背徳感は幸せ中枢を刺激する
人はなぜ、「背徳的な行為」に快楽を感じるのでしょう。
平日の昼間から飲むビール、真夜中に食べるラーメン、そして……濃厚な味わいの肝(きも)。
「これ以上食べたら……でも美味しい!」
そんなドキドキと背徳感が「幸せ中枢」をより刺激してくるようです。
今回は、そんな背徳感をMAXに高めてくれる「肝たっぷりあんこう鍋 〜濃厚三昧〜」という衝撃の逸品を見つけてしまったので、その食レポをお届けします。
ちなみに、見た目だけでも衝撃なのに、まさかの価格で食べる前からさらに衝撃。他のお店でいただいたら、おそらくその倍はかかるのではないでしょうか。
なぜこの価格であんこう鍋を提供できるのか。その秘密を含めお店に取材させていただきました。
四十八漁場の名物「肝たっぷり あんこう鍋」
▲日本酒の樽が並び、のんべえにはたまらない雰囲気
お邪魔したのは溜池山王駅直結のビル地下1階。都内を中心に20店舗を展開する「四十八漁場(よんぱちぎょじょう)山王パークタワー店」さん。
普段から美味しい魚介メニューがお手頃価格で食べられると人気のお店ですが、なかでも人気の冬限定メニューがこちら。
▲画像は3人前。大人の拳くらいの肝味噌にテンションが上がる
「肝たっぷり あんこう鍋」(1,529円)です。
お鍋の中には、あんこうの色んな部位の身がたっぷり。
そして身以上に目が釘付けになってしまうのが、この大量の肝味噌。
見ているだけで、よだれと背徳感が沸き上がってくる、衝撃的な物体です。
お鍋の食べ方は、こんな感じ。
- まずは肝を入れずに、あんこうの身と野菜から沸きだす出汁で具を楽しむ
- 好きなタイミングで肝味噌を溶き入れつつ、更に具を楽しむ
- さらに背徳感を味わいたい人は「濃厚三昧」を頼む(最初から頼むのも、もちろんOK)
- 〆のご飯で、肝汁を最後まで楽しむ
ということで、さっそく実食です。
「肝たっぷり あんこう鍋」の食欲をそそる香り
▲煮えてくると、食欲をそそる香りが漂う
まずは肝味噌を入れたい気持ちをグッとこらえ、シンプルな出汁だけで具材をいただきます。
早く肝を味わいたいな〜なんて思いながら食べましたが、この時点でもばっちり美味しい。
▲どこの部位かわからないけど、とにかく美味しい
優しいのにしっかりした、あんこうの身と野菜の出汁が、ぷりぷりの身に染み込んでいて、噛むたびに、じゅわわわわ……とあふれ出してきます。
タラのようにホクホクした部分、歯ごたえのある角煮の脂身のような濃厚コラーゲン部分などなど、味わい・食感もさまざまで、肝を入れる前からどんどん箸が進みます。
お代わりしてしまいたくなる気持ちをグッと抑えて、お待ちかねの肝味噌タイムへ。
▲見ているだけで、よだれの湧き出る肝味噌
まずは、そのまま味見を。
こちらの肝味噌は、肝自体に軽く火を通してから味噌と練り込んでいるため、そのまま食べてもOKなんだそう。
これがもう、まったり濃厚でしょっぱくて、お酒がすすんでしまう味。
のんべえだったら、間違いなくこれだけで延々と日本酒が飲めてしまいます。
そしていよいよ肝味噌をお鍋に投入。今回はせっかくなので、3段階に分けて食べ比べをしてみました。
レベル1:適度なしょっぱさで、身や野菜の甘さが引き立つ
▲肝味噌が、他の具材を引き立てる
まずは肝味噌の1/3を投入。スープがうっすら色付きます。
この時点では肝よりも味噌の味わいが目立ち、出汁に塩味が加わることで、あんこうの身やお野菜の甘みが引き立つ感じがしました。
全体の味が締まって、食欲が刺激されます。
レベル2:まったりした肝の旨味を感じるように
▲だんだん「肝感」が強まってくる
さらに肝味噌の1/3を投入。スープが濁り、中が見えないようになります。
肝の味をしっかり感じるようになり、身を食べても野菜を食べても、肝スープがコーティングしてくれるように。
段々と「ああ……私は今、あん肝を食べているんだ……」という背徳感が沸き上がってきます。
レベル3:こってりドロドロ(もしくは、粒つぶ)の肝スープの味わいは
▲担々麺のひき肉のように、粒つぶが浮く
ラスト1/3を投入。スープの溶解度(一定量の溶媒に溶ける溶質の限界量)を超えたようで、溶けきらない肝が粒つぶに浮き出してきます。
▲肝の美味しさに、目玉が飛び出そうな筆者
何を食べても、ばっちり肝。とにかく濃い肝。
完全なる背徳感を感じながら、ドロドロ粒つぶのスープを飲み干してしまいたい欲求にかられます。
そして、「濃厚三昧」を──
「美味しすぎる……これ以上は食べ過ぎだってわかってるのに、もう箸が止まらない……」
ぶつぶつ言いながらもお鍋を突き続ける私。そこに、悪そうな笑顔を浮かべた1人の男性が現れました。
▲悪だくみな笑顔で現れた店長
店長:ぐっふっふ。ちょっと待ってください。さらに箸が止まらなくなる、危険なトリオの登場です。
──え、危険なトリオ?
店長:こんばんは。四十八漁場 山王パークタワー店の店長、高舘です。「肝たっぷり あんこう鍋」は、そのままでも美味しいのですが、この濃厚三昧トッピングを加えるのがおすすめなんです。
▲見ているだけで背徳感あふれる、魅惑のたっぷりトリオ
──こ、これは……「白子」「あん肝の塊」、さらに「牡蠣」まで……。まさに濃厚三昧トリオ。もはや「追い痛風トリオ」じゃないですか。
店長:はい、このトリオを「肝たっぷり あんこう鍋」に加えるとですね……。
▲もはや言葉にならない
……ドサドサドサ
店長:……めっっっっちゃくちゃ、ウマいです。
──わ……これはヤバい。見てるだけで危険な香りが漂ってきます。でも、よだれが沸き出して止まらない。
店長:ぐっふっふ。さあさ、まずは食べてみてください。
──…………。
▲「我が人生に一片の悔いなし」と叫びたくなる美味しさ
──うっっっっまーーい……。旨味と背徳感が頭の中でぐるぐるします。口に運んだ瞬間は濃厚な肝味なんですが、噛み出すと、白子は濃厚な甘み、牡蠣は甘みと塩味のじゅわじゅわが止まらない。肝はもう、さらにキモキモしています。
店長:いやー、このメニュー、本当に背徳感がたまらないですよね。みなさんどんどん食べながらいい反応してくださるんで、提供しているこちらも嬉しくなります。
──うう、美味しすぎる。早くお箸を止めなきゃヤバイかもだけど、止まらないよ。
店長:嬉しいですねー。追加で濃厚三昧をトッピングしても、1人前で2,079円とリーズナブルな価格でやらせていただいてるので、良かったらお代わりしてください。
──そうそう、このお鍋、価格が安すぎませんか? こんなに美味しくて肝たっぷりなのに。
店長:実は、当店ならではの裏技があるんです。
漁業と漁師を守りたい
店長:少し肝の話からそれるのですが、まず店名の由来からお話しさせてください。店名の「四十八」は、実は、天然の水産資源が枯渇すると言われる西暦から付けています。
──水産資源が2048年に無くなってしまう、と?
店長:はい。専門家の4年にわたる調査の結果、環境汚染や人間の漁獲過多などにより、2048年には天然の魚介類が壊滅してしまう可能性があるかもしれないという報告がアメリカの科学専門誌『サイエンス』に掲載されました。
──……それは困ります。
店長:私たちが特に課題に感じているのは、人間の漁獲過多。近年、魚の価格が下がっているのですが、その穴を埋めようと、漁師さんたちが必要以上に量を獲るようになっているんです。
──質より量になってしまっているんですね。
店長:日本は世界と比べて資源保護への取り組みが遅れていて、早い者勝ち、獲ったもの勝ちの潮流があり、これが資源の枯渇に結びついてしまっています。
▲全国60以上の産地と提携して、獲れたての魚介を提供
店長:四十八漁場では、美味しい魚や食べ方、楽しみ方の提案を通して、漁師と二人三脚で魚の価値を高めていくことを目標にしています。
──素晴らしいですね。
店長:四十八漁場で働くスタッフは、社員もアルバイトも関係なく、全員がこうした水産資源の課題を学びます。
責任者クラスは漁師さんの元にお邪魔して、現場を学ばせていただいたりもします。こうした取り組みや覚悟を、お客さまにもわかりやすく伝えられるよう、想いを屋号に込めました。
──確かに「なんで四十八なんですか?」とか会話も生まれそうですね。私も、「四十七都道府県にプラス1なのかな?」なんて、屋号の意味を考えてました。
店長:いきなり難しい話をすると、耳を傾けてくれる人は少ないので、美味しい料理で引き込んで、徐々に課題にも関心を持っていただけたらと思っています。
四十八漁場は1店舗目が2011年にできたのですが、そこから8年、それこそ昔からの仲間のように私たちの想いに共感してくださるお客さまも増えてきました。
──仲間のように……ですか?
店長:四十八漁場にはポイントカード制度があります。ポイントはお酒や料理、漁師さんに会いに行ける権利など、お客さまが楽しめる特典に交換できます。
──漁師さんに会えるというの、楽しそうですね。
店長:しかし、実はポイントを漁師さんのために使う「ポイントファンディング」というものもありまして。例えば漁師さんの網が壊れてしまったときに、お客さまたちにポイントを寄付していただき、それで新しい網をプレゼントするなどの企画を考えています。
▲四十八漁場のメニュー表
店長:こちらは当店のメニューに掲載している写真なのですが……。
▲えびす様が真鯛を抱えた大漁旗に「四十八漁場」の文字
店長:この表紙に写っているこの大漁旗。これはファンドで集めて、新しい船を買った宮崎の漁師さんにプレゼントさせていただいたものです。
──すごい、感動的ですね。
店長:本来なら自分の利益のために貯めるポイントを、漁師さんのために喜んで寄付してくださる。そんなお客さまが増えてきていて、本当に嬉しい限りです。
「売れないけど質の良いあんこう」でwin-win-winに
店長:少し話を戻して、「美味しい魚や食べ方、楽しみ方の提案を通して、漁師さんと二人三脚で魚の価値を高めていく」という目標。これを叶えるために実践しているのが「未利用魚の活用」です。未利用魚とは「サイズが小さい」「数が獲れない」「販売しやすい時期ではない」など、さまざまな理由で利用される(食べられる)ことなく処分されてしまう魚のことですね。
──その話、聞いたことがあります。全国の漁港で問題になってるんですよね。
店長:これは資源保護の観点はもちろん、漁師の生計の観点でも由々しき問題なんです。四十八漁場はもともと、バイヤーたちが全国の港へ行って、良い食材や漁師さんを探しまわっていたのですが、そのなかでも「何とかならないか」と相談をいただくケースが増えていました。
▲広田湾の困り者「あやぼら」が人気メニューに
店長:そんななか、漁師さんたちの悩みの種だったのに、逆に稼ぎ頭になったメニューがあります。四十八漁場ができて間もない頃に商品化されたものなのですが……それがこの「広田つぶのガーリックバター焼き(715円)」です。
──すごく美味しそうな貝ですね。
店長:見た目は美味しそうなんですが、これがなんとも困った貝で。もともと岩手県・広田湾では、漁師さんが毛ガニや水タコを狙うため、エサを入れたカゴを深海200〜300mに落としていたんです。しかし、このツブ貝、正式名称「あやぼら」が、カゴの中に入ってきてエサを食い散らかしてしまって。
──それは困りますね。
店長:しかもこいつら、殻とか、毒を含む唾液腺とかがほとんどで、食べられる部位は全体の1割程度しかないんです。
──え、1割? 歩留まり悪い……。
店長:そうなんですよ。味はいいのに、殻が固いから身を外すのも大変で、漁師さんたちが売る気にもならず。獲れてしまったら、そのまま海に捨てるしかない、本当に困った存在だったんです。
それをうちのバイヤーが、なんとか商品化できないかと目をつけまして。最初は漁師さんたちに鼻で笑われてたらしいんですが、あまりに真剣に試行錯誤してるから、「しょうがねえな。一緒に考えるよ」となりまして。
──ふむふむ。
▲漁場へ向かう間に、あやぼらの下処理
店長:ついに、殻をうまくはずす方法を見つけ、唾液腺も漁師さんが移動中の船で処理するなど効率化ができ、今では漁師さんたちの重要な収入源になるほど売れるようになったんです。
──すごいですね。邪魔者が稼ぎ頭に。
店長:実は、今食べていただいているあんこうも、そうなんですよ。
──え、このあんこうも困り者だったんですか?
店長:あんこうといえば冬のイメージだと思うんですが、うちで扱うあんこうは冬以外、つまり“流通の旬”を避けて仕入れたものです。それを冷凍備蓄しています。
魚介の旬は確かにありますが、なかには昔、冷蔵技術・配送技術が整っていなかったから美味しく食べられなかっただけの食材も多くて。現代は、旬以外もきちんと値付けをできる食材も多いんですよ。
──そうか、あんこうも旬以外の時期に獲れると、なかなか値が付かないんですね。
店長:はい。そこで四十八漁場では、旬以外にうっかり獲れたあんこうを積極的に買い取るようにしています。
そうすることで、最悪捨てられてしまっていたあんこうに、きちんとお金を払うことができ、漁師の収入アップに繋げられます。そしてあんこうが1番求められる冬期を避けることで、弊社も仕入れ値を抑えられます。
──旬以外に獲れたあんこうでも、味に変わりはないんですか?
店長:もちろんです。あんこうは深海魚なので、1年を通して住んでいる場所の水温にあまり変化がありません。だから、旬以外の時期に獲れたものでもじゅうぶん美味しいんです。四十八漁場は、扱う海産物に決して妥協しません。
──このお店の取り組みは、自然にも、漁師さんにも、そして私たち消費者にもwin-win-winなんですね。素晴らしいです。
〆はもちろん雑炊で
▲〆の雑炊セット
店長:さて、具を食べきっていただいたので、最後はやはりこれですね。
──わわわ、〆の雑炊きがきました。最後まで肝汁を堪能させて、背徳感に溺れさせる気ですね。
▲雑炊にも肝の味が染み込んで、激うま
店長:ぐっふっふ。この肝汁の旨みに浸かっちゃってください。
──うわー、やっぱり〆も美味しい。肝汁も飲んじゃう。背徳感がヤバいですが、それ以上に幸せな気持ちになれました。今日はありがとうございました。
店長:こちらこそ、ありがとうございました。また背徳感がほしくなったら、いつでもお越しください。
コスパも味も抜群なあんこう鍋を食べたくなったら
▲名物! 肝たっぷりあんこう鍋コース(5,500円/飲み放題込み+550円)
四十八漁場さんの「肝たっぷりあんこう鍋〜濃厚三昧(追い痛風)〜」は、想像以上に危険な、背徳感に満ち溢れた一品でした。
しかし、その美味しさと、背景にある漁師さんや漁業への熱い想いまで味わうことができ、背徳感以上の幸福感にひたれる時間となりました。
こちらは備蓄したあんこうが無くなり次第の終了です。
目安は2月いっぱいくらいとのことなので、あんこうの格別な味を堪能したい人は、急いで行ってみてください。
山王パークタワー店はもちろん、「四十八漁場」全20店舗で食べられるそうです。
お店情報
四十八漁場 山王パークタワー店
住所:東京都千代田区永田町2-11-1 山王パークタワーB1F
電話番号:050-5827-6148
営業時間:月曜日〜金曜日17:00~23:00
定休日:土曜日、日曜日、祝日、祝前日