魚のヒレを100種1万枚収集する寿司店の女将さんがいる銀座「すし処志喜」行ってみた

世の中にはいろんなマニアがいますが、東京・銀座「すし処志喜」の女将さんは、魚のヒレマニア。好きが高じて書籍まで刊行するほどの、知る人ぞ知る人物なのです。魚のヒレにハマってしまった経緯、収集方法、人柄など、知れば知るほどこの女将さんのマニアになってしまいそうなインタビューをお届けします。

 

 

魚のヒレマニアであるウオヒレウロ子さん。
本業は、東京・銀座『すし処志喜』の女将さんだ。
仕入れた魚の下処理をするうちに、魚のヒレ(ウオヒレ)の美しさに魅了されたという。

 

レジン樹脂でコーティングしたウオヒレコレクション枚数は1,000枚以上、加工前のものもふくめると10,000枚以上。魚種は加工完成品で約70種、加工前の未完成品をふくめると100種を超える。TwitterInstagramなどのSNSで日々ウオヒレ写真を投稿し続けている。
2022年1月にはZINE「ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界」を刊行した。

鮨屋の女将とウオヒレマニア、2つの顔を持つウオヒレウロ子さんに魚のヒレの魅力をうかがった。 

 

 

自宅の冷蔵庫3段、ウオヒレで埋め尽くされてます

 

 

―魚のヒレは、現在どれぐらい集めてるんでしょうか?

 

ウオヒレウロ子(以下、ウオヒレ):レジン樹脂で加工したものだけで1,000枚以上、加工前のものも含めれば10,000枚を超えます。魚種でいえば70種類ぐらい、加工前の未完成品をふくめれば100種超えです。
干しただけのウオヒレならもっと沢山あるんですけど、加工がぜんぜん追いつかないんです。魚の大きさによっても変わりますけど、魚1匹分(大半が背、臀、尾、胸一対2枚、腹一対2枚の7枚)の加工に要する時間が20分ぐらい。なにせ数が多くて手が回らない。


―自宅で干してるんですか

 

ウオヒレ:そうですね。お店の空き時間に厨房裏で干して、乾いたものを自宅に持ち帰って保管、加工します。
冷蔵庫に保管してるんですけど、ギュギュッと詰めても冷蔵庫3段がウオヒレで埋め尽くされてます。


―3段!冷蔵庫の半分以上、占拠されてる!

 

ウオヒレ:個体差があって、捨てられないんですよ。
「これは色がいい」「これは形がいい」って同じ魚のヒレでもぜんぜん捨てられない!
夫はなにも言わずに、ただ苦笑するだけです。時々なにか言いたげに、じっと見つめられるんですけど。


―無言の抵抗ですね

 

▲加工したウオヒレはラベルを貼ったファイルに保存している


ウオヒレ:私自身の広げテクが向上してるのも、ヒレが貯まる要因の一つです。
このヒレ、見てください!いい感じにヒレが広がってますよね。
最初の頃は、うまく広げられずにレジンの塗りも分厚いだけ。良い広げが出来たヒレは捨てられませんね。

 

▲良い広げが出来たウオヒレ

 

―個体差や広げ方にまで着目したら、膨大な量になっちゃいますね

 

ウオヒレ:もう1人でどうにかなるレベルじゃないんで、大将の娘さんや私の母とか、バイトしたい人を集めて、加工を手伝ってもらおうと思ってます。
内心、内職集団の名前もウオヒレワークスと既に決めております!

 

―ウオヒレ界の産業革命だ

 

▲写真はすべてウマヅラハギのヒレ。ウマヅラハギのヒレはウオヒレさんのお気に入り。青いヒレは意外と珍しいそうだ

 

 

花をやめて、ヒレを飾ることにした

 

▲鮨屋のカウンターにずらっとウオヒレを並べ、力説するウオヒレウロ子さん

 

―いつから集め始めたんですか?

 

ウオヒレ:3年前ぐらいからですね。
お店の仕事で、魚の頭、内臓、ウロコを処理してるうちに、ヒレのキレイさに気づいて。あんまりキレイだったから捨てずに、家に持って帰って、洗濯ばさみに挟んで干してたんです。でも、使い道が分からなくって。
虫もたかるし、臭いもするし、どうしようもなくて結局捨ててたんです。レジン加工を知ってからは、保存できるようになりました。


―鮨屋のお客さんにも、ウオヒレのことを話すんですか?

 

ウオヒレ:トイレにさりげなく飾って、気づいて声をかけてくださった方に他のウオヒレもお見せしてます。嫌いな方もいらっしゃるかもしれないので、反応を見てからご紹介していますね。
もともとは季節の花をトイレに飾ってたんですけど、花は枯れますから。花をやめて、ヒレにしました。花もヒレも、キレイですし。


 

▲「すし処志喜」大将。取材ということでラフな格好でお話しいただいた


―大将はウオヒレ活動のこと、知ってたんですか?

 

大将:ウオヒレを加工してるのは知ってました。
ウオヒレで作ったキーホルダーを、勝手にカバンにつけられてましたから。
でも、本を作ってるなんて知らなかったですよ。


 

▲2022年1月刊行のZINE「ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界」。すでに200部売れているそうだ

 

大将:今年1月末のある日の朝ですよ。
「大将、これ」っていきなり本を渡されて。「え?」ってとまどってたら「サインしましょうか」って。

 

ウオヒレ:2021年後半から本を作りはじめたんだけど、年末が近づくにつれおせち作りで大変な時期になってくるんです。休みに制作してたけど、文章は平日も考えちゃいますからね。
「おせちで大変な時期に、なにやってんの!」って怒られるかもと、内緒で作ってました。

 

結果的に、うまい魚はヒレがキレイ

ウオヒレウロ子さんと大将は、10年以上の付き合いとなる仕事仲間。
同じ築地の鮨屋で仕事をしていたところ、「いろんな魚を自由に扱いたい」という想いが一致。大将とウオヒレウロ子さんは独立し、銀座で「すし処志喜」を開店した。

 

大将:コレクションしてるウオヒレは、全部うちの食材。普通、うちぐらいの規模(カウンター9席)だと、白身だけでそんなに何種類も使わないと思います。うちは通常1日に10種くらいは白身がありますね。
いろんな魚を握りたいんですよ。
何十kgもある大きな魚じゃなければ、たいてい丸ごと1本で買います。それがヒレを集めるにはいい環境なんですね。
半身やさくで買ったりすると、頭もヒレも落とされた状態ですから。

 

 

 

▲お鮨を握っていただいた

 

▲うまい!!


大将:取引してる魚屋さんの処理が素晴らしいんですよ。
市場価値や常識にとらわれず、処理をしてくれる方でして。
値段が高い魚だけ手間をかけるっていうわけじゃなく、たいして市場価値がない魚も丁寧に処理してくれる。
水揚げして神経締めして、血抜きして、1本づつキレイに梱包して送られてくる。
あまり処理が良くない魚は、身の美味しさがぜんぜん違うのはもとより、ヒレが擦れてたりするんです。
見た目がいいから、ヒレが欲しいからで仕入れた魚は1本もない。とにかく、うまいかどうか。結果的に、うまい魚って自然とヒレがキレイなんですよ。


―その魚屋さんの存在が、ウオヒレコレクションのバリエーションを生んでるんですね

 

大将:あ、唯一、見た目で買った魚がありました。サザナミヤッコ。
その魚屋さんから「珍しいの水揚げしたから送るね」って連絡が来て。2㎏以上のかなりデカい魚なんで「いらん」って言ったんですけど、「Facebookで女将がいいね押したから欲しいはず」って。いいねを押したら発注になっちゃうんだから、強引なんですよ!
まぁ、白身魚で、ほどよく脂がのってて、意外とうまかったですけど。

 

ウオヒレ:いいねを押したばっかりに……。大将には申し訳なかったけど、珍しい魚なんで嬉しかった。


 

▲いいねを押したら送られてきたサザナミヤッコ

 

―大将は、最初からウオヒレさんの活動に協力的だったんですか?

 

大将:最初は「不衛生だからやめて」って言いました。
魚の表面をそのまま使うのも避けてるんです。魚の表面には菌もいるし、衛生上何も処理せず使いたくない部分ですし。

 

―ウオヒレさん、やめてと言われて、どうしたんですか?

 

ウオヒレ:「でも、でも、これすごくいいから~」と号泣してしまって……。どうしても、ウオヒレ取っておきたくて。
最終的に、よく洗って衛生的に保管して、お店の冷蔵庫を塞がないことを条件にOKが出ました。
バット1枚におさまる分だけウオヒレを保管して、家に持って帰ってます。

 

▲当時を思い出し、涙が頬をつたうウオヒレさん

 

―いや、泣いてるじゃないですか!


大将:俺のほうが正論言ってるのに、魚のヒレ捨てたくないって泣くですもん!
当時も、なんで泣いてるのってビックリしましたよ。

 

ウオヒレ:こんなことで泣くのおかしいでしょ……。
でも、エビスダイのヒレ、取っておきたくて。捨ててって言われても、どうしても捨てたくなくて。
なんか、当時のこと話してたら、涙出てきた……。

 

▲ウオヒレさんの思い出し涙に、おもわず笑ってしまう大将

 

 

ヒレだけじゃない。魚の肌にも注目してる。

最近はウオヒレだけでなく、魚の顔や肌にも注目しているというウオヒレウロ子さん。
インスタグラムではウオヒレと別アカウント(@uohadalove)で、美しいウオ肌の写真を投稿している。

 

▲uohadaloveのタイムライン

 

―魚のパーツごとに別アカウント持ってるんですね。1つにまとめてもいいんじゃないですか?

 

ウオヒレ:それは出来ません!
ウオヒレアカウントは、図鑑みたいに規則性を持たせてヒレを並べてるので、ウオ肌の写真を差し込むわけにはいかないんです。

 

―こだわりですね

 

ウオヒレ:魚の習性とかは全然わからないんですけど、とにかく「ヒレも顔も肌も、こんなにキレイなんだよ」って伝えたいですね。

 

▲エボダイの肌

 

ウオヒレ:これは、エボダイの肌。
地層というか、割れた石というか。すごくキレイですよね!
ウオ肌は、物によって料理に使う場合もありますし、ウオヒレみたいに保管できるものじゃない。なので、いまこの瞬間が大事なんです!
いま撮影しておかなければ、この肌にもう出会えない。出会いを逃さず、捉えることが大切です!

 

もう、やめたくてもやめられません

 

―今後やりたいことはありますか?

 

ウオヒレ:ウオヒレを水族館で展示したいです!展示させてくれないかって営業しに行こうかな。
ネット通販でウオヒレの販売も考えてます。ウオヒレの魅力を伝えつつ、お店の売上の足しにもしていきたいですね。
ウオヒレ数千枚でドレス作ったら、ハイブランドのファッションショーでスーパーモデルが身につけて、大人気なんてことになんないかな。

 

大将:レディーガガも生肉着てたから可能性あるかもね。

 

―前向きだ

 

ウオヒレ:飽きっぽい性分と思ってたけど、ウオヒレ集めは3年経ってもぜんぜん飽きない。
マニア友だちに「ウオヒレさん、もうあなたはやめたくてもやめられません。それがマニアなんですよ」と言われまして。
いろいろやりたいことはありますけど、とにかく長く続けていこうと思っています。

 

 

お店情報

すし処志喜
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座4丁目8-13 銀座蟹睦会館ビル3階
電話番号:03-6228-7029
営業時間:18:00~23:00
定休日:日曜日、祝日
フェイスブックページ:https://www.facebook.com/sushishiki

 

 

書いた人:松澤茂信

松澤茂信

観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」を書いてます。

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