バンズでサンドしています。

 

1枚115gのパティは、オーストラリア産ビーフを使用した「ハンドチョップパティ」。ハンドチョップとは、食べやすい大きさに手切りでカットした塊肉を挽肉で繋ぐ技法で、東京のグルメバーガー専門店から火がつき、今グルメバーガー界では新たなトレンドとなりつつあります。

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いざ口に入れると、じわっと溢れる肉汁と同時に、濃厚な肉の旨みが口いっぱいに広がります。所々で手切りの塊肉が「ゴリッ」とした食感を楽しませてくれる、まるでステーキにかぶりついているような食べ応えながら、肉の塊の一粒一粒がスッと歯で噛み切れるほどの柔らかさ。

赤身中心のため脂分は少なめで、胃に重たさを感じさせません。程よい加減の塩胡椒が、肉の旨みをしっかりと引き立てます。

 

薄くカットされたベーコンも入念に焼きこまれ、ベーコンの旨みが広がるとともにカリッとした食感がいいアクセントに。

 

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バナナは火を入れる事でより甘さが増していますが、それに対してピーナッツバターは塩気があって甘さ控えめ。バナナの甘さにピーナッツバターの塩気とコクが合わさった「甘塩っぱさ」が、驚くほどに肉の旨みとマッチし、あっという間に完食です。

 

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最後のデザート「レモンタルト」は、6月ということで「紫陽花」をイメージした飾り付けに。サクサクと香ばしい生地の中から溢れるのは、甘酸っぱいレモンソース。
コーヒー、紅茶、ハーブティーといったドリンクとともに、ハンバーガーの余韻を噛み締めながらゆったりと食後のひとときを楽しめます。

 

ビジネス街から、路地裏へ

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JACK’s KITCHENがオープンしたのは、2014年2月。店主の牛久保明日香さんは以前、同じ名古屋市内にあった「OX DINER」というアメリカンダイナーで働かれていました。

 

──OX DINERはどのようなお店だったんですか。

 

牛久保さん:名前の通りコテコテのアメリカンダイナーだったのですが、「から揚げ定食」や「さばの味噌煮定食」といったザ・和食なメニューもある、気軽に使える食堂でした。

 

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▲筆者が2012年に撮影したOX DINERの外観。夜になるとネオンサインがきらびやかに光る、まさにアメリカンダイナーといった佇まいだった

 

──OX DINERでもハンバーガーを出していたんですよね。

 

牛久保さん:はい。当時は、ただの合挽きハンバーグを丸いパンに挟んだだけという普通のハンバーガーでしたが、グルメバーガーが徐々に注目されるようになった2012年頃、OX DINERでもハンバーガーをリニューアルしたんです。パティを変えたり、オリジナルのバンズを作ってもらったりと、グルメな方でも楽しめるハンバーガーを目指しました。

 

──リニューアルしたハンバーガーが好評で、ハンバーガーをオーダーするお客さまも次第に増えてきた、ということですね。

 

牛久保さん:ええ、ハンバーガーにはゴールがないから、もっと突き詰めたい。そんな気持ちが強くなっていきました。
ところが、OX DINERの立地は幹線道路沿いのビジネス街。ビジネスマンや通りがかりのお客さんが多く、どうしてもハンバーガー以外の安くてお腹いっぱいになれる料理の方が人気だったんです。
「この場所だとハンバーガーは難しい。じゃあ移転しよう」と決めました。

 

──それで今の場所に移転されたんですね。

 

牛久保さん:私が作るハンバーガーを食べたいと思う人に、見つけていただけるお店にしたかったんです。ならば、幹線道路沿いではなく路地裏の小さなお店がいいと思い、以前とはまったく真逆の物件を探しました。

 

確かに、JACK’s KITCHENがあるのは名古屋駅や栄といった繁華街から離れた、地下鉄桜通線「高岳駅」から徒歩10分の路地裏。そんな非常にわかりにくい場所にも関わらず、休日には行列もできるほど盛況なんです。

 

ハンバーガーは“儚い食べ物”

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──では、どうしてハンバーガーをコース料理にしようと思われたのでしょうか。

 

牛久保さん:きっかけは主人のハンバーガーって儚い食べものだよねって一言だったんです

 

──ハンバーガーは儚い。斬新な表現です(笑)。

 

牛久保さん:ですよね(笑)。でもその一言にすごく納得してしまったんです。「このハンバーガーおいしい!」と思って食べてもすぐになくなっちゃって、お腹もいっぱいになり、食事の時間は終わってしまう。おいしければおいしいほど、儚いものなんですね。

 

──確かに、ハンバーガーって1個でもしっかりボリュームがあるので、それだけで食事は終わってしまいますね。

 

牛久保さん:だから、ハンバーガーをもっと食事として楽しめるものにしたいと考えたんです。前菜から始まって、ハンバーガーを食べて、最後はデザート。そこから、ハンバーガーをコース仕立てで提供するアイデアを思いつきました。

 

──JACK’s KITCHENでは、オープン当初からの「ハンバーガーコース」に加えて、単品のハンバーガーも用意されていました。ところが、今年の1月から「夜はコース料理のみの提供」に絞りましたね

 

牛久保さん:ええ、もちろんびっくりされるお客さまもいらっしゃいます。ハンバーガーを食べに来て「コースしかありません」って言われたら、パニックになっちゃいますよね(笑)。
でも、夜をコースのみにすることで、今まで以上に料理に手間をかけることができるようになりました。それに、長年ハンバーガーコースをやってきた中で、ハンバーガー以外のメニューを楽しみに来てくださるお客さまも多くいらっしゃって。それはとても嬉しいですし、やりがいがあります。

 

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──コース仕立てで提供するにあたって、ハンバーガー以外のメニューはどのように考えられていますか?

 

牛久保さん:実は、そこが一番頭を悩ませるところなんです。メニューを考える時は、まずはじめにシーズナルバーガー(1〜3ヶ月毎に替わるディナー限定バーガー)とフルーツバーガー(月替わり)を決めて、それからハンバーガーに合うコースメニューを考えます。
また、バランスよく栄養が摂れることも考慮していますね。ハンバーガーって、やっぱり栄養が偏っていてジャンクなイメージがあるじゃないですか。そのイメージを変えたくて。出来るだけ色々な食材をバランスよく使って、彩りも大切にしています。

 

──なるほど。だから今回頂いたコースの前菜にも、魚介や生野菜を組み合わせているのですね。

 

牛久保さん:そうですね。ハンバーガーはボリュームがあるので、コース料理は重くなりすぎないように、少量でも満足できたり、見た目も楽しめるものを心がけています。
あとは季節感ですね。例えば、暑い季節には冷たいスープを提供するなど、季節に合ったメニューをとても大切にしています。

 

──最後のデザートまで非常に手が込んでいたのがすごく印象的でした。

 

牛久保さん:デザートには特に力をいれています。私がお客さんだったら、最後のデザートがちょっとしたものだとがっかりしてしまう気がして。手間がしっかりかかったデザートが出てくるとすごくテンションが上がるので、そういったデザートをお客さまにも提供したいと思っています。

 

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▲今回頂いた「レモンタルト」も、紫陽花の花をイメージした飾り付けで季節感を演出した一品。見た目もかわいらしい花びらを模したゼリーは、色付けに天然食材のハーブを使っているため安心して食べられる

 

──今回は予約専用の「季節のディナーコース」を頂きましたが、お腹がいっぱいになるちょうどいい量でした。

 

牛久保さん:ハンバーガーはしっかりボリュームがあるので、あえて品数は抑えています。ちょうどいいボリュームで召し上がって頂けますよ。
もちろん、予約無しでもコースでの提供は可能ですが、ランチメニューのサラダやスープをハンバーガーに組み合わせたものになるので、どうしてもボリュームが多くなってしまいますね。

 

事前に予約してもらえればその分時間も手間もかけられるので、手の込んだ料理を提供することができるのだそう。JACK’s KITCHENのコース料理を楽しむなら、ぜひ予約をしてから伺うのをおすすめします。

 

フルーツに合わせるためのパティ

今回頂いた「ジャックスバーガー」は、パティにバナナとピーナッツバターを合わせた一風変わったハンバーガーです。他にもシーズナルバーガーやフルーツバーガーなど、斬新なハンバーガーを生み出し続けるその理由を聞いてみました。

 

牛久保さん:JACK’s KITCHENがオープンする時に考えたのは、「このお店が好きだという人に通ってもらえるお店にしたい」という事でした。
そのためにどうやってお客様の心を掴むか。そこで考えたコンセプトが「大人が楽しめるハンバーガー」。ハンバーガーを肉料理として捉えて、子どもっぽいハンバーガーのイメージを変えたいと思ったんです。

 

──大人が楽しめるハンバーガーは、ハンバーガーコースにも通じる重要なコンセプトですね。

 

牛久保さん:さらに、どんどん増えるグルメバーガー専門店に埋もれないよう、ここでしか食べられないハンバーガーを考えました。先ほどのコンセプトに加えて、女性にも楽しんでもらいたい。そうして思いついたのが「フルーツ」を使うことでした。

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──パイナップルやリンゴが入ったものはよく見かけますが、そもそもハンバーガーにフルーツって合うのですか?

 

牛久保さん:それがとっても合うんですよ。例えばフランス料理だと、ステーキのソースに何らかのフルーツのエキスが入っています。それならフルーツの果汁や果肉もパティに合うはずだと考えました。

 

──つまりJACK’s KITCHENのパティは「フルーツバーガーのためのパティ」という事ですね。

 

牛久保さん:そうなんです。フルーツがうまく引き立つようにパティを作ったので、意外と何のフルーツにも合いますよ。数あるフルーツの中でも1年を通じて安定して手に入れやすいバナナは、シグネチャーのジャックスバーガーに使っています。

 

──バナナにはどうしてピーナッツバターを合わせたのですか?

 

牛久保さん:ある日雑誌で、エルビス・プレスリーが好きだった「ピーナッツバナナサンド」を見かけたんです。これをハンバーガーに取り入れたらおいしいのではないかと思いつきました。ピーナッツバターの塩っぱさとバナナの独特なフルーティーさがおもしろいので、初めての方はまずは先ほどのジャックスバーガーを召し上がって頂きたいですね。

 

──最後に、今の名古屋エリアのハンバーガーシーンについてどう思われていらっしゃいますか。

 

牛久保さん:オープンした5年前は、ハンバーガーの値段を見て帰ってしまうお客さまもいましたが、今ではそういった方もほぼいなくなりました。それだけ名古屋にもグルメバーガー専門店が増えた証拠だと思います。最近は東京の有名店での修行を経て独立開業する方もいらっしゃり、このエリアでもさらにハンバーガーの世界が広がっていく時期に来たのではないでしょうか。
先日、「ミシュランガイド愛知岐阜三重 2019 特別版」が発表されましたが、残念ながらハンバーガーショップはその中に入っていませんでした。とはいえ、いずれミシュランに入る可能性があるお店は名古屋にも数多くあると思います。名古屋エリアのハンバーガーカルチャーを押し上げていけるよう、私たちのお店も力になれればと思います。

 

 

フレンチやイタリアンほどめかしこんで行く気分ではないけれど、いつもよりちょっと豪華な食事をしたい。そんな日にぴったりなJACK’s KITCHENのハンバーガーコース。皆さんも名古屋を訪れた際には、ぜひ召し上がってみてはいかがでしょうか。

 

お店情報

JACK’s KITCHEN

住所:愛知名古屋市東区泉3-4-23 ラメゾンエスト1階
電話:052-325-6911
営業時間:11:00〜14:30(LO) 17:30〜20:30(LO)
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)、木曜日のディナータイム
ウェブサイト:https://www.jackskitchen-nagoya.com

 

書いた人:はやしまさよし

はやしまさよし

ハンバーガーをこよなく愛する東海ハンバーガー協会会長。年間に食べるハンバーガーは300食以上。ハンバーガーイベントでの審査員。ご当地バーガー開発のアドバイザー。東海ハンバーガースタンプラリー主宰。

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