※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月頃に取材しました
“お笑い第7世代”ブームに沸く芸人界において、ライブシーンで熱い注目を集める漫才師がいる。結成5年目(※2020年時点)、サンミュージックプロダクション所属のママタルトだ。
彼らの漫才は、主にこんなツカミで始まる。
「どうも~! 体重が160キロと、79キロの凸凹コンビです!」
「もっと、僕が細ければ……!」
その言葉通り、身長182cm体重160kgという堂々たる巨漢のボケ・大鶴肥満さんと、身長174cm体重79kgの中肉中背のツッコミ・檜原洋平さんからなるコンビは、体型を活かしたボケと、それを噛み砕きながら長尺でツッコむスタイルが特徴だ。
『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)でネタを披露したり、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で檜原さんが「注目のツッコミ芸人」として取り上げられたりと、業界内での評価も上昇中。
そんな彼らのネタは、「大食いトーナメント」「ラーメン屋」「焼肉屋」など、食を扱ったものが少なくない。2人の頭の中で、“食”と“笑い”はどう繋がっているのだろうか?
自分たちの“笑い”を確立すべく、日々ネタを磨き続ける2人と一緒に、その意外な関係を考えてみた。
M-1の思い出のお店で食リポに挑戦
▲東京都台東区西浅草で創業43年を迎えた「本とさや(ほんとさや)」。こちらの本店のほか、すぐ近くに別館もある。取材日も、平日にもかかわらず昼から多くの人でにぎわっていた
──今日お邪魔している「炭火焼肉 本とさや」は、2人にとっての思い出のお店だそうですね。
檜原さん(以下、敬称略):M-1グランプリは毎年2回戦の会場が浅草で。僕ら、2016〜18年のM-1が2回戦敗退だったんですけど、去年は「3回戦に進んだら本とさやの焼き肉を食べに行こう」って約束していたんです。
でも去年の2回戦は「確実に通った」と思えるくらいウケたから、合格発表の前に思わず食べに来てしまいました。
▲ツッコミの檜原さん。ネタ作りを担当
──それはさぞおいしかったでしょうね! 今日はそのときと同じ、タン塩、ロース、カルビを注文しました。せっかくなので、今日は食リポの練習と思って……。
大鶴さん(以下、敬称略):いちばん苦手なんですよ!
──でも絶対求められると思いますよ。
▲ボケの大鶴肥満さん。俳優の大鶴義丹さんに似ていることから、この芸名に
▲タン塩(1,500円/左上)、ロース(1,700円/下)、カルビ(1,700円/右上)。すべて1人前
檜原:きれいですねぇ。これ、全部“上”じゃなくて“並”なんですよ。それでこんなにきれいって……。しかもここは、1人前が普通のお店の2~3人前分くらいあるんです。
大鶴:そうなんです。十分なんですよ、1人前で。
──本当ですか?
大鶴:ごめんなさい、ウソつきました。すみません。
▲まずはタン塩から
大鶴:あー、たまんないですね。でも、今は僕が網に乗せましたけど、ひわちゃん(檜原)のほうが“焼肉奉行”なんですよ。
檜原:お金ないんで、1枚1枚見ながら焼いて楽しみたくて。焼ける肉を見て「きれ~」とか言いたいんです。
大鶴:もういいかな!?
▲お肉を噛みしめる2人
大鶴:うますぎる……んですよね、ここは……。
大鶴:ダメだ、うますぎてすぐ飲んじゃった。タレは甘辛くてサラサラです。これはもう「うまーちゃん」ですね。あ、大鶴義丹さんがマルシアさんを呼ぶ「まーちゃん」とかかっています。
檜原:「こんなに肉が寝そべった姿が魅力的だなんて、グラビアアイドルかと思いました」って、言ったことにしてください。
▲肉に魅入られる檜原さん
コンビ名は“まだ行ったことないお店”
──肉の美しさを堪能していますね。まだお二人を知らない読者も多いと思うので、コンビの成り立ちを聞かせてください。名前に“タルト”というお菓子が入っていますが、これはどういう由来なんですか?
檜原:よく行くお店だったりネットで調べたものだったり、いろんなお店の名前を候補にしてくじ引きで決めたんです。
大鶴:『クレヨンしんちゃん』で妹・ひまわりの名前を決めたときと同じ感覚ですね。
檜原:紙飛行機に名前を書いて、いちばん飛んだ名前にするっていうやつです。僕らはスタイリッシュじゃないんで、名前だけでも人気のあるお店の名前にしようと思いました。
大鶴:「ママタルト」は40年以上続いている、当時代官山にあったお店なんです(※現在は上野毛に移転)。2人とも行ったことないんですけど、おしゃれな名前だな、と。でもそういう名前のお店があることは、これまで知らない体(てい)でいました(笑)。
檜原:何十年もやってきたところに、急にすごい太った人が「ママタルト」を名乗って漫才とかされたら嫌かもしれないと思って、ずっと黙っていました……。
本当はお店に行ってみたいんですけど、行ったら「知ってて名前つけたんだ」って思われると思って。“ママ”も“タルト”ももともとある単語やないですか。だから組み合わせで偶然同じになっただけと言い張りたかったんですが、これはもう書いてもらって大丈夫です(笑)。
──いつかロケで行けるといいですね。ママタルトは、お互いに別々のコンビで活動していたのが、組み直しての結成だと聞きました。檜原さんは大学卒業まで関西、大鶴さんは東京ですが、どうやって出会ったんですか?
檜原:大学生のお笑い大会が関東であって、そこで成績を残すと『学生才能発掘バラエティ 学生HEROES!』(テレビ朝日)に出られることになっていたんです。それで卒業旅行も兼ねて、友達と大会のオーディションに参加した結果、決勝にいけて番組にも何度か出て、東京に通うようになりました。
そこで同世代でお笑いをやっている友人が増えて、ライブに出たりして。でも当時のコンビがうまくいかなくて解散して、「次はどんな人と組んだらいいかな」って思っていたときに、以前から仲の良かったZAZYに「すごい太ってる人か、すごい歌がうまい人がいいと思う」って言われたんですよ。
その話をした翌日に出た大喜利ライブに(大鶴が)いたんです。
大鶴:僕はその頃、ひわちゃんの名前だけは知っている状態でした。太田プロの養成所に通っていて卒業間近だったんですけど、当時のコンビでやっていたネタが自分としては面白くなくて。
檜原:太ってることに一切触れてないネタだったらしいです。
大鶴:野球漫才をやっていました。僕はいじられたほうが絶対面白いのに、器用にツッコんでるだけでしたね。それでひわちゃんに誘われて、解散して組み直しました。
160キロだからとれる笑いがある
──ネタを書く檜原さんとしては、実際に組んでみて、「太っている」という相方の個性を活かす“レシピ”の発見はありましたか?
檜原:食に関するネタだと、ボケがやることの動機がわかりやすくて、普通の見た目の人がやるよりも説得力がありますよね。観てる側がスッと入っていきやすい。
▲ネタ帳を見せてくれた
大鶴:パン屋さんのネタがあるんですけど、僕が「パンが好きだからパン屋さんに行きたい。ちょっとパン屋さんやってくれない?」って言って始まって、「あー、いい匂い。ここかぁ!(ガラガラガラ!)」ってシャッター開けて入っていくボケは、太ってるからこそできるものですね。
檜原:普通の見た目だったら「パンが好きで好きで、パンの匂いがしたら我慢できなくて行動しちゃうんですよ」みたいなことを言わないと、勝手にシャッター開けるボケはできないんです。けど、太ってるおかげで「食欲に駆られてほかのことに気づかない」って見えるので。
大鶴:フリがなくて済むのは楽ですね。「寿司職人」というネタでは、米一升炊ける業務用炊飯器を「僕、持ってますよ!」ってボケがあるんですけど、それで笑いが取れるのは体重160キロだからだと思ってます。ガリガリの人が言っても、説得力がないですから。
──さすが、風格がありますね。ママタルトの漫才を見ていると、太っていることを笑いにつなげながらも「太ってる=ダメ」と否定はしないんだな、と感じます。
檜原:そうなんですよ。悪口として切り取られてしまいたくないので、そういうふうには言わないと決めています。組んで最初の頃はあんまり良くないことも言ってたんですけど、途中からやめました。
今は、太っているのは「醜い」じゃなくて「元気でよろしい」ととらえてネタをつくっています。
──体型に誇りを持っているのが伝わって、見ていて気持ちいいです。
「カレー作り」と「料理系YouTube」
檜原:みなさん(取材陣)にも食べてほしいんで、お肉とっておきますね。
大鶴:ひわちゃんは食べさせたがりなんですよ。関西のおばちゃんみたい。
──お気遣いありがとうございます。プロフィールによると、檜原さんはカレー作りが趣味だそうですね。誰かに振る舞ったりするんですか?
▲檜原さん手作りのカレー(写真提供:サンミュージック)
檜原:芸人5人でルームシェアをしてるんで、そこで振る舞っています。でもカレー作りは材料費が結構かかるんですよね。スパイスをいろいろ買って、気づいたら全部で5,000円くらい使っていたことあります(笑)。サフランとかバターも高いじゃないですか。
──サフランライスもつくるんですか! 本格的ですね。大鶴さんは食べたことありますか?
大鶴:ないですね。うまいという評判は聞いてますけど、それは他人の評価なので自分で確かめてから評価したいなって思っています。
──貫禄がすごいです。一方、大鶴さんもご自身のYouTubeチャンネル「ひまんキッチン」で料理を披露されてますが、こちらはこだわり云々というより「いま食べたいものをいっぱいつくってる」という感じですね。
大鶴:あれは単純に太った人が楽しく料理をしているだけなんです。むしろ、人に見られることで料理が少しでも上達したらいいなと思っています。
檜原:僕も毎回見てるんですけど、おもしろツッコミポイントがちゃんと隠されているんです。
ネギと豚肉のミルフィーユ鍋をつくる回では、最後に「白菜があったらネギより白菜がいいよ」ってアドバイスを添えてるんですけど、自分で食材揃えて撮っている動画なのにベストなものじゃないんか、っていう。毎回一個は間違い探しみたいな箇所があります。
大鶴:ひわちゃんから「動画見たよ。あそこ、なんやねん」って言われたら、僕は「やった! 正解!」ってなります。そういう見方をしてほしいですね。
料理を通して自分の“臆病さ”に気づく
──料理や食生活には、こだわりや性格がかなり出ると思います。日常的に料理をしていて、自分のお笑いに対する考え方やスタンスに通じる部分を感じることはありますか?
大鶴:自分に対して、冒険できない人間なんだなと感じますね。すごい雑な料理をつくっているわりに、思い切ったことは全然できない。
檜原:「ひまんキッチン」を見ていて、それは思います。量は思い切れるのに、味を思い切れないんですよ。ボウルいっぱいのひき肉に対して、「トン、トン」くらいしかブラックペッパー入れない(笑)。臆病やな~、と。
大鶴:そうなんですよ。芸人としても同じで、絶対思い切ってやらないといけない場面だとわかっていても、「じゃあその後どうしたらいいんだ!?」とか考えすぎておとなしくなっちゃうんです。
檜原:大舞台になればなるほど、「スベったらどうしよう」とか考えすぎてあんまり自分を出せなくなる。それが料理にも出てますね。
大鶴:保守的というか。それは料理をつくることによって気づきましたね。もしかしたら、「ひまんキッチン」で思い切った味つけをできたときが、僕が殻を破った瞬間になるのかもしれません。
「カレー屋」漫才をやる日が僕らのピーク
檜原:それでいうと僕は、同じものばっかり食べるんですよ。最近は生パスタにハマってるんですけど、3食パスタでも飽きないし、毎日それでよくて。同じことを続けられるタイプなのかもしれません。
芸人仲間を見ていると、ネタを書き続けるのがしんどくなって辞めていく人が多いんです。僕もめんどくさいはめんどくさいですけど、毎日書いていればいつかは何かになれるんじゃないかと思っているし、飽きないですね。
──継続力があるんですね。ママタルトの漫才は『アメトーーク!』で取り上げられたように、檜原さんのツッコミが注目されることも多いじゃないですか。ボケを正すというより、ボケと同じ言葉を繰り返したり説明したりしていて、文章だったら削ってしまうようなところをあえて残しているのが面白いな、と思うんです。
檜原:ボケが言ったことをそのまま言うオウム返しのツッコミって、ネタ見せの作家や賞レースの審査員からは評価されづらいんですよ。
でも僕はリズムが気持ちよくて好きなので、よく入れちゃいますね。さっき話に出た「寿司職人」の炊飯器のくだりでも「これ僕持ってます」というボケに対して「これ僕持ってんのかい!」みたいなツッコミがあります。
──ちなみに、今後やろうと思っているごはんネタがあれば教えてください。
檜原:ラーメン屋さんとか焼肉屋さんとかいろいろつくってるんですけど、あんまりポンポンつくりすぎると今後つくるものがなくなってしまうので、多少セーブしています。漫才も、下手なりに継続していけばちょっとずつうまくなっていくはずじゃないですか。
今よりも5年後のほうが上手になっているはずなんですけど、そのときにマイナーな料理しか残ってなかったら困るので、温存してます。
大鶴:もう結構いろんなお店やってるからねぇ。
檜原:あ、カレー屋さんはまだやったことないですね。いつか僕らがキャリアのピークに達したとき、満を持してやろうと思ってます。肥満が「僕、カレー屋さんに憧れてて」ってネタ始めたら、「いま彼らは自分たちがピークにあると思ってるんだ」ととらえてください(笑)。
特別企画:食べ物大喜利
──そして最後に、檜原さんが大喜利が得意ということで、お題を用意してきました。全部食べ物に関するお題です。
檜原:いいですね。僕、大喜利の回答で食べ物の名前をよく出すんです。お題も食べ物関係が好きです。
──では、いきましょう。
「この居酒屋の大将、ただものじゃない。なぜそう思った?」
▲考え込む檜原さん
大鶴:ひわちゃんは長考型なんですよ。なので先に僕が……
▲急いで回答してくれたので、文字を書くのが追いつかなかった大鶴さん
「お店に入って『いらっしゃいませ!』と言われたときにはもう背後に回ってきている」。
檜原:できました。
「『また来て下さい』と言って、また来なかったら、電話してくる」
──絶対逃してくれないんですね。では2つ目のお題です。
「西暦3780年のカレー業界のトレンドとは?」
▲再び、悩む2人
「あんまり美味しくなさそうに食べる」
「デカい米粒をくりぬいて、カレーを流し込んで食べる」
──それはちょっと楽しそう! 最後です。
「焼肉屋の創業者あるあるを教えてください」
「炭はどんな風に捨てたらいいか、人に聞く」
「『俺は、牛を一頭まるごと仕入れるつもりサ』と、好きな女の子にかっこつけてしまう」
▲「難しい……!」
「『焼肉屋なんてダメだよ』『絶対無理だね』周りの批判に負けず続けた焼肉屋、気付けば町一番の人気店に。悪く言ってた奴からの『美味しかった』の一言が嬉しく感じる」
──人情がありますね。では檜原さん、最後お願いします。
「カルビとかハラミとかメニューを決めたあと、まだなんかあった気がする」
──本当にありそうな”あるある”ですね。今日はありがとうございました。「カレー屋」漫才を楽しみにしています!
※この記事は緊急事態宣言前の2020年3月頃に取材しました
撮影:鈴木 渉
Twitter:大鶴肥満
Twitter:檜原洋平
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【毎週木曜日20時更新】
お笑いラジオアプリGERA「ママタルトのラジオ母ちゃん」
【毎週火曜日23時更新】
stand.fm「芸人Boom!Boom! ママタルトのラジオまーちゃん」
お店情報
本とさや
住所:東京都台東区西浅草3丁目1-9
電話:03-3845-0138
営業時間:12:00〜23:00(L.O. 22:30)
定休日:12月31日
書いた人:斎藤岬
1986年生。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランス。編集担当書に「HiGH&LOW THE FAN BOOK」など。