自衛隊の食事を取材しまくったミリタリー雑誌編集者が語る「陸・海・空それぞれの絶品メシ」とは

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災害派遣で汗を流し働く姿が、国民にもすっかり定着した自衛隊。陸・海・空自衛隊の駐屯地・基地は、分屯地や分屯基地も含めると(陸上自衛隊は駐屯地、海・空自衛隊は基地と呼びます)は全国に約290あるので、みなさんの住まいの近所にもちょっと車で走ればたいていなにかしらの駐屯地や基地に行き当たるのではないでしょうか。

その中には自衛官がいて、日々課業(一般社会でいう仕事ですね)をこなしています。昼食も敷地内にある隊員食堂で食べるのが自衛官の常。

 

気になります。すごく。

 

ここは陸上自衛隊東千歳駐屯地の隊員食堂。

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▲手前の隊員たちの髪の毛が短いのは、陸士長から陸曹へステップアップする教育を受けている最中だからです

 

メニューは? ボリュームは? 品数は? クオリティーは? メニュー選べたりするの? ゴージャスなの貧相なの? 誰が作ってるの? 陸海空自衛隊によって料理の内容は違うの? 艦艇のカレーはまじでおいしいの?

 

やっぱり、気になります。

 

そんな素朴な疑問に答えてくれる適任者がいます。潮書房光人新社、月刊『丸』の編集者、岩本孝太郎さんです。

全国各地の駐屯地・基地を巡って隊員食堂を取材してきた岩本さんに遠慮なくずけずけとご質問したところ、どの問いにも丁寧かつ細かく答えてくださいました。

今回はその一部始終を丸ごと公開してみましょう。ちなみに岩本さんのものすごく丁寧な言葉遣いは彼のデフォルト。人となりが出ているのでそのまま掲載します。

 

では岩本さん、よろしくお願いします!

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▲陸上自衛隊の精鋭、第1空挺団がパラシュート降下する際の装備を身につけてらっしゃいます……

 

月刊『丸』とは?

── さっそくですが月刊『丸』とはどんな雑誌なのですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:1948年2月創刊の月刊総合軍事雑誌です。基本、弊誌は戦争経験者の方の証言および戦記の紹介をメインとしており、第二次大戦などの過去の陸海空軍の兵器や、運用、作戦、人物の紹介から、護衛艦「いずも」や(筆者注:海上自衛隊のヘリコプター搭載艦)F-35(筆者注:今年航空自衛隊三沢基地に配備された最新の戦闘機)、10式戦車など(筆者注:現在陸上自衛隊に配備されている中で最新の戦車)、現代の各種兵器(筆者注:自衛隊では「兵器」ではなく「装備品」と称しますが、『丸』では旧軍や他国の軍隊も扱うのでこの表記のままとします)や運用思想等を紹介しております。

 

── まさに総合的な軍事の雑誌、ですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:ただし、弊誌は基本中立を旨としており、好戦的な視点を可能な限り排除し、実際にありました戦争の実態を伝える事を基本方針としています。そのため、取材も兵器そのものよりも、それを運用する「人」に焦点をあてるようにしております。

 

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▲月刊『丸』は全国の書店で販売中。鉄道やバイクと同じ「趣味」の棚にある

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:また、弊誌は2017年11月1日、「潮書房光人新社」として生まれ変わり、産経新聞出版グループの一員となっております。先の大戦から70余年。当時を知る多くの人々が鬼籍に入る中、私たちはこれからも歴史の証言や記録を発掘し、後世に問い続けていきます。

潮書房光人新社

 

── 岩本さんのお仕事は?

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:私は月刊『丸』の編集全般をさせていただいております。最新軍事情報の編集や、専門家と同行しての元日本陸海軍軍人へのインタビュー、本誌内「われは空の子」「WACの星」や「ぼたんがきらり」などの元自衛官による体験記や、「昭和陸軍の戦場」など、過去の軍隊の検証をする連載を各種担当しております。

 

── 現役の自衛官の取材もされている?

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:はい。自衛隊やJAMSTECなど各機関へのインタビューを実施、特に「丸グルメ」をはじめとした料理事情を取材させていただいております。産経新聞出版グループの一員となってからは、産経新聞社主催の「横須賀軍港巡りツアー」などにて司会兼歴史解説などといった業務もさせていただいております。産経新聞出版からは、航空自衛隊全面協力による『航空自衛隊レジェンドブック』が2018年9月に発売されました。

横須賀軍港巡りツアー

 

航空自衛隊レジェンドブック 完全永久保存版超豪華本

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  • 出版社/メーカー: 産経新聞出版
  • 発売日: 2018/09/27
  • メディア: 大型本
 

 

和歌山駐屯地は「手作りの味」

── 岩本さんは「丸グルメ」の取材のため、全国の駐屯地や基地(陸上自衛隊は駐屯地、海上・航空自衛隊は基地といいます)の隊員食堂をかなりの数訪れたそうですね。自衛隊の隊員食堂ってどんな感じですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:各自衛隊の基地及び艦艇には、曹士(筆者注:いわゆる下士官)用および幹部(筆者注:いわゆる士官)用の食堂が設置されております(艦艇はまた少し違いますが……)。食堂の規模はさまざまで、たとえば北海道千歳市に位置している東千歳駐屯地は、約5000人が駐屯地している大型(東京ドーム約126個分)の駐屯地だけあって、食堂は3つ、朝昼夕食とも2000人分以上をまかなっております。

 

──さっきのこの写真ですね。3つある食堂のうちのひとつです。広い!

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f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:逆に、日本で一番敷地面積が小さいと言われている和歌山駐屯地(陸上自衛隊第304水際障害中隊所属)は駐屯人数が約120人だけあって、喫食人数は40~80人ほどでございます。大きい駐屯地ですと揚げ物は冷凍のうえに、ベルトコンベヤーのような機器で一斉調理が多いですが、小さい駐屯地ですとひとつずつ丁寧に手作りをしております。和歌山駐屯地も「あたたかい料理の提供」をモットーとしており、提供されるギリギリに焼いたり揚げたりします。たとえば鮭の塩焼きは夕食開始15分前に焼くといった具合です。この点は大規模な駐屯地の厨房と大きく異なっているでしょう。

 

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和歌山駐屯地の食事は手作り。なんかほっこりします

 

千葉・館山では豪華な海鮮丼が!

──駐屯地の規模で食事内容もかなり変わってくるんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:そうなのですが、もちろん大型の駐屯地も隊員のために味などのクオリティー向上をすごく気にしてはおります。東千歳駐屯地のチキンカツカレーはかなり濃厚で美味でした。

 

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▲カレーは海自の専売特許じゃないのです。陸自のカレーもかなりのクオリティー

 

── 海上自衛隊はどうですか? 艦艇勤務だと艦内で食事するのですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:海上自衛隊の食事はすべて艦艇というわけではなく、海上自衛隊の部隊などへの厚生や給養を維持するといった基地(青森県の大湊基地や横須賀基など)、さらにSH-60(筆者注:哨戒ヘリ)などの航空部隊を擁している基地(千葉県の館山基地や下総基地)がございまして(筆者注:戦闘機の部隊があるのは航空自衛隊のみですが、陸上自衛隊、海上自衛隊にも航空部隊があります)、その基地の食事風景もまた各々の色がありまして面白いものでした。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:たとえば館山基地ですが、私が取材した時は海鮮丼でしたが(下の写真参照)、同基地は第21航空隊が所属している航空基地ですので、飛行隊のヘリ搭乗員や整備員にはなまものを提供するわけにはいきません(筆者注:万が一の上空での食中毒を避けるためです)。そこで、海鮮丼の調理と並行して各種揚げ物を調理し、航空隊用のお弁当も作成されておりました。ちなみに、お誕生日献立用メニューのときはケーキが食堂で提供されますが、その航空隊の隊員にはケーキ用の小箱に入れてケーキが提供されます。

 

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▲さすが房総半島! 館山航空基地ではこんな豪華な昼食が出ることも

 

忘れられない潜水艦のカレー

── では岩本さんが陸海空自衛隊の隊員食堂を巡って「忘れがたい!」と思う逸品をご紹介ください。まずは陸上自衛隊から。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:下志駐屯地(千葉県)のメニューが印象的でした。地産地消のメニューが多く、「下志ピーナッツカレー」「下志タンタン麺」「下志カツランチ」など、千葉産のピーナッツや豚を使用、実に美味でございます。地産地消を使う駐屯地は基本的に地元密着型でして、おのずとイベントも地元の業者の協力が多くなり、実に盛大なものになっていると感じました。

 

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▲下志駐屯地の下志担々麺。これ、ご飯に担々麺の汁をぶっかけたいコースです

 

── 次に海上自衛隊では?

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:海上自衛隊といえばカレーです。そしてバーナー料理! 私が取材しました潜水艦「わかしお」「ずいりゅう」でのカレーは実に凝っておりまして、さすが護衛艦カレーグランプリで優勝するだけはあると思いました。

 

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▲これは「わかしお」で出されるカレー。艦艇や潜水艦の食事はハズレがありません

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:あと、海上自衛隊(陸空でもあるかもしれませんが)ではバーナーを使った料理を数回見かけたことがありました。たとえば大湊基地ではチーズハンバーグを調理する際、最後にバーナーを使ってチーズにとろみを出しておりました。ちなみにそのチーズハンバーグですが、これまで食べたハンバーグの中でナンバーワンのおいしさでした!

 

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▲大湊基地だから毎日マグロってわけじゃないんです

 

海栗島分屯基地は「ブリづくし」

── そして航空自衛隊。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:航空自衛隊取材は、海栗島分屯基地や福江島分屯基地(いずれも長崎県)や、宮古島分屯基地(沖縄県)など、レーダーサイトでの厨房を訪問させていただきました。

 

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▲福江島分屯基地のある日の厨房

 

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▲これも福江島分屯基地のある日のランチ。パスタがフェットチーネってところがおしゃれ!

 

── 想像以上にオシャレでおいしそうです。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:とりわけ印象的だったのが長崎県の海栗島分屯基地です。現地に行くのが実に大変な基地でして(フェリーが揺れる!)、苦労して到着した基地の隊員食堂のメニューは地産地消で素晴らしいものでした! 地元のブリを使用しましたブリづくしは、質量ともに最高級のブリ料理かと。

 

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▲海栗島分屯基地のブリづくし。漬け丼、刺身、照り焼き、味噌汁にもブリが!

 

── 地のモノもしっかり取り入れたりして、本当にバラエティ豊かなんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:そのほかにも、各々の駐屯地・基地ではクリスマス用メニューや季節のメニューも多数存在します。

 

フレンチのフルコースもこなせる

── ところで岩本さん、隊員食堂の厨房で調理しているのはどんな人ですか? やっぱり自衛官? 陸海空によって違いはあるのですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:陸上自衛隊はアウトソーシング、外部の業者が各々の駐屯地での厨房で業務にあたっております。もちろんメニューは陸上自衛隊の業務隊が作成しておりますが、調理は外部の業者です。メニューの作成に関しては、東千歳駐屯地や朝霞駐屯地といった大きい駐屯地ではA定食、B定食といった選択式なケースが多く、隊員達のニーズにいかに応えるか日々考案されております。

 

── なるほど。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:ほかにも、千葉県松戸市に位置しております陸上自衛隊の需品学校(千葉県)では、各科から派遣された隊員達が調理の勉強をしており、魚のさばき方や飯ごう炊事などの課程が組まれております。

 

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▲このチキンカツカレー、実はエビフライカレーとのガチンコ対決で圧倒的勝利をおさめました

 

── 調理実習まで!

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:海上自衛隊は第4術科学校(京都府)で給養員の養成をしております。第4術科学校は数ある後方支援の中で「経理」「補給」「業務管理」、そして「給養」などの術科が教育している学校でして、海曹給養課程・海士給養課程が設けられております。特に海曹給養課程は、全員調理師免許を取得、フランス料理のフルコースをこなすことも可能です。

 

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▲ちょっ……ここは自衛隊!? 第4術科学校でアップルパイ作ってる!

 

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▲見てこれ。パティシエですか?

 

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▲このローストビーフも第4術科学校の隊員が調理。なにこのクオリティー!

 

── 変な話、すぐにでもコックさんに転職できそう……

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:航空自衛隊は芦屋基地(福岡県)の第3術科学校にて給養員の教育を行っております。こちらの第3術科学校も海上自衛隊と同様に、航空自衛隊における補給・調達・総務・人事・会計・厚生など、後方に携わる隊員の教育を実施しております。ちなみに、こちらの学生は基地の隊員用の食事の調理も実施しております。

 

一般人でも隊員食堂のメニューが体験可能

ちょっと話がずれますが、航空自衛隊といえば、最近プッシュしている「空上げ」ってご存じですか?「そらあげ」ではなく「からあげ」と読みます。

陸自には「ミリ飯」、海自には「カレー」といった代名詞ともいえる料理がありますが、空自にはこれまでそういった定番料理がありませんでした。そこで空自では鶏の唐揚げを「空上げ」と書いて「からあげ」と称し、空自の伝統食定番料理として普及を推進しているのです。

飲食店にレシピを提供してメニュー化したり、市内業者が「空上げ弁当」を商品化したり、地元の食材を使った空上げを考案したりと、その味は基地ごとに異なります。

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▲これは白山分屯基地(三重県)隊員食堂の空上げ。ビジュアルもいい!(写真提供:航空自衛隊)

 

── ところで岩本さん、一般の人でも隊員食堂の食事を食べる機会はありますか?

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:一部の駐屯地・基地で食することが可能です。たとえば下志駐屯地では広報ツアーが毎月第2火曜日に組まれており、383円で「下志カツランチ」「下志タンタン麺」「下志ピーナッツカレー」を食することができます。ほかにもイベント時に駐屯地の名物メニューを出すことが多いので、地元の基地のホームページにアクセスしてみるのも一興かと存じます。

下志津駐屯地広報ツアー

 

── おお、下志駐屯地の地産地消ご当地グルメをはじめ、調べると結構機会はあるんですね。参考になりました! さて、駐屯地や基地のある町では自衛隊や旧軍にちなんだレシピが評判の飲食店があるのが常ですよね。数多いそれらのお店の中から、岩本さんの「これぞ!」というおすすめを教えてください。

 

f:id:Meshi2_IB:20180913192506p:plain岩本さん:私が取材でいちばん頻繁に足を運ぶのは横須賀なので、おのずと横須賀市内の飲食店に行く機会も多くなります。その中で、もっとも足しげく通うのが「横須賀海軍カレー本舗」。こちらでは各種海軍カレーやチェリーチーズケーキ、そして掃海艦「はちじょうポークカレー」を食することが可能です。この掃海艦「はちじょうポークカレー」は、実際に海上自衛隊の「はちじょう」から提供されたレシピを元に作成されており(監修も「はちじょう」が実施)、基地や艦艇に行かなくてもそこの海自カレーを食べることが可能です。ほかにも横須賀にはそういったお店が多数ありますので、横須賀カレー巡りをされてみてはいかがでしょう。

yokosuka-curry.com

 

── 岩本さん、ありがとうございました!

 

その胃袋と脳内には自衛隊各地の隊員食堂の味が記憶されているのでしょう。これからもぜひ全国の駐屯地・基地の隊員食堂巡りを続けていただき、第2弾として「隊員食堂でこんなとてつもないメニューと遭遇した!」をテーマに再びご登場いただきたいものです。

 

書いた人:椿あきら

椿あきら

猫の下僕をしているライターです。猫と暮らすようになってから、断然家飲み派になりました。著書に『オリンピックと自衛隊 1964-2020』(並木書房)。

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