「非常食」ってここまで進化していたのか!【まさかの事態に備えて】

度重なる自然災害で、非常食への関心は日に日に高まっています。そこで『メシ通』では、進歩著しい「アルファ米」に注目。いますぐにでも備えておきたいアイテムをご紹介します。

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この30年あまり続いた平成で、日本は大規模な自然災害に何度も見舞われました。人々の意識にも変化が生じたのでしょう。自宅に備蓄用の水や食料、防災リュック(非常用持ち出し袋)を置く方もずいぶん増えたのではないでしょうか。

災害などの非常時に備えて準備しておく「非常食」は、電気やガスなどのインフラが機能していない状態でも食べられ、保存期間も長いのがメリットです。その代表的なものとして挙げられるのは乾パンでしょう。しかし非常食も時代とともに進化し、特に「アルファ米」を使った各種ご飯のラインナップはぐっと豊富になっています。

アルファ米とは、一度炊いたお米を急速乾燥させたもの。水かお湯を注ぐだけで食べられる優れモノ。そこで今回はアルファ米の元祖である尾西食品株式会社に、非常食の最新事情を教えてもらいました。

 

軍の要請で誕生した「アルファ米」

会社のエントランスには販売商品がずらり(一部、製造のみ)。

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非常食のメーカーという強みをいかし、これまで数々の災害支援を続けてきました。

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▲ちなみにこれは熊本地震での活動を受けての感謝状

 

お話をうかがったのは営業企画部の栗山崇生さん(写真下)。

栗山さん、よろしくお願いします!
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尾西食品の創業者、尾西敏保氏は大正6~昭和7年の間、旧日本海軍の潜水艦乗組員でした。水が貴重な上に調理に火を使えない潜水艦内での食事はカロリー重視の味気ないものばかりだったことから、尾西氏は水を加えるだけでおいしく食べられる加工食品の開発に取りかかりました。

ちなみに、現在の自衛隊の潜水艦や艦艇は、一度航海に出ると何カ月も陸へ戻って来られないことが珍しくないので食には力を入れています(1食分の予算は限られていますが、カレーも1隻ごとに門外不出の秘伝のレシピがあります。以上、自衛隊の取材経験が豊富な筆者より)。

 

最初に開発したのは、消化がよく、保存にも適した乾燥食品である「くず練の素」や「もちの素」という製品でした。お湯を注ぐだけで餅ができる「もちの素」は軍用食糧として旧日本海軍に納入されました。

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▲これが「もちの素」。昭和19年1月に尾西食品研究所から横須賀海軍軍需部に納品されたことがわかる(写真提供:尾西食品株式会社)

 

すると今度は軍から「炊かずに食べられるご飯」の開発を要求されました。炊飯時に出る煙が爆撃の的になってしまうからです。

そこで尾西氏は、デンプン研究の権威だった大阪大学産業科学研究所の二国二郎博士とともに苦心してアルファ米を開発。ポイントとなったのはデンプンの性質を徹底的に解析することでした。

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山さん(以下敬称略):お米って、炊かない限りはそのまま食べられませんよね。それは生デンプンだからなんです。ですが、水を足して加熱すると「アルファ化デンプン」になり、初めて“食料”になるわけです。炊きたてのお米に含まれたアルファ化デンプンは、そのまま放置したり冷蔵庫に入れたりすると老化してパサパサになりますが、電子レンジで温めるなど加熱すると再びアルファ化します。このようにアルファ化デンプンは変化しやすく、とても不安定な性質なのですが、当社と二国博士はその特性をいかし、炊きたてご飯を乾燥させてお湯か水を注ぐだけでおいしいご飯になるアルファ米の製品化に成功しました。

 

終戦後、尾西食品のアルファ米は軍事食糧から子どもや病人のために栄養源へと用途を変えて重宝されました。さらに現在は、災害対策用の非常用保存食品として全国の自治体が備蓄するようになっています。

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▲乳幼児向けの商品も開発した(写真提供:尾西食品株式会社)

 

保存期間5年、作り方はチョー簡単

尾西食品では現在、12種類もの味わいのアルファ米商品をそろえています。最初は白飯と赤飯といううるち米ともち米、各1種類でしたが、徐々にバリエーションが増えたのだそう。

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食べ方は以下。

開封してお湯を注ぎ15分待つ。以上。

 

もしくは、

開封して水を注ぎ1時間待つ。以上。

お湯はもちろんのこと、水でもいいんです。

 

下の写真は、お湯を注いで15分たった状態。

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▲白飯は国産のうるち米のみ使用。内容量100g、できあがりはお茶碗軽く2杯分の260g。(希望小売価格 280円/税抜)
 

アルファ米の保存期間はなんと5年

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▲法で定められているわけではないが、現在は5年が非常用保存食の一般的目安となっている。知らなかった!

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山:腐敗や酸化を防ぐ気密性の高いパッケージを使用、さらに袋の中は無酸素状態になるように脱酸素剤を入れるなどして、5年保存できる品質を維持しています。

 

このアルファ米の製造工程は、基本的に開発当時から変わっていないのだそう。

  1. 【原材料受入】種種の検査を経て材料が入庫
  2. 【浸漬】浸漬タンクに米の内側まで十分に水を含ませる
  3. 【炊飯・乾燥】お米を蒸煮炊飯する。炊き上がったご飯を乾燥させる。これでアルファ米の完成
  4. 【包装】アルファ米と具材を混ぜ、酸素を通しにくい袋に脱酸素剤を入れて包装
  5. 【保管】包装・梱包された製品は専用のラック倉庫で一時保管され、全国へ出荷

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▲アルファ米は、米どころの宮城県大崎市にある米飯加工専門工場で作られている(写真提供:尾西食品株式会社)

 

そういえば、同じ保存可能な食材といえば、筆者も以前『メシ通』でリポートした「フリーズドライ」があるはず。

www.hotpepper.jp

 

こちらもお湯を注ぐだけだが、アルファ米とはどこが違うのでしょうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山:フリーズドライの場合、ご飯がスポンジ状になっているので水を加えたときの戻りが早いという利点があります。一方、アルファ米はおいしく食べられる状態になるまで時間がかかり、お湯で15分、水なら1時間待っていただく必要がありますが、お米のもちもち感が復活し、炊いた状態のうま味がそのまま残っています。

 

アルファ米商品には、水・お湯はもちろん、トマトジュースやコンソメスープを入れてもOK。そう考えると非常食ながらアレンジがきき、工夫次第で「味に飽きる」ということも避けられそうです。

ちなみに加える水分の量は決まっているので、お湯なら15分、水なら1時間を超える時間そのままにしていても、ぐずぐずのご飯にはなりません。

 

「赤飯」は腹持ちの良さが利点

ここで栗山さん自身のイチオシ商品を聞いてみると、意外なセレクトが。

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山:ズバリ「赤飯」です。災害時に赤飯を出すなんてという声も聞きますが、もともと赤飯は病後食として栄養を付けるために食べるものでした。それが転じて病気が治ったことを祝う、おめでたいときに食べると用途が変わっていきました。赤飯に使われる「もち米」は腹持ちがいいし冷めてもおいしいということで、コアなファンが多いですね。

 

余談ですが、阪神淡路大震災の災害派遣に赴いた自衛隊が、現場で食べていたのが赤飯だったと非難されたことを思い出しました。おそらく腹持ちがいいとか冷めても食べられるという意図でもち米=赤飯という缶詰ができ、戦闘糧食(いわゆるミリメシ)として持参したのでしょう。今ではもちろん赤飯を被災地に持ち込むことはありませんし(戦闘糧食の赤飯、まだあるのか?)、そもそも隊員が食事をする姿を目にすること自体、そうそうないはずです。

 

尾西食品の「赤飯」は国産のもち米のみ使用。袋を開けると中にスプーンと塩、脱酸素剤が入っています。(内容量110g、できあがり210g、希望小売価格 340円/税抜)

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調理をする前に、そのままの状態であえて袋から出してみました。本当にカッピカピに乾燥しています。

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袋に戻して水または熱湯を110ml、袋の内側の注水線まで注ぎます。今回は水にしてみました。水が満遍なくいきわたるように混ぜ合わせてからチャックを閉めて1時間放置。

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1時間経つと……できてます!

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普通においしい。誰が食べてもこれ赤飯の味ですよ。

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すごいな、アルファ米!

 

手を汚さず食べられる「おにぎり」

アルファ米のラインアップには「おにぎり」もあります。(オープン価格)

むろんこっちも保存期間は5年。

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軽量、コンパクト、携帯性抜群とおにぎりって実はすぐれもの。手を汚さずに食べられるのは、衛生面からもうれしいことです。

 

こちらも上部から注水線までお湯または水を注ぎます。表面のシールをはがすと注水線が見えるという親切設計。

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▲チャックを閉めた後に水分がおにぎり全体に行きわたるよう、そして味が付いている具が全体に広がるよう、20回ほど振るのがコツ。

 

できあがったら袋を開ける前に、袋の上からおにぎりの形を整えます。袋の中が三角形になっているので、それに沿ってきゅっと寄せるような感じで。それから袋に書かれたとおりに切り込みを入れると、このように手を触れることなくおにぎりを食べられます。

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▲これは見本の模型

 

一応中身を出そうとしたら、おにぎりのてっぺんが崩壊してしまった(泣)。一度カラカラに乾いたお米だったとは、言われてもわからない味です。

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▲非常食であることを忘れさせてくれるクオリティーだった!

 

パン&スイーツも登場

最近は、パンの保存食も登場しています。

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山:通常、非常食の備蓄量としては3日分から1週間分が推奨されています。ただ、1日3食すべてがご飯だと飽きる人もいるだろうということで、パンも用意しました。

 

あぁ……なんかすごくよくわかります。確かにお米が続くと「またか」って思っちゃうかも。

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山:はい。ただ、これまでの長期保存がきくパンといえば缶詰に入ったものが一般的で、油脂や糖分を多くすることで3年保存できるように商品設計されているものが主流でした。当社の場合、できるだけ普段食べているパンに近い食味や食感、しっとりやわらかいものにしようと、ふんわりしているのに3年常温保存が可能というパンを作りました。

 

こちらは「尾西のひだまりパン」(オープン価格)。

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プレーン、メープル、チョコの3種類があって、これはプレーン。全然ぱさつかないし、ぎとぎと感もしつこい甘さもありません。

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食事だけでなく、スイーツもあります。すべて5年保存可能。

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▲「ミルクスティック」(左)は国産生乳から作ったやさしい甘さのおやつ(希望小売 価格300円/税抜)。「くるくるカスタード」(真ん中)は水に加えて混ぜるだけでできるカスタード。そのまま食べてもいいし、パンや乾パンにつけるのもよし。つるんとしているので高齢者でも食べやすいのもポイント(オープン価格)

 

一方、下写真の「ライスクッキー」は小麦、乳、卵を使わず、米粉を使用した、アレルギー物質(特定原材料等)27品目不使用のクッキー(オープン価格)。

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▲乾パンとは対極にあるサクサクの食感。口どけがいいので、小さな子どもから高齢者まで食べやすいはず

 

アルファ米は宇宙を目指す

アルファ米の用途は非常食にとどまらず、現在は海外旅行者の携行食糧や登山者の山岳携行食など、広く使われるようになりました。

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山:高山では、気圧の低下とともに水の沸点が下がるため、普通にご飯を炊いてもお米の芯まで火が通らずおいしいご飯ができません。当社のアルファ米は、そんな気圧の低い条件下でもお水を注ぐだけで、やわらかくおいしいご飯ができあがるため多くの登山者に喜んでいただいています。

 

ちなみにこのメシ記事にも「尾西の白飯」が登場しています。サハラ砂漠でもアルファ米!

www.hotpepper.jp

 

アルファ米はなんと宇宙にも行っています。尾西食品のアルファ米「白飯」「赤飯」「山菜おこわ」「おにぎり鮭」の4種類が2007年に国内初の宇宙食と認定されて以来、日本人クルーの「宇宙日本食」の一端を担っています。

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▲「うち、宇宙食を常備してるよ」って言ってみたくなった

 

宇宙で日本人クルーが食べるこの食事、パッケージは異なりますが中身は一般に売られているアルファ米商品とほぼ同一なのだそう。

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▲カ、カッコイイ……。このパッケージのバージョンで欲しがる人も結構いるのでは

 

さらに、ゴミの持ち帰りが義務付けられている南極越冬隊で、調査用雪上車による南極観測時にも使用されています。食事後発生するゴミが袋とスプーンだけなので、ゴミの軽減にも役立っています。

 

アレルゲンフリーやハラルフードの要請も

ところで栗山さん、消費者のニーズや意識はこの30年間でどのように変わったのでしょうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山:最初に大きな変化があったのは、1995年の阪神淡路大震災でした。災害に備えるという意識が多くの方に芽生え、家庭で備蓄するために購入される人が増えました。そして東日本大震災の際はネットで購入できる環境があったので、ネットから購入される方が非常に増えました。

 

さらに、自治体単位でもニーズが増えたのだそう。

 

f:id:Meshi2_IB:20190303102437p:plain栗山:大規模災害の際は、自治体がもとから備蓄していた量だけでは足りず、追加の要請が来ることもあります。近年はアレルギー物質を使っていない製品をリクエストされることが増えました。それに加えて熊本地震の際はムスリム向けのハラルフードのリクエストがありました。避難所でおにぎりを配られても、中の具材がわからないという声もありました。

 

非常食として購入したアルファ米ならば、災害が起こらない=食べる機会がないにこしたことはありません。けれど、まさかの事態に備えておくならまずは3日分を備えておくべきでしょう。もしも何ごともなく5年経ったら「そろそろ賞味期限だから食べようか」と、おいしく味わえばいいのですから。平穏無事な状態だからこそ、非常食のありがたみを定期的にかみしめておきたいものです。

 

最後に。こちらは2名分×2日分の長期保存食のギフトセットです。大切な人に贈るのも、ひとつの愛の証かも。

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最近そういえば親孝行してないなぁーって人、せめて実家に贈ってみては?

 

www.onisifoods.co.jp

※価格はすべて税抜表示です。

 

書いた人:椿あきら

椿あきら

猫の下僕をしているライターです。猫と暮らすようになってから、断然家飲み派になりました。著書に『オリンピックと自衛隊 1964-2020』(並木書房)。

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